愚者は妖精と踊る 作:千年香
この場を借りてご報告とさせていただきます
伯爵を名乗る怪人が主導権を握る長テーブル。
席に着くのは、テーブルのそれぞれの短い辺に向かい合って座るユーゴと伯爵。
その他五名が、それぞれに長い辺に向かい合う様に置かれた十二の椅子に腰かけていた。
「さてさて、ユーゴ君」
「は、はい!」
「そう緊張せずとも良いのデスよ?ま、おいおい慣れていけば良いのデスがね」
ほほほっ、とまるで好々爺のような笑い声を零す伯爵。
組んだ指を躍らせて、咳ばらいを一つ。
「コホンッ、まずは吾輩たちがいったい何者なのかについてデス」
「あ……はい」
「単刀直入に申し上げマスと、吾輩たちは言うなればキミに宿った力の具現化といった所でショウかネ」
「力の具現化、ですか?」
「Yes。吾輩は、第一相“
「俺は、第三相“
「……第八相“
「ボクは、第九相“
「「僕らは、第十相“
「第十二相“
上から、伯爵、伊達男、巨漢、少女、二重声、異形の順。
彼らの自己紹介の中で、ユーゴが目を剥いたのは最後の相手だったりする。
「貴方が、
「
「そうそう。ボクらはキミの力なんだしさ」
「力………」
真面に扱った力は一つだけだが、その強力さを彼は文字通り身をもって知っている。現に、
「僕に、扱えますかね?」
「っふっふっふ、その視点は少し違いますね」
「え……」
「力を扱う事は出来るでしょう。ですがそれを使いこなすかどうかは、キミ次第という事デス」
「僕次第……」
いまいちピンと来ていないのか、ユーゴが首を傾げる。
そんな彼に助け舟を出すのは、
「そう難しく考えることはねぇさ、少年。要は、使い方を知っていたとしても、実際に扱うとは別物ってこった」
ゲームはするか?と問われユーゴは頷く。
「トランプのポーカー、知ってるか?」
「えっと、名前ぐらいは……詳しくは知りません」
「そうさな。配られた五枚の手札の中で、役を作って競い合うってゲームなんだがルールや役をちゃんと把握していざ卓に着いたとしても、まず勝てない。何でか分かるか?」
「え……技術不足、とかですかね?」
「それもあるが、重要なのは経験と才覚だ」
「経験と才覚……」
「どれだけ役を知っていてもルールを網羅していても、対人の経験が薄けりゃ負ける」
「…………ソレが、知っている事と使いこなす事の違い、ですか?」
「まあ、そんな感じ」
「えぇ~~~、
「「ぎゃはははは!頭わりぃのが頭良さそうに話すからそーなんだよ!」」
「うっせーぞ!だったらお前らはどうだってんだ」
「えー……?チラシの飴と、実際に食べる飴の違いとか?」
「「アレだアレ、銃と一緒だ。知識はあっても、実際に使うとは違うだろ?」」
「お前らもフワフワじゃねぇか!」
ギャンッ、と咆える
騒がしいが、どこか気安い。
ソレはまるで家族の様で、
「……………………良いな」
小さく呟かれたその言葉。
それは、喧騒に一瞬で飲み込まれそうなものだが、ピタリと音が止む。
代わりに視線がユーゴへと殺到していた。
「あ、えっと……その…………」
騒いでいた者たちがジッといきなり自分の事を見てくれば、誰だって焦る。
両手を彷徨わせながら目を白黒させる少年に、彼らは黙って席を立ちあがった。
そして、
「「おーおーおー!カワイイ末っ子じゃねぇか!」」
「わっ!」
更に、
「んじゃ、ボクは前をいっただき~」
「え、ちょ」
スルリと猫のように
「他の奴らよりはよっぽど可愛げがあるな」
最早人間相手というよりも猫などの愛玩動物を可愛がるような構いっぷりだ。因みに、
一頻りのスキンシップを受けて、ユーゴの髪がボサボサになった頃くぐもった拍手が響いた。
「はいはい、その辺りでいったん中止デスよ。お話は終わっていないんデスから」
伯爵の言葉に、ユーゴを可愛がる面々は僅かな名残惜しさを手に残しながら各々が座っていた席へと戻っていった。
残されたユーゴはというと、未だに目を白黒させて髪もボサボサだがそれでも嫌な思いはしていなかったらしい。
少年が落ち着いたことを確認して、伯爵は再び口を開く。
「さてさて、優吾君。キミにはもう一つ言っておくことがアリマス」
「はい」
「先程、吾輩たちは力の具現化のようなものだと言いましたガ、キミに宿った力は吾輩たちだけではありません。お気づきでショウけど」
「…………まあ、それは」
伯爵の言葉に、ユーゴは頷いた。
彼らの自己紹介の前に、態々番号を言っていたのだ。余程鈍くなければ、他にも居るのだろうと当たりを付ける事が出来るというもの。
「この場に居ないのは、その力が未だに目覚めていないからなのデス。しかしそれは、キミを認めていないという訳ではありまセン」
「……つまり、何かしらの条件がある、という事ですか」
「その通りデス。とはいえ、難しい事はありまセン。ただ、キミは魔力を扱えばイイ。そうすれば、何れは時が解決する事でショウ」
それがいつになるのか、伯爵は明言しない。
そもそも、本来ならばユーゴが彼らと接触するのはもっと後になる筈だったのだ。少なくとも、伯爵の想定としては最低でも2~3年ほどのモラトリアムを設ける筈だった。
だが、少年自身の気質と才覚もあって一年かからずに覚醒へと至る。コレは伯爵としても少々予想外というもの。
そんな怪人の内心など知る由もないユーゴは、不意に頭が揺れた。
「あ……れ…………」
突然訪れる猛烈な睡魔。
瞼が鉛のように重くなり、思考が急ブレーキを踏んだかのように速度を落として霧の中に突っ込んだように靄がかかった曖昧な状態へと陥っていく。
意味が分からず、無理矢理にでも目覚めようとするユーゴだがその目元を何かが覆った。
「末っ子はゆっくり眠るべき、ってね」
小さな灰色の手に目元を覆われた少年は、ピタリと動きを止めるとそのまま椅子の背もたれに体を預けて弛緩する。
直後、その体はまるで空気中に解けるようにして消えてしまう。
精神世界は、夢の世界。目覚めたのならば、その体はここには居られない。
「…………良かったのか?千年公。少年にもう一つの話しなくて」
「フフフ……まだまだ、彼は目覚めたばかりデスからね。発現する確証が無いものを教えても混乱させるだけでしょう?」
「まあ、それもそうか」
一つ、明かすとするなら元々この空間にあった席は
それがいつしか椅子が増え、机が出現し一同が会する場所となる。
「キミは担い手として終わるのカ。それとも、
道化は笑い、上を見る。
少年の道のりは、未だ始まったばかりだ。