ワールドオブぞんび ~ぞんび世界でオレたちだけギャルゲー!?~ 作:しょーもないおっさん
グラウンドの狂宴が終わり、次に2人が目覚めたのは、遠くに豪奢な洋館が見える廃墟となった高級住宅街であった。
まだ頭がふらつく赤城紅一と、自身の身に何が起こったの理解できていない青山藍乃介の両名。
「えーと……私たちはどうなったんでしたっけ?」
「あー……、確かアイドルのステージを作ったんじゃなかったか?」
頭を振りながら、青山はそう赤城の質問に答えた。
「そうでしたっけ?あれ?その後に何か……うっ頭が」
「いわれて見りゃ、なんかあったな……ダメだ!思い出せねぇ」
何か開けてはいけない、なにかに二人は顔をしかめた。
その瞬間、
静寂を破って、あの耳馴染んだシステム音声が脳内に響き渡る。
『ピンポンパンぽーん♪』
『NEW CHALLENGER!!』
『プレイヤー数増加を確認しました。システムを更新します。』
『――「マルチプレイヤーシステム機能」実装完了』
『マルチプレイヤーシステムとは!今後は選択肢中でも、プレイヤーたちは全員動けます。相談なども自由に行ってください。ただし選択肢の決定権は従来通り選ばれたプレイヤーのみとなります』
「マルチ……? おい、あんちゃん、こいつはどういう事だと思う?」
「私たち以外の『誰か』が、このエリアに放り込まれたってことじゃないかと」
「それにしても、マルチプレイヤーシステムとは、この感じだと大分様変わりしますね」
混乱する青山とコイツはなにか裏がありそうと考える赤城。そんな二人の元に音が聞こえてきた、高級住宅街の路地からカツ、カツ、と静かな足音が近づいてきた。
現れたのは、息を呑むような美女だった。
ウェーブがかった黒髪、涼しげで切れ上がった目元。仕立ての良さそうな衣服に身を包み、スッと通った背筋からは、育ちの良さと冷徹なまでの知性が滲み出ている。近寄りがたいほどに完成された美。
彼女は2人を見ると、事前の聞いていたかのように、優雅に一礼した。
「初めまして。私は黄瀬蘭と申します。……お二人が先行プレイヤー、ということで相違ありませんね?」
声は鈴を転がすように落ち着いており、所作の一つ一つにため息が出るような気品がある。
「おう、おれぁ青山藍乃介ってんだ。よろしくな。んでこっちのあんちゃんが赤城……赤城のあんちゃんだ」
見とれる赤城に対して適当な自己紹介をする青山に。
「ちょ!?赤城のあんちゃんって、最初に自己紹介したでしょ!これだけ一緒にいたのに名前を覚えていないんですか!?まったく、赤城紅一ですよ。紅一、今度はちゃんと覚えてくださいね」
「がはは、わりわりぃ、紅一な。よし!覚えた、任せろ!」
「……」
「ふふっ、なんとなくお二方の関係が分かりました」
微笑む黄瀬は怯える様子もなく、スッと背筋を伸ばしたまま、周囲の荒れ果てた街並みへと視線を走らせた。その目は、淀みがない。
「ここに来るまでに、私はこの住宅街の地図を元に『構造』を分析させていただきました」
「……地図ですか?」
「はい、こちらに送られる後に、物資搬送を試してみた時に送ってもらいましたが、それがなにか?」
赤城が聞き間違いかと聞き直しが、黄瀬は当たり前のような表情で答える。
「右も左もわからない未知の場所なのだから、地図は必要では?」
「あーーーーー!?」
「がはは、そりゃそうだわな」
なんでそんなことが浮かばなかったのかと、頭を抱える赤城と笑いながら肯定する青山であった。
「さて、話を戻しますね」
彼女は手元に落ちていた、デザインの施された割れた看板の破片を拾い上げ、指先でその材質を確かめる。
「街並みの建築様式、崩壊した外壁の風化具合、そしてあちらに見える洋館の意匠。これらはすべて19世紀末のイギリス、いわゆるヴィクトリア朝後期のゴシック・リヴァイヴァル建築を忠実に再現したものです。さらに―――」
「……あ、建築様式? そこまで分かんのか?」
青山が呆気にとられたように声を漏らす。
「それだけではありません」
黄瀬の視線は、地面に残された奇妙な痕跡へと向けられた。
「地面の足跡、および植生が不自然に踏み荒らされた形跡を観察するに、先程このエリアを徘徊するゾンビたちの歩幅・移動速度は、一般的なゾンビ映画のそれとは一線を画しています。非常に統率が取れており、所作に無駄がない。おそらく、噂の知性ゾンビが近くにいます」
「なぜ?知性ゾンビことや、一般的なゾンビ映画と違うと知ってるんですか?」
「時間短縮とのことで、神より事前説明がありました」
黄瀬はキリッとした美しい顔で答えそして、
続きを確信に満ちた声で響かせた。
「ここは、上流階級の規律が支配するステージ。私たちは今からあの洋館へ向かい、そこにいる支配者層――おそらくは、かつてこの邸宅を統治していた『ゾンビ』が課す、厳格な『マナーや調度品のルール』に従いながら攻略を進める必要があります」
「……!」
赤城は、背中に電気が走るような衝撃を受けていた。
知性ゾンビと出会ったわけでもないのに、彼女はただ、現場に残された僅かな痕跡と、自身が持つ知識を掛け合わせたロジックでこのエリアの本質を「説明」してみせたのだ。
(私以上の理論主義……! 行き当たりばったりでしかない私たちと違って、彼女は初見で、状況の客観視と分析だけで本質を見抜いたのか。この人は『本物』だ……!)
「素晴らしい分析力です、黄瀬さん」
赤城は、これまでにない確かな希望を感じながら、真剣な表情で言った。
「あなたのような優秀な人が来てくれれば、この先の攻略は一気に現実味を帯びてきます。ぜひ、私たちを導いてください」
「ええ、お任せください。私の脳内には、古今東西のあらゆるデータが蓄積されていますから」
黄瀬は、照れくさそうに小さく微笑んだ。
歩き出す三人の前にスーパーゾンビの唸り声が響き渡り、その声に反応して一斉に物陰に隠れる。
「どうします?」
「どうもなにも、このまま隠れるしかねぇだろ?」
「いえ、こちらの路地から迂回してやり過ごすことができます」
地図を見ながら黄瀬が提案をする。
「す、すごい……」
「俺ら二人の時は、いつも隠れてやり過ごしたもんだがな~、こりゃスゲ~お嬢ちゃんが仲間になってくれたな~……」
感銘を受ける赤城と感心する青山に対し黄瀬は「さ、こちらに」と先導して歩き出した。
廃墟の高級住宅街。その一角に、奇妙なほど美しく手入れされたイングリッシュガーデンがあった。
色鮮やかなバラが咲き誇る庭の中央で、仕立ての良いドレスを纏った一人の老女ゾンビが、優雅にアフタヌーンティーの準備をしている。
その静寂を破るように、庭を囲む立派な生垣が激しく揺れた。
ガサガサガサッ!
「おいあんちゃん、ここを突っ切れば洋館への近道だぞ!」
「青山さん、人の家の生垣を破壊するのは近道とは言いません!」
バリバリと枝をへし折りながら、生垣を力技で突破して現れたのは、青山と赤城の2人だった。
当然、テーブルの老女ゾンビが、ティーカップを持ったままこちらをじっと見つめてくる。
「おう、こんにちは婆さん。いい天気だな」
「こんにちは、じゃないですよ! 完全にゾンビじゃないですか!」
赤城がツッコミを入れた直後、背後の生垣がさらに激しく揺れた。
ガサガサガサッ、ベキィッ!
「きゃっ!?」
遅れて突入してきた黄瀬が、服の裾を引っかけて派手に転倒する。その衝撃で、彼女のポケットから何かが滑り落ち、赤城の足元へと転がった。
「だ、大丈夫ですか黄瀬さん。……これ、落としましたよ?」
赤城が拾い上げたのは、精巧にプリントされた、某アニメのイケメンキャラクターの『アクリルキーホルダー』だった。
それを見た瞬間、自分のポケットを漁り、無いことに気づくと、先ほどまでクールだった黄瀬の顔が、恐怖に染まる。
「あ、あ、あ――――――っ!!! それ、私の『推し』のアクキーです!!!」
黄瀬の絶叫が響き渡った。
次の瞬間、先程までの冷静だった彼女の瞳が爛々と輝き始め、圧を感じるほどのトークが炸裂する。
「ちょっと返してください! それは今期最高のアニメの―――」
「で、 昨今のグッズ市場における―――」
「バッグへの装着性を考慮すれば―――」
「特にこの作画は第3話のあの神作画のシーンを切り取ったもので―――」
「……一体……なにが??」
赤城が訳も分からずに呟き。
「……長げぇな」
青山も腕を組んで端的に呟いた。
2人が引いている中、なぜか老女ゾンビだけは、黄瀬の言葉に興味津々で耳を傾けていた。
その時だった。
突如として世界の色彩が失われ、モノクロの停止空間へと変貌する。
——テレレーン♪
チープな電子音と共に、半透明のシステムウィンドウが出現した。
【イベント発生】
「え!? ここでイベント!?あっ!うごく……」
赤城が驚愕の声をあげる。世界が止まっているにもかかわらず、システムのアナウンス通り、自分たちの身体は自由に動く。相談もできるようだ。
「よぉあんちゃん、これがさっきアナウンスがあった『マルチプレイヤーシステム』ってヤツか? 確かに前とは違うな……」
「ええ、世界が止まっても、私たちは会話ができる……。でも、決定権は私にないみたいです」
「俺もないな……」
「これが……興味深いですね、それにこれは……」
3つの選択肢が浮かび上がる。黄瀬の前で
▶まだまだ語り足りない、さらに語り始める
▶それは、私のではありませんと、うそをつく
▶モノとしての価値を説明する
「ふふっちょうどいいですね、まだ語り足りないと思ってたところですから」
そんな黄瀬の不穏なセリフに赤城と青山は。
「「えっ!!?」」
まだ語るの?と、驚く二人に黄瀬は一番上の『▶まだまだ語り足りない、さらに語り始める』をセレクトした。
世界に色が戻る。
「――つまりですね!!」
選択肢が決定された瞬間、黄瀬の口は止まらずにさらに拍車がかかった。
老女ゾンビは、真剣な眼差しで黄瀬の言葉を聞き入っている。
「……なんか? 興味津々だな?」
青山が気づく。老女ゾンビは敵対する様子もなく、ただじっと、黄瀬を見つめていた。
黄瀬は、老女ゾンビに向き直った。
「……これに興味があるのですか?」
老女ゾンビは、カサカサの手を伸ばし、そっとアクキーを受け取った。そして、不思議な調度品でも見るかのように、光に透かして眺め始める。
「ではもっと説明して差し上げましょう。これが我が国の誇る『オタク文化』の結晶です!」
ここに、前代未聞の『第一イベント:オタク文化講座』が勝手に開講された。
「また始まった……」
赤城が遠い目をする。
「がはは、癖のつえーおもしろい姉ちゃんだ……」
青山が面白そうに近くにあった椅子に座る。
ここから黄瀬による、日本のサブカルチャー市場とキャラクターグッズの歴史に関する講義が30分以上続きまだ終わりそうになかった為、痺れをきらした赤城が「要するに?」と遮るまで、老女ゾンビは一言も発さず、ただ深く感銘を受けたように黄瀬を見つめ続けていた。
『【イベントno1】オタ文化講座』完了
そして黄瀬の脳内に「謎の光景」がフラッシュバックしたが、黄瀬は語りに夢中で気には留めなかった。
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豪華なレッスンルームで、様々な習い事をこなす少女の姿があった。
対面には、厳格そうな教師風の女性が立っており、少女に告げる。
『――お嬢様は、本当に物覚えが良いですね』
少女は何も言わず、無表情のまま、美しく気品のある所作で会釈を返した。
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つづく