ワールドオブぞんび ~ぞんび世界でオレたちだけギャルゲー!?~ 作:しょーもないおっさん
「……青山さん。私は気が付いてしまいました」
ブラックアウトからの目覚め、バスタオルの枕の上で、赤城は天井の抜けた青空を見つめながら、ひどく澄んだ声で呟いた。その瞳には、どこか狂気を孕んだ知性の光が宿っている。
「あんちゃん……? どうしたぁ、ついに頭のネジがバルクアップしちまったか?なんてな、がはは」
隣で同じく寝たきりになっている青山が、冗談交じりに笑みを浮かべる。
「いいですか。基本は『攻略対象の好みに合わせること』です。そして、このエリアの攻略対象、及び周辺モブの行動原理は完全に筋肉で統一されている……。つまり、このルートのクリア条件、すなわち正解は――『鋼のような肉体持つ人。つまり鉄人になること』なんですよ!」
「……はあぁぁぁっっ!? あんちゃん、おれぁ40過ぎのおっさんだぞ!? 今から筋肉ダルマになれってか!?」
ドン引きする青山を余所に、赤城は「間違いない……。あの『プロテイン3択』も『限界まで追い込む3択』も、すべてはシステムによる肉体改造の強制イベントだったんだ……!」と一人で名探偵ばりに深く納得していた。
しかし、理論が完成したところで、現実の肉体はついてこない。
本格的に身体を鍛えた経験のない二人を襲ったのは、これまでの狂気的な過負荷による、人生未体験ゾーンの激しい筋肉痛だった。
「痛っ……あ、上がらない! 腕がピクリとも上がらない!」
「おれぁ……指先一つ動かせねぇ……。こんなん初めてだぜ、肉体がストライキを起こすなんて……」
絶望的な状況でアスファルトに転がる二人の元に、すっと巨大な影が差した。
前回のイベントでも健気に二人を介護してくれた、丸太のような腕を持つスーパーゾンビたちだ。彼らは動けない二人を見ると、一流ホテルのスタッフのごとき手際で、冷たい濡れタオルで額を拭き、スポーツドリンクを口元へと運んでくれた。
「なんつーか、これが普通になってきちまったぜ……。もうちょっと右のほうもたのまぁ……」
もはや、抵抗するのも馬鹿馬鹿しいと、青山は割り切って馴染んでいた
「……青山さん、警戒心が薄すぎますよ。……あ、そこのゾンビさん、そのスポーツドリンク、分岐鎖アミノ酸は配合されてます? 入ってるなら喜んでいただきます」
最初こそゾンビへの警戒心を解かなかった赤城だったが、数日も経てば、差し出されるドリンクの成分を気にするレベルで完全に慣れきっていた。
そんな寝たきりの療養生活を送る二人の元へ、さらなる「お見舞い」が訪れる。
どすん、どすんと重い足音を響かせて現れたのは、朝礼台の主――あのマッチョ兄さんゾンビだった。
(なんだ?こんどはなにをする気だ?まさか!?お見舞いの品か……? いや、ゾンビにそんな情緒は――)
赤城の予想通り、マッチョ兄さんゾンビは手ぶらだった。
代わりに彼は、寝ている二人の目の前で、これ以上ないほど滑らかな動きで「腹筋と太ももを強調するポーズ」をバシッと決めてみせた。バキッと背中の皮膚が裂け、体液が少し飛び散る。
「「…………」」
言葉はない。喋らないが、その濁った瞳はこちらを労わっているかのように語りかけていた。
続いて、後ろに控えていたスーパーゾンビたちも、次々とお見舞いのポージングを披露し始める。右を見ても左を見ても、肉体の誇示。が一人?だけフォームはすごいが肉体が貧相なのがいた。
数日前なら「ふざけるな!」と絶叫していたはずの二人は、今やただ静かに、その肉体のカットの美しさを目で追うだけになっていた。ツッコミの燃費が、完全に筋肉の圧によって破壊されていた。
「フーム、そこの右側のゾンビくん、腕の持ち上げが少し低いんじゃないですか?」
「手前のお前さんよぉ、筋肉が足りてないぜ、プロテインをもっと飲みな」
ダメ出しまで行う始末であった。
「最後のちょっと貧相な人?よく鏡の前にいる人?じゃないですか?」
「あぁーいたなぁ。トレーニングより鏡の前でキメ顔してるやつだ。」
そんな、ただひたすらに「休養とポージング観賞」を強制される寝たきり生活を数日送り、二人の肉体にようやくエネルギーが満ち溢れてきた、ある日のことだった。
——テレレーン♪
脳裏に響き渡る、お馴染みの電子音。
世界から色彩が失われ、完全なモノクロームの停止空間へと変貌する。空間の歪みと共に、空中へ美しくも禍々しいウィンドウがポップアップした。
【イベント発生】
「……さ~て今度は、どんなモンが来るよ、おれぁもうちょい腹回りを鍛えたいがねぇ」
「そうですね、さらなる筋肉の為に!!」
並んで立つ二人の前に、空中から浮かび上がった『??』の3択。
▶ ひたすら、休み。
▶ ひたすら、休み。
▶ ひたすら、休み。
「「ばかな!?休みだと!!?、筋肉がつかないじゃないか!!!」」
もはや、二人の言葉は筋肉についてになり始めていた。
今までとは真逆のツッコミも行う。
そしてシステムが勝手に中央の【▶ ひたすら、休み。】を自動ロックオンし、決定のシステム音をピピッと鳴らすのを、絶叫して止めようとした。
「「やめろー!俺たちから筋肉を奪うな~!!」」
ボチッと音が鳴り、世界は鮮やかな色彩を取り戻す。
【イベントno.3:『休養と睡眠』完了】
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二人の脳裏に、謎の光景が三度フラッシュバックした。
それは、やはりあのジムのような場所。手にしたダンベルを力強く持ち上げながら、鏡に向かって叫ぶ一人の青年の記憶。
『美しい僧帽筋を作るんだ! 僕ならできる!! 僕なら絶対にできるんだぁぁぁぁッッ!!!』
狂気的なまでに追い込んでいた、あまりにも――。
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「……なるほど、僧帽筋、か……」
「そこは盲点だったなぁ」
赤城は、自分の首の付け根あたりを、無意識にさすりながら呟いた。
青山も、まだ自分の肉体に鍛える余地があることに、若干喜びの笑顔を浮かべた。
目の前では、休養を終えた二人を祝福するように、マッチョ兄さんゾンビとスーパーゾンビたちが、地鳴りのような唸り声と共に一斉にポージングを開始していた――。
(つづく)