何故か物凄い勢いで筆が乗ったので実質初投稿です。
中央歴1639/09/25 10:43 クワ・トイネ公国 マイハーク港
ロウリア王国海軍、4400隻をレーダー監視網で捉えたクワ・トイネ公国海軍第二艦隊は、配備されている12隻の無人哨戒艇と、3隻の有人指揮艇を伴い、マイハーク港を出港していた。
「無人哨戒艇がこれだけ並ぶと、やはり壮観だな…」
提督パンカーレは、無人でありながら、自ら判断して整然と追従する哨戒艇の列に、感嘆を覚えていた。
「配備されたばかりの頃は不安を覚えたものだが…」
たかが15隻の艦隊で一体何が出来るというのか。この艦隊が配備されたばかりの頃、パンカーレはそう考えていた。
――だが今は違う。
「水平線の向こうまで捉えるレーダー監視網、レーザー砲、爆雷投射器、そしてドローン群…このような素晴らしい物を与えてくれた日本には感謝しかないな。」
もはや、接舷して白兵戦を挑む必要などない。レーザー砲の射程に入った帆船など、個々に見れば脅威ですらないのだから。
「だが…流石に4400隻ともなると些か不安だ…」
一隻一隻なら問題にならない。
だが、それが4400隻ともなれば話は別だ。
僅かな不安を覚えるパンカーレのもとへ、通信員から声が飛んだ。
「提督、通信が入っています」
「何処からだ?」
「日本国自衛隊、クワ・トイネ派遣部隊司令部からです」
「繋げ」
間もなく、艦橋の通信機から声が響いた。
『クワ・トイネ公国海軍第二艦隊、こちら日本国自衛隊クワ・トイネ派遣部隊。感明いかが』
「こちら第二艦隊旗艦。良好だ。」
『了解。現在、我々もロウリア王国艦隊を捕捉、継続監視中です』
パンカーレは小さく頷いた。
こちらより遥かに広い範囲を監視している日本軍が、この大艦隊を見逃しているはずもない。
『現在、航空部隊を即応待機させています。第二艦隊が航空支援を必要と判断した場合、要請を頂ければ直ちに支援可能です』
「航空支援か」
『はい。上空警戒、敵航空戦力への対処、ならびに艦隊への攻撃支援が可能です。ただし、現時点ではクワ・トイネ公国軍単独での対処が可能と判断しているため、こちらから戦闘へ介入する予定はありません』
「我々の戦いは、まず我々に任せると?」
『その認識で結構です。ただし、必要なら遠慮なく呼んでください』
一瞬、パンカーレは口元を緩めた。
「ありがたい。今のところは必要ない。こちらで対処する。」
『了解しました。航空部隊は待機を継続します。なお、周辺空域に新たな脅威を確認した場合はこちらからも通報します』
「了解した。」
『第二艦隊の健闘を祈ります。以上』
通信が切れる。
パンカーレは再び前方へ視線を戻した。
「……必要なら空から日本軍が来る、か。」
4400隻。
それでもなお、不安が完全に消えたわけではない。
だが少なくとも、最悪の場合に備えた切り札はある。
「よし。このまま迎撃海域へ向かう。自衛隊に頼るのは、本当に必要になってからだ。」
「素晴らしい……何と壮観な景色だ……」
見渡す限りの帆、帆、帆。
海が三に、船が七。
そう表現した方がまだ正しいのではないかと思えるほどに、ロウリア王国海軍の艦艇は海面を埋め尽くしていた。
大小合わせて、実に4400隻。
水平線の端から端まで続く帆柱は、まるで海の上に森が生えたかのようであった。
その光景を旗艦の甲板から眺めながら、海将シャークンは満足げに目を細めた。
「これだけの艦隊を一度に指揮する機会など、二度とあるまいな」
数とは、それだけで力である。
一隻一隻の性能に多少の差があろうとも、十倍、百倍という兵力差を前にすれば、いずれ押し潰される。
ましてや相手はクワ・トイネ公国。
技術差など殆ど存在しない、亜人国家――
「……いや」
そこまで考えたところで、シャークンは小さく首を振った。
驕りは敗北を呼ぶ。
それは海将となるまで数多の海戦を経験してきた彼自身が、嫌というほど知っていることであった。
「圧倒的な数的有利を持つからこそ、各個撃破されることだけは避けねばならぬ」
周囲にいた幕僚達が、僅かに姿勢を正す。
「兵にも帰るべき家がある。勝てる戦で、悪戯に命を失わせる必要などない」
敵を侮らず、確実に包囲し、逃げ道を塞いだ上で圧殺する。
それでよい。
そう考えながら、シャークンは東の海へと視線を向け――
「……む?」
眉をひそめた。
水平線近くに、何かが見える。
最初は岩礁かとも思った。
しかし、それは明らかに移動していた。
「見張り! 東方の物体を確認せよ!」
「はっ!」
見張り員が望遠鏡を構える。
しばしの沈黙。
やがて、困惑した声が返ってきた。
「……船です!」
「船?」
「はい! ですが……」
見張り員が望遠鏡を覗いたまま言葉を詰まらせる。
「帆がありません!」
「何?」
シャークンも目を凝らした。
確かに、船だった。
低く、灰色で、異様に平たい。
煙突らしい物も見えず、帆もない。
にもかかわらず、それらは一定の間隔を保ったまま海面を滑るように進んでいる。
「魔導船か……?」
誰かがそう呟いた。
その直後だった。
「――火災!」
叫び声が上がる。
「先頭艦、一隻炎上!」
「何だと!?」
シャークンが視線を戻す。
艦隊前方。
一隻の帆船、その帆が突然炎に包まれていた。
「敵の攻撃か!?」
「分かりません!」
「矢は!? 投石は!?」
「何も見えません!」
次の瞬間。
別の船の帆が燃えた。
更に、その隣。
今度は帆柱そのものが火を噴き、焼けた綱が千切れて甲板へ落下する。
「またです!」
「三隻目!」
「五隻目、火災!」
「何が起きている!?」
怒号が飛び交う。
火矢ではない。
投石でもない。
何かが飛んでくる様子すらない。
ただ、遠方の灰色の船がこちらを向くたびに、艦隊のどこかで炎が上がる。
しかも、狙われているのは船体そのものではない。
帆。
帆柱。
索具。
船を動かすために不可欠な部分ばかりが、正確に焼かれていく。
「前列、速度低下!」
「後続艦、接触します!」
「面舵! 避けろ!」
巨大すぎる艦隊が、逆に災いした。
一隻が止まれば、その後ろの船も進路を変えなければならない。
しかし周囲にも船がいる。
密集した艦隊では、逃げ場などほとんど存在しなかった。
火災を起こした船を避けようとした一隻が隣船と接触し、その更に後方で混乱が広がっていく。
「くそっ……何なのだ、これは……!」
歯噛みするシャークン。
そして、徐々に距離が縮まるにつれて、灰色の船体に掲げられた旗が見えるようになる。
「海将閣下!」
見張り員が叫んだ。
「旗を確認しました!」
「何処のものだ!」
「クワ・トイネ公国……クワ・トイネ公国海軍です!!」
「なに……?」
シャークンは目を見開いた。
クワ・トイネ公国。
あの国に、あのような船が存在するなど聞いたことがない。
しかも数は――
「敵艦、十五!」
「……十五?」
一瞬、聞き間違いかと思った。
「間違いありません! 十五隻です!」
4400対15。
本来なら、比較することすら馬鹿馬鹿しい戦力差である。
だが現実には、その十五隻と接触する前にこちらが一方的に焼けていく。
敵の正体を確認しようと、シャークンは望遠鏡を構える。
敵艦の上部。
そこに、奇妙な何かが蠢いていた。
生物ではない。
小さな塔のような物体が滑らかに首を振り、一隻の帆船へと向く。
直後。
「また燃えたぞ!」
帆が炎に包まれる。
「あれだ……」
シャークンは確信した。
「あのカラクリが撃っている……!」
原理など分からない。
だが、攻撃元さえ分かれば、取るべき手段はある。
「亜人共め……いつの間にあのような魔導を!」
シャークンは舌打ちし、即座に命令を下した。
「左右へ展開! 敵艦を包囲せよ!」
「はっ!」
「奴らは僅か十五隻だ! 遠距離からの魔導攻撃が強力であろうとも、包囲して接舷すれば数で押し潰せる!」
4400隻ある。
仮に一隻の敵が十隻、二十隻を相手取れるとしても限度はある。
囲い込みさえすれば――
「海将閣下! 上空!」
「今度は何だ!」
シャークンが空を見上げる。
小さな影が幾つも浮かんでいた。
鳥ではない。
ワイバーンでもない。
奇妙なカラクリのような物体が、こちらへ向けて飛んでくる。
「また魔導具か……!?」
その一機が、艦隊上空で何かを切り離した。
黒く、丸い物体。
「何か落としたぞ!」
「回避しろ!」
「弓兵! 撃ち落とせ!」
甲板上から一斉に矢が放たれる。
だが、落下する物体は止まらない。
黒い塊は一隻の帆船、そのすぐ脇の海面へと落ち――
轟音。
海面そのものが持ち上がった。
「――ッ!?」
巨大な水柱が立ち上がり、その中心にいた帆船が大きく跳ね上がる。
船腹が砕け、マストが折れ、人や木片が宙を舞った。
数秒後には、つい先ほどまで一隻の船だったものが、波間に崩れ落ちていた。
「……一撃、だと?」
周囲の兵達が息を呑む。
しかし、空にはまだ同じカラクリがいる。
一騎。
二騎。
三騎。
更にその向こうにも。
「くそっ……!」
このままでは包囲する前に被害が広がる。
シャークンは通信士へ振り返った。
「通信士!」
「はっ!」
「ワイバーン部隊へ連絡! 敵航空戦力と交戦中! 至急、上空支援を要請しろ!」
「了解!」
通信士が慌ただしく魔信を繋ぐ。
シャークンは再び敵艦隊を睨みつけた。
敵は、僅か十五隻。
こちらは4400隻。
その事実に変わりはない。
――なのに。
先ほどまで絶対的に見えていたその数字が、今は妙に頼りなく感じられた。
「敵艦隊、なおも前進! 一部が左右へ展開を始めています!」
「包囲するつもりか……」
指揮艇の艦橋。
戦術表示器に映る膨大な数の光点を睨みながら、パンカーレは小さく唸った。
敵の数は、4400隻。
個々の船は脅威ではない。
無人哨戒艇の速度に追いつくことも出来ず、その攻撃もシールドを突破できるようなものではない。
だが――多い。
あまりにも多すぎる。
十二隻の無人哨戒艇は一定の距離を保ちながら敵艦隊の外周を走り、レーザー砲による攻撃を続けている。
帆が燃える。
索具が焼け落ちる。
帆柱が炎を噴き、操船能力を失った船が後続艦の進路を塞ぐ。
それでも敵艦隊は止まらない。
「レーザー砲だけでは時間がかかるな……」
「敵艦隊との距離、依然として爆雷投射器の有効射程外です」
「分かっている」
爆雷投射器を使えれば、一隻ずつ帆を焼いていくよりも遥かに早く敵船を沈められる。
だが、それには敵へ接近しなければならない。
わざわざ相手の懐へ入り込む理由もない。
その時、戦術画面の端に表示された無人機群を見て、パンカーレはふと目を細めた。
「……輸送用の飛行機械は、どれほどの重さまで運べる?」
「輸送ドローンですか?」
「ああ」
問い掛けられた幕僚が、日本から渡された装備資料を確認する。
「オートマトン一体を搭載して飛行可能です。物資輸送にも使用できると……」
「ならば」
パンカーレは、戦術画面に表示された爆雷の残数へ視線を移した。
「爆雷も運べるのではないか?」
「…………」
一瞬。
艦橋が静まり返った。
「……運べると思います」
「では運ばせろ」
「爆雷を、ですか?」
「敵の船まで運ばせて、上から落とす」
幕僚が何とも言えない表情を浮かべる。
「日本から、そのような使い方は説明されておりませんが……」
「禁止されてもいないだろう?」
「……確かに」
「やれ」
「はっ!」
命令が無人哨戒艇へ送られる。
程なくして、数隻の無人哨戒艇から輸送ドローンが飛び立った。
本来ならばオートマトンや補給物資を運ぶための機体。
その下部には今、場違いなほど大きな爆雷が吊り下げられていた。
敵艦隊へ向かって飛行するそれを見ながら、幕僚の一人が呟く。
「……あの爆雷、本来は海中の敵を攻撃するための兵器ですよね?」
「そう聞いている」
「空から落として良いのでしょうか」
「爆発すれば同じだろう」
「……そういうものでしょうか」
答えを知る者は、艦橋にはいなかった。
輸送ドローンは敵艦隊上空へ到達する。
弓矢が撃ち上げられる。
何本かがドローンへ命中した。
だが、機体を包むシールドに触れた瞬間、矢は弾かれ、あるいは折れながら海へ落ちていく。
「敵から攻撃。損傷ありません」
「そのまま続行」
ドローンが吊り下げていた爆雷を切り離した。
黒い塊は一隻の帆船、そのすぐ脇の海面へ着水した。
僅かに水中へ沈んだ、その直後――
戦術画面に大きな反応が走った。
「命中……いえ、至近弾!」
映像装置に映し出された敵船が、水柱と共に大きく持ち上がる。
船体中央が折れ、帆柱が傾き、そのまま海面へ崩れ落ちた。
「……沈んだな」
「沈みましたね……」
パンカーレは僅かに目を見開いた後、すぐに命令を下した。
「有効だ。輸送ドローンによる攻撃を継続せよ」
「了解!」
誰も想定していなかった攻撃方法が、その場で正式な戦術へと変わった瞬間だった。
その時。
「提督、日本国自衛隊より通信です!」
「繋げ」
通信機から、落ち着いた声が流れる。
『クワ・トイネ公国海軍第二艦隊。こちら日本国自衛隊派遣部隊司令部』
「こちら第二艦隊。どうした?」
『西方より多数の航空目標を確認しました』
パンカーレの表情が変わる。
「数は?」
『約350。目標識別――ワイバーン』
「350……」
艦橋内に僅かな緊張が走った。
『進路から判断し、第二艦隊への攻撃を目的としている可能性が高いと見ています。現在位置より、このまま進めば間もなくそちらの戦域へ到達します』
「……以前言っていた航空支援は、今も可能か?」
『可能です』
返答に迷いはなかった。
『航空部隊、即応待機中。要請を受領次第、発進可能です』
パンカーレは一瞬だけ考えた。
海上の4400隻だけなら、時間さえ掛ければ対処出来る。
だが、350騎のワイバーンが加われば話は別だ。
「こちら第二艦隊司令、パンカーレ」
一呼吸。
「航空支援を要請する。敵ワイバーン部隊を排除してほしい」
『了解。航空支援要請を受領しました』
「クワ・トイネ公国海軍第二艦隊より航空支援要請」
簡易飛行場に設置された指揮所。
報告を受けた自衛官が、目の前の表示を確認する。
戦域へ接近する350の航空目標。
味方艦隊。
そして、そのすぐ横に並ぶ二十四の表示。
「FQ-21J、24機。全機投入」
「了解」
簡易飛行場の脇。
整然と並べられた二十四基の大型コンテナへ、同時に信号が送られる。
外見だけなら、貨物用の大型コンテナと大差ない。
しかし次の瞬間。
重い上蓋がゆっくりと持ち上がり、斜め上方へと開いていく。
その内部。
細身の機首。
前方へ鋭く伸びた翼。
人間が搭乗するための空間を必要としない、無人戦闘機FQ-21Jが姿を現す。
『01、起動確認』
『02、正常』
『03、正常』
次々と表示が切り替わる。
二十四機すべてが指揮通信網へ接続された。
「全機、リンク良好」
「射出準備完了」
指揮官が時計へ一度だけ目を向ける。
「発進」
『了解。FQ-21J、射出開始』
一基目。
機体がコンテナ内部から一気に射出される。
空中へ放り出された直後、推進器が起動。
機首を持ち上げ、一気に加速する。
続いて二機目。
三機目。
四機目。
二十四基のコンテナから、次々と無人戦闘機が空へと飛び出していく。
滑走路へ進入する必要はない。
搭乗員を待つ必要もない。
最後の一機が射出されるまで、長い時間は掛からなかった。
「24機、全機発進」
「第二艦隊上空へ急行。交戦開始」
「ワイバーン部隊、距離縮まっています!」
パンカーレは空を見上げた。
既に肉眼でも見える。
西の空。
黒い点が、群れとなってこちらへ近付いていた。
350騎。
空そのものが、生き物の群れで覆われているようにすら見える。
「無人哨戒艇、対空迎撃開始!」
十二隻の無人哨戒艇に搭載されたレーザーCIWSが、一斉に空へと砲口を向ける。
発射。
――だが、何も見えない。
閃光も。
飛翔する弾も。
光の筋すら存在しない。
ただ。
一騎のワイバーンの翼が、突然焼けた。
「ギャアアアッ!!」
悲鳴と共に姿勢を崩し、海へ落ちていく。
続いて、別の一騎。
胸部から突然煙を噴き、そのまま力を失う。
また一騎。
また一騎。
何も飛んできていない。
何にも触れていない。
それなのに、ワイバーンだけが次々と焼かれ、落ちていく。
「命中! さらに一騎撃墜!」
「右舷方向、三騎撃墜!」
「敵部隊、なお接近!」
迎撃自体は成功していた。
だが――
「……多いな」
パンカーレが呻く。
落としても。
落としても。
その向こうに、まだワイバーンがいる。
十二基のレーザーは休む間もなく標的を切り替えていた。だが、一騎を焼き落とす間にも、その後ろから何騎ものワイバーンが距離を詰めてくる。
350騎という数は、それだけで暴力だった。
「敵ワイバーン、高度を下げています!」
「攻撃態勢!」
生き残ったワイバーン達が次々と高度を落とし、無人哨戒艇へと迫る。
「導力火炎弾が来ます!」
「全艦、迎撃を継続!」
不可視のレーザーが飛ぶ。
一騎の翼が焼け落ちる。
二騎目の胴体から煙が上がる。
三騎目が力を失い、海へと墜ちる。
それでも、数の多さに任せて生き残ったワイバーンが迎撃網を抜けてくる。
「一騎、突破!」
一騎のワイバーンが、無人哨戒艇へ狙いを定めた。
騎手が手綱を引く。
ワイバーンが大きく口を開き――
それまで僅かに曲げていた長い首を、砲身のように真っ直ぐ前へ伸ばした。
「発射体勢です!」
喉の奥が赤く輝く。
粘性を持つ灼熱の導力火炎弾が、今にも吐き出されようとした。
その瞬間。
――青い光が走った。
「……!」
細い青白い光条が空を貫き、首を伸ばしたワイバーンの胴体を横切る。
一瞬遅れて、その身体が黒く焼け焦げた。
口元まで溢れかけていた炎が霧散し、ワイバーンは力なく姿勢を崩す。
そのまま海面へ向けて墜落していった。
「今のは……?」
パンカーレが目を見開く。
レーザーCIWSではない。
先ほどまで、ワイバーンは何も見えない攻撃によって次々と撃ち落とされていた。
だが今の一撃は違う。
確かに――青い光が見えた。
「高速目標、複数接近!」
「IFFは!?」
「照合中……確認!」
通信員が声を上げる。
「自衛隊――味方です!」
その報告とほぼ同時に、二条目の青い光が空を走った。
可視光を僅かに交えたレーザーが、空へ細い青色の線を刻む。
ワイバーンが焼ける。
別のワイバーンが墜ちる。
さらにその奥で、一騎が炎を噴いた。
そして。
甲高く、寒気がするような不気味な風切り音が、第二艦隊の頭上を駆け抜けた。
「――ッ!」
パンカーレが空を見上げる。
細い。
異様なほど細い機体だった。
鋭く尖った機首。
前方へ鋭く掃かれた翼。
人を乗せることなど最初から考えられていないかのような、無駄のない形状。
一機。
二機。
四機。
八機。
次々と第二艦隊上空を高速で通過していく。
「友軍機、24!」
通信員が報告する。
「識別――FQ-21J!」
FQ-21J。
日本国自衛隊の無人戦闘機。
二十四機は艦隊上空を通過すると、一糸乱れぬ動きで複数の小編隊へ分かれ、そのままワイバーンの大群へと突入していった。
そして。
青い光が、再び空を走った。
今度は一条や二条ではない。
幾筋もの青い光が、350騎のワイバーンが埋め尽くしていた空へと伸びていく。
パンカーレは、その光景を見上げながら、小さく息を呑んだ。
先ほどまで。
あれほど多く見えたワイバーンの群れが――
今度は、狩られる側へと変わっていた。
「畜生…!何なんだよ、アレはぁ!?」
あと少しで辿り着けそうだった。あと少しで忌々しいクワ・トイネの舟に導力火炎弾を放てた。ワイバーンに敵う戦力など同じワイバーンしか存在しない…
それが彼らの認識だった。
だが今はどうだ?
羽ばたかない翼を備えた、不気味な鳴き声を撒き散らす怪物。それが、ワイバーンよりも遥かに速い速度で、鋭い機動性で、一糸乱れぬ動きで。
まるで互いの動きが分かっているのかと見紛う程の超高速での連携。
それは、人間ではあり得ない…いや、よく訓練されたワイバーンでもあそこまでの連携はしないだろう。
まるで、歯車が噛み合えば同時に回るのが当然であるかのような…それだけ一致した連携だった。
残る味方は半数を割り、一切の抵抗が出来ないままに落ちていく。
それは悪夢だった。
恐怖だった。
絶望だった。
逃亡しようとワイバーンに指示を出したその時…
その後の海戦は、もはや戦闘と呼べるものではなかった。
FQ-21Jによる小型爆弾の投下。
輸送ドローンによる爆雷投下。
レーザーCIWSによる敵艦の無力化。
ひたすら無機質に、無感動に。4400隻の大艦隊は、見るも無惨に崩壊していき。
その残存艦艇数が、半数を割った時点で、ロウリア王国海軍は撤退していった。
弓矢も、バリスタも、投石機も。そのどれもが射程にすら入れてもらえずに、沈んでいった。
運良く届いたバリスタも、シールドに弾かれ、塗装を剥ぐことすら許されない。
唯一、ヒビの入ったレーザー光収束レンズだけが、その数を物語っていた……
用語解説コーナー
無人哨戒艇
・日本からクワ・トイネ公国へ供与された無人艦艇。
・全長30~40m級の小型艦で、有人指揮艇からの指示を受けつつ、自律航行・戦闘が可能。
・主な装備は、レーザーCIWS、爆雷投射器、輸送ドローン12機、射撃ドローン24機、オートマトン12体。
・各種ドローンを含め、基本的にシールドを装備している。
・高級仕様では、爆雷投射器やドローン群の一部をミサイルVLSへ置換した型も存在する。
・本来は哨戒、臨検、対潜、警備などを行う多用途艦であり、今回のような大規模海戦は想定用途ではない。
・なお、作中で行われた「輸送ドローンに爆雷を吊り下げて敵艦へ投下する」という運用は、当然ながら本来想定されていた使用法ではない。
FQ-21A/J
・アメリカで開発された第二世代型無人戦闘機。FQ-21Jは日本国自衛隊で運用される型。前型であるFQ-13と比較し、制空戦闘能力が大幅に強化されている。
・第七世代戦闘機との連携を前提として開発されており、F-57を筆頭とする第七世代戦闘機の特徴である、高い格闘戦能力を機体設計へ積極的に取り入れている。有人機では不可能な機動も、無人機であることを活かして実行可能。
・外見のイメージは『ACE COMBAT 7』のADFX-10。前型FQ-13はMQ-99がイメージ元。
・固定武装として機首に20mmパルスレーザー機関砲を1門装備。レーザーには不可視波長だけでなく一部可視光も含まれているため、射撃時には青白い光条として視認できる。
・機体下部には2基の格納式ミサイル発射装置を搭載。亜空間収納によって20回の再装填が可能で、初期装填分を含めて最大42発のミサイルを発射できる。
・今回は小型爆弾を装備。
・F-57と同様、シールドを利用した半アクティブステルス機能を装備する。
・日本側では簡易飛行場に併設された大型コンテナから直接射出する運用も行われており、有人戦闘機と比べて極めて短時間で発進可能。今回の戦闘では24機が出撃し、ロウリア王国のワイバーン部隊350騎を迎撃した。