ワールドオブぞんび ~ぞんび世界でオレたちだけギャルゲー!?~ 作:しょーもないおっさん
◇◇◇
現地民視点
赤城と青山が光の柱に飲み込まれ、商店街エリアから姿を消して、数日が経ったある日のことである。
荒れ果てた商店街のアーケードに、数人の影が滑り込んできた。
地下シェルターを拠点とする、現地生存者の一団だ。色褪せた防刃ベストを着込み、手には改造されたクロスボウや鉄パイプをしっかりと握りしめている。
彼らが命がけで地上に上がってきた目的は、物資調達――ではなく、このエリアが「急に静かになった原因」の究明だった。
「……本当に静かだ。どうなってるんだ」
斥候を務める男が、不気味なほどの静寂に声を潜めた。
本来なら、この商店街は「最悪の知性ゾンビ」の一体の縄張りだったはずだ。周囲には俊敏で狂暴なスーパーゾンビも多数徘徊しており、生存者にとっては「絶対に近づいてはならない禁忌の地」だった。
しかし、広場へ足を踏み入れた彼らが目にしたのは、ゾンビの群れではなく、あまりにも異様で、あまりにも場違いな『建造物』だった。
「これは一体なんだ……?」
「ステージ……でしょうか? いえ、しかし、なぜこんな場所に」
生存者たちは息を呑み、警戒しながらその「残骸」へと近づいていった。
そこにあったのは、ベニヤ板や剥ぎ取った鉄パイプで不格好に組まれた、手作りの簡易ステージだった。だが、使われている素材の出所があまりにも異常だった。この物資の枯渇した世界にはおよそ存在しないはずの、新品同様に輝く高品質な衣装素材の切れ端、頑丈な金属ボルト、そして……。
「見ろ、これかなり高級なスピーカーだぞ。こんなものがなぜここに……?」
「こっちには……マイクがある。おい、まさか、こんなところで誰かが歌でも歌っていたのか?」
一人の男が、ステージの前に整然と並べられたパイプ椅子を見てガタガタと震え出した。
「歌って?ははっ……何言ってるんだ? そんなことすりゃ、音に引き寄せられたスーパーゾンビの餌食になって一瞬で終わりだぜ」
「でもよぉ、ほかに考えられねえよ。この椅子の並べ方、どう見ても……」
言い争うような二人の後ろから、ステージの上を調べていたもう一人が、顔を青ざめさせながら絞り出すような声を上げた。
「ち、違いますよ。こ、これは……『儀式』ですよ。間違いありません」
「はっ? 儀式? 何言ってんだ」
「儀式……? ひょっとして、あの噂か……!」
生存者たちの間に、戦慄が走った。
彼らは知っている。この世界に時折現れるという、謎の存在たちのことを。過去に現れた奴らは、すぐ化け物に貪り食われて死んでいった。
だが、いま現れて街を徘徊している連中は違う。スーパーゾンビの群れを操り、知性ゾンビさえ従わせるという――得体の知れない怪物たちだ。
「おい、つまりそれは……以前、行商の奴らが言っていたあの『二人組』が、ここに現れたってことか?」
「聞いた話と同じだ。あの凶悪な化け物と、配下のスーパーゾンビどもが、一匹残らず消えている」
「ならあれはステージではなく、さしずめ、祭壇ってか……はっ!冗談キツイぜ」
探索リーダーの男は、ステージの上を慎重に調べた。
足元には、バラバラに散らばった「ボロボロのアイドル雑誌」や、今にも破れそうなポスターが転がっている。
「……これが奴らの『儀式』なんだ」
リーダーは苦渋に満ちた声で呟いた。
「儀式……ですか?」
「ああ。この背後の壁を見ろ。ラッカーか何かで書かれているみたいだが、見たこともない得体の知れない文字がある。これがきっと、化け物どもを操るための『呪い(まじない)』の肝だ」
リーダーは確信をもって答えた。ゾンビを悪魔的に調伏する禁忌の呪術。それこそが、この不格好な舞台の正体なのだと。
「確かに……なんて悍ましいんだ。文字を見ているだけで頭が痛くなってくる」
「ちょっと待ってください。奴らがここで恐ろしい儀式を行ったのは分かりました。では、肝心の『ゾンビ使い』どもはどこへ行ったんです?」
「まったく、わからない。聞いていた通り、奴らの痕跡が一つも残っていないんだ」
「くそっ、ここ三日ほど続いた、あの激しい豪雨さえなければ……! 奴らの足跡や、化け物を屠った痕跡くらいは見つけられたかもしれないのに!」
「それを言うな。あの雨のおかげで、俺たちのシェルターの水瓶が潤ったんだ。天の恵みだったと思おう」
雨がすべてを洗い流した。それが、プレイヤーという存在の不気味さをさらに引き立てていた。血痕も、闘争の跡もなく、ただ静かに化け物だけを消し去る、さらなる化け物たち。
「なんにしても、これ以上ここに居ても仕方ない。この情報を持ち帰り皆に周知させねば、そしてほかのコミュニティにも行商を通じ連絡を送らねば。
一旦撤収するぞ!」
「「はい!」」
生存者たちは頷き、大急ぎで商店街を後にした。
後に残されたのは、誰もいない手作りのステージと、夕日に照らされる無数のパイプ椅子だけ。
その頃――観客席では。
【第一話のあと】
「おや、今回のメイン攻略者は赤城くんかい? さてさて、どう面白くしてくれるかな? 楽しみだよ」
神は身を乗り出しながら、モニターに映るスーツ姿の男――赤城を凝視する。
モニターの中の赤城は今、大真面目な顔で「この世界のゾンビは未練を解消すれば成仏するんだ!」という結論に辿り着き、一人で納得していた。
「いくら自分の推理に自信があるからって、スーパーゾンビの縄張りに堂々と姿を現すなんてさ。カレも十分ネジが跳んでるよねぇ~。まぁ、そうでなくちゃ!」
【第二話のあと】
「どうした、赤城くん!!いつものツッコミの切れが鈍いじゃないか……」
画面の向こうで、赤城が「彼女はアイドル志望だったんだ!」とドヤ顔でシステムに物資を要求し始めたのを見て、神は物足りなそうに口元をへの字にしていた。だが、続く彼の行動を見てすぐに身を乗り出す。
「……んっ!? ライブ会場!? 作るの? 自分たちで!? 来たよ! 来た来た! そういうのを待ってたんだよ、くくく、あははは! そうこなくっちゃ! 君はやっぱり期待を裏切らない、最高に面白いよ、くふふっ!」
【第三話のあと】
「あはははは! 見た!? 今の見た!?眼鏡なんてかけてないのに、人差し指でクイッて仕草! 完全にあれ、名探偵気分に浸ってるやつじゃん! 自分に酔いすぎだよ、赤城くん♪」
ゾンビ女学生の行動を「完璧にプロデュースできている」と確信し、虚空に向かってメガネを直すポーズを決めた赤城に、神は床を叩いて大爆笑する。
神の享楽主義な脳髄が、心地よい快感に満たされていく。
【第四話のあと】
そして、すべてが終わった。
最後の回想を見て「……アレ? デビューは、してたのか」と、赤城は呟きその脳裏にほんの小さな『違和感』のノイズが走る。
「ふふふ、思った通りだ。君はそっちで、盛大に勘違いを煮詰めてくれたね」
光の柱に包まれ、次のエリアへ転移していく二人を見送りながら、神はポップコーンを口に放り込んだ。赤城が首を傾げつつも、「やはり未練は解消されたんだろう」と自分で自分を納得させて思考を放棄したのが、たまらなく愛おしい。
「まったく、今後が楽しみだな~! 間違った前提のまま、次もその調子で突き進んでおくれよ、赤城くん……。まあ、ボクも正解は知らないけどね! あははは……。赤城くんの名探偵ごっこを真似て黒幕ごっこしてみたけど、意外に面白いな! たまにやってみよっと」
――第弐章・幕間 終