ワールドオブぞんび ~ぞんび世界でオレたちだけギャルゲー!?~ 作:しょーもないおっさん
廃墟と化した市街地を、奇妙な3人組が歩いていた。
「いいですか、お二人とも。今日の目的は『文化のパラダイムシフト』です。知性ゾンビにサブカルチャーという名の光を注ぎ込み、その魂を内側からハッキングするのよ」
「要するに、ただの趣味の押し付けだな」
ハキハキと早口で語る黄瀬蘭に、赤城がツッコミを入れる。
その横では、青山が「へえ、面白そうじゃん。おれぁそういうの嫌いじゃないよ」とにへらと笑っていた。
彼らの目的地は、ガラスの割れた衣料品店跡。
だが、今日の彼らには、いつもと違う『お供』がいた。
トコトコ、と上品な足取りで3人の後ろをついてくる、仕立ての良さそうな服を着た知性ゾンビこと老女ゾンビである。
「グガァァァァ!」
路地裏から、狂暴なスーパーゾンビが飛び出してきた。
赤城が「ひっ、出た!」と身を構えた瞬間。
老女ゾンビが、すっ……と片手を挙げた。
「…………」
無言の威圧。それだけで、襲いかかろうとしたスーパーゾンビは、そのまま一目散に逃げ去っていった。
「これが、知性ゾンビがもつという命令権ですか、興味深いですね」
一連の流れに興味津々な黄瀬。
「知性ゾンビが持つ命令権って結局なんなんでしょうね?これだけはまったく予想がつきませんよ……」
赤城は顎に手を当てて考えるが、答えはでなかった。
「がはは、ばあさん、頼りになるねぇ!これからもよろしくな!」
青山は相変わらず、能天気に笑っていた。
衣料品店跡の店内は、埃を被っているものの、ステージ衣装や一風変わったドレスがそのまま残されていた。
黄瀬が「さて、コスプレふさわしいのは……」とハンガーに手をかけた、その時。
——テレレーン♪
脳内に直接響く、お馴染みの効果音。
ピタリ、と世界から音が消え、空気の揺らぎすらも静止する。
3人全員がこの「停止した世界」と、空中に浮かび上がるテキストボックスを明確に認識していた。
【イベント発生】
選択肢
▶老女ゾンビに似合う、コスプレ衣装を手に取る
▶子供服を手に取る
▶赤城と青山に似合いそうな女物の服を手に取る
「はぁっ!?」
赤城が即座に叫んだ。
「不穏な選択肢が混ざってるぞ!? なんで私とおっさんが女装なんだよ!!」
パニック状態になりいつもの冷静さが無くなった赤城が高々に叫んだ。
「落ち着きなさい。女装イベントとはギャルゲーにおいて、伝統芸能――」
「伝統をこんなところで引き継ぐな! お願いだから上にしてくれ! というよりも攻略なら上だろーが!!」
青山は選択肢を見上げて、「俺のサイズは……あるなぁ?最近気づいたが、腹がへっこんだからなぁ、どれでも行けそうだぜ!」と暢気に顎を撫でている。
「なに乗り気になってんの!? 楽しもうとするなよ!!」
なんとか女装だけは避けたい赤城の必死の形相に押され、黄瀬はふふっと笑みを浮かべた。
「冗談ですよ。布教のために来たのに横道になんていきませんよ、……まぁいずれ……」
「なんか怖いこと言わなかった!?」
赤城を無視し黄瀬が【▶老女ゾンビに似合う、コスプレ衣装を手に取る】をポチッと押す。
次の瞬間、世界が再び動き出した。
黄瀬が選んだのは、気品ある黒を基調にしつつも、どこかファンタジーの女帝を思わせる華やかなコスプレ衣装だった。
簡易フィッティングカーテンの向こうから、老女ゾンビがトコトコと出てくる。
「これは……!」
赤城が思わず声を漏らした。
「似合いますね。というか、普通に似合いすぎてますね……」
「おっ、こりゃあ貫禄があるねぇ! カッコいいじゃねぇか、ばあさん!」
青山がパチパチと手を叩く。老女ゾンビは自分の衣装を少し不思議そうに見つめていたが、気のせいか、その口元が微かに綻んだように見えた。
「とても素晴らしい……!実際にはありえない装い、だからこそ価値があり輝くのです!」
それを見た青山が、ニカッと悪ガキのように笑った。
「やっぱ、おもしろそーだな……よし、じゃあ俺も……乗るしかねぇな!」
「は? ちょっと青山さん、何言って……」
「これなんかどうだあんちゃん! ほら、この怪しいマント!」
「待て! 私は着ないぞ、絶対に……やめろー!」
――五分後。
そこには、どこにあったのか、大きな黒い目に、全身パツパツの無機質な灰色。そんな異様な全身タイツ姿の着ぐるみを着た青山と、
無理やり着せられた真っ赤な全身タイツの衣装で頭を抱える赤城、そして「ふふ、いい画角ね。実に見応えがあるわ」といつの間に手に入れたのか、
高級カメラを構える黄瀬の姿があった。
「なんで私がこんな衣装を!?もっとマシなのはなかったのか!!」と絶叫する赤城。
そんな3人のドタバタバカ騒ぎを、老女ゾンビは見つめていた。
「あははは! あんちゃん、よく似合ってるよ!」
「うるさい! 脱ぐからな! 私は今すぐこれを脱ぐからな!……くっ脱げない……」
『イベントNo.3:コスプレ体験 完了』
そんな男二人の声を遠くに聞きながら、そして黄瀬の脳内に「謎の光景」がフラッシュバックした。
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豪華絢爛なチャリティサロン。
綺麗に仕立てられたドレスを着た、妙齢の女性が立っている。
周囲を取り囲むのは、同じく着飾った女性たち。
『そういえば、例の貢献活動の支援が―――』
その言葉に対し、社交辞令の笑みを浮かべていた。
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「……っ」
黄瀬はハッと我に返った。
「今のは?……全てが決められた生き方。そしてこのサブカルチャーに対しての貪欲さ……っ!そうですか……わかりましたよ、つまり彼女は大衆文化を抑制されていたのですね。なんて惨い」
「黄瀬さん?」
ようやっと脱げたのだろうかいつものスーツ姿の赤城が、怪訝そうな顔で覗き込んできた。
「急に黙ってどうしたんですか。……ははーん、本当は撮影ではなくコスプレしたかったんでしょう?」
「……」
「お!なんだよお嬢ちゃんも着たかったのか?よっしゃ任せろ!いいのを見繕ってやるよ、あんちゃんのでコツはつかんだからよぉ、がはは」
変な勘違いをした赤城と、それに乗る青山に対して黄瀬は。
「……そうですね……実は私も着てみたかったんです、青山さん、お願いできますか?」
「おう!任せろや!!、うし、あんちゃんも手伝え」
「えっ!?私もですか??」
「いいから来い」と赤城を引っ張り歩き出す青山。そんな二人の後を追う黄瀬。
衣料品店の騒がしさはいつまでも続いた。
つづく