ワールドオブぞんび ~ぞんび世界でオレたちだけギャルゲー!?~   作:しょーもないおっさん

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ルート2 第4話

手作りのステージの上で、セーラー服の女子学生ゾンビによる音のないパフォーマンスは、いよいよ終盤――大サビと思われる激しいステップへと差し掛かっていた。

 

その様子を、出現したばかりのパイプ椅子の最前列で眺めていた赤城は、ふと、ある致命的な現実に気がついてしまった。

脳汁が出まくって絶好調だった彼の頭脳に、一気に冷や水が浴びせられる。

 

「……ま、まずい」

「ん? どうしたんだいあんちゃん。お腹でも痛くなったか?」

 

隣の席で、相変わらずライブを肴に美味そうにビールを喉に流し込んでいる青山が、不思議そうにこちらを見た。

 

「青山さん……大変なことに気がつきました。客席です。客席を見てください」

「客席ぃ? よく並んでるじゃないの。パイプ椅子。見事な陳列だよ」

「そうじゃなくて、座っている『人間』の数です! 私と、青山さん……たったの二人しかいないじゃないですか!!」

 

赤城は頭を抱え、パイプ椅子から転げ落ちんばかりに絶望した。

 

「アイドルのライブですよ!? たった二人の観客席で、彼女の『みんなに歌を聞いてもらいたかった』という未練が、まともに解消できるわけがないでしょう! 前回の回想を見たでしょう!?あ、いや見てないか…… 彼女はあのまばらな客席が悔しくて、もっとたくさんの人に見てほしくて、それが未練になってゾンビとして彷徨っていたに違いないんです! なのに、これじゃあ、あの回想の再現、下手をすればそれ以下だ! どうする……このままライブが終了したら、攻略失敗になるかもしれない……!」

 

ようやっと、脳汁が落ち着き、平時の頭になった赤城の額から、今度は冷や汗がダラダラと流れ落ちる。

(いっそ、スーパーゾンビを……いや、普通に襲われるだけだ。……周辺の現地民を今から探して……どこにいるかもわからないし連れてくる時間などない。そもそも彼らは地下シェルターで引きこもってる、なによりゾンビを激しく憎悪している。仮に連れてきたところでライブどころの騒ぎではなくなる)

 

ステージの上の少女の動きが、ゆっくりとスローダウンしていく。

曲の終わりを告げる最後のキメポーズ。彼女は、音のない世界で、息を切らせながらまっすぐにこちらを見つめていた。

 

だが、その客席は――静まり返ったままだ。

あまりにも寂しい、静寂の空間。

 

「クソッ、私のミスだ。もっとあのクソ神に交渉して、アンドロイドとかスマート家電とか何かを要求しておくべきだったんだ……!」

「……あんちゃん、スマート家電は違うんじゃないか?」

あまりのパニック具合に青山にもツッコまれるが、赤城には全く聞こえていなかった。

 

赤城が己の浅はかさを呪い、拳を握りしめた、その時だった。

 

(……いや、待てよ?)

 

赤城の脳裏に、学生時代の『アイドル研究会』で交わした、仲間たちとの熱い議論がフラッシュバックした。

 

『いいかい赤城くん、アイドルの価値はファンの数だけで決まるんじゃない。目の前にいるたった一人の人間を、どれだけ笑顔にできたかだ。それがアイドルの原点なんだと僕は思う』

 

「……そうだ」

赤城は、ハッと目を見開いた。

 

「観客は、ゼロじゃない……!」

 

たとえ、たったの二人だったとしても。

いま、この荒廃した世界で、汗水たらしてステージを作り、彼女のパフォーマンスを最初から最後まで真剣に見届けた観客は、ここにいる!!

 

「一人でも、目の前で見てくれる人がいるなら……。その人のために全力で歌って、届いたのなら……それはもう、立派なプロのステージであり、立派な『デビュー』なんだ!!」

 

赤城のその熱い魂の叫びに呼応するように、世界が再び、その動きを完全に止めた。

 

——テレレーン♪

 

脳内に響き渡る、お馴染みの電子音。

世界からすべての色彩が失われ、完全なモノクロームの世界が訪れる。

ステージの上の少女も、青山のビールの雫も、すべてが静止した空間。

 

赤城の目の前に、これで通算4度目となる半透明のシステムウィンドウが出現した。

「きた!」

 

【イベント発生】

 

文字のすぐ下には、選択肢が浮かび上がる。

 

▶ 席から立って、感情のままに、拍手する

▶ 成功に一人陶酔し、アーティストを気取っている

▶ 成功に甘んじることなく、次なる高みを見据えている

 

「これだ……これしかない!!」

 

赤城は確信に満ちた声をあげた。

二番目のアーティスト気取りも、三番目の高みを目指すのも、今のこの「デビュー」の瞬間には全く相応しくない。

今、この寂しい客席を本物のライブ会場に変えるために、自分がすべき行動は、ただ一つだけだ!

 

赤城は迷うことなく、一番上の選択肢を力の限り叩きつけた。

 

▶ 席から立って、感情のままに、拍手する

 

――カチリ。

 

世界に濁流のように色彩が戻り、止まっていた時間が再び猛烈に動き出す。

 

赤城は勢いよくパイプ椅子から立ち上がった。

そして、静まり返った商店街の広場に響き渡るほどの勢いで、全力の拍手を送り始めた。

 

パチパチパチパチパチパチパチ!!

 

手のひらが真っ赤になるほどの熱量を込め、惜しみない賛辞をステージの上の少女へとぶつける。

 

「お疲れさん!よかったぜ!」

 

それを見た青山も、良いモノを見たといわんばかりに席から立ち、手に持っていたビール缶を椅子に置き、一緒に力強く手を叩き始めた。

 

たった二人だけの、しかし、遮るもののない広場に大きく響き渡る、割れんばかりの拍手。

 

ステージの上の女子学生ゾンビは、その拍手の音を聞いた瞬間、目がわずかに見開いた。

そして、これ以上ないほど綺麗なお辞儀をした。

 

視界の端に、静かに文字が明滅する。

 

【イベントNo.4『カーテンコール』完了】

 

直後、赤城の頭脳に、これまでで最も鮮明な光景が直接フラッシュバックした。

 

 

~~~

――そこは、地鳴りのような歓声が響く、武道館だった。

何万人ものファンが振る、眩いばかりの光の海。

ドームステージの終了直後だった。

ステージから降りたセーラー服の少女は、カメラに向かって、作り込まれた、

「貼り付けた笑顔」を向けていた。

そのまま、一人きりの楽屋へと歩いていく。

重い扉が閉まり、外の喧騒が完全に遮断された、静寂の空間。

少女は、衣装のまま鏡の前に座り、深く、重い、孤独なため息を吐いて――。

~~~

 

 

「はっ……!」

 

赤城は激しく息を吐きながら、現実の世界へと引き戻された。

目の前の拍手はまだ続いている。青山も楽しそうに手を叩いている。

 

しかし、赤城の脳内は、今の一瞬の回想によって得体のしれない違和感を覚えていた。

 

「……アレ?」

 

赤城の手が、ピタリと止まる。

 

(今のは……武道館? 何万人もの、大観衆……?)

 

「……」

「どうした、あんちゃん? 急に手を止めちまって。アンコールでも要求するか?」

隣から、青山の能天気な声が降ってくる。

 

「……いや」

 

「……なんでもありません。これで、彼女の未練は、解消されたんですよ。無事に終わったんですから」

 

その時、ステージの上の女子学生ゾンビの身体が、淡い光の粒子となってサラサラと崩れ始めた。

彼女は最後に、赤城と青山に向かって、『また』とでも言うように小さく手を振った。

 

光の粒が空へと消えていく。

同時に、広場を遠巻きに囲んでいた凶悪なスーパーゾンビたちの気配も、霧が晴れるように完全に消滅していった。

 

「おお、終わったんか、よく分からんが上手くいったってことかい?」

「ええ……。攻略完了です」

 

二人の元に巨大な光の柱が降り注ぐ。その輝きには、微かにゴールドが混じっていた。

その光が消えたあとには、そこに残ったのは、即席で作られたあのステージと、一冊の雑誌.。

そしてそのステージをレンズ越しに見つめていた者だけであった。

 

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