仮初め傭兵と雪風の騎士   作:九津木

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第四話 武器屋での邂逅

 店の中は薄暗く、ランプの小さな光だけが店内を照らしていた。剣や槍が乱雑に並び、中には甲冑もあった。

 店内を見渡すと二人の姿を見つける。才人は並んでいる武器たちに目を輝かせ、ルイズは店主と話し込んでいた。

 

「貴族の間で、下僕に剣を持たすのが流行ってる?」

「なんでも、最近このトリステインの城下町を盗賊が荒らしてまして……」

 

 店に入った一真は、自然と会話に耳を傾けた。

 

「盗賊?」

「なんでも『土くれ』のフーケとかいうメイジの盗賊が、貴族のお宝を散々盗みまくってるって噂で」

 

 『土くれ』のフーケ。その名前を聞き、一真は僅かに眉を動かした。この世界の物語を知る彼にとって、その名は決して無視できるものではない。

 立ち尽くす一真を、店内の武器を見渡していた才人が発見する。

 

「え!? 一真さん!?」

「二人とも、どうしてここに?」

「そういう一真さんこそ……」

 

 思わぬ場所での出会いに、才人も驚いているようだった。

 

「俺は……ちょっと街を案内してもらっててな。気になる武器屋があったから入ってみたんだが……」

 

 キュルケに頼まれて偵察に来たなどとは言えず、一真は適当な理由を口にする。

 

「剣を買うのか?」

「はい。ちょっと色々あって……」

 

 昨夜の騒動を思い出したのか、才人は苦笑いを浮かべた。

 

「……まあ、自衛はいい事だ」

「ねえ、あんた」

 

 才人と談笑していると、一真の存在に気づいたルイズが会話に割り込んできた。

 

「傭兵っていうなら剣に詳しいわよね? 選んでくれない?」

「そういうのは、自分で選んで使いこなすのが一番だ。相性ってものがあるからな」

「いいのよ。適当に選んでくれれば」

「君は歪な形をした杖を薦められたら使うのか?」

「……それは嫌ね」

 

 即答だった。

 怪訝な顔を浮かべたルイズを横目に、一真は店主が差し出している剣……レイピアへと目を向ける。

 

「とりあえず、その剣は才人くんには合わないかもな」

 

 もちろん、一真に専門的な剣の知識などない。だが、少なくとも才人の戦い方には向いていない気がした。

 一真の言葉を聞いて、ルイズは改めてレイピアを眺めた。すぐ折れてしまいそうなほど細く、先日の決闘で大剣を振り回していた才人には確かに似合わないように思える。

 

「もっと大きくて太いのがいいわ」

「お言葉ですが、そこの若奥さまの使い魔とやらには、この程度が無難なようで」

「大きくて太いのがいいと、言ったのよ」

 

 有無を言わせない口調だった。

 店主はぺこりと頭を下げると、店の奥へと消えていく。

 

「……傭兵風情が余計なことを」

 

 店主は聞こえない程度の声でそう呟いた。しばらくすると、立派な剣を油布で拭きながら戻ってきた

 

「これなんかいかがです?」

 

 それは一・五メートルはある大剣だった。柄は長く両手持ち用。ところどころに宝石が散りばめられ、鏡のように両刃の刀身が光っている。

 見るからに切れそうな頑丈な大剣だろう。

 一真以外から見れば……

 

「店一番の業物でさ。貴族のお供をさせるなら、このぐらいは腰から下げて……やっこさんなら背中に背負わないといかんですが」

 

 店主の説明に興味を持った才人も近寄り、その剣を見つめた。

 

「すげえ……この剣、すげえ」

 

 一瞬で欲しくなっていた。なんとも、見事な剣だろう……才人からすれば。

 その剣の未来を知っている一真にとっては、それを素晴らしいとは思えなかった。

 

(ここで変に口を挟んでも仕方がないか……)

 

 また剣のアドバイスを求められても困る一真は、その場を離れるようにして店内の武器を見て回る。

 

「おいくら?」

「エキュー金貨で二千。新金貨なら三千」

「立派な家と、森付きの庭が買えるじゃないの」

 

 思わずルイズが声を上げる。

 

(二千エキューっていうので豪邸が買える。そうなると、今後過ごしていくためのお金は……いや、まずは文字の読み書きからか)

 

 ルイズと店主のやり取り聞いた一真は、内心で現実的な問題に頭を悩ませた。

 

「新金貨で百しかないわ」

「まともな大剣なら相場は二百でさ」

 

 剣がそんなに高いとは思っていなかったのだろう。ルイズは顔を赤くした。

 店主は話にならない、というように手を振る。

 

「なんだよ。これ、買えないの?」

「そうよ。別のにしましょう」

「貴族だなんだって威張ってるくせに……」

「誰かさんの大怪我のせいで、秘薬の代金がいくらかかったと思ってるの?」

「ごめん」

 

 才人は素直に頭を下げた。垣間見えたルイズの優しさに、一真は小さく口元を緩める。

 店主とのやり取りを伺いながら店内を回っていると、乱雑に積み上げられた剣たちが目に入り、その前で立ち止まった。

 どれも手入れが行き届いているとは言い難く、まるで売れ残りを放り込んだ山のようだった。

 

「これ、気に入ったんだけどな……」

 

 才人が名残惜しそうに剣を撫で回しながら呟いた時だった。

 

「生意気言うんじゃねえ、坊主」

 

 積み上げられた剣の中から声が聞こえた。低く、どこか不機嫌そうな男の声だった。

 ルイズと才人は声の方を向く。結果的に、その視線の先には剣の山を眺めていた一真がいた。

 

「俺じゃないぞ」

 

 一真は即座に否定する。

 まさか、という表情を浮かべる二人に先回りして言っておいた。

 その時、店主は頭を抱えていた。

 

「おめえ、自分を見たことがあるのか?その体で剣を振る? おでれーた! おめえにゃ棒っきれがお似合いさ!」

「なんだと?」

「わかったら、さっさと家に帰りな! 貴族の娘っ子もな!」

「失礼ね!」

 

 謎の声にバカにされ、腹が立つ二人。だが、声がするだけで人影はない。

 才人が声のする方へ近づく

 

「なんだよ。誰もいないじゃん」

「おめえの目は節穴か!」

 

 一真は積まれてある中から一本の剣を取り上げる。

 

「こいつだ」

 

 声の主は、その剣であった。錆の浮いたボロボロの剣から声は発されている。

 先ほどの大剣と長さは一緒だが、刀身は少し細い。ただ、表面の錆びつきようからお世辞にも良い剣とは言えない。

 だが、その存在感だけは妙に際立っていた。

 

「剣が喋ってる!」

 

 一真が取り上げた剣を見て才人がそういうと、店主が怒鳴る。

 

「デル公! お客様に失礼なことを言うんじゃねえ!」

「剣もまともに振れねえような小僧っ子がお客様? ふざけんじゃねえよ!」

「それって、インテリジェンスソード?」

「そうでさ、若奥さま。意志を持つ魔剣、インテリジェンスソードでさ。こいつはやたらと口が悪いわ、客に喧嘩売るわで……やいデル公! これ以上失礼があったら、貴族に頼んでてめえを溶かしちまうからな!」

「おもしれえ! やってみろ!」

 

 剣と店主の言い争いは、もはや日常茶飯事なのだろう。

 

「どうせ使ってもらうなら、こっちの兄ちゃんの方がいいぜ! 兄ちゃん、結構強えだろ! どうだ? 俺を買わねえか?」

「あいにく、今は持ち合わせがなくてな。武器を買う余裕はない」

「んだよ! どうせこの世にゃもう、飽き飽きしてたところさ! 溶かしてくれるんなら上等だ!」

「やってやらぁ!」

 

 再度始まる店主との口論。挑発され歩き出す店主を才人が遮った。

 

「もったいないよ。喋る剣なんて面白いじゃん」

 

 才人は、まじまじと剣を見つめる。

 

「お前、デル公っていうのか」

「デルフリンガーさまだ!」

「俺は平賀才人。よろしくな」

 

 才人が挨拶すると、剣は急に黙りだす。しばらくして、小さな声でしゃべり始めた。

 

「おでれーた。てめぇ……『使い手』か」

「『使い手』?」

「自分の実力も知らんのか。まあいいや。てめぇ、俺を買え」

「えっ?」

 

 まさかの勧誘にどうしようといった表情で一真を見る才人。

 

「錆びつきは気になるが……。決闘で使ってた剣に長さも近いし、向こうの剣よりは合うんじゃないか?」

 

 一真は改めてデルフリンガーを眺める。

 見た目はボロボロだが、その価値を知っている一真にとっては薦めない理由はなかった。

 

「じゃあ、買うよ」

 

 一真の薦めもあり、才人は決断した。

 

「ルイズ、これにする」

 

 ルイズは嫌そうな声をあげた。

 

「え〜。そんなのにするの? もっと綺麗で喋らないのにしなさいよ」

「いいじゃんかよ。喋る剣なんて面白い。それに、一真さんのお墨付きだ」

 

 ルイズはぶつくさ文句を言ったが、持ち合わせから他に買えそうな剣もない。諦めたように店主に尋ねる。

 

「あれ、おいくら?」

「あれなら、百で結構でさ。こっちにしてみりゃ、厄介払いみたいなもんでさ」

 

 店主は手をひらひらと振りながら言った。

 

「買い手が見つかったみたいだな」

 

 そう言って、一真は剣を店主の元へ持っていく。会計する際には必要だろうという配慮だ。

 その途中、デルフリンガーに話しかけられる。

 

「おめえ、普通の奴とは違うよな?」

「……どういう意味だ?」

「いんや、今はいいや」

 

 なんのことかと思いつつも、一真は剣を店主に渡す。

 そして、会計が終わると店主は剣を鞘に収めて才人に手渡す。

 

「どうしても煩いと思ったら、こうやって鞘に入れればおとなしくなりまさあ」

 

 才人は頷いて、デルフリンガーという名の剣を受け取った。

 

「じゃあ、帰るわよ」

「……はあ、また馬に乗るのか。あ、一真さん。色々ありがとうございました」

「ああ。気をつけてな」

 

 二人の背中を見送りながら、一真は小さく息を吐く。これで原作通り、デルフリンガーは才人の手に渡った。

 二人が店を出ると、店主の態度が変わる。

 

「チッ、稼げるチャンスだと思ったのによ……」

 

 先ほどまでの愛想の良い笑顔はどこにもなかった。露骨なまでに不機嫌な顔を浮かべている

 さっきまでの人当たりの良さは、どうやら商売用の仮面だったらしい。

 

「あんたは文無しなんだろ。冷やかしなら出てってくれ」

「ああ、そうさせてもらうよ」

 

 店を出ようと扉に手をかけたところで一真は足を止める。

 

「心配しなくても、その剣を欲しがる貴族が現れるさ」

 

 そう言い残し、一真は店を出た。その言葉に店主は、首を傾げるしかなかった。

 

(ご希望の金額で売れるかは知らないけど)

 

 店を出た一真はそんなことを思いながら、キュルケとタバサの元へ戻るのだった。

 

 

 

 

「どうだった!? 何を買ったの!? 剣みたいだったけど!」

 

 二人の元へ戻ると、開口一番にキュルケが詰め寄ってきた。

 顔が近い。一真は思わず半歩下がりながら肩を落とす。

 

「ああ、予想通り剣を買っていたよ。ただ、持ち合わせがないとかで変わった剣を買っていたけどな」

「なにそれ? 殿方の気を引くためのプレゼントに持ち合わせがないなんて。ねえ、その剣っておいくら?」

「たしか、新金貨で百……って言っていたか」

 

 金額を聞いた瞬間、キュルケは吹き出した。

 

「それお笑いね! じゃあ、あたしがもっと良い剣を買ってあげれば大丈夫ね! じゃあ、行ってくるわ!」

 

 そう言うなり、キュルケは武器屋へ向かって駆け出していく。

 一真はその背中を見送りながら小さく呟く。

 

「……あんな剣、買っても意味ないのにな」

「どうして?」

 

 一真の呟きに隣で本を読んでいたタバサが、珍しく顔を上げた。

 

「えっ?」

 

 思わぬところを聞かれ、一真は間の抜けた声を漏らす。

 

「どんな剣?」

 

 タバサは、短く問い返した。

 

「どんなって……宝石が散りばめられてる綺麗な大剣だよ」

「何故意味がないと?」

 

 淡々とした口調だった。

 答えとしては、この先あの剣がどうなるかを知っているからだ。しかし、そんなことを話せるはずがない。

 一真は少し考え込み、それからタバサへ視線を向ける。そして、武器屋の中に入っていくキュルケの姿をチラリと見た。

 

「……彼女には、内緒にしといてくれよ」

 

 タバサは小さく頷いた。

 それを確認してから、一真はもっともらしい理由を口にする。

 

「あの剣は戦い向きじゃない。宝石や装飾は、戦闘だと何の役にも立たない。実戦用と観賞用は違う」

 

 当然ながら、実戦経験など一真にはない。話している内容は、アニメやゲームで見聞きしたことから抜粋したものだ。

 タバサは黙ったまま、一真の解説を聞いている。否定も肯定もしないが、話の続きを待っているようだった。

 

「宝石を付けて強くなるなら、貴族様の杖はみんな宝石だらけだろ?」

 

 一真の皮肉に、タバサは少しだけ考え込むように視線を落とした。

 

「それはそう」

 

 タバサは一真の説明に納得すると、それ以上は追及せず再び本へ視線を落とした。一真は内心、胸を撫で下ろす。どうやら、上手く説明出来たらしい。

 キュルケが武器屋へ入ってからしばらくの時間が経った。

 一真とタバサは特に会話をするでもなく、それぞれの時間を過ごしていた。タバサは本を読み、一真は行き交う人々をぼんやり眺める。

 やがて武器屋の扉が開き、満足げな表情のキュルケが姿を現した。

 

「買ったわ!」

 

 その手には、例の豪奢な装飾が施された大剣が握られていた。

 

「……本当に買ってきたのか」

 

 一真は思わず額を押さえた。

 

「当然よ! あのゼロのルイズに負けるわけにはいかないもの! 新金貨三千の剣よ! たった百の剣とは雲泥の差だわ!」

 

 胸を張り勝ち誇るキュルケ。

 仮に一真の意見を事前に聞いていたとしても結果は変わらなかった気もする。

 

「帰る?」

 

 タバサが本を閉じながら尋ねた。

 

「そうね! せっかくだし、学院で彼に渡すことにするわ!」

 

 キュルケは大剣を抱きながら上機嫌に言った。

 一真はそんな彼女を見て苦笑する。

 

(まあ、結果はわかってるんだけどな……)

 

 もっとも、その結末を知っているのは自分だけだ。口には出さない。

 こうして三人はシルフィードに乗り込み、学院への帰路につくのだった。




 戦術的優位性(タクティカル・アドバンテージ)と言わせるか悩みましたが、やめておきました。
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