バチ遅れました申し訳有りませぬ _:(´ཀ`」 ∠):
その代わりと言っては何ですが来週は日曜日も出しまする。
担当となっての初めてトレーニングをした翌日、ゼータは放課後になったのでトレーナー室へと足を運んだ。
「失礼します」
扉を開ける。
「おう、ゼータか」
「はい、こんにちは柊さん」
いつもの柊の声。
そして今日は、机の横には彩乃もいた。
「こんにちは、ゼータちゃん」
「こんにちは、彩乃ちゃん」
ゼータは二人に挨拶をすると、いつものように部屋へ入るが。
「……?」
柊はゼータを見るなり、少し眉を寄せた。
「なぁ」
「なんですか?」
「昨日の疲れ、まだ残ってるだろ」
「少し残ってますね」
ゼータは自分の身体を確かめるように肩を回す。
「その『少し』が問題なんだよ」
「でも動けないほどではありませんし、むしろ調子も良い方です」
「そういう問題じゃねぇ、取り敢えず今日は休みだ」
「え?」
ゼータが目を丸くする。
「休み、ですか?」
「ああ」
「でも……本当に少し疲れが残っているだけですよ?」
ゼータは少し困ったような顔をする。
「分かってる」
柊は即答した。
「だから休ませるんだ」
「……」
「昨日の疲れが完全に抜けてねぇ状態で動けば、身体には余計な負担がかかる」
「ですが――」
「その『少し』が重なれば、怪我につながる。焦る時期でもねぇし、慎重になるに越したことはない」
「……分かりました」
ゼータは口を閉じ素直に頷いた、するとそれをみた柊は資料を一つ取り出した。
「それに、今日は別にやることがある」
「やること?」
「ああ」
柊は机の上へ資料を広げた。
「レースの予定を決めるぞ」
「……!」
ゼータの目が資料へ向く。
「私のレース……ですか?」
「そうだ」
「もう決めるんですか?」
「担当になったんだ。いつまでも何も決めずにいるわけにもいかねぇだろ」
「……はい」
ゼータは柊の向かいに座った。
彩乃も少し離れたところから資料を覗いている。
「まず、デビューは中等部四年を目標にする」
「中等部四年……」
ゼータが呟く。
「お前さんの場合、身体は既に出来てはいる、だがこの感じだとまだまだ伸びるだろう、なら今すぐ無理に出す必要はねぇ。身体を作りきる時間もある」
「はい」
「それまでにどういうレースへ出るかも考えていく」
柊は何枚かの資料を並べながら話す。
「ただし、これは確定じゃねぇ」
「……?」
「身体の状態、学校の予定、トレーニングの進み具合。そういうもんを見ながら、その都度変える」
柊は資料から目を移し、ゼータを見る。
「だから安心しろ担当になった以上、お前さんが無茶をしねぇように俺が見る」
「……はい」
「それにあくまで予定だ、問題が出たらその都度修正すりゃいい」
「分かりました」
「それに、出るレースによって鍛えるべきところも変わる」
柊は資料を指差す。
「距離が違えば必要なスタミナも変わる。脚質によっても違う。終盤の伸びを重視するのか、持久力を重視するのか、それぞれでトレーニングの内容は変わってくる」
「確かにそうですね……」
「だから、脚質はおいおい決めていくとして一旦、このレース予定を軸にしてトレーニングメニューを組む」
「はい」
ゼータは資料へ目を落とした。自分がこれから走ることになるレース、それが今までよりずっと具体的な形になっていく。
「……本当に、始まるんですね」
「何がだ?」
「私のレースが」
柊は少しだけ笑った。
「そのために担当になったんだろ?」
「…そうですね」
それを聞きゼータも小さく笑った。
「それでだ、まずはどの距離をメインにするか決めるぞ」
「そうですね…」
少し悩みやがて答える。
「マイルをメインに短距離を混ぜる感じでお願いします」
「…わかった、なら7〜8月に新潟あたりでデビュー戦、そんで安田かチャンピオンシップあたりを目標にするか」
「早めのデビュー戦に出るんですね」
「あぁ、今のお前さんの感じなら早めでも問題ねぇ、それに目標はG1だ、出来るだけ経験を積んでおきたい。どれだけ備えた上でも、取れるか分からないのがG1だからな」
「なるほど…わかりました」
そうしてレースの予定を一通り確認し終える。
「よし。今日はこんなところだな」
「はい」
ゼータがメモ帳を開き、話し合った内容を書く、その間に柊は資料の整理をする。
すると彩乃が、二人を交互に見た後に口を開く。
「なんだか……」
「ん?」
「ゼータちゃんとおじいちゃん、前とちょっと違って見えますね」
ゼータが顔を上げる。
「そうですか?」
「はい。なんというか……」
彩乃は二人を見比べる。
「雰囲気が違うというか」
柊が呆れたように口を挟む。
「当たり前だろ。一昨日までと違って、昨日から正式に担当と担当ウマ娘なんだ」
「ああ、そういうことですね!しっくり来ました!」
彩乃は納得したように頷いた。
「今までは、おじいちゃんがゼータちゃんの相談に乗ってなんと言うか教師と生徒見たいな感じでしたけど、今はちゃんとトレーナーとウマ娘って感じがします」
「そうか?そんな変わってねぇだろ」
「変わってますよ!」
「……」
ゼータは改めて柊を見る。確かに、今までと何かが違う、同じ場所、同じ人、それなのに。
「……不思議ですね」
「何がだ?」
「昨日までと、何も変わっていないような気もするのに」
ゼータは少しだけ笑う。
「でも、確かに何かが変わった気もします」
柊は肩をすくめた。
「契約ってのは、そういうもんだろ」
「……そうですか」
ゼータは噛み締めるように静かに頷いた。
その後、レースの予定を決め終えたが、まだ寮の門限までの時間に少し余裕があり、三人はそのままトレーナー室で話を続けていた。
やがて良い時間になり、各々が帰るために片付けをしていると、ふと彩乃が口を開く。
「そういえば、ゼータちゃん」
「はい?」
「中等部四年でデビューする予定なんですよね?」
「はい」
「なんだか、遠いようですぐですね」
「そうですね」
ゼータは窓の外を見る、グラウンドでは、何人ものウマ娘が練習をしている。そしてその胸には、それぞれのウマソウルが光っている。
「……」
ゼータはしばらくそれを眺める。
「ゼータちゃん?」
「……あ、すみません」
「どうしました?」
「いえ」
ゼータは小さく笑う。
「少しぼーっとしていただけです」
彩乃はそれ以上聞かなかった。
「そうですか、何もないならよかったです!」
「ふふっ、ありがとうございます」
柊はそんな二人のやり取りを横目で見ていた。
その日の帰り道。
「やぁ、ゼータ帰りか?」
「はい、姉さんも帰りですか?」
「あぁ、丁度いい久々に一緒に帰ろうか」
「良いですね、久々に一緒に帰りましょう」
ゼータは偶々会ったルドルフと一緒に帰路に着いていた。
「そういえば、ゼータ」
「はい?」
「柊トレーナーと担当契約を結んだそうだな」
ゼータは少し驚いた。
「……知っていたんですか?」
「ああ」
ルドルフは穏やかに笑う。
「たまたま耳にしてな」
「そうですか」
「良いトレーナーを見つけたな」
「……はい」
ゼータも頷く。
「私も、そう思っています」
「それで?」
「はい?」
「これからの予定は決まったのか?」
「はい」
ゼータは少し考えてから答える。
「今日柊さんと相談して、レースの予定を軽く組みました」
「そうか」
ルドルフの表情が少し明るくなる。
「では、ゼータもいよいよレースへ進むんだな」
「……はい」
「楽しみだな」
ルドルフは嬉しそうに笑った。
その顔を見て。
ゼータも笑おうとする。
「……そうですね」
けれど。
その笑顔は、どこかぎこちなかった。
ルドルフは気づかない。
「ゼータが走るところを見るのは、選抜レースぶりになるな」
「……そうですね」
「姉として、楽しみにしているよ」
「……はい」
ゼータは前を向く。
胸の奥に複雑な感情が広がっていた、姉が喜んでくれている、自分がレースへ進むことを、心から楽しみにしてくれている、それが嬉しい。
けれど。
(私は、長く走るつもりはない)
その決意は今も変わっていない、だからこそ。
「……姉さん」
「ん?」
「…………いえ、やっぱりなんでもないです」
「そうか、何かあればいつでも相談してくれて良いぞ」
「はい、ありがとうございます」
言えなかった、自分がいつかレースから離れるつもりだということを。
二人は並んで歩いていく。
姉は、妹のこれからを楽しみにしている。妹は、その未来から離れることをすでに決めている。
その違いを抱えたまま、二人の歩く道は、静かに夕暮れの中へ続いていた。
モチベが爆上がりするので、良ければ感想や評価をよろしくお願いします!