愚者は妖精と踊る 作:千年香
妖精の尻尾に所属する魔導士、ロキ。
その正体は、黄道十二門の一つ獅子宮のレオだった。
星霊。人ならざる存在。しかし、そんな事実を暴露されようとも妖精の尻尾に所属する魔導士たちからすれば大した問題ではなかった。
「しっかし、星霊ねぇ……全然気づかなかったぜ」
「ははっ、まあこっちも気を付けていたのもあるしね」
顎を撫でて感嘆の声を上げるグレイに、
親しい友人関係に大きな秘密を抱え続けた事は、やはり後ろめたさがあるらしい。
とはいえ、先の通り妖精の尻尾に所属する魔導士たちはその事を咎めるような事はなかった。
突拍子もない事であったし、そもそも同じギルドの仲間として受け入れた以上隠し事の一つや二つは些末事なのだろう。
少し離れたカウンターにて、事の成り行きを見守っていたユーゴは上手く収まったのを確認して一つ頷いた。
「上手く治まりましたね」
「そうね。ロキの事もそうだけど、ルーシィのお手柄だわ」
カウンターの内側でグラスを磨くミラジェーンは、常の笑みを柔らかく口元に浮かべて一行を見やった。
ロキと新たな主となったルーシィの関係は、傍から見ても良好といえるものだ。
仲間の新たなる門出。それを彼女は嬉しく思っていた。
周囲が嬉しいのなら、自分もうれしい。笑みを浮かべてジュースを飲み干したユーゴは席を立ちあがる。
「それじゃあ、ミラさん。僕は次の依頼でも探しに行こうかと思います」
「あら、もう少しゆっくりしても良いんじゃない?指名依頼も着てないみたいだし」
「アレは、偶々ですよ。妙に気に入られたといいますか……」
「偶々だったとしても、それはユーゴが認められたって事でしょ?それに、この前の依頼も荷物は全部無事で期限通りに目的地に到着。人員の欠けも無かったって褒められてたのよ?」
「あはは……」
面と向かって笑みを向けられて、ユーゴは頬を掻いた。
照れる少年だが、ミラジェーンとしては割と本気で褒めたたえるつもりだったりする。
妖精の尻尾は、腕利きの魔導士が多いが同時にトラブルメーカーも多い。
その被害の一つが、勢い余っての周辺被害。先のユーゴが受けた護衛依頼ならば、隊商の荷物ごと襲い掛かってきた魔物などを蹴散らしかねなかったりする。
その点、ユーゴは周りへの被害を顧みた上で仕事を熟す理性があった。
マカロフは泣いた。これまで、妖精の尻尾には居なかったタイプの魔導士が参入してくれた事を。ついでに、その勢いのままギルドマスターの地位をぶん投げそうになった。
流石に、ギルド内でも下から数えた方が早い年齢な上に、加入したばかりの子供にギルドマスターの地位はあげられないと最後の理性が待ったをかけてこの話は流れたが、その時の事を思い出すミラジェーンの笑みは若干苦いものが混じってしまう。
「少し良いかい?」
声を掛けてきたのは、件の人物であるロキ。
振り返ったユーゴは首を傾げた。
「ロキさん?……あ、レオさんと呼ぶべきですか?」
「ロキで構わないよ。ボクは妖精の尻尾に所属する魔導士としての矜持も持ち合わせているつもりだからね」
「分かりました。では、ロキさんと呼ばせてもらいますね」
「うん、よろしく。それで、キミに声を掛けた理由なんだけどコレなんだ」
そう言って、ロキは上着のポケットを漁ると取り出したのは一枚のチケット。
「それは……」
「リゾートホテルのチケットだよ。さっきルーシィ達にも渡しておいたから、キミも一緒に行ってくるといい」
「え……」
手渡されたチケットへと視線を落として、ユーゴの目が点になる。
彼とロキの繋がりは、ほぼほぼ無い。精々が、ギルド入団時の顔合わせの際に言葉を交わした位か。
少年の困惑を感じ取ったのか、ロキは笑みを浮かべた。
「ボクはさ、ユーゴ。感謝してるんだ」
「えっと………?」
「ファントムとの抗争で、ボクは肝心な時に動けなかった。そんな時に、キミは身を挺してルーシィを守ってくれたんだろう?何より、抗争を止めるために動いてくれた。その感謝のしるしと思ってくれて良いよ」
「…………」
「それじゃあ、楽しんでくれ」
グッとサムズアップを見せてから、ロキはルーシィ達の下へと戻っていった。
その背を見送って、ユーゴは再びチケットへと視線を落とす。
「行ってきたらいいじゃない」
「ッ!」
後ろから少年の手元を肩口に覗き込むようにして現れたミラジェーン。
ユーゴが肩を跳ねさせるが、彼女はいつもの微笑のままに口を開く。
「ロキもそうだけど、貴方に感謝してる人は多いって事よ」
「…………」
改めてミラジェーンに言われて、ユーゴは考え込む。
感謝を素直に受け取れない。それは、彼自身の心情に問題があったから。
しかし、固辞を続ければ相手も嫌な思いをするという事も理解している。加えて、何度も感謝を告げられていれば自然とその心持も変わって来るというもの。
「……僕、リゾートなんて初めてです」
ポツリと呟かれたその言葉には、確かな喜色が滲んでいた。
*
白い砂浜、青い海。多くの人々が広々と羽を伸ばす中で、妖精の尻尾一行もまたその中に居た。
「ほぁ~…………」
気の抜けた声と共に水平線を眺めるユーゴ。右腕の関係上、袖のある上着を羽織っているが確りと水着装備である。
因みに、これら一式は水着を持っていない彼の為に一行が選んだものだったりする。
「よっしゃー!あそこの島まで競争だー!」
「だー!」
大口を上げて飛び跳ねるナツに、そんな彼をマネするハッピー。
「ハッ!海の中じゃ炎には頼れねぇぞ?」
「あ゛?オメーなんか、炎使わなくても余裕だっての!そっちこそ、海凍らせてズルすんじゃねぇぞ」
「あ゛ぁ゛?」
「お゛?」
突然にメンチ切りあう二人。とはいえ、割とこの二人の間ではいつも通りではある。
現に、慣れたものとしてルーシィは肩を竦めてため息を一つ。
「もぉー、こんな所に来てまで喧嘩って本当に飽きないよね」
「フッ、そう言うなルーシィ。二人は互いを認めるライバルだからこそ、ああして気が合うんだ」
「だからって………もー、ユーゴからも何か言ってあげて!……ユーゴ?」
微笑ましい、と止める気配のないエルザに呆れながらルーシィはもう一人の仲間へと水を向けた。
だが、反応が返ってこない。怪訝な表情で顔を向ければ、件の少年はジッと海を見つめていた。
「どうしたの?ユーゴ?」
「…………あ、えっと……何か言いました?」
「大した用事じゃないけど……ユーゴこそ大丈夫?ボーっとしてるみたいだけど……」
「あ、ああ……大丈夫です。体調も万全ですよ」
頷いて、苦笑いを浮かべるユーゴ。ただ、その目は青い海へと向けられていた。
「ただ……こうして海に来たのが初めてなので………」
「!そうだったんだ。どう?初めての海は」
「おっきいです……それに、綺麗だ」
目を細めるユーゴは、感慨深そうにそう呟いた。
初めての海。それは、この世界にやって来てから初めて、という訳ではなく生れてから初めてという意味。
海無し県の出身ではない彼が、それでもこうして海を見た事が無かったのは相応の理由があったりする。
少年が感動している一方で、騒がしい二人は押しては返す波を踏み分けて海へと突き進んでいた。
他のメンバーも思い思いに羽を伸ばし、楽しいバカンスは始まった。
――――筈だった。