仮初め傭兵と雪風の騎士   作:九津木

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第八話 攫われた使い魔

 

 タバサは、どうしたものかと悩んでいた。

 一真と別行動をしていたタバサは、自身の使い魔にとある買い物を指示しに行っていた。

 その後、午後まで読書をして過ごそうかと思っていると、広場が騒がしくなっているのに気づいた。周りの生徒の話からすると、ルイズが召喚した使い魔の少年がギーシュ相手に決闘しているとのことだった。

 興味のなかったタバサだったが、その決闘に割って入った人物の姿を見て頭を抱えることになる。

 

「すまない、少し邪魔をする」

 

 それは、自身が呼び出した傭兵の姿だったからだ。厄介なことに決闘を中断させるという目立つ行動だった。

 

(目立つことはするなと命令しておいたはずなのに……)

 

 しかし、そこからの彼の行動は決闘を止めるものではなく、正々堂々と戦わせるための助言だった。

 そして、見違えるほどの動きを見せた使い魔の少年は、ギーシュを降参させて決闘に勝利してしまった。

 

 あの少年の異様な動きはなんだったのだろうか?

 あの傭兵はそれをわかっていて決闘を続けさせたのか?

 

 タバサの脳裏に様々な疑問が浮かぶが、ひとまずそれは後回しにする。今、周りの生徒たちはあの少年に注目している。今なら、あの傭兵を連れてこの場から離れられる。そう思っていた矢先だった。

 

「始めようか。その神聖な決闘ってやつをさ」

 

 彼に放たれた火球……ファイヤーボールによって、それも出来なくなってしまった。そのまま流れるように、彼は一人の生徒と決闘することになってしまった。

 無理矢理にでも決闘を止めることは可能だった。だが、あの生徒……ヌーイの発言に怒りを覚えるのも仕方ないとも思っていた。

 何より、タバサにはある興味があった。それを確認するため、この決闘を観察することにした。

 果たして、あの傭兵の実力はどれほどなのか。

 

「これで少しはわかったか?」

 

 結果、彼の実力は本物だった。魔法も武器も使わずにあの強さ。おそらく、学院にいる生徒のほとんどは彼に適わないだろう。どれほどの鍛錬を積めばあそこまで強くなれるのだろうか。

 

 彼が協力してくれれば……

 

 そんな淡い期待を抱きながらもタバサは歩き出した。

 命令に従わなかった傭兵の元に。

 

 

 

 

 一真は、どうしたものかと悩んでいた。

 つい頭に血が上ってヌーイとの決闘をしてしまった結果、目立ちすぎてしまった。気絶して地面に倒れているヌーイを見る。

 

(さすがに放っておくわけにもいかないよな……)

 

 一真は、周りの生徒たちに視線を向ける。一真と視線を合わせた生徒は怯えるような仕草を見せた。それもそのはず。相手は魔法も使わず拳一つでメイジを倒すような人物だ。萎縮するのも無理はない。

 

「すまない、誰か彼を医務室に運んでくれないか? 俺が運んでもいいんだが、あいにく場所がわからないんだ」

 

 頭を掻きながら頼み事をする一真の姿に、生徒たちは呆気にとられる。本当に先ほど決闘をしていた傭兵と同一人物なのか。そう感じるほどであった。

 しばらくして協力を申し出た生徒にヌーイを任せて、一真はその場から離れようとする。すると、徐々に減ってきていた生徒たちの中にタバサの姿を見つけた。広場から離れていく生徒の中をゆっくりと歩いて一真の方に近づいてくる。

 

「うっ……」

 

 その無表情さでもわかる不機嫌なオーラを感じた一真は、冷や汗を掻いた。

 たしかに目立つことはしないと言っておきながら騒ぎを起こしたのは事実であるが、あの状況で何もしないわけにもいかないだろう……というのが本音であった。

 だが、ここでタバサの機嫌を損ねてしまい「護衛の話はなし、即刻出ていけ」なんて言われれば、路頭に迷うことになってしまう。

 どうしたものかと考えている内にタバサは一真の前まで来た。

 

「や……やあ、主殿。午後からは何をーー」

 

 ドゴッ!

 

「痛いっ!?」

 

 当たり障りのない会話で逃れようとする一真の頭部を自身の身長よりも高い杖で器用に叩くタバサ。とはいえ、全力ではない。一真もつい反射的にリアクションをとってしまったが、そこまで痛いというわけではなかった。

 

「目立ちすぎ」

「……悪い、見ていられなくてな」

 

 叩かれた箇所を擦りながら謝罪する一真に、ひとつため息をついてからタバサは続ける。

 

「興味深いものも見れたから、今回は見逃す」

「興味深い?」

「……何でもない」

 

 一真の質問には答えずに踵を返すタバサ。そのまま部屋に戻ろうとするが……

 

「……っ!?」

 

 突如、目元を押さえて立ち止まってしまった。

 

「どうした、主殿?」

「……これは、使い魔の視点?」

 

 ひとりごとのように呟いたタバサの言葉で一真は思い出した。才人の決闘と近いタイミングで『タバサの冒険』の話が展開されていたことを。

 その話は外伝であるため正確な時系列がわからなかったのだが、まさかこんな直近で起こるとは思わなかった。

 タバサの使い魔であるシルフィード……タバサに名付けられる前の名前で呼ぶならイルククゥは、主人に買い物を頼まれて街に出る。しかし、彼女は色々とトラブルに遭ってしまい最後には攫われてしまう……といった展開である。

 おそらく、タバサの視界には攫われてしまった自分の使い魔の視点が映し出されたのだろう。

 

「……用が出来た」

 

 そう呟いたタバサは、杖を振り自身の体を浮かせた。空中浮遊の魔法『レビテーション』だ。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ! 何の説明もないのはひどくないか!?」

 

 一真は、飛び立ってしまう前にタバサのローブを掴んで引き留める。

 

「何か厄介事だろう? 一緒に連れていってくれないか?」

「必要ない」

「そんなこと言わないでくれ。それに……」

 

 そこまで言って、一真は周囲を見渡す。タバサもそれに合わせて周囲を確認した。決闘騒ぎが収まり多少減ってきてはいるが、広場にはまだ数人の生徒が残っている。その中の何人かは一真とタバサの方をじろじろと見ていた。

 

「自分で騒ぎを起こしておいて言うのも何だが、ここに残るには少し居心地が悪くてさ」

 

 ふう、と小さくため息をついたタバサが一真に向かって杖を小さく振ると、一真の体も宙に浮き始める。

 

「うわっ、とと……」

「動かないで。邪魔したら落とす」

「こ、怖いこと言わないでくれ……」

 

 宙に浮くという感覚になれない一真は、落ちないようにタバサのローブを両手でしっかりと握りしめていた。

 そのまま飛行魔法『フライ』で飛んで行った二人の姿をその場に居た生徒は、ただただ見送るだけだった。

 

 

 

 

「あの……主殿。どこに行くかぐらいは教えていただいてもよろしいでしょうか?」

 

 飛行中に何故か敬語で尋ねてくる一真の様子を見て、タバサは思った。

 この傭兵は、どうも掴めない。召喚された時もそうだったが、決闘でも彼は落ち着いていた。いや、落ち着きすぎていた。まるで、メイジとの戦い方を知っているかのような動きをしていた。

 かと思えば、先ほど魔法で体を浮かした時の反応は、まるで子供のようだった。

 同行を申し出た時もそうだ。なぜ彼は今から私がしようとしていることを『厄介事』だと思ったのだろうか。

 

「あなたは、何だと思っている?」

 

 あえて、タバサは逆に尋ねてみた。質問に質問で返された一真は、驚いたような反応を見せる。

 

「えっ?」

「今から何をすると思っているの?」

「いや、あの場から離れたかったってだけで詳しくは……」

「言わないなら、落とす」

「ちょっと待ってくれ! わかった! 話す! 話すから!」

 

 もはや脅迫ともとれるタバサの発言に対して、彼は今までで一番の動揺を見せた。魔法を使えないのなら、ここで振り落とされるとどうしようもないのだろう。いくらなんでも立場が悪すぎる。

 一真は、観念するかのようにタバサの質問に答え始めた。

 

「さっき、君は目元を押さえて『使い魔の視点』と言っていた。使い魔は主人の目となり耳となる……なんて言っていたから、君の使い魔……あのドラゴンに何かあったのか?」

 

 表情には出さないがタバサはかなり驚いていた。状況把握が早いとは思っていたが、数少ない情報からそこまで推測出来るのは普通じゃない。

 

「……それで、実際はどうなんだ?」

 

 ここまで言わせて答えないわけにもいかないと感じたタバサは、状況を説明した。

 授業が終わった後、使い魔に街へ買い物を頼んだこと。そして、先ほど自分の視界に使い魔の視界が映し出され、その視点から人攫いにあっている事を知ったこと。それを今から助けに行くところということ。

 一通りの説明を終えたところで、一真が尋ねる。

 

「この世界では、ドラゴンが街に買い物に来るのは普通の事なのか?」

「違う。特別な竜。人の言葉も喋れるし、人間の姿になることもできる」

 

 本来なら韻竜……古代の幻種の竜だということは周りには隠していくつもりだっが、一真相手に隠していても、妙に鋭い彼はいずれ気づく可能性がある。そうなるとまた面倒だと考え話したのだった。

 この事を周りに言いふらすつもりなら、それなりの対応を考えるタバサだったが……

 

「魔法があるなら、そんなドラゴンもいるか」

 

 この傭兵は、特に変わったことだとは思っていないようだ。魔法を見たことがないとは言っていたが、まさか本当に何も知らないのだろうか。

 

「あの子が特別な竜だという事は他言無用」

「それはまた、どうして?」

「絶滅したと言われている竜……韻竜が存在すると知られると面倒」

「まあ、そんな希少な竜と一緒に召喚された俺も変に思われるか。わかった、黙っているよ」

 

 念のために釘をさしておくタバサ。実際のところ、この傭兵の存在自体も十分目立つ対象なのだが、韻竜に比べればマシだろう。

 指示した事には基本的に従ってくれるので面倒がなくて助かる。

 

「見つけた」

 

 街から少し離れた森に使い魔の姿を確認したタバサ。

 その姿は人の姿ではなく竜の姿であり、人攫い達の手によって拘束されているところだった。

 

「結構ヤバそうな状況だな。どうする?」

「このまま行く。相手が仕掛けてきたら迎撃して」

「ああ、わかった」

 

 二人はそのまま、森の中へと降りて行った。




 外伝の時系列ってはっきりしてないのが多いから、どこに入れるべきか悩みます。ありきたりですが、やはりここに入れるしかないんですよね……
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