ワールドオブぞんび ~ぞんび世界でオレたちだけギャルゲー!?~ 作:しょーもないおっさん
「はぁ……はぁ……ふぅっ」
生い茂る葦の草むらに身を潜め、赤城は泥だらけの膝を抱えて座り込んでいた。
遠くから、かすかにピピィー……と追っ手のホイッスルの音が聞こえるが、ここまで来れば見つかりはしないだろう。
ようやく訪れた静寂の中で、ドクドクと波打つ自分の心臓の音だけが響いていた。
冷えていく汗が体にまとわりつき、急に、ひどく惨めな気持ちが込み上げてくる。
「何やってるんだ、俺……」
ぽつりと言葉が漏れた。
ゾンビ世界に飛ばされ、生き返るためとはいえ、ギャルゲーみたいなシステムに振り回される日々。だが、今自分がやっていることは、元の世界にいた頃と何が違うのだろうか。
――「ああ、そういえば……いつもきつくなると、楽な方に流されてるってアイツに言われたな」
脳裏をよぎったのは、とあるセリフだった。
「……ハーフマラソンで上位、か。ははっ、よくあんな大見得切ったもんだな」
自嘲気味に笑い、履いているランニングシューズを見つめる。
結局、今までどおり、自分は何も変わっていない。そう思い知らされた、まさにその時だった。
ガサリ、と目の前の草むらが割れた。
「!?なんだ……」
心臓が跳ね上がる。
そこに立っていたのは、ボロボロのジャージを纏った、あのトレーナーゾンビだった。
見つかった、またあの地獄へと逆戻りかと、赤城は恐怖に身をすくませ、お仕置きのホイッスルを覚悟して目を瞑った。
――だが、ホイッスルは鳴らなかった。
恐る恐る目をあけると、トレーナーゾンビは赤城を怒鳴りつける風でもなく、ただじっと見つめていた。
そして、無言のまま、赤城に背を向けてゆっくりと走り出したのだ。
ザッ、ザッ、と等間隔で土を踏み締める音。
ゾンビは走りながら、大きく、正しく、腕を振ってみせた。
それは、疲れ切った教え子を引っ張るように、優しく、励ますような、ランニングフォームだった。
「あんた……」
言葉はない。それでも、その背中から、痛いほどの熱量が伝わってくる。
――テレレーン♪
ここで、世界から色が失われた。のシステム音。
完全に静止したモノクロの空間に、3択ウィンドウが浮かび上がる。
【イベント発生:???】
▶ 肩をすくめて、最後まで付き合う
▶ 後ろを向き全力ダッシュで逃げる
▶ 「川って泳げるんですよ」と告げ、飛び込む
「……フゥッ」
赤城の口から、自然と苦笑が漏れた。
「一番下……こんな状態で川に飛び込ませて足でも攣ったらどうするんですか?溺死でも起こさせる気ですか、まったく。でも、選ぶまでもないですね、今回はもう選択肢は必要はありませんよ」
草むらの影から、いつの間にか追いついていた青山と黄瀬が、ぬるりと首を動かしてこちらを見ていた。
「お、あんちゃん。いい面構えになったじゃねぇか」
「ええ……。己の限界に絶望し、一度は泥を舐めた主人公が、師の無言の背中に導かれて再び大地を蹴る……。
これぞ泥にまみれた敗者が栄光へと這い上がる、至高の『復活劇』です!
ここで立ち上がらなければ、漢ではありません! 走り抜けてちょうだい、赤城さん!」
「ええ、行ってきますよ。……青山さん、黄瀬さん、もうちょっとだけがんばってみます」
赤城は迷わず、一番上の選択肢を力強く押し込んだ。
▶ 肩をすくめて、最後まで付き合う
世界に、夕焼けのドッと燃えるような極彩色が戻る。
「……分かりましたよ。最後まで付き合ってもらいましょうか?トレーナー?」
赤城は立ち上がり、軽く泥を払うと、前を走るトレーナーの背中を追いかけて走り出した。
草むらを抜け、再び開けた河川敷の道へ。
夕日に照らされながら、二つの影が並んで走る。
一人は、スーツを汗と泥でボロボロにした現代の社畜。一人は、死してなお走ることを忘れないゾンビ。
相変わらず息は苦しかったが。不思議と、以前感じていた渋々感はなくなっていた。
トレーナーの刻むリズムに、前に青山に対し、でまかせで語った、「走ることは、自分との対話」だと言ったことをなんとなく思い出していた。
そして、かつて自分がランニングを始めた時の、あの純粋な気持ちが、体中を満たしていく。
しばらくの間、二人は無言で、しかし確かに心を通わせながら河川敷を駆け抜けた。
やがて、トレーナーゾンビがふっと足を止めた。
赤城も並んで足を止める。
トレーナーゾンビは、汗だくの赤城の顔を見つめると、ただ力強く――親指を立てた。
その瞬間。
【イベントno.4 再起 完了】
光の粒子となって、静かに、優しく解けていくトレーナーゾンビの身体。
その消滅と同時に、赤城の脳裏に、すうっと冷たい風と共に、最後の光景が流れた。
~~~
それは、誰もいない放課後の校庭。
ジャージ姿の男性教師が一人、黙々と木製のコートブラシを引いている。
それでも彼は、明日、生徒たちが最高のフォームで走れるように、
次の日も、その次の日も、一人で静かにグラウンドを綺麗に整備し続けていた――。
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光が弾け、河川敷には心地よい川のせせらぎだけが残された。周辺を漂っていたスーパーゾンビたちの気配も、嘘のようにすっきりと消え失せている。
「……最後まで、暑苦しい人だったな」
赤城は溢れそうになる涙を誤魔化すように、わざと肩をすくめて呟いた。
「でも、最後まで走れたじゃねぇか。かっこよかったぜ、あんちゃん」
青山がドタドタと歩み寄り、赤城の肩をバシバシと叩く。
「ええ。言葉はなかったけれど、本当に素晴らしい指導者だったのかもしれないわね」
黄瀬も胸元で静かに手を合わせ、優しく微笑んでいた。
「……そうですね、ほんとうに……」
赤城が夕日に向かってたそがれていた。
「………………長くないですか?」
「確かにな、いつもならもう、パァァァって光が出てくるのによ、どうなってんだ?」
「故障……でしょうか?」
「故障って……え!?私たちここで一生このまま暮らすんですか?」
三人が口々に、しゃべっていたまさにその時。
ズズズズズ―――――――――――――――
ゴゴゴゴゴ―――――――――――――――
彼らの目の前に金の装飾の立派な門と空間の割れ目が現れた。
「……なんですこれ?」
「門と穴だな」
「みりゃわかります!」
いつもみたいにボケる青山に、すっかり調子が戻った赤城が鋭いツッコミを炸裂させていると。
「黄金の装飾が施された、あの禍々しくも神聖な門の起源……もしや、古代神話に語り継がれる――」
「「今はいいから!!」」
「はい……」
二人からの有無を言わせぬ迫力に黄瀬が黙ると、赤城が頭を抑えるような仕草をした。
「なんでしょう?あの金の門というか金を見てると頭に痛みが走るんですが・・・・・・?」
それを聞いた青山も同じく頭を抑えた。
「あんちゃんもかい?実は俺も、アレみてるとなんか悪寒がはしるんだよ?」
赤城と青山の両名が不調を訴えてると、黄瀬は。
「……二人とも? 反応したのは門だけ……。なら、あちらは避けた方が良さそうね」
「いやいや、なんでどっちかに入る前提なんですか?、もう少し待ってればきっと光の柱が現れますよ」
「赤城さんは待機、と。青山さんは?」
「俺かい?おれぁ……」
青山が答えようすると。
シュゴォォォォ――――――。
我慢の限界といわんばかりに突如として、空間の方が、3人を吸い込み始めた。
「は?え!?なんか吸い込まれ……うわぁぁぁ」
まだ体力が回復していない、赤城が吸い込まれ。
「あんちゃん!!おぉぉぉ……」
ついで、青山も吸い込まれていった。
それを見た黄瀬は、「二人が吸い込まれた以上は行くしかないですね」と言って自ら空間へと飛び込んだ。
そして、河川敷は静寂に包まれた。使い古されたホイッスルを残して。
ルート?へ