ワールドオブぞんび ~ぞんび世界でオレたちだけギャルゲー!?~ 作:しょーもないおっさん
◇◇◇ 現地民視点
あの忌まわしい三人組が、突如として姿を消してから数日が経った。
かつては富裕層の象徴であり、今や最悪の知性ゾンビの根城と化していた高級住宅街に、数人の影が足を踏み入れる。このエリアを必死に生き抜いてきた現地生存者たちの探索班だった。
「……本当に、消えたのか?」
隊長の男が、信じられないといった様子で周囲を見回す。
事の発端は、見たこともない奇妙な連中がこの街に現れたことだった。あろうことか、彼らは人類の天災たる知性ゾンビに接触するという命知らずな暴挙に出たのだ。
生存者たちは激怒した。彼らのテリトリーである高級住宅街から、物資を強奪していく三人組を討伐しようと、何度も奇襲を試みた。しかし、なぜか三人組の周囲には常にスーパーゾンビや知性ゾンビが配置されており、手が出せない。
それどころか、奴らは恐怖の象徴であるゾンビに服を着せたり、謎の儀式を行ったりと、やりたい放題していたのだ。生存者たちの怒りと恐怖が最高潮に達し、全戦力を注ぎ込んで決戦を挑もうとした、その時。
天から見たこともない巨大な光の柱が降り注ぎ、天災たる知性ゾンビと、疫病神の三人組を一瞬で消し去ってしまった。
「あれは……神の裁きだ。間違いない。あの悪魔どもは、神の怒りに触れて滅ぼされたんだ……!」
そのあまりの光景をみた者たちは、その場に跪き、祈りを捧げ始める生存者たち。
後に彼らの間で「光の審判」と呼ばれる新たな宗教が設立することになるのだが、それはまた、別の話である。
*** その頃――観客席では。
■ルート3観測エラー
そこは、すべてが純白で満たされた神聖にしてふざけた空間。
上位存在である神は、ウキウキ気分で巨大モニターの前に座っていた。
今回からはさらに快適に観戦しようと、特注のリクライニングシートを新調し、巨大スピーカーを配置。手元にはいつものポップコーンとコーラ、さらにはポテトチップスまで完備して準備を万端にしたのである。
神は愉快そうに爪先を鳴らし、お気に入りである赤城と青山の映像を再生しようとした。
「あれ? おっかしいな?? 映らない? あれれ???? なんで?????」
リモコンをどれだけ叩いても、画面は砂嵐のままだ。神の顔から余裕が消え、疑問符で満たされていく。
「おかしい……ボクの万能な力が届かないなんて、あるはずがないのに」
原因究明のために世界のシステムログを逆上って調べ始めると、どうやら「ルート2」の最後の転送処理に異常が発生していたことが判明した。
「ここだ! 二人の元に光の柱が降り注いだ、この瞬間!……あー、なるほど。いつもの転送の光じゃないや。なんかゴールドの輝きが混じってる。……まいったな~、バグだよこれ。ボクにはどうしようもないや」
お手上げ、とばかりに神はあっさりと匙を投げた。
「残念だけど、諦めかな~」
しょぼくれながら、手元のポップコーンを口に放り込む。
■ ルート4:高級住宅街
「じゃあ、気を取り直して次の映像にいってみよう!」
神が画面を切り替えると、今度は鮮明に高級住宅街が映し出された。そこには、いつもの二人に加え、新たなプレイヤーの姿がある。
【マルチプレイヤーシステム起動】
「ふふっ、システムがアップデートされて、他のプレイヤーの選択肢停止空間が見えるようになったから、二人とも驚いてるな~。でも、割とすんなり受け入れてるし、面白くないな~」
【黄瀬 蘭 登場シーン】
画面には、黄瀬蘭が映る。
「おっと、赤城くん! なんだいなんだい、鼻の下を伸ばしちゃって! キミにはそんな普通の男の子のリアクションは求めてないよ! まったく、そんなんじゃ一流のコメディアンとは言えないよ」
勝手な期待を裏切られて、神は一人でブツブツと憤慨している。
【黄瀬 蘭 自己紹介シーン】
「黄瀬ちゃんか……あの子をこの世界に引っ張ってきた時、めちゃくちゃメンドイ子だったな~。なんていうのかな、重箱の隅をつつくっていうか、『この世界の解像度とポリゴン数は?』とか、な~んかよくわからないこととか、それ関係ある?ていう細かい設定を根掘り葉掘り聞いてきてさ、相手するのが本当に面倒くさかったんだよね~まったく神様にはマニュアルないのにさ~」
画面の中では、黄瀬が自己紹介を終え、青山が「こっちのあんちゃんが赤城……赤城のあんちゃんだ!」といかにも適当な赤城の紹介をしていた。
「ンンン? あはははは! 青山くん、キミ、まだ赤城くんの名前を正確に憶えてなかったのかい!? しかも赤城くん、顔を真っ赤にして『紅一です!! 赤城紅一!!』って怒鳴り散らして……いいよいいよ、キミはそうこなくっちゃ!」
神はリクライニングシートを揺らして爆笑した。
【一話のあと】
最初のイベントが発動し、お嬢様ゾンビ(老女)を前に、黄瀬がテンプレ全開の考察を披露し始める。
「あはは! なんだい黄瀬ちゃん、キミも随分と愉快な脳みそをしてるじゃないか! いいね~、ちょっとキミのことが好きになったよ。今後に要期待だね。それにしても今回のプレイヤーたちはかなりアタリかな??」
【二話のあと】
黄瀬が「これはいわゆる、ジャンルで言うところの――」と、自身のサブカルチャー知識を大音量かつ早口のマシンガントークで布教し始めたシーン。
「サブカルオタクって、また見た目のギャップがすごいね~! でも、ボク的には大アリだよ!」
神は画面に向かってグッと親指を立てた。
「あはは!『布教こそが正義』って、めちゃくちゃだよこの子、最高だね」
「ぶははは! 赤城くん、もはやいつものバカ丁寧な言葉すら崩壊して、ただのキレ芸ツッコミになってるじゃないか! やっぱりキミのツッコミは聞いてて飽きないよ」
神はご満悦でコーラをすする。
【三話のあと】
画面には、なぜか全身タイツを着用し、宇宙人のアレと化した青山と、有名すぎるセリフしか喋れなくなった赤城の姿が映し出されていた。
「あはははは! ヒー、お腹痛い、死ぬー!! なんで高級住宅街なのにこんな衣装があるんだよ? あはははは!どこに需要があったのさぁ~」
神は涙を流して机を叩き、爆笑が止まらない。
【四・五話のあと】
イベントが完了し、ゾンビたちが光となって消滅していく。
「あちゃー、赤城くん、最後の最後で気づいちゃったか~。そうなんだよ、黄瀬ちゃん、最初から最後まで攻略じゃなくて、自分の好きな作品の布教しかしてないんだよね~。あはは」
ひとしきり笑い転げた後、神はふと画面のディテールに目を留めた。
「うん、いやー、今回も大満足、たっぷり笑わせてもらったよ。……ん? いや、待てよ? 赤城くんとおっさん、最後にルート2の映像で見た時よりも、なんだかやけに体が引き締まってような気が……」
神は少しだけ首を傾げた。
「……ま、いっか! 気のせい気のせい!」
神は考えるのをやめ、次のポップコーンに手を伸ばした。
――第三・四章・幕間 終