ワールドオブぞんび ~ぞんび世界でオレたちだけギャルゲー!?~ 作:しょーもないおっさん
「ふぅ……」
静まり返った資材置き場で、赤城がコンクリートの床に座り込み、大きく息を吐いた。
つい数十秒前まで、自分たちを「獲物」として狙っていたスーパーゾンビたちの気配は、もうどこにもない。
女警官ゾンビは、自分の震える両手をじっと見つめていた。
初めて自分の意志で、他者に命令を下した。その事実に、声は出ないながらも、彼女自身が一番驚いているようだった。
そんな彼女の前に、青山がドタドタと歩み寄る。
そして、腕組みをして満足そうに何度も深く頷いた。
「かっこよかったぜ。やるじゃねぇか!」
青山はニカっと笑いながら、親指を上に立ててサムズアップした。
「確かにかっこよかったですね……こうビシっ!て決めて」
赤城が笑いながら、泥だらけのスーツの膝を払いながら立ち上がる。
「そうね。あの時のポーズ、右手を突き出し、顔面へビシッと指差しは90年代で屈指の名作といわれたあのアニメの―――」
「黄瀬ちゃんよぉ、細けぇのはいいんだよ」
青山が黄瀬の語りを片手で制しながら、ズボンのポケットに手を突っ込んだ。
「さてと。一人前になったってことで、『コイツ』を渡すときが来たって事だな」
青山がゴソゴソと懐から何かを取り出そうとした、まさにその瞬間。
――テレレーン♪
「うおっ、またですか!?」
本日二度目のシステム警告。
赤城の絶叫とともに大気が凍りつき、世界から色が失われた。
ポケットから何かを取り出しかけた青山のフォームのまま、時間はピタリと停止する。
【イベント発生:???】
モノクロの空間に、お約束のシステムウィンドウ。
提示された三択は、やはり青山の前に浮かび上がっていた。
▶ 夜なべして作った、青山印の謎のロゴ入りリーダー認定腕章
▶ 即席で作った、赤城印のオリジナルの団体旗
▶ かくれんぼで有利になる、黄瀬印がプリントされた迷彩柄のマント
「ちょ、ちょっと待ってください!!」
停止した世界の中で、赤城のツッコミが限界突破した。
「上も、きになりますが!真ん中!これなんですか?赤城印って!いや、下の黄瀬印も気になりますが、いや、やはりその前に青山さん、『夜なべして作った』ってなんですか!?僕たちこのエリアに来てからずっと一緒に行動してましたよね!?」
「……フッ。男のポケットには、時にロマンが詰まっているものよ、赤城さん」
黄瀬が静かに瞳を光らせる。
「おそらく青山さんは、私たちが寝静まった夜、月明かりを頼りに、裁縫セットでチクチクと縫い上げていたのね。いつか成長し自分を乗り越えていったときのために、
そう!いわばこれは!!熱い師弟愛……!この光景が彼らキャラクターたちの視点なのね!!」
「……違うと思いますけどね」
そんな外野の騒ぎをどこ吹く風と、青山は迷わず一番上の選択肢を叩き込んだ。
▶ 夜なべして作った、青山印の謎のロゴ入りリーダー認定腕章
世界に、ドッと極彩色の現実が戻る。
「受け取りな、お前さんにやるわ」
青山がポケットから取り出し、ひょいと放り投げたのは、赤い布地に黄色いフェルトで妙なヘンテコなマークが縫い付けられた、不格好な手作りの「腕章」だった。
裁縫の技術はお世辞にも高いとは言えず、縫い目はガタガタ、糸の端がほつれて飛び出している。
だが、それを受け取った女警官ゾンビは、ただ一心にその赤い布を見つめた。
「卒業だ」
青山はぶっきらぼうにそう言うと、ふいと背を向けた。
女警官ゾンビは、自分の細い腕にその赤い腕章を当ててみる。
そして、ボロボロの制服の袖に、不格好だけど確かな温かさを持った、真新しい「リーダーの腕章」が巻かれた。
彼女は、帽子を脇に抱え、胸をピシッと張り、青山に向けて、今までで一番美しい敬礼をして見せた。
その瞬間、頭上の空から、優しく、眩い光の柱が降り注いだ。
【イベントno.4 卒業 完了】
光は女警官ゾンビを包み込んでいく。
その身体が静かに、粒子となって解けていくのを、三人、そして青山の脳裏に、すうっと冷たい風と共にある光景が流れた。
~~~
そこは、雨がしとしとと降る、平日の交差点。
白いカッパを羽織り、警察の制服を纏った彼女が、オドオドしながら赤と白の旗を振っていた。
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光が弾け、廃倉庫の床には、もう彼女の姿はなかった。
周辺を漂っていたゾンビたちの気配も、嘘のようにすっきりと消え失せている。
「……行っちゃいましたね」
赤城が、静寂の戻った資材置き場を見つめながら、ぽつりと呟いた。
「ええ。師弟愛による、素晴らしく完璧なハッピーエンドだわ」
黄瀬が胸元で手を合わせ、小さく息を吐いた。
そんな中、青山だけはいつも通りに頭を掻いていた。
「そういえば青山さん、さっきの腕章にあった変なマーク、何だったんですか?」
赤城がふと疑問を口にする。
「黄色いフェルトはわかったんですけど、他はなんかよく見えなかったんですが」
「んん?へっ、内緒だ」
青山がニヤリと不敵に笑う。
「……黄瀬さん、著作権的にはどうですか?あぶなくないですか? どこかのスポーツブランドとか、有名なロゴとか使われていませんでした?」
黄瀬は真面目な顔で腕を組み、顎に手を当てた。
「そうね。もしあれが某世界的飲料メーカーのロゴを使っていたとしたら、私たちは次のエリアへ行く前に、法務部という名の最強の追跡者に抹殺される可能性があるわ。訴訟費用は神が払ってくれるかしら?」
「え!?ここ異世界ですよね?そういう、リアルに不安にさせるのやめてもらえます!?」
赤城の悲鳴のようなツッコミが響き渡る中。
彼らの足元から、今度は三人自身を包み込むように、眩い光の柱が立ち上った。
「お、今度は俺たちの番か」
「ちょっと、心の準備が! まって、まって、ほんと訴訟とか大丈夫!?」
「さあ、次の物語の開幕よ。次はどんなジャンルが待っているのかしら……!」
光が視界を覆い尽くし、三人の意識は、新たなエリアへと引き込まれていった――。
そして、あとには警官帽だけが残っていた。
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