愚者は妖精と踊る   作:千年香

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 魔法。事故的に魔力を得る事になったユーゴ・カガリ(佳賀里優吾)にとって、それは文字通りの未知の現象だった。

 

「まだまだ慣れないな………」

 

 困った様に眉根を寄せて、ユーゴは呟いた。

 

 この世界にやって来て、()()が経過しようとしている今日この頃。

 彼は、幽鬼の支配者に所属する一人の魔導士としての生活に日夜奔走していた。

 

 幸いだったのは、ユーゴの得た魔法が彼自身と文字通り癒着した結果自然と使い方を理解できた点。

 問題は、先の呟きの通り使い勝手。

 

「持ち運びが楽なのは利点……うん、そういう事にしておこう」

 

 チラリと彼が見るのは左手。より正確には、左手に握った代物。

 剣。それも、170を超えている彼の身長と同程度の大きさの大剣だ。

 剣身は幅が広く、突き立ててその後ろに身を沈めれば盾代わりにもなる。その剣身は、腹が黒く縁取る刃は白。更に、剣の腹には黒に映える白い十字架が描かれており何処か宗教めいた気配があった。

 

 そんな大剣を持つ一方で、今のユーゴの右腕は()()()()()()()()()

 服の袖が風に揺れ、中身は空っぽ。

 落とした訳でも失った訳でもない。

 

 彼の右腕こそ、今左手に柄を握って肩に担ぎ上げる大剣なのだから。

 

 コレこそが、ユーゴの得た魔法。因みに、見た目は重々しいが持ち主である彼は左手一本で木の棒でも振り回すように扱えた。

 ただ、やはり隻腕になるハンデは大きい。

 彼はセンスがあったお陰で何とかなっているが、それでも時々右側からの不意打ちなどに対して右腕で対応しようとしてしまう事があった。

 

 依頼にあった魔物の群れ。その最後の一体を切り伏せて、ユーゴは大きく息を吐き出すと振り返った。

 

「ふぅーーー……依頼は完了、ですかね」

「ええ、ええ。ありがとうございます!流石は、ファントムの魔導士ですな!」

 

 手すりゴマすり。両手を揉みながらニンマリとした笑みを浮かべた男は、おもねる様に腰が低い。

 しかし、そんな男の様子にユーゴは苦笑いを浮かべた。

 

「そう腰を低くする必要はありませんよ。僕はまだまだ幽鬼の支配者でも新参者ですから」

「ですが……」

「何より、貴方が潔白な商売をなさっている事は知ってます。貴方が不利になる様な事を吹聴するような事はしませんから」

「…………そう、ですか」

 

 ユーゴの言葉を受けて、男はへりくだった態度から肩の力を抜くと上体を起こした。

 そして、苦笑いを浮かべる。

 

「申し訳ありません。何分、その……幽鬼の支配者の魔導士は良い噂を聞かず」

「それは……そうですね。僕も実感してます」

 

 困った様に眉根を寄せる男に、ユーゴは似たような曖昧な笑みを浮かべた。

 王国最強の魔導士ギルド。マスターであるジョゼ・ポーラが事あるごとに強調するその言葉に、ユーゴとしても誇る事を悪い事とは思わない。

 問題は、その件のギルドの内情だった。

 先の依頼人の男の態度のように、幽鬼の支配者に所属する魔導士の大半はチンピラ擬き。少なくとも、ユーゴの目から見れば反社的な組織に思えていた。

 それでも籍を置いているのは、やはりその発端に置いて彼自身の後ろめたさがあるから。

 

 仕事を終えて、次も頼みたいとリピーターを得たユーゴは帰路に就く。

 彼の生まれ故郷とは違う石造りの道。道行く人々も多種多様。

 

「…………」

 

 ふと、町のショーウィンドウのガラスに映った、自分の格好を見た。

 ベージュのフロックコートに、その下には黒のベストと白いシャツ。黒いパンツに、黒の編み上げブーツ。

 この世界にやって来た時には高校の制服姿であったが、その制服も数度の依頼を経てボロボロになってしまい廃棄。今は、この格好に落ち着いていた。

 歩きながら、持ち上げるのは右手。

 少し大きめの白手袋をはめた右手は、コートとシャツの袖先と手袋の入り口の隙間が覗いており人の色ではない肌が覗いていた。

 半年前までならば、考えられなかった生活だ。

 腕が剣になり、魔力を宿し、魔法を行使する。そして魔導士の仕事は、血腥いものもある。

 そんな世界に足を踏み入れて、ユーゴは何処か浮足立ったような感覚をこの半年ほど抱え続けていた。

 

 不意に、ユーゴの鼻の頭を水滴が弾いた。同時に、足元の石畳にも複数の黒い染みが出来上がった――――かと思えば瞬く間にその数を増やして多数派へ。

 

「――――しんしんと……帰還かしら、ユーゴ」

「こんにちは、ジュビアさん。ええ、仕事終わりですよ」

 

 突然に降り出した天気雨の中で、ユーゴの背後から声を掛けてきたのは青い服を着た青髪の女性だった。

 彼女、ジュビア・ロクサーも幽鬼の支配者に所属する魔導士の一人だ。それも、幹部陣であるエレメント4に籍を置く実力者。

 ただし、強烈な雨女であった。

 具体的には、今。晴れていた筈の通りには天気雨が降り注いでおり、道行く人々は突然の雨に驚いて軒先に避難したりしている。

 ユーゴは濡れるに任せていた。特にこの後の用事もない為に。

 

「ジュビアさんもですか?」

「いいえ。マスターからの招集よ。近々、大きな仕事がある……という話よ」

「大きな仕事?」

 

 連れだって歩き出した二人。その中の話題で、ユーゴは首を傾げた。

 魔導士としての仕事を始めるにあたって、最初の一ヶ月は研修期間として先達に教えを請いつつギルドの書庫に籠ったり魔法道具を売る店を回ったりなど知識の蓄積に費やした。

 この間にエレメント4のメンバーにも顔合わせをしており、ジュビアともその際に出会っていた。

 

 その実力故に、幹部陣は基本的に単独行動が多い中での招集。ユーゴが首を傾げたのは、そんな疑問からだった。

 

「ジュビアさん達が招集されるという事は、よほどの内容という事ですかね?もしや10年クエストやその上の100年クエストの攻略を?」

「ジュビアは何も聞いていないわ。けれど、マスターの意向に従うのみね」

「…………」

「不満?」

「……そう、ですね」

 

 チラリと横目に、ジュビアは隣を歩く濡れ鼠の少年を見やる。

 魔法に触れて半年という新参者ではあるものの、その潜在能力は認めていた。

 隻腕になるというデメリットはあるが、それでも魔法に触れて半年の新人の実力ではない。

 幽鬼の支配者幹部への昇進が考慮されていると言えば、そのポテンシャルは伝わるだろう。

 しかし、同時にジュビアは思う。

 傍らの少年は、善良である、と。そしてその善良さは、幽鬼の支配者にはそぐわない、とも。

 故に、彼はあくまでも幹部()()止まりであった。

 

 そして、争乱は訪れる。

 転機は、とある財閥当主からの依頼。概要は、家で娘を連れ戻してほしいというもの。

 内容としては、そう珍しいものではなかった。

 だが、幽鬼の支配者が有する情報網の結果、憎悪が駆け始めるのだ。

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