今日は間に合って良かったです、明日のもある程度修正すれば出せる段階までできてます。
※17話のノート渡すシーンのセリフを
「今日から」→「次のトレーニングから」
に変更した事をお知らせします。
レース目標そしてある程度のレース日程を決めた、次の日の放課後。ゼータは昨日と同じように、トレーナー室の扉をノックした。
「失礼します」
「おう、来たか。入れ」
扉を開けると、柊が机の上に何枚かの資料を広げていた。隣では彩乃が書類を整理している。
「こんにちは、ゼータちゃん!」
「こんにちは、彩乃ちゃん、柊さん、今日は何をするんですか?」
「昨日、身体能力を測っただろ。今日はその結果と、お前さんが出たいと言ったレースを踏まえて組んだメニューをやる」
柊は机の上から一枚の紙を取り、ゼータに差し出した。そこには、一昨日の測定結果とレース目標、それをもとに組まれたトレーニングメニューが記されていた。
「まずはレースのペースを把握するための体内時計の確認。それから加速の練習。最後に軽めの持久力トレーニングだ。今日は身体を追い込むことより、今のお前さんが何ができて、何が足りないのかの最終確認とならしが目的だな」
「分かりました」
ゼータは資料に目を通す。柊がまとめたレース計画では、マイルを中心に短距離のレースを走るために必要な能力を、今の段階から少しずつ伸ばしていく。無理がなく、理にかなったメニューだった。
だからこそ、ゼータには少しだけ居心地が悪かった。自分の本当の実力を隠したまま、どこまで自然に振る舞えるだろうか。担当となった日、柊には自分の事情を話した。早々に引退するつもりであることも、場合によってはわざと負けることもあるかもしれないということも。
それでも。
柊は自分の担当になることを選んだ。ならば、せめて今はこの人が自分のために考えてくれたメニューに、きちんと向き合おう。
「……よろしくお願いします、柊さん」
「おう。じゃあ、さっそく始めるぞ」
ゼータは資料を置き、トレーニングの準備を始めた。
◇
トレーニングは、タイムの確認から始まった。
決められた距離を走り、指定されたタイムを意識して一定のペースを維持する。続いて、短い距離で加速を繰り返し、最後に持久力トレーニングを行う。柊は走るゼータを注意深く観察しながら、手元の記録用紙に数値を書き込んでいった。
「よし、次だ。今度は最初から飛ばすなよ。後半までペースを維持することを意識しろ」
「はい!」
ゼータは返事をして、スタート位置につく。
合図とともに走り出した。
身体の動きに無駄はない。呼吸も乱れすぎず、指示されたペースを守っている。
しかし、柊は彼女の走りを見ながら、わずかに目を細めた。
――やっぱり、まだ抑えているな。
昨日の測定結果だけで、彼女の能力をすべて把握できたわけではない。それでも、実際に走っている姿を見れば分かることもある。
ゼータの走りには、まだ余裕があった。
ただ、それを本人が意図的に隠しているのか、それとも何か別の理由があるのか。今の段階では断定できない。
柊は何も言わず、記録を続ける。そして、走り終えたゼータが戻って来た。
「ふぅ……、次は何ですか?」
「少し休憩。そのあと、今日の最後のメニューだ」
「分かりました」
ゼータは水分を取り、呼吸を整えた。無論ゼータ真剣に取り組んでいるつもりだ、そして疲労は勿論ある、だがまだ余裕も残っている。それを自覚し違和感を感じながら、ゼータは柊の指示に従って最後のメニューへと向かった。
◇
「よし、今日はここまでだ」
最後のトレーニングを終え、柊が記録用紙を閉じた。
「はぁ……お疲れさまでした」
「おう。初日としては十分だな。身体の状態を見ながら、少しずつ内容を調整していく。明日以降も、多少にかよるが今日と同じことを繰り返す訳じゃないからな」
「はい」
「それと、帰ったら一昨日渡したノートに今日のことを忘れないうちに記録しておけよ」
「分かりました」
ゼータは頷き、荷物をまとめた。
「それじゃあ、今日はありがとうございました」
「おう、ゆっくり休めよ」
「ゼータちゃん、お疲れさま! またね!」
「はい。彩乃さんも、ありがとうございました」
二人に挨拶を済ませ、ゼータはトレーナー室を後にした。
◇
帰宅後。
自室に戻ったゼータは、就寝の準備をしたのち、机の前に腰を下ろした。そして柊から渡されたノートを机の引き出しから取り出す。表紙を開けば、まだ新しいページが並んでいる。ゼータはペンを手に取り、しばらく白紙を眺めていた。
今日のトレーニングを記録する。それだけのことなのに、いざ書こうとすると、何から始めればいいのか分からなかった。だからゼータは一度今日の出来事を頭の中で整理する。
今日、何をしたのか、それぞれどこがうまくいって、どこがうまくいかなかったのか、自分の身体はどんな状態だったのか、また何を考えていたか、そうして頭の中で書くべき出来事を振り返ってまとめる。
一定のペースを維持し確認する練習。短い距離での加速練習。最後の持久力トレーニング。柊から受けた指示と、それに従って走ったときの感覚。思い返せば、書けることはいくつもあった。
「……まずは、やったことからでいいか」
小さく呟き、ゼータはペンを動かした。
最初に日付を書き、その下に今日のトレーニング内容を記していく。一行、また一行、書き進めるうちに、少しずつ手が動くようになっていった。先程ある程度脳内でまとめたものにプラスして、今日の走りを思い返しながら、感じたことや気づいたことも書き加える。
そして、最後の項目を書き終えたところで、ゼータはペンを止め、自分の書いた文字を、最初から読み返してみる。
まだ簡単な記録にすぎない。けれど、今日という一日が、少しずつ形になっているような気がした。ノートを閉じゼータはもう一度、今日のトレーニングを思い返した。
柊は走る自分を見て、数字を記録し、次に何をすべきか考えていた。ただ速いか遅いかを判断するのではない。今の状態を把握し、目標とするレースを見据え、必要なものを積み重ねていく。
――これが、トレーナーの仕事なんだ。
こうして思い返さずに自分が走ることだけを考えていたら、気づかなかったかもしれない。走るウマ娘の状態を知り、課題を見つけ、その先へ進むための道筋を考える。それは、ゼータが憧れていた仕事そのものだった。
「……よし」
ゼータは小さく頷き、ノートを閉じる。今日の記録はこれで終わり。明日になれば、また新しいトレーニングがある。そのたびに新しい発見があり、ノートに書き加えることも増えていくだろう。そう考えながらゼータはノートを引き出しにしまった。
そして、明日から立ち上がりベットの中へ入る、今日一日の疲れが、身体に染み込んでくる。けれどその感覚は不思議と嫌ではなかった。明日はどんなトレーニングをするのだろう、自分にはどんなことができるのだろう。
そんなことを考えながら、ゼータは静かに目を閉じた。その胸の内には、走ることが好きだという気持ち、それでも、いつまでも走り続けるつもりはないという決意、その二つを抱えたまま、ゼータは今日も一日を終えた。
机の引き出しの中には、初めの一歩が綴られたばかりのノートがある。いつの日かそれは、なにものにも変え難い宝物となるだろう。
ゼータはずっと抑えていたせいで体が慣れてしまい、無意識で少し力を抜いてしまいます。
その事を今回少し自覚し出した感じです。
モチベが爆上がりするので、良ければ感想や評価をよろしくお願いします!