ファイナルファンタジーⅣ ~IF~ 作:FF4熱再燃中
ダムシアン城からホバー船に乗り、浅瀬を渡って一行はアントリオンの洞窟へ向かう。
「すごい!本当に浮かんでる!!」
「俺も話に聞いていただけだが、なかなか快適だな。身を乗り出して落ちるなよ、リディア」
「そんなことしないよ!」
初めて乗るホバー船にはしゃぎ、リディアは嬉しそうに辺りを見回した。
そんな様子を見守りながら、ギースはふと遠くの水平線へ視線を向ける。
「…………」
――バ……バロンが……クリスタルを……奪いにきて……
――奴らはクリスタルを奪うと火を放ち、父も母もやられ……アンナも僕を庇って……
兵士の最期の言葉と、ギルバートの悲痛な叫びが脳裏によみがえる。
瞼を閉じれば、炎に包まれたダムシアン城と、アンナの最期の姿が鮮明によみがえった。
ギースは誰にも気づかれぬよう、そっと拳を握り締めた。
「……ギース?」
「どうした、リディア?酔ったか?」
「全然大丈夫。ギースの方が……元気ないよね?」
「んん?そんなことはないと思うが。気のせい、気のせい」
ギースはそう言って笑ってみせる。
だが、その笑顔がどこかぎこちないことを、リディアは見逃さなかった。
◇ ◇ ◇
「ここが、アントリオンの洞窟だ」
セシルたちはアントリオンの洞窟へたどり着いた。
「産卵の時に出す分泌物と聞いたが、すぐに見つかるのか?」
「アントリオンは満月の夜になると、必ず決まった場所で産卵するんだ。その場所まで行けば、『砂漠の光』はすぐに手に入るはずだよ」
アントリオンの産卵場所は、代々ダムシアン王家だけに伝えられてきた。
「巣は洞窟の一番奥だ。ただ、最近は魔物が増えていて……」
「なるほどな。道中の魔物は俺とセシルでどうにかする。ギルバートは道案内を頼む」
「ああ、任せてほしい」
ギルバートの案内で、セシルたちは洞窟の最奥へとたどり着いた。
そこには広々とした空間が広がり、地面には割れた卵殻が幾重にも散らばっている。
「ここが、アントリオンの巣だ」
「きゃ!?」
産卵場所の中央へ近づいた瞬間、地中から巨大な牙がゆっくりとせり上がった。
「大丈夫。アントリオンは大人しいから、人間に危害を加えることはない。僕が取ってこよう」
怯えるリディアを安心させるように微笑むと、ギルバートは慣れた足取りで『砂漠の光』へ近づき、そっと手に取る。
――その瞬間。
ピクリ、とアントリオンの巨大な牙が震えた。
「危ない!!」
「うわぁ!」
いち早く異変に気づいたセシルは、ギルバートの襟首を掴み、後方へ引き戻した。
ガキンッ、と鋭い音が洞窟に響く。
ギルバートが先ほどまで立っていた場所を、巨大な牙が勢いよく噛み合わせた。
獲物を仕留め損ねたアントリオンは、ゆっくりと地中からその巨体を現す、ギシギシ、と巨大な牙を打ち鳴らしながら、一行を威嚇する。
セシルが剣を構えると、ギースも刀を抜き、その隣へ並んだ。
「大人しいんじゃなかったのか!?」
「大人しいはずなんだ!怒らせなければ人を襲う魔物じゃない!」
「話は後だ!来るぞ!」
「ちぃ!」
襲いかかるアントリオンを、ギースは大きく跳んでかわす。
空中で身をひねり、そのまま牙へ刀を振り下ろすと金属同士がぶつかったような甲高い音が洞窟に響いた。
「かってぇ!!悪い!俺の刀じゃ、まともに打ち合ったら折れる!」
アントリオンから距離を取り、ギースは刀身を一瞥する。
刃こそ欠けてはいないものの、あの硬さをまともに受け続ければ長くはもたない。
「なら、僕が!」
ギースと入れ替わるように、セシルが前へ踏み込む。剣を大きく振りかぶり、甲殻へ渾身の一撃を叩きつけた。
重い衝撃が洞窟中に響く。剣先は硬い甲殻へ食い込むものの、深くは届かなかった。
「浅い……!」
セシルは素早く飛び退き、アントリオンとの距離を取る。
「リディア!」
「“ブリザド”!」
リディアが掲げた杖の先から、鋭い氷のつぶてが次々と放たれる。
氷塊はアントリオンの甲殻へ次々と叩きつけられ、白い霜が広がった。
「……あまり効いてない!」
甲殻の表面に霜が張ったものの、アントリオンの動きはほとんど鈍らない。
「ちっ……あの巨体で、魔法まで通りにくいのかよ!」
ギースがアントリオンの頑丈さに舌打ちした、その時だった。
アントリオンが鋭い牙を打ち鳴らし、巨体を地中へ潜り込ませる。
「潜った!!」
「下から来るぞ!気をつけろ!」
全員が身構えた、その瞬間だった。
足元の地面が大きくうねり、砂と土が渦を巻き始める。
「なっ!?」
「うわっ!?」
「きゃあ!?」
渦はみるみるうちに巨大な蟻地獄となり、一行の足を飲み込んでいく。
足を取られたセシルたちは、じわじわと中心で待ち構えるアントリオンへ引き寄せられていった。
アントリオンは鋭い牙を鳴らしながら獲物を見据える。
やがて狙いを定めると、牙を大きく開いて襲いかかった――その瞬間、巨体の動きがぴたりと止まった。
「!?」
「間に合ったっ……!」
「ギルバート!」
蟻地獄の外にいたギルバートは、懐から取り出した“銅の砂時計”を高く掲げていた。
時の魔力に縛られたアントリオンは、その場で身動き一つ取れない。
「みんな!アントリオンの甲殻は鉄の刃を弾く!だが腹は柔らかい!そこなら斬れる!」
「まずは体勢か……リディア!」
「うん……お願い、“チョコボ”!!」
リディアの召喚に応え、どこからともなく一羽のチョコボが駆け抜ける。
勢いそのままに跳び上がると、鋭い蹴りがアントリオンの甲殻へ叩き込まれた。
「ギギィィッ!!」
強烈な衝撃にアントリオンの巨体が大きく傾ぐ。
硬い甲殻に守られていない腹部が、無防備に露わになった。
「行くぞギース!」
「言われずとも!!」
二人は同時に駆け出した。
交差するようにすれ違いざま、剣と刀が無防備になった腹部を深々と切り裂く。
「ギギィィィィッ!!」
断末魔が洞窟中に響き渡った。
アントリオンは巨体を大きく震わせると、ズシンと音を立ててその場へ倒れ伏す。
やがて、ぴくりとも動かなくなった。
「はぁ……はぁ……」
激戦を切り抜けた一行は、その場に倒れ込み、大きく息をつく。
「……なぜ、アントリオンが……」
「一応聞くが……怒らせたわけじゃねえよな?」
「そんなことはないはずだ。いつも通りの手順だった」
ギースは念のため、ギルバートへ確認する。
ギルバートは首を横に振り、いつもと何一つ変わらない手順で採取したと答える。
「最近、魔物の数が増えた。今まで大人しかった獣たちまで襲ってくる」
セシルは静かに目を伏せた。
ミシディアからバロンへ戻る道中でも、魔物の襲撃を受けた。
地下水脈ではオクトマンモスが棲みつき、人の往来を阻んでいた。
そして今、本来は温厚なはずのアントリオンまでもが牙を剥いた。
「……やっぱり、何かの前触れか。……ローザが心配だ。『砂漠の光』を回収したら、すぐにカイポへ向かおう!」
一行は、『砂漠の光』を回収し、足早に洞窟を後にした。