第一話 第二の人生は召喚から
トリステイン魔法学院。今日は、二年生へと進級した生徒達の使い魔召喚の儀式が行われる日。
周りの生徒たちが次々と使い魔を召喚していく中で青髪の少女……タバサは、自分の番が来るのを待っていた。彼女の友人とも言える人物は、サラマンダーを召喚していた。主人の属性と合っていて、ピッタリな使い魔だろう。
そして、タバサの番が来た。
今から行う召喚の儀式に対して、タバサには不安があった。召喚する使い魔は、これから一生を共にする相手だ。
彼女には、果たさねばならない目的がある。その力となってくれる使い魔だろうか。そんな気持ちでいっぱいになるが、ここまで来たら、やってみるしかない。
「我が名はタバサ、五つの力を司るペンタゴン……。我に従いし使い魔を……」
だけど。
もし、欲を言っていいのならば。
私を。
理不尽な運命から救ってくれる存在を。
――様を。
「召喚せよ」
タバサが召喚した使い魔が現れた瞬間、周囲の生徒が騒ぎ始める。
「きゅい?」
召喚された青い竜は、タバサを見て首を傾げる。だが、周りが騒いでいる原因はこれではない。
「使い魔が、複数……?」
騒ぎの原因となっているのは、タバサが召喚した使い魔が二体だということ。
「片方は……人間!?」
さらに、もう一体の使い魔が動物の類ではなく、人間だということ。
「これは……」
「きゅいきゅい?」
「うおっ!?」
タバサが召喚した銀髪の男性は、となりにいる竜を見て驚きの声を上げた。
青を基本とした服装、胸や肩には鎧を装着しており、魔法学院では見慣れない服装であった。
腰の鞘には剣も納められている。身長はタバサよりも高く、年齢も年上と思える。
この人が、私の使い魔……
タバサは小さく息をついた。
彼女の使い魔召喚の儀式の感想は、正直なところ困惑だった。共に召喚されていた竜が自身の属性と合っているのがせめてもの救いであろう。
これが、理不尽な運命を背負わされた少女と使い魔として召喚された男の最初の出会い。
それは、お世辞にも歓迎されたものではなかったのであった。
一真は、困惑していた。
(本当にゼロの使い魔の世界に来たのか……)
自分が使い魔として召喚されたことに気がついた。原作ではルイズが才人を召喚するという中、自分を召喚したのは、なんとタバサであった。
さらに、本来彼女の使い魔となる存在と共に召喚されるという事態。
複数の使い魔かつ人間が召喚されたという事に周りは騒然としている。その騒ぎの中に立つ一真は、少々居心地が悪かった。
「皆さん、お静かに!」
騒いでいる生徒達を担当教師のコルベールが大声で静める。その声色は、少し焦っているようにも思えた。
普段温厚な教師であるコルベールから発せられた必死な言葉に生徒たちは、ただならぬ雰囲気を感じたのか顔を見合わせて徐々に黙り始める。
生徒達が静かになった事を確認したコルベールは、一真の元に近づく。その際、タバサを少し一真から下がらせていた。
「失礼しました。少々、見慣れない光景に皆驚いているのです」
「……できれば、この状況を説明してもらいたいですかね」
「そうですね。私はコルベール、ここトリステイン魔法学院の教師をさせてもらっています」
「俺は……」
そこまで口にしたところで、一真は悩んだ。
正直に『天城一真』と名乗るべきなのか。しかし、それだと本来の主人公と似たような構成の名前になり、関係性が疑われる可能性がある。
とはいえ、偽名として適当な名前を考えおうにも、咄嗟に問題なさそうな名前が浮かばなかった。変に名乗ってしまい、この世界の歴史や伝説と関わりがある言葉を使ってしまうのも避けたい。
「俺は、一真。ただの、傭兵だ」
苗字は名乗らずに名前のみという無難な結果となった。自分にもっと名前の引き出しがあればと内心後悔する。
「では、カズマ殿。今、我々は使い魔召喚の儀式をしています。本来ならば、使い魔が複数……ましてや、人間が呼ばれることなどないはずなのですが……」
「……先生、この場合は?」
コルベールの説明の途中、黙っていたタバサはコルベールに尋ねた。
「正直なところ、前例がないので何とも言えません」
長い歴史の中で初めての現象にどうするべきか悩むコルベール。
そんな様子を見ていた一真は、タバサの方を見て質問をする。
「君が俺とこのドラゴンをその……使い魔として召喚した、ということでいいのか?」
一真の問いに、タバサはコクリと頷いた。それを確認した一真は、風竜に指をさして話を続ける。
「その契約というのが両方という決まりがないのなら、こっちのドラゴンとだけにしておけばいいんじゃないか?」
そう提案した一真は、周りを見渡す。まるで、珍しい動物を見ているかのような視線を自分に向ける生徒たちを確認する。
「どうやら、人間が使い魔になるってのはおかしいことのようだし」
これが、一真が出した結論だった。
使い魔として契約してしまえば、話がややこしくなってしまう。何より、タバサの使い魔は既に決まっている。それを邪魔するわけにはいかない。
タバサは一真を見た。そして、風竜を見る。
「……そうする」
「待ってください、ミス・タバサ」
一真の提案に乗り、風竜と契約を交わそうと近づくタバサをコルベールが制する。彼女が一真に近づくのを阻止する形だ。
「……気を悪くしないでいただきたい。だが、生徒を守る立場としてそのようなものを所持されている人物を生徒に近づけるわけにもいかないのです」
コルベールは、一真の腰の剣に視線を向ける。
その温厚そうな表情からは読み取れないが感じるコルベールからの圧力に一真は少し怯む。どうやら、危険人物として警戒されているようである。ここで警戒されたままだとマズいと感じた一真だったが、慌てずに平静を装って答える。
「危害を加える可能性がある……と?」
剣の柄に手をかけて答える一真に、コルベールは少し杖を握る力を強めた。
「このような事態でも冷静に状況を判断しているその振る舞いから、あなたはただの傭兵というわけでもないと感じます」
落ち着いているのは、使い魔や儀式というものを作品として知っているからなのだが、その態度がコルベールからすれば不審に感じたようだ。
一真は、剣を鞘ごと外し地面に置き両手を上げながら少し離れる。
「ご協力、ありがとうございます」
「いや、あなたの判断は正しいです」
「ではミス・タバサ、風竜との契約を」
コルベールの指示に頷いたタバサは、風竜の前に立ち呪文を唱え始める。
「我が名はタバサ……五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え……我が使い魔となせ」
詠唱の後、風竜に口付けを交わす。これで正式にタバサの使い魔契約が終了した。
コルベールが現れたルーンを手持ちの本に書き写す。
「はい、いいでしょう。ミス・タバサ、使い魔と……そうですね、彼も連れていきなさい」
「彼も?」
「使い魔の契約をしていないとしても、彼を召喚したのはあなたです。神聖なるこの儀式で呼び出されたのなら、何か意味があるのでしょう。責任を持って、対応するべきだと私は考えます」
そこまで話したところでコルベールは、一真に視線を向ける。
「少なくとも、今すぐ危害を加えるような方には見えませんし、当面は学院側でも注意はしておきます。それに、何かあってもあなたなら対処できるでしょう」
とりあえず、一真が危険人物という疑いは多少は晴れたようである。転生した直後に不審者扱いされて拘束されるという最悪の展開は避けれたことに一真は安心した。
「暴れるつもりはないから安心してくれ」
「では、カズマ殿。この剣は、こちらで預からせていただきます」
「こっち」
タバサの指示に従い、その場から移動する一真。その指示には風竜もしっかりと従い、二人の後を付いてくる。
「……さて、どうしたものか」
「きゅい、きゅい」
一真の呟きに返事をするように鳴く風竜。
「お前も驚くよな、いきなり知らない場所で」
「きゅい!」
同じ境遇として意見が合うのか、一真からの問いに答えてくれる。
人の言葉を理解出来る知性の高さには、理由があるのだが……それについてはまた、別のお話。
「しずかにして」
出来ればこれ以上目立つことなく、その場から離れたいタバサだったが……
「随分と面白いことをしたわね、タバサ」
赤毛で褐色の美女に声をかけられた。
もちろん、一真にとっては知っている人物ではあるのだが、知らない相手として尋ねる。
「知り合いか?」
「私はキュルケ。タバサの……あなたを呼び出したその子のお友達よ」
「そうなのか、俺は……」
彼女からの自己紹介に自身も答えようとしたその時だった……
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!五つの力を司るペンタゴン!我の運命に従いし“使い魔”を召喚せよ!」
とても聞き馴染みのある大きな声が聞こえ、一真の口は止まった。さっきまで一真たちが居た場所からのようだ。
しばらくすると、そこに集まる生徒たちがまた騒ぎ出す。
「……に、人間だ。ゼロのルイズも人間を召喚したぞ!!」
そこには青いパーカーを着た黒髪の少年……平賀才人が居た。
(始まった……)
これが後に伝説として語り継がれる物語……ゼロの使い魔の始まり。
ようやく本編に突入……長いな