愚者は妖精と踊る 作:千年香
ミラジェーン命名の最強チーム。
そのメンバーは、ユーゴの知る者たちばかりだった。
内の一人、グレイ・フルバスターが気付く。
「ん?よお!目ぇ覚めたんだな。ぶっ倒れちまって全く起きねぇって話だから心配してたんだぜ?」
「あ、えっと……ご心配をおかけしました?」
「おうよ。あ、オレはグレイ。グレイ・フルバスターな。あの時は自己紹介とかしてる暇なかったしよ」
「あ、ユ、ユーゴ・カガリです。よろしくお願いします」
「おう、よろしく。つっても、ユーゴはうちに入るのか?」
「ええっと、今はその件で色々と――――」
「妖精の尻尾に所属するというなら、私は歓迎するぞ」
「ッ!」
横合いからのキリッとした声に、ユーゴの肩が跳ねる。
慌てて声の主を見れば、そちらに居たのは緋色髪の美人。
鎧姿で腕を組む彼女は、口元に笑みを浮かべており実に絵になる。
「エルザ・スカーレットだ。ユーゴと呼んでも構わないか?」
「あ、はい。勿論、構いませんけど……」
「ふふっ、そこまで固くなることはないぞ。轡を並べていた時のように、堂々としていればいい」
「……あの時は、アドレナリンタップリでしたから」
戦場における特有のハイな状態。寧ろ、今の腰の低い状態のユーゴの方が割と素に近いものだったりする。
苦笑いする少年。そんな彼の両肩に勢いよく手が置かれた。
エルザに話しかけられた時とはまた別に驚いたユーゴが顔を上げれば、金糸が揺れた。
「ル、ルーシィ・ハートフィリアさん…………」
「無事で、本当に……良かった……!」
気まずく感じるユーゴの一方で、ルーシィの言葉には溢れんばかりの感情が乗っていた。
この二週間、慌ただしいながらも心の片隅には常に眠り続ける少年の事があった為だ。
その少年が、今目の前に居る。ただそれだけで、彼女は感無量だった。
エルザ、グレイ、ルーシィの三人は、戦線を共にし言葉を交わした事もあってユーゴの事を少なからず知っていた。
一方で、桜頭の彼、ナツ・ドラグニルは首を傾げる。
「なあ、ハッピー。アイツ知ってるか?」
「あいっ。あいつ、ファントムの魔導士だった人だよ」
「なにぃっ!?敵じゃねぇか!」
「あいっ。そんでルーシィを攫ったんだけど、それはあの抗争を止める為だったんだって。ナツが戦う前にガジルがボロボロだったけど、それまで戦ってたのあいつなんだよ?」
「んん?ファントムの魔導士だよな?んで、ルーシィ攫って……でも守って、ガジルと戦って……?」
訳が分からん、とナツは腕を組んで首を傾げる。
補足をするなら、ユーゴにとって幽鬼の支配者と妖精の尻尾間で起きた抗争というのは単純な敵味方の戦いではなかった。
自身のエゴである、ジョゼを止める、という目的の下で動いていた結果あの戦いで明確な敵味方の線引きが出来なかったのだ。
故に、ナツのように明確に
ナツが首を傾げる一方で、勧誘組は最後の押し込みを掛けようとしていた。
「ほら、皆気にしてないでしょ?」
「え、あ、その………一応、僕は元敵で……」
「つってもよ、お前が本格的に戦った相手なんてエルフマン位だろ」
「そのエルフマンにしても、貴方あの時の剣を使ってなかったんでしょ?」
「そ、それは乱戦でしたから……剣を振り回すスペースが無くて仕方なく…………」
「でも、ファントムの人達ってそこ気にする様な印象なかったわよ?あのガジルだって、仲間が巻き込まれるのも気にせずアンタと戦ってたじゃない」
「…………」
押されに押されて、ユーゴは口を噤むしかない。
困った様に眉を下げて視線を彷徨わせれば、いつの間にやら樽ジョッキを呷っているマカロフと目が合った。
「プハーッ!……フム、時にユーゴよ」
「!は、はい!」
「お前さんがこうも渋るのは、負い目故にか?」
「っ……そう、ですね」
「では、こうするとしよう。お前さんはギルドに入り、そしてその身を尽くす。ワシらは恩人への何かしらの恩返しが可能で、仲間も増える。どうかね?」
「えぇ………」
問うような物言いだが、実質ギルドマスターからの勧誘。
元々ユーゴが渋っていたのは、自身が元々敵対ギルド所属の人間であったから。どうしても、後ろめたさというものがある。
しかし、その一方でこれ以上の固辞はかえって要らぬ不協和音を生む事も理解していた。
「むむむ………はぁ……」
眉根を寄せて少しして、息を吐き出すと同時にユーゴは肩を落とした。
そして徐に、マカロフへと深々と頭を下げる。
「これから、お世話になります。よろしくお願いします」
「おう、よろしくの」
ピッと手を上げるマカロフに、ユーゴは苦笑いを浮かべる。
了承してみれば、何とあっさりしたものか。
そして、
*
「おっしゃーーーッ!!燃えてきたぞッ!!」
「お手柔らかにお願いしますよ、ナツさん」
気炎を上げるナツに対して、苦笑いを浮かべるユーゴ。
二人が立つのは、マグノリアの街に面した巨大な湖の湖畔。彼らを見守るのは、妖精の尻尾に所属する魔導士たちの一部だったりする。
事の発端は、ユーゴが本格的に妖精の尻尾へと所属する事になり、左前腕に紋章を刻んだ時にある。
蚊帳の外であったナツが、勝負を持ちかけたのだ。
周りは渋ったが、何とユーゴは快諾。
周辺被害を顧みて、燃え移ったとしても直ぐに消せるようこの場所での手合わせと相成った。
二人の丁度中間地点に立つのは、エルザ・スカーレット。
「では、僭越ながら私が合図をするとしよう。双方、手合わせである事を忘れるなよ?」
「おう!」
「ええ、勿論です」
エルザの言葉に、ナツは両拳に炎を灯し、ユーゴは左手で右手首を掴んだ。
左右を確認し、エルザは右手を挙げる。
「――――始めッ!」
「しゃあッ!」
合図と共に、猛然と駆け出すのはナツ。対するユーゴは、右腕を引き抜くようにして
「火竜の鉄拳ッ!!」
燃え盛る火炎を纏った拳が、踏み込みと共に放たれる。
火の滅竜魔導士であるナツ・ドラグニルの得意技であり、その破壊力は巨岩だろうと容易く粉砕してみせる。
激突、そして衝撃。その威力を物語る様に砂が大きく巻き上げられ、腹の音に響く金属音が辺り一帯に轟いた。
「ッ、強烈……!」
吹き荒れた砂埃の中で、ユーゴは目を細める。
左手一本。大剣の切っ先を斜めに地面に据える様にしながら盾として、その幅広い剣の腹によって火炎を纏った鉄拳を見事に受け止めてみせた。
僅かに押されて、地面には線が引かれたが吹き飛ばされる事はなく、大剣そのものも歪む事はおろか表面が焦げ付く事も無い。
「――――フッ!」
短い呼気と共に、踏ん張る為に僅かに下げられていた右足が振り上げられて大剣の腹を思いきり蹴り上げた。
甲高い金属音と共に大剣が跳ね上がり、拳を叩きつけていたナツの体が同じく空へと跳ね上げられる。
「………?」
振り上げた大剣を肩に担ぐように戻し、ユーゴは首を傾げていた。
(魔力の巡りが、スムーズ……?)
体を巡る魔力の流れ。
まだまだペーペーのユーゴにとって、この魔力の流れというものはまだまだ違和感を覚えるものだった。
戦闘が激しくなれば、そんな違和感に対して意識を割く事も出来なくなり気にならなくなるのだが、今は手合わせ。全力全開の必死の戦闘ではない。
にも拘らず、ユーゴは自身の身体能力を増強するために巡らせる魔力が前よりもよく体に馴染み、違和感が小さい事に気が付いた。
とはいえ、今はこの疑問を晴らす暇はない。
「火竜の鉤爪ッ!」
「ッ、ハァッ!」
業火を纏う浴びせ蹴りが上段から見舞われ、対するは左斜め上から右下へと向けて振るわれる大剣。
切れ味が無い訳ではない大剣の一撃だが、火竜の炎はその炎自体が全てを焼き壊す物理的な破壊力というものを持っている。
僅かな拮抗と共にぶつかり合った魔力が弾けて、二人の体は互いに後方へと飛んでいた。
着地、と同時に今度は両者揃って前へと飛び出す。
ステゴロであるナツと、隻腕とはいえ身の丈程もある大剣を振り回すユーゴとでは互いの得意な距離に差が出る。
だが、二人の戦闘は最早距離感など在って無い様なものだった。
ナツがラッシュを仕掛ければ、ユーゴが大剣を盾にしてこれを受け切り。ラッシュの隙間を狙った蹴りが、ナツへと襲い掛かる。
距離が僅かに開けば、ナツの炎のブレスが吐き出され、コレをユーゴは大剣に魔力を込めて振るう事で放つ飛ぶ斬撃によって相殺。
「フム、成程のう。ええ動きじゃ。ジョゼを相手に持ちこたえたという話じゃったが、魔力の流れも澄んでおるしの」
ぶつかり合う二人を観戦しながら、マカロフは頷く。
彼がユーゴの戦いの中で見たのは、ジョゼの奥義をどうにかこうにか凌いでいる所だった。
その結界にしてもかなりのモノだったが、それがそのまま魔導士としての力量の全てを見定められるというものではない。
一方で、ユーゴと轡を共にした事のあるグレイは首をかしげていた。
「あの魔力に形を与えてる魔法は使わねぇのか?」
「威力があり過ぎるんじゃない?ほら、コレって一応手合わせな訳だし」
「…………それもそうか」
魔力のチェーンソーであったりドリル弾頭であったり。ジョゼ戦を見た者達ならば、今のユーゴが本気の全力を出している訳ではない事に気付くだろう。
しかし、ミラジェーンが補足するようにコレはあくまでも手合わせ。徐々に徐々にヒートアップし始めているが、手合わせなのだ。
「右手と左手の炎を合わせて――――」
「ふぅぅぅぅ……」
「火竜の煌炎ッ!!」
「ハァアアアアアアッッッ!!」
業火の一撃と巨大な斬撃がぶつかり合う。
その衝撃と爆発は容易に湖畔を吹っ飛ばし、湖を波立たせ、空にまで弾ける勢いとなったが、手合わせなのだ。
「やり過ぎだ!馬鹿者共ッ!」
二人の脳天に金属の拳骨が叩き落された。