ワールドオブぞんび ~ぞんび世界でオレたちだけギャルゲー!?~   作:しょーもないおっさん

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ルート4 第1話

グラウンドの狂宴が終わり、次に2人が目覚めたのは、遠くに豪奢な洋館が見える廃墟となった高級住宅街であった。

まだ頭がふらつく赤城紅一と、自身の身に何が起こったの理解できていない青山藍乃介の両名。

 

「えーと……私たちはどうなったんでしたっけ?」

「あー……、確かアイドルのステージを作ったんじゃなかったか?」

頭を振りながら、青山はそう赤城の質問に答えた。

「そうでしたっけ?あれ?その後に何か……うっ頭が」

「いわれて見りゃ、なんかあったな……ダメだ!思い出せねぇ」

何か開けてはいけない、なにかに二人は顔をしかめた。

 

その瞬間、

静寂を破って、あの耳馴染んだシステム音声が脳内に響き渡る。

『ピンポンパンぽーん♪』

『NEW CHALLENGER!!』

『プレイヤー数増加を確認しました。システムを更新します。』

『――「マルチプレイヤーシステム機能」実装完了』

『マルチプレイヤーシステムとは!今後は選択肢中でも、プレイヤーたちは全員動けます。相談なども自由に行ってください。ただし選択肢の決定権は従来通り選ばれたプレイヤーのみとなります』

 

「マルチ……? おい、あんちゃん、こいつはどういう事だと思う?」

「私たち以外の『誰か』が、このエリアに放り込まれたってことじゃないかと」

「それにしても、マルチプレイヤーシステムとは、この感じだと大分様変わりしますね」

 

混乱する青山とコイツはなにか裏がありそうと考える赤城。そんな二人の元に音が聞こえてきた、高級住宅街の路地からカツ、カツ、と静かな足音が近づいてきた。

 

現れたのは、息を呑むような美女だった。

ウェーブがかった黒髪、涼しげで切れ上がった目元。仕立ての良さそうな衣服に身を包み、スッと通った背筋からは、育ちの良さと冷徹なまでの知性が滲み出ている。近寄りがたいほどに完成された美。

 

彼女は2人を見ると、事前の聞いていたかのように、優雅に一礼した。

 

「初めまして。私は黄瀬蘭と申します。……お二人が先行プレイヤー、ということで相違ありませんね?」

 

声は鈴を転がすように落ち着いており、所作の一つ一つにため息が出るような気品がある。

「おう、おれぁ青山藍乃介ってんだ。よろしくな。んでこっちのあんちゃんが赤城……赤城のあんちゃんだ」

見とれる赤城に対して適当な自己紹介をする青山に。

「ちょ!?赤城のあんちゃんって、最初に自己紹介したでしょ!これだけ一緒にいたのに名前を覚えていないんですか!?まったく、赤城紅一ですよ。紅一、今度はちゃんと覚えてくださいね」

「がはは、わりわりぃ、紅一な。よし!覚えた、任せろ!」

「……」

「ふふっ、なんとなくお二方の関係が分かりました」

 

 

 

微笑む黄瀬は怯える様子もなく、スッと背筋を伸ばしたまま、周囲の荒れ果てた街並みへと視線を走らせた。その目は、淀みがない。

 

「ここに来るまでに、私はこの住宅街の地図を元に『構造』を分析させていただきました」

「……地図ですか?」

「はい、こちらに送られる後に、物資搬送を試してみた時に送ってもらいましたが、それがなにか?」

赤城が聞き間違いかと聞き直しが、黄瀬は当たり前のような表情で答える。

「右も左もわからない未知の場所なのだから、地図は必要では?」

「あーーーーー!?」

「がはは、そりゃそうだわな」

なんでそんなことが浮かばなかったのかと、頭を抱える赤城と笑いながら肯定する青山であった。

 

「さて、話を戻しますね」

彼女は手元に落ちていた、デザインの施された割れた看板の破片を拾い上げ、指先でその材質を確かめる。

 

「街並みの建築様式、崩壊した外壁の風化具合、そしてあちらに見える洋館の意匠。これらはすべて19世紀末のイギリス、いわゆるヴィクトリア朝後期のゴシック・リヴァイヴァル建築を忠実に再現したものです。さらに―――」

 

「……あ、建築様式? そこまで分かんのか?」

青山が呆気にとられたように声を漏らす。

 

「それだけではありません」

黄瀬の視線は、地面に残された奇妙な痕跡へと向けられた。

「地面の足跡、および植生が不自然に踏み荒らされた形跡を観察するに、先程このエリアを徘徊するゾンビたちの歩幅・移動速度は、一般的なゾンビ映画のそれとは一線を画しています。非常に統率が取れており、所作に無駄がない。おそらく、噂の知性ゾンビが近くにいます」

「なぜ?知性ゾンビことや、一般的なゾンビ映画と違うと知ってるんですか?」

「時間短縮とのことで、神より事前説明がありました」

黄瀬はキリッとした美しい顔で答えそして、

 

続きを確信に満ちた声で響かせた。

 

「ここは、上流階級の規律が支配するステージ。私たちは今からあの洋館へ向かい、そこにいる支配者層――おそらくは、かつてこの邸宅を統治していた『ゾンビ』が課す、厳格な『マナーや調度品のルール』に従いながら攻略を進める必要があります」

 

「……!」

 

赤城は、背中に電気が走るような衝撃を受けていた。

知性ゾンビと出会ったわけでもないのに、彼女はただ、現場に残された僅かな痕跡と、自身が持つ知識を掛け合わせたロジックでこのエリアの本質を「説明」してみせたのだ。

 

(私以上の理論主義……! 行き当たりばったりでしかない私たちと違って、彼女は初見で、状況の客観視と分析だけで本質を見抜いたのか。この人は『本物』だ……!)

 

「素晴らしい分析力です、黄瀬さん」

赤城は、これまでにない確かな希望を感じながら、真剣な表情で言った。

「あなたのような優秀な人が来てくれれば、この先の攻略は一気に現実味を帯びてきます。ぜひ、私たちを導いてください」

 

「ええ、お任せください。私の脳内には、古今東西のあらゆるデータが蓄積されていますから」

 

黄瀬は、照れくさそうに小さく微笑んだ。

歩き出す三人の前にスーパーゾンビの唸り声が響き渡り、その声に反応して一斉に物陰に隠れる。

「どうします?」

「どうもなにも、このまま隠れるしかねぇだろ?」

「いえ、こちらの路地から迂回してやり過ごすことができます」

地図を見ながら黄瀬が提案をする。

「す、すごい……」

「俺ら二人の時は、いつも隠れてやり過ごしたもんだがな~、こりゃスゲ~お嬢ちゃんが仲間になってくれたな~……」

感銘を受ける赤城と感心する青山に対し黄瀬は「さ、こちらに」と先導して歩き出した。

 

 

 

廃墟の高級住宅街。その一角に、奇妙なほど美しく手入れされたイングリッシュガーデンがあった。

色鮮やかなバラが咲き誇る庭の中央で、仕立ての良いドレスを纏った一人の老女ゾンビが、優雅にアフタヌーンティーの準備をしている。

 

その静寂を破るように、庭を囲む立派な生垣が激しく揺れた。

 

ガサガサガサッ!

 

「おいあんちゃん、ここを突っ切れば洋館への近道だぞ!」

「青山さん、人の家の生垣を破壊するのは近道とは言いません!」

 

バリバリと枝をへし折りながら、生垣を力技で突破して現れたのは、青山と赤城の2人だった。

当然、テーブルの老女ゾンビが、ティーカップを持ったままこちらをじっと見つめてくる。

 

「おう、こんにちは婆さん。いい天気だな」

「こんにちは、じゃないですよ! 完全にゾンビじゃないですか!」

 

赤城がツッコミを入れた直後、背後の生垣がさらに激しく揺れた。

 

ガサガサガサッ、ベキィッ!

 

「きゃっ!?」

 

遅れて突入してきた黄瀬が、服の裾を引っかけて派手に転倒する。その衝撃で、彼女のポケットから何かが滑り落ち、赤城の足元へと転がった。

 

「だ、大丈夫ですか黄瀬さん。……これ、落としましたよ?」

 

赤城が拾い上げたのは、精巧にプリントされた、某アニメのイケメンキャラクターの『アクリルキーホルダー』だった。

それを見た瞬間、自分のポケットを漁り、無いことに気づくと、先ほどまでクールだった黄瀬の顔が、恐怖に染まる。

 

「あ、あ、あ――――――っ!!! それ、私の『推し』のアクキーです!!!」

 

黄瀬の絶叫が響き渡った。

次の瞬間、先程までの冷静だった彼女の瞳が爛々と輝き始め、圧を感じるほどのトークが炸裂する。

 

「ちょっと返してください! それは今期最高のアニメの―――」

「で、 昨今のグッズ市場における―――」

「バッグへの装着性を考慮すれば―――」

「特にこの作画は第3話のあの神作画のシーンを切り取ったもので―――」

 

「……一体……なにが??」

赤城が訳も分からずに呟き。

「……長げぇな」

青山も腕を組んで端的に呟いた。

 

2人が引いている中、なぜか老女ゾンビだけは、黄瀬の言葉に興味津々で耳を傾けていた。

 

その時だった。

 

突如として世界の色彩が失われ、モノクロの停止空間へと変貌する。

 

——テレレーン♪

 

チープな電子音と共に、半透明のシステムウィンドウが出現した。

 

【イベント発生】

 

「え!? ここでイベント!?あっ!うごく……」

赤城が驚愕の声をあげる。世界が止まっているにもかかわらず、システムのアナウンス通り、自分たちの身体は自由に動く。相談もできるようだ。

「よぉあんちゃん、これがさっきアナウンスがあった『マルチプレイヤーシステム』ってヤツか? 確かに前とは違うな……」

「ええ、世界が止まっても、私たちは会話ができる……。でも、決定権は私にないみたいです」

「俺もないな……」

「これが……興味深いですね、それにこれは……」

 

3つの選択肢が浮かび上がる。黄瀬の前で

 

▶まだまだ語り足りない、さらに語り始める

▶それは、私のではありませんと、うそをつく

▶モノとしての価値を説明する

 

「ふふっちょうどいいですね、まだ語り足りないと思ってたところですから」

そんな黄瀬の不穏なセリフに赤城と青山は。

「「えっ!!?」」

 

まだ語るの?と、驚く二人に黄瀬は一番上の『▶まだまだ語り足りない、さらに語り始める』をセレクトした。

 

世界に色が戻る。

 

「――つまりですね!!」

 

選択肢が決定された瞬間、黄瀬の口は止まらずにさらに拍車がかかった。

老女ゾンビは、真剣な眼差しで黄瀬の言葉を聞き入っている。

 

「……なんか? 興味津々だな?」

青山が気づく。老女ゾンビは敵対する様子もなく、ただじっと、黄瀬を見つめていた。

 

黄瀬は、老女ゾンビに向き直った。

「……これに興味があるのですか?」

 

老女ゾンビは、カサカサの手を伸ばし、そっとアクキーを受け取った。そして、不思議な調度品でも見るかのように、光に透かして眺め始める。

 

「ではもっと説明して差し上げましょう。これが我が国の誇る『オタク文化』の結晶です!」

 

ここに、前代未聞の『第一イベント:オタク文化講座』が勝手に開講された。

 

「また始まった……」

赤城が遠い目をする。

「がはは、癖のつえーおもしろい姉ちゃんだ……」

青山が面白そうに近くにあった椅子に座る。

 

ここから黄瀬による、日本のサブカルチャー市場とキャラクターグッズの歴史に関する講義が30分以上続きまだ終わりそうになかった為、痺れをきらした赤城が「要するに?」と遮るまで、老女ゾンビは一言も発さず、ただ深く感銘を受けたように黄瀬を見つめ続けていた。

 

『【イベントno1】オタ文化講座』完了

 

そして黄瀬の脳内に「謎の光景」がフラッシュバックしたが、黄瀬は語りに夢中で気には留めなかった。

 

 

~~~

豪華なレッスンルームで、様々な習い事をこなす少女の姿があった。

対面には、厳格そうな教師風の女性が立っており、少女に告げる。

『――お嬢様は、本当に物覚えが良いですね』

少女は何も言わず、無表情のまま、美しく気品のある所作で会釈を返した。

~~~

 

 

つづく

 

 

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