ワールドオブぞんび ~ぞんび世界でオレたちだけギャルゲー!?~   作:しょーもないおっさん

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ルート1 第3話

「……つまり、世界が灰色で止まって、そしたら目の前にピンクの三択画面が出た、と。そういうことですか」

 

廃墟となった雑居ビルの陰。赤城は、このおっさん飲み過ぎで幻覚みたんじゃなかったのかと頭の片隅で思いつつも、気になるのは3択画面という単語であった。

隣で『純米大吟醸』のボトルを大事そうに抱える青山を見つめていた。

 

地上に出てから数時間が経過している。

先ほど、スーパーゾンビを文字通り「一瞥」で退け、青山の好みの酒を差し出してきたOLゾンビ。彼女が去った後、青山が口にした「また三択が出た」という戯言が、なんとなくこれをただの戯言として切り捨ててはいけない、と赤城の脳内では警鐘が鳴っていた。

 

「そうそう。最初の時はなんか茶色?セピア色だっけかになっただけだったんだけどよぉ。さっきは世界が白黒になってよ、頭の中で『テレレーン♪』ってマヌケな音がしてさ。いや、音は前回も鳴ってたんだけどな。それにボタンが浮いてたんだよ。いやぁ、自慢の美声を披露するって選択肢も捨てがたかったんだがなぁ、やっぱり酒には勝てんわ」

「……」

 

赤城は頭痛をこらえるように眉間を押さえた。

(……おかしい。やはり何かがおかしい……)

 

神と名乗る自称【観客】の言葉。

『今までの奴らは勘違いしていた』

 

地下シェルターのリーダーの言葉。

『知性ゾンビは、人類に対しての並々ならぬ殺意を持った天災だ。手を出すな』

 

だが、自分たちが目撃している現実はどうだ。

襲いかかってくるスーパーゾンビは、確かに「災害」そのものの狂暴さだった。しかし、あのOLゾンビはどう見ても、青山という「個」を認識し、その好みに合わせて「贈り物」を持ってきた。しかも青山が注いだ酒の返杯まで受け取ったのだ。まるで、意識がある人のように。

 

(もしも、過去のプレイヤーたちが……現地の生存者と先に出会い、彼らの言う通りに『あのゾンビたちは危険だ』と認識して、防衛のために『討伐対象』として攻撃していたとしたら?)

それは『最もしてはいけない行動』だったのではないか。

 

(いや、でも……そんな単純な話か? 最初の遭遇で恐怖心のあまり、攻撃すらできずに逃げ出したプレイヤーだっていただろ。現に俺だってビビって動けなかった。ここに何人送り込まれたかは知らないが、一人や二人じゃないはずだ。そのうちの何人かは、無傷で逃げ延びていなきゃおかしくなる。なのに、全員が全滅……?)

考えれば考えるほど、世界の歪な構造が思考を泥沼に引きずり込んでいく。

 

「おいおい、あんちゃん。そんな難しい顔してると、若いうちからハゲるぞぉ?

ほら、あの子ならあそこにいるぜ」

 

青山の呑気な声にハッとして視線を上げる。

路地の先、ひっくり返った軽自動車の影から、

じっとこちらを見つめている影があった。

頭の右半分が損壊し、血に汚れたリクルートスーツを着た、あのOLゾンビだ。

 

「また来たみてぇだな。……よっしゃ、ちょっと行ってくるわ」

「あ、ちょ、青山さん! 危険ですって!」

 

赤城の制止も聞かず、青山は泥のついたスニーカーで、のしかかるような、

しかしどこか余裕のある足取りで歩みを進める。

その距離が、わずか三メートルに達した、その瞬間だった。

「……んん?ありゃなんだ?」

素面のせいもあってか、青山の鋭い視線に、

彼女の胸元にある「何か」が映り込んだ。

 

——テレレーン♪

 

青山の脳内に3度目の音が鳴り響いた。

「お!きたきた♪」

青山は半ば「待ってました」と言わんばかりの態度で破顔する。

直後、世界から全ての「動き」が消失した。

生ぬるい風がピタリと止み、宙を舞っていたレジ袋が不自然に固定される。

遠くで聞こえていたスーパーゾンビの咆哮も、完全に遮断された。

世界の色彩がサーッと引いていき、

明暗だけが残るモノクロームの空間へと変貌する。

 

青山の視線の先、

虚空の空間から蛍光ピンクの半透明ウィンドウが大きくポップアップした。

 

【イベント発生】

 

OLゾンビの頭上に『??』という不気味な文字が浮かび上がり、その下に、くっきりと三つの文字列が浮かび上がる。

 

▶ 相手をよく見て、首から下げているモノに目が引かれた

▶ よく見た結果、ゾンビだったことを思い出し即座に逃げ出した

▶ 探索中に蚊に刺され痒いから、刺された箇所を注視する

 

見ると、青山は顎に手を当てて、真剣に画面を見つめている。

 

「確かになぁ、さっきからこの、左足のふくらはぎのあたりが蚊に刺されて痒くてなぁ……でもよ今一番、気になるのはその首から下げているモンだ」

青山が迷いのない手つきで、空間に浮かぶ

 

▶ 相手をよく見て、首から下げているモノに目が引かれた

 

ポチッ、と、これまたマヌケな電子音が響く。

 

その瞬間、世界に激流のような色彩が戻ってきた。風が吹き抜け、レジ袋が地面に落ちる。

 

青山は、迷わずに一歩を踏み出し、OLゾンビの目の前に立った。

 

OLゾンビはただそこに突っ立っているだけである。

襲ってくる気配も、逃げる気配もない。

青山は彼女の首から下げられているモノに目を向けた。それは、泥と凝固した血液でドロドロに汚れてはいたが、肝心な名前と顔写真は十分に判別可能な、プラスチック製の『社員証』だった。

 

青山は首から下げている社員証を見て、

ただ

「へぇ~」、と呟き、

そして、そこに書かれた生前の彼女の本当の名前を、静かに口にした。

その瞬間。

OLゾンビの肩が、ぴくりと震えた。

 

「反応しましたよ!?」

後ろに取り残されていた赤城が、何が起きたかも分からぬまま、

一人で大騒ぎしている。

 

そんな赤城を他所に、青山は顔を綻ばせて言った。

「おっ、当たりか。なら身なりも、もう少し整えりゃ俺の好みばっちりだな」

 

【イベントno.3『呼名』完了】

 

頭の中に響く無機質なアナウンスと同時に、青山の脳内に、濁流のような「記憶の断片」がフラッシュバックした。

 

 

~~~

「お父様は、あの高名な教授ですよね」

豪奢な大理石のテーブルの向こう側、厳格な面接官たちが、ずらりと並んでリクルートスーツの彼女を見つめている。

「はい」

彼女は、淀みのない所作で頭を下げ、どこか作り物めいた、左右対称の笑みを浮かべた。

「素晴らしい。さすがはあの教授のご息女だ。我が社としても、貴方のような方を迎えられるのは光栄ですよ」

「はい。がんばります」

~~~

 

 

「……」

青山は小さく息を吐き、社員証から目を離した。

目の前のOLゾンビは、トトト、と後ろに下がると、

そのまま廃墟の奥へと消えていった。

 

「青山……さん……?」

赤城が、呆然としながら歩み寄る。

 

青山は自分の頭をガリガリと掻きながら、ボソリと呟いた。

「まったくよ……」

 

「今回は何が見えました?」

赤城は率直に尋ねた。何か、決定的な手がかりを掴んでいる確信があったからだ。

 

「ん? ああ、今回はな―――」

青山は、見たものをいつもの調子で簡単に話すと、そのままぶらぶらと歩き出した。

 

その話を聞きながら、赤城は、去っていったOLゾンビのいた方向を見つめ、

確証はないがある仮説に辿り着いていた。

(……やはり、そうなのか? あのOLゾンビは、『未練』で動いている?

そして神の言う依頼とは、ゾンビたちの行動を読み解き、正しい選択肢を選ぶこと……なのか?)

だが、すぐに赤城の思考はブレーキをかける。

(いや、何が正解なのかも明示されていないんだ。本当にこれが『正しい』のかどうか、誰にもわからない……。

今回も、前回も、あれで正しいと一体誰が証明できるって言うんだ……?)

答えのない問いに頭を悩ませながら、赤城は前を歩く背中に声をかけた。

 

「青山さんは、例の依頼やこの世界について、何か気づいたことや、わかったことはないですか?」

 

青山は振り返りもせずに言った。

「わからん! でもよ、あの子については確実にわかることはあるぜ。

そりゃな、名前を呼ばれるのが好きなんだよ」

 

「名前を?……どうしてですか? どうしてそう言い切れるんです?」

 

青山はそこでようやく立ち止まり、瞳を輝かせて笑った。

「ん? なんとなくだ! なんとなく! 俺くらいになりぁ経験でわかるんだよ。

ガハハッ!」

 

「……ハァァァ!!?」

赤城の絶叫が、荒廃したビル街に虚しく響き渡った。

 

つづく

 

 

 

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