ワールドオブぞんび ~ぞんび世界でオレたちだけギャルゲー!?~ 作:しょーもないおっさん
「名前を呼ばれるのが好き、って……。そんな子供じゃないんだから……」
翌日。荒廃したセンター街のど真ん中を歩きながら、赤城は相変わらずだった。
その隣を歩く青山は、実に機嫌よく鼻歌を歌いながらぶらぶらと歩を進めていた。
赤城は徹夜で考えていた。
青山から聞いたあの「テレレーン♪」という電子音、モノクロになる世界、そして強制的な三択。が何なのか……一夜明けても答えは出なかった。
ただ一つ言えるのは、隣のおっさんが楽しそうということだけである。
「お、あんちゃん。噂をすれば影、ってやつだぜ」
青山の言葉に顔を上げると、ビルの壁面に備え付けられた非常階段の上に、
彼女がいた。
だが、赤城は思わず「え!?」と声を漏らし、自分の目を疑った。
「……何か、違い……ますよね?」
「なんだよ、あんちゃんわかんねぇのか。そんなんじゃあモテねぇぜ?」
青山は呆れたように肩をすくめると、非常階段の上を見上げた。
「いいか……よっく見な、綺麗になってんだよ」
そこにいたOLゾンビは、明らかに昨日までと様子が違っていた。
ドロドロだったリクルートスーツの泥は不器用にはたき落とされ、破れたストッキングは綺麗に脱ぎ捨てられている。何より、ボサボサだった髪が、どこで拾ってきたのかプラスチック製のような安っぽいヘアピンで、不格好ながらもサイドにパチンと留められていた。
損壊した部分を少しでも隠すように。
(そんな!?あ、ありえない!?ゾンビが……ゾンビだぞ!
身だしなみを整えたぁ!?)
その生物としての前提を根底から覆す異常事態に、
赤城は激しく混乱し、戦慄した。
まさにその瞬間だった。
——テレレーン♪
四度目の、あまりにも聞き慣れた電子音が青山の脳内をジャックする。
視界から鮮やかな色彩が急速に失われ、音も風も完全に停止した、
静寂のモノクローム世界。
そして、青山の目の前の虚空に、もはやお馴染みとなった蛍光ピンクの半透明ウィンドウがポップアップした。
【イベント発生】
OLゾンビの頭上に浮かぶ『??』の文字。その下に表示された三つの文字列を、
青山は見つめた。
▶ 褒める、根拠のない保証付きで
▶ 貶す、勘違いを正してやる
▶ 最近難しい顔を浮かべて疲れているだろう、赤城をねぎらう
「いやぁ、なんか目の下の隈とかスゲーから、あんちゃんを労ってやりたい気持ちも山々なんだけどよぉ」
青山は顎の無精髭をじょりじょりと掻きながら。
「せっかくオシャレしてきた女の子を前にして、男を優先してねぎらうような野暮な真似、おれには死んでもできねぇわ。ここはこれだろ」
青山は迷わずタッチした。
▶ 褒める、根拠のない保証付きで
ポチッ、と軽い電子音が鳴り響き、世界が一気に色彩を取り戻す。
青山は非常階段を見上げ、ポケットに手を突っ込んだまま、ニカッと気風の良い笑みを浮かべた。
「いいじゃねぇか、おねぇちゃん! 髪型、随分と綺麗になったな。こりゃあもっといい女になれるぞ。俺が保証してやる!」
「……ッ」
OLゾンビは、言葉こそ発しないものの、濁った瞳に多少の変化が生まれた。
それは、嬉しそうに目を細めたように見えた。
ゾンビには決してあるはずのない、確かな変化が、彼女の顔に浮かんでいたように見えた。
【イベントno.4『装い』完了】
無機質なシステムアナウンスが響くと同時に、青山の脳内に、四度目のセピア色の回想がフラッシュバックする。
~~~
「あの気難しい教授の娘さんなのに、全然気取ってないよね」
オフィスの給湯室。同僚の女性社員が、お茶を淹れる彼女の背中に向けて、何気なく言葉を告げていた。
言われた彼女は、困ったように、眉をハの字に下げて微笑んだ。
~~~
「……」
フラッシュバックが終わり、青山はふっと視線を落とした。
「今回は何が見えました?」
赤城が恐る恐る尋ねるが、青山は「がはは!」と笑って煙に巻くだけだった。
非常階段の上のOLゾンビは、トトト……と軽い足取りでビルの屋上の方へと去っていった。
「なんなんだよ一体……」
しかし、今回の遭遇でハッキリとしたことがある。
あのOLゾンビは、青山に対してのみ明確に反応している。
こちらの行動を学習し、理解もしている。気のせいでなければ、そこには人間だった頃の感情らしきものもある。
赤城がこれまでの遭遇を振り返り、真面目に世界のルールを考察している、
まさにその横で。
「よし決めたぜ!あんちゃん!」
青山がポン、と赤城の肩を叩く。
「今度あいつに会ったらさ、
俺が一番おススメの、とっておきの一杯を飲ませてやるか」
「……はぁ……。もう勝手にしてください……」
真面目に考えている横でこの男は相変わらず酒の事ばかりである。
赤城は完全に諦めの境地に達していた。
つづく