ワールドオブぞんび ~ぞんび世界でオレたちだけギャルゲー!?~ 作:しょーもないおっさん
「もう無理だって言ってるだろおおおおおおおッ!!」
朝靄の立ち込める河川敷に、赤城の魂の絶叫が木霊した。
筋肉は千切れ飛んでいる気がして、胃液は逆流し、精神は限界を超えて摩耗している。これ以上、この狂った特訓に付き合っていたら、生き返る前に過労死してしまう。
前のめりに倒れこんで、体全体が命の危機に対し警報が鳴り響く、そんな赤城の脳内で、三度目の音が鳴り響いた。
――テレレーン♪
「ああ、なんか、鳴ってる~、でももう立ち上がる気力も無ければ、顔も上げたくない……」
世界から色が失われ、時間がピタリと停止する。今回の選択肢も、倒れる赤城の目の前に無理やり浮かび上がった。
【イベント発生:???】
▶ これ以上は本当に危ないと「もう無理です!」と逃亡する
▶ まだだ!!まだ、俺は逝ける!!!とさらにやせ我慢。BADEND直行
▶ 河原の向こうに巨大なボールを見つけ、玉乗りに挑戦する
「真ん中!! 『逝ける』の漢字が物理的に死ぬ方じゃないか!つーか、BADEND直行って書いてるじゃん。誰が選ぶか、んなもん!却下だ。却下。 あと下!なんでさっきのサッカーから地続きで今度はサーカスが始まろうとしてるんだよ! 巨大なボールってなんだよ、悪意しか感じられないわ!」
「あら、赤城さん。ここで敵前逃亡を選択するなど、名作美少女ゲームの歴史において最も忌むべき『ヘタレ主人公ルート』への直行便ですよ」
モノクロの世界で、黄瀬は心底もったいないというように、ため息混じりに美しく首を振った。
「ここはあえて真ん中の限界を突き進んで壮絶に倒れ伏し、夕暮れの保健室にて、運命のヒロインと涙の邂逅を果たすのが、
選ばれし主人公のあなたに課せられた絶対のセオリー――」
「だから!長いって!!そもそも夕暮れの保健室でヒロインにって、まずヒロイン何処だよ!?肝心のヒロインがいねぇんだよ!!倒れたらそのまま墓場へGOなんだよ!!!」
「がはは、あんちゃん、男なら前のめりってな」
「逝くなら、あんた一人で逝けや!」
壮絶なツッコミを行い続けるなんだかんで元気な赤城であった。
そして血眼になりながら、一番上の選択肢を渾身の力で叩き潰した。
▶ これ以上は本当に危ないと「もう無理です!」と逃亡する
ガチ、と世界に極彩色が戻る。
「ちくしょう!!やってられっか!俺は逃げるぞ!!」
赤城はなけなしの全ての力を振り絞り、かつてない速度で立ち上がり、反転し、いつの間にか交換しておいた、高性能ランニングシューズの性能を極限まで引き出し、土手の向こう、生い茂る葦の草むらへと猛然と飛び込んでいった。
まさに、お手本というべき逃走劇であった。
ザザザササササササッ!!!と、草をかき分ける音が遠ざかっていく。
静まり返る河川敷。
残された青山は、ポリポリと顎の無精髭を掻きながら、赤城が消えた草むらを眺めた。
「……逃げたな、あんちゃんのやつ」
まだあんなに元気じゃねぇかと青山は黄瀬に話しかけ。
「ええ。私の脳内シミュレーションでは、昨晩の果てなき猛特訓の時点で限界を迎え、夜逃げを図るはずだったのですが……。
予想より丸一日も戦線を維持するとは、現代の闇に鍛え上げられた『社畜』というクラスの防御力、恐るべしですね」
黄瀬が手帳型のデバイスに何事かメモしながら、冷静に頷く。
ピピッーーーーーーーーー!!!
しかし、二人のそんな冷めた空気などお構いなしに、甲高いホイッスルが鳴り響いた。
見れば、トレーナーゾンビが、赤城が逃げ去った草むらに向かって力強く右腕を突き出している。
その瞳には、一筋のブレもない。
ほかと同様にゾンビは喋らない。だが、その猛烈な足踏みと、ストップウォッチをカチカチと連打する親指が、なおも世界に向け発信し続けていた。
「あー、トレーナー、まだやる気満々だわ」
青山が苦笑いしながら、草むらを指差す。
「しょうがねぇ。あのままだとあんちゃんが、スーパーゾンビの群れに突っ込んで別な意味で逝っちまうからな。黄瀬のお嬢ちゃん、わりーが探すのを手伝ってくれや」
「そうですね。一度始まった『地獄の特訓』からは、世界の果てまで逃げ回っても決して逃れられないのが王道のルール……。
さあ青山さん、命がけの『包囲追撃戦』の開幕です!」
これもイベント分岐のフラグ回収よ。さあ、鬼ごっこというなのイベントの始まりね」
トレーナーゾンビを先頭に、青山と黄瀬が赤城の追跡を開始した。
ピピピッ! ピピピッ!と、トレーナーゾンビは無言のジェスチャーとホイッスルで、スーパーゾンビに指示をだし、なぜか青山と黄瀬にまで捜索指示を出した、二人はそれに「はいはい」と適当に応じながら、赤城の消えたエリアへと足を踏み入れていくのだった。
【イベントno.3 逃亡 完了】
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3人がそれぞれ行動し始めたとき、ひたすら草むらを激走する赤城の脳裏に、すうっと冷たい風と共に、ある光景が流れ込んできた
それは、夕焼けに染まる学校の校庭。
色褪せたジャージに身を包んだ男性教師が、バテて足を止めそうになっている生徒たちの横を、猛烈な勢いで並走している。
教師は、自らも汗塗まみれになっているが、それでも誰よりも前を走り、口に咥えたホイッスルを激しく吹き続けて先導していた。
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「ハァッ……ハァッ……知るか、そんな熱血メモリー……ッ! 俺は絶対に、もう、走らんぞ……ッ!!」
が、当の赤城には、やっぱり感動に浸っている暇など一秒すらなかった。
彼はただひたすらに、ゾンビトレーナーのホイッスルから逃れるために、草むらの奥へと身を隠すのだった。
つづく。