狩人世界の似非天使   作:御薬久田斎

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\(^q^)/
どんだけ時間かかってんねんて話ですけど。
夢の中では何度か投稿してました。何ででしょう。


ノックもせずにすみません

「え~、皆様。本日は号泣観光バスをご利用いただきまして、誠にありがとうございます。当バスはデンドラ地区に御座います、悪名高き暗殺一族の邸宅を始めとし、世界に誇る様々な山景をご紹介させていただきます。どうぞ最期までごゆるりとご堪能下さいませ」

 

 パドキア共和国デンドラ地区、五年前から始まったという定期観光バスに搭乗し、私はバスガイドの紹介を適当に聞き流していた。

 

 

 

 情報屋ドールズから斡旋された仕事を終え、報酬として現金その他情報や、ついでに戸籍の類をもらい、私は一先ずキキョウの姿が確認されたというゾルディック家に行くことにした。身分証明が必要とされていた飛行船にようやく乗ることができたので、かかった日数は精々4日ほど。ただ、キキョウがどうやってゾルディック家のあるパドキア共和国まで行ったのかは謎だ。キキョウのことなので、何か能力でも使うかなんかして、飛行船に非正規に潜り込んだとかそんなところだろう。

 

 それはともかく、ドールズに聞いたところやはり今回の仕事で相手にした殺し屋達は、ゾルディック家の人間だったらしい。“龍頭戯画”を見た辺りからそうではないかと思っていたのだ。間接的にそこの情報を欲していた私にこの仕事を斡旋したことを、善意と見るか稚気と見るかは私次第だが、少なくとも仕事前に詳しく確認しなかったのは私の落ち度だった。例え意図的に、ドールズが情報を伏せていたのだとしてもだ。

 どちらにせよ、今回のことはドールズに対する貸しだ。現金や戸籍のようなものはもらったが、本来の目的である情報は些細なものだった。普通の護衛依頼なら確かに破格の報酬……しかし、あのゾルディック家の暗殺者三人から命を護った報酬としては心もとない。

 ただ、向こうとしてもこのまま私とのつながりを持っていたいと考えているらしい。この貸しは、言うならば彼との縁なのだ。私としても、その点で否やはない。これからいくらでも頼る機会は出てくるだろう。

 

 

 

「え、皆様。左手を御覧くださいませ」

 

 そう言って、髪をくるくるとカールさせ、きちっと制服を着込んだバスガイドが右手を掲げ窓の外を示す。しばらく前からその偉容と異様な存在感を露わにしていたのは、遠目からでも分かる巨大な死火山だった。バスガイドが指ししめたのは、丁度その死火山の全景が望めるポイントのことであった。標高3772m、山頂は素知らぬ顔で雲を突き破り、ギンギン陽の照る晴天なのに全体的にどこかおどろおどろしい雰囲気が漂っている。

 

「あちらが、世界にその名を轟かす最凶にして最高峰の暗殺一族の棲む、ククルーマウンテンです。標高3772mのこの死火山のどこかに、彼らの屋敷があるとされておりますが、誰一人それを確かめたものはおりません。家族は全員が殺し屋、その一人一人には懸賞金がかけられており、もしも仕留めた者は一生を遊んで暮らせるほどの富と名声を手にすることが出来ると言われております」

 

 そこまで言うと、バスガイドはちらとバスの中に視線を走らせた。バスの席は満席だが、一番後ろの、隅っこにひっそりと座っている私から見るとよく分かる。このバスに乗っている乗客の半数以上は、観光以外が目的の似非狩人達だ。各々で装備を手に握りしめ、張り詰めた空気を漂わせている。私の都合隣りに座っている頭頂寒い中年も、一体何を入れているのか馬鹿でかいボストンバッグで席を占領させていた。

 しかし、それらを目にしてもバスガイドは洗練された営業スマイルをその顔に浮かべて言葉を続けた。

 

「それでは、ククルーマウンテン麓の樹海手前まで、近づいてみましょう」

 

 十数分後、バスは巨大な扉の前で停車していた。扉の両脇から延々と広がるのはこれまた巨大な外壁、とりあえず天辺まで2、30mはありそうだ。原作ではゴンが釣り竿を引っ掛けていたが、実際のところこれって届くんだろうか。

 扉にその段階ごとに描かれているのは、数字だ。ローマ字を横にしたら、こんな感じになるだろう。1から7まで、最大で片方256トンの常識外れの“扉”である。

 

「ここが、正門となります。入ったら最後、生きては戻れません。そこから、地元の住民からは黄泉への扉と呼ばれ親しまれております。ただ、ご覧のとおりこれは扉の形をしているだけで、開くようにはできておりません。実質、中に入る方法は存在しないのです」

 

 よく見ると正門前には、原作にあったはずの守衛室と、小さな扉がどこにもない。この時代にはまだ作られていないのだろう。キキョウの外見年齢から逆算すると、今は大体原作の三十年前。それならまだゼブロさんも雇われてはいないはずだ。

 

「古くから此処から先は全てゾルディック家の敷地となっており、例えこの先に行けたとしても観光することはできません」

「よぅ、姉ちゃん。聞きたいことがあんだけど」

 

 と、そこで、バスから降りて何かの準備をしていた脛に傷の有りそうな一団の内の一人がバスガイドに声をかけた。体中傷だらけの禿頭の中年、私の隣に座っていた男だ。持っていたボストンバッグは地面に降ろされ、他の男達が何やら中を漁っている。

 

「はい?」

「あんた、この仕事始めてからこの門を抜けた奴を見たことあるか?」

 

 百戦錬磨の0J営業スマイルのまま首を傾げるガイドに、男が親指で試しの門を指さした。

 

「いえ。私、この観光バスが初めて運行を開始した時より五年間勤めておりますが、門を(・・)抜けた方はただの一人も存じ上げません」

「くく、そうか。そんじゃ、俺達がその最初で、最後だ」

「は?」

「悪りぃなァ、あんたらの飯の種減らしちまって。ま、伝説の暗殺一家邸宅跡地、にでもして稼いでくれや。……おい」

「へい。おらてめぇら! 巻き込まれたくなかったらさっさと場所あけろ!」

 

 禿頭の男が、部下らしき男に指示を出すと、部下らしき男は門の周囲にいた他の仲間を門から離れさせた。因みに、一般人勢は端から近寄ってはいない。

 男達が離れた後に見えた一の門には、先程までなかった何かが貼り付けられている。どうやら、ボストンバッグの中身はアレらしい。

 

「やれ!」

 

 ドォンッ!

 

 男の合図で、轟音とともに一の門が爆炎と土煙に包まれる。

 しかし、やはりというべきか土煙の晴れた後にあったのは、無傷の試しの門だった。

 その後も男達はバズーカだとかハンマーだとかを持ち出してきたが、門はびくともしなかった。どうやら、門の部分は通常攻撃では破壊できないらしい。オーラの類は見えないものの、何となく念による産物な気がする。念字とか、神字とか、そのあたりのものが内部に刻印されているのではないだろうか。

 

 ところで門の部分、と表現したのは、どうも両脇の石壁の方は通常のものであるらしいからだ。男達は試しの門を破壊するのは諦め、その横の石壁に残った爆薬や武具で穴を開いた。これだけするのなら、もう少しスマートな入り方があるんじゃないかと思う。ゴンがしようとしたように、壁を乗り越えるとか。

 

「よっしゃぁっ!! 手こずらせやがって、この借りはこれからきっちり返してもらうぜ。行くぜてめぇら、皆殺しだ!」

『おう!』

 

 一気呵成の元、男達が石壁に無骨に開いた穴に殺到する。その様を傍から眺めているのは、仕事のためか残っていたバスガイド、おそらく好奇心の一般人勢、そして順番待ちをしていた私である。流石にバカスカ爆薬、砲弾、大金槌が乱舞する門前に、男達を押しのけて飛び込む気にはなれなかった。そしてそれをする理由もない。

 男達が全員穴の中に入っていったのは見届け、私は試しの門に手を当てた。

 

「あ、お客さん、何をされているんですか」

「見ての通りよ。私は此処に用があるから、行くわね」

 

 ギィオオォン

 

 私はバスガイドに軽く答え、手に力を込めた。すると、かつて聞いたことのないほどの重低音とともに試しの門は三の扉まで開いた。

 

「うーん」

 

 念を覚える前のキルアが開いた扉と、同じだ。何の強化もせずこれほどの力が出せるのなら、上出来だろう。能力を使えば、どこまでいけるか試してみたい気もあるが、それよりも開いた扉の向こうから聞こえてきた悲鳴の方に私の意識は向いた。

 

「ギャアアアアアアァアァァァッ!! た、助っぐげ」

「グガァァァアアァッ!」

「フー! フー!」

 

 再び重低音とともに閉まっていく扉と、その間に垣間見えた呆然としたバスガイドや一般人の姿を背に、私は血臭香る広場へと目をやった。

 そこにあったのは、先ほど穴をくぐっていった男達の成れの果てと、それらを貪る見たこともない魔獣の姿だった。見た目は双頭の犬だが、大きさは小屋程度はある。背丈の低い私からすれば、十分“見上げる”ほどだ。

 

「グルルルル」

 

 魔獣と目が合う。原作に出てきたミケには機械的という印象があったが、この魔獣の瞳からは原始的とは言え感情のようなものが見られた。そんなだから、三十年後にはいなくなっているのかもしれないが。

 

「ひっ、ひぃぃぃぃっ!」

「あら」

 

 と、私は自分の側に腰を抜かした男が一人いるのに気がついた。魔獣がこちらに目を向けたのは、私に反応したのではなくどうやらこの男の方を向いただけのようだ。

 その幸運な生き残りは、あの禿頭の中年男だった。男は私に気が付くと、身体中の穴という穴から体液を垂れ流しながらすがりついてきた。数分前の彼自身に、この顔を見せてあげたい。何にせよその結末を予知していたところで、ご丁寧にオーラまで扱っているこの魔獣に、念能力者でもなんでもない似非狩人達が勝てる通りはないのだが。

 

「た、たすっ、助けてくれ!」

 

 恥も外聞もなく、中年男が私に叫んだ。というか、とりあえず手近にいた私に助けを求めているだけで、私が何なのかは分かっていない気がする。涙で視界が潰れていなければ、あるいはこれほど切羽詰まっていなければ私の姿を見て助けを求めようなどとは思うはずもない。

 

「分かったわ」

 

 彼にとって幸いだったのは、私のすぐ側にいたことだろう。手の届く場所にいなければ私は面倒臭がって、大して関わりのなかったこの男をわざわざ助けに行こうとはしなかった。

 私は、私の脚にしがみついていた男の腕を掴み一気に引き剥がした。

 

『ガアァァァアァァアッ!』

 

 咆哮とともに、牙の並んだ二つの口腔を開き、魔獣が飛びかかって来る。しかし、魔獣の牙はもう男には届かない。

 掴んだ腕に力を込めて、開いた穴に向けて男をぶん投げる。ごグッと何かが外れる感触がしたが、とりあえずこの魔獣にバリバリと噛み砕かれるよりかはマシだろう。狙い違わず、男は壁に開いた穴を綺麗に通過していった。点数をつけるなら85点。まずまずといったところか。

 

「グルルルルッ」

 

 標的を失った魔獣が、私の横をすり抜けてたたらを踏んだ。そして、燃える感情の宿る四つの目を、残った私の方へと向けてくる。

 やはりミケとは違う。躾が成されていないのか、はたまた試しの門をくぐろうとも侵入者は侵入者なのか、何にせよこのまま穏便に終わることはなさそうだ。

 

「私は、少し話しに来ただけなのだけど」

 

 少々揉める程度のことは覚悟していたが、しょっぱなからこれとは、甚だツイていない。そして彼らと敵対しにきたわけではないので、あまり派手なことをするのも憚られた。

 

「面倒だわ」

『ガアァァッ』

 

 再度飛びかかってきた魔獣を、その双頭の付け根を支点に後ろへと放り投げる。四足獣は人間よりも投げるのが簡単だった。かかる力は直線的、両手を自由に使える人間とは違い、彼らが標的に仕掛ける攻撃手段はあまりに限られているだけに対処はし易い。力強ければ力強いほど、速ければ速いほど、私にとってはうってつけの獲物となる。とは言え……。

 

『――!』

 

 魔獣は空中でくるりと身体を回転させると、器用に体勢を立て直し何事もなかったかのように地面に降り立った。

 案の定ただ投げるだけでは、効果が薄い。野生に生きてきた獣の平衡感覚は、それを捨てた人間の比ではない。例え天高く放り投げたところで、この魔獣ならば傷一つ負うことなく生還することだろう。

 

「私は、貴方と遊びに来たわけじゃない。次は、痛いわよ」

 

 ならば、そのまま地面に叩きつけてしまえばいい。骨が折れる程度なら、ゾルディックの人間も許してくれる気がする。

 ……因みにご婦人の腕を斬り飛ばしたのはノーカウントだ。あれはあくまで仕事中の事故、殺しに来といて腕一本で抗議するほど、ゾルディック家は狭量ではないだろう。そう、私だって例え両腕を取られたとしても笑って……何だろう、放っといたらまたすぐに生えてくる気しかしないや。

 

「グルルルルッ」

 

 魔獣の爪が、ギリリと地面に食い込む。前傾姿勢となり、全身に力が込められていることが目に見えて分かった。

 来る――。私も魔獣の戦意に呼応し、しかし対照的に全身を脱力させる。構えはしない。余計な力は、むしろ私の初動を鈍らせる。さて準備は完了、次の瞬間には双頭の番犬の愉快なオブジェの出来上がりだ。

 

 

「ポチ」

『キャインッ!!』

 

 

 もう放たれるだけという、弓の弦の如く極限まで張り詰められていたはずの魔獣の体躯は、突如その場に響いた声一つで行儀の良い“お座り”へと変わった。ギリリと牙すら噛み砕いてしまいそうなほど噛み締められていた顎はだらしなく開き、双頭ともにだらりと舌を垂れている。

 

「……お邪魔しているわ」

 

 最早私を一顧だにしない魔獣から視線をそらし、私はその場に現れた男に軽く頭を下げながら声をかけた。仕方なかったとはいえ、一応私は他人の敷地に勝手に入った不法侵入者である。とりあえず、家人に挨拶ぐらいはしておかなければ筋が通らない。

 

「数日ぶりだな、娘。どうした、殺し損ねた俺の、ゾルディック家当主の首でも取りに来たのか」

 

 重く、そして堂々と響く低音。殺気どころか戦意一つ感じられないのに、ピリピリと肌を刺す鍛えあげられ研ぎ澄まされたオーラの気配。それでいて、近づいてくるその足音は異常にすら思えるほど静かだ。

 つい先日私と激戦を繰り広げた殺し屋の偉丈夫、現ゾルディック家当主ゼノ=ゾルディックが、彫りの深い顔に楽しげとも威嚇とも取れる鋭い笑みを浮かべてそこに立っていた。

 




しかし書こう書こうと思ってたことも、いざ書く時になると忘れます。
そしてメモを取ろう取ろうと思っても、面倒くさくて(故意に)忘れます。

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