ファイナルファンタジーⅣ ~IF~ 作:FF4熱再燃中
地下水脈を抜けると、乾いた風が一行を迎えた。
目の前には砂漠が広がり、その先にはダムシアン城がそびえ立っている。
「ダムシアンまであと少しじゃ!待っとれ、アンナ!」
テラは逸る気持ちを抑えきれず、足早に駆け出した。
その背を追おうとしたギースは、不意に足を止める。
「……待て」
「どうした?」
ギースは遠くの城をじっと見つめ、眉をひそめた。
「……城の様子がおかしい」
「え?」
セシルも目を凝らす。次の瞬間だった。
轟音が大気を震わせる。
「アレは……」
ダムシアン城の上空を、飛空艇の編隊が旋回していた。
「赤い翼!?」
セシルは、見慣れた赤い翼の飛空艇がダムシアン上空に現れたことに息を呑んだ。
飛空艇の腹部が鈍く光る。
「まさか……!」
次の瞬間、無数の爆弾が城へ向かって降り注いだ。
轟音、炎、立ち昇る黒煙。城壁が崩れ落ち、砂煙が空高く舞い上がる。
「なっ……!」
セシルは目の前で引き起こされた惨劇に目を見開く。
飛空艇は役目を終えたかのように進路を変え、黒煙を残すダムシアン城を後にして飛び去っていった。
「あ……アンナ……アンナ!!」
テラの顔から血の気が引いた。次の瞬間、一目散に城へ向かって駆け出した。
◇ ◇ ◇
テラに少し遅れて、セシルたちもダムシアン城へたどり着いた。
城内には炎が燃え広がり、崩れた城壁や柱が無残に散乱していた。
焦げた臭いと血の臭いが鼻を突き、瓦礫の下からは苦しげなうめき声が聞こえてくる。
「ひどい……」
「なぜ……なぜこんなことを……」
セシルは、赤い翼が引き起こした惨状に立ち尽くした。
「だれか……いるのか?」
「っ大丈夫か!何があったんだ!!」
瓦礫にもたれかかる兵士に、セシルたちは駆け寄った。
兵士の鎧は焼け焦げ、腹部からは大量の血が流れている。もはや助からないことは誰の目にも明らかだった。
「バ……バロンが……クリスタルを……奪いにきて……最後に……飛空艇から……恐ろしいほどの爆撃が……」
「そんな……」
セシルは唇を噛み締めた。
目の前の惨状も、この兵士の傷も、すべて自分が所属していたバロン軍の仕業だった。
「あいつらの……仲間じゃないなら、たの……む、王……たちを」
兵士の手が力なく地面へ落ちた。
重い沈黙が、一行を包み込む。
「テラは、どこに?」
「娘さんを探してるはず、ここにいないなら先にいるはずだ」
「セシル、ギース……アンナ、大丈夫だよね?」
「…………っ」
「…………」
リディアの問いに、セシルもギースも答えられなかった。
二人の脳裏には、同じ最悪の結末が浮かんでいた。
◇ ◇ ◇
城内を進むとアンナのそばに膝をつき、必死に呼びかけるテラの姿があった。
セシルたちも慌てて駆け寄る。
テラは矢を引き抜くと、何度も何度もケアルを唱え続けた。
「アンナ!!しっかりしろアンナ!!」
その時、柱の陰から一人の吟遊詩人が姿を現す。
「アンナっ……」
吟遊詩人はアンナへ駆け寄ろうとするが、その姿を目にしたテラの表情が一変した。
「貴様、あの時の吟遊詩人!貴様のせいでアンナは!」
「お、おいテラ!落ち着け!!」
「止めるな!!」
止めようとしたギースの手を振り払い、テラは吟遊詩人に飛びかかった。
「貴様!貴様が誑かさなければアンナは!!」
「まって……ください!」
「貴様の話など、聞く耳もたん!!」
「……お願いっ……二人ともやめて!」
辛うじて意識を取り戻したアンナが、二人に声をかける。
アンナの声に、二人の動きが止まる。
テラはすぐさまアンナのもとへ駆け寄り、ギルバートも後を追った。
「アンナ!気がついたか!」
苦しげに息をつきながらも、その視線はまっすぐテラへ向けられた。
「……お父さん……彼、ギルバートはこのダムシアンの王子……身分を隠すため、吟遊詩人としてカイポに来たの」
アンナは吟遊詩人の正体をテラへ告げた。
「ごめんなさい……お父さん、勝手に飛び出したりして……私、ギルバートを愛しているの」
意識を取り戻したアンナは、自らの命が長くないことを悟っていた。
残されたわずかな時間で、アンナはできる限りのことを伝えようとした。
「でも……やっぱり……大好きなお父さんに、許してもらわなくちゃって……カイポに戻ろうとしたとき……」
「ゴルベーザと名乗るものが率いるバロンの赤い翼が……」
「……っ!」
誰もがアンナの言葉に耳を傾けていた。
だからこそ、ギースの表情が一瞬だけ曇ったことに気づく者はいなかった。
「ゴルベーザとはいったい何者じゃ?」
「分かりません、黒い異様な甲冑に身を包んでいて、人とは思えぬ強さでした」
ギルバートは苦しそうに唇を噛み、震える声で続けた。
「奴らはクリスタルを奪うと火を放ち、父も母もやられ……アンナも僕を庇って……」
「そんなにまで、こやつのことを……」
「おとう……さん、私を、許して……ギルバート、愛してる……」
父と愛する人へ最期の想いを伝え、アンナは静かに息を引き取った。
「アンナ!」
「アンナ……アンナー!!」
誰も言葉を発せなかった。
重苦しい沈黙の中、テラだけが震える拳を強く握り締めていた。
「そのゴルベーザとはいったい何者なんだ!!」
「分かりません……最近バロンへ現れ、赤い翼を率いてクリスタルを集めているとしか……」
「情けないっ!泣いてもアンナは生き返らん!!」
アンナの亡骸へ最後に一度だけ目を向けると、テラは身をひるがえした。
「バロンのゴルベーザっ!!私がアンナの仇を取ってくる!!」
「テラ、一人では!」
「助けなどいらん!!ゴルベーザは私一人でやる!!」
「テラ!!」
制止の声も振り切り、テラはダムシアン城を飛び出していった。
残された四人の間に、重苦しい沈黙だけが流れた。
アンナの亡骸を抱きしめたギルバートは、肩を震わせながら嗚咽を漏らした。
「アンナ……うぅ……」
「……っ弱虫!お兄ちゃんは男でしょ!大人でしょ!なのに……!あたしだって……」
泣き崩れたままのギルバートに、リディアは思わず声を荒らげた。
「リディア……」
「そうさ……君の言う通り僕は弱虫さ!だから、ずっとこうしてアンナのそばにいるんだ!もう、何もかもどうでもいいんだ!」
愛する人を失い、自暴自棄になったギルバートは悲痛な叫びを上げる。
セシルはたまらずギルバートの胸ぐらを掴んだ。
「悲しいのは君だけじゃない!そんなことをしていても、アンナも喜びはしない!」
セシルは静かにアンナへ視線を向けた。
彼女は命の最期まで、父と愛する人が争うことを望まなかった。
だからこそ、ここで立ち止まらせるわけにはいかない。
「それに、今の僕らには君の助けが必要なんだ!」
「僕が、君たちを助ける?」
「カイポで高熱病に倒れている仲間を救うため、『砂漠の光』がどうしても必要なんだ。そのためには……君の力が必要なんだ!」
「僕が、助ける……」
「そうだ、ローザのため……頼む!」
セシルは頭を下げた。
ギルバートはしばらく俯いていたが、やがてゆっくりと顔を上げる。
「……ローザという人は、君の大事な人らしいね……愛する人を、失ってはいけない」
愛する人を失った悲しみは消えない。だからこそ、同じ悲しみを誰かに味わわせたくはなかった。
「『砂漠の光』は東の洞窟に住むアントリオンが産卵の時に出す分泌物からできる。洞窟には浅瀬を渡る必要がある。ダムシアンのホバー船なら、その浅瀬を越えられる」
「さよなら……アンナ」
ギルバートはアンナへ静かに別れを告げる。
「……急ごう」
ギルバートを加え、セシルたちはその場を後にした。