ヲ級がここに住み着くようになった。
元々彼女はお昼から夕方辺りで『ジャッ』っと姿を消していた。
一応彼女も帰る場所があるのか、決まった時間に姿を消しては、そのまま次の日まで現れない。
ケロッと現れたと思えば『寝テタ』と答えるだけだった。深海棲艦と言っても艦娘とほとんど同じなため、寝ることも不思議には思わなかった。住み着くキッカケは何だったっけ?最近だと吹雪ちゃんとかの稽古してるし、響ちゃんとはよく釣りをする姿を目撃する。
「うーん…?なんっだっけか…」
そんな事を考えてるうちに、久々の畑に足を運んでいた。久々に来た畑はちゃくちゃくと全自動化が進んでいた。初見の人が見たら施設と見間違えるだろうメカメカしい畑。
ベルトコンベアに梱包機。収納ボックスに燻製設備。自動刈取機に《★撲滅★雑草機☆彡》とラベルが貼られたルンバのような機械。
《どうどう?随分様になってきたでしょ!》
《ここまで来るのに苦節7週間……。…あまりかかってない事に驚きを隠せない。》
《まぁ僕達、構想は元々あったからね〜。それを組み立てる時にあれもこれもってつけ足したから…。》
ワチャワチャと俺の周りでそう談笑している。彼女達は物を作ってるときが何よりもイキイキしていらっしゃる。
そんな最近の妖精さんの口癖。
《明石って娘が居たら、もっともーっと実現可能な物が増えるんだけどね〜》
そう。時折妖精さん達は『明石』という言葉を出す。何でもその明石という娘も艦娘らしい。
《じゃーもういっそのこと、人間さんに作らせる?》
「……。えっ?艦娘ってそんな簡単に作れるの…?」
ある一人の妖精さんがそう言葉を滑らす。艦娘を作る?そんなポンッと作れるものなのか?
《まぁ、簡単な事じゃないよ。それに、そんなポンポン作れたら今頃艦娘だらけで大変な事になってるし。》
《でもでもー、人間さんなら行けるって思うなぁ♪なんかこう、ビビっっ!と来たら、ドヒューン!だよ!》
「うん分からん。」
俺の頭上で手を広げるジェスチャーをする妖精さん。俺の真顔に《ひゃー!♪》と何処か嬉しそうにしていた。君達のテンションが時々分からなくなるよ。俺は。
《でも人間さんの適合率なら…本当にワンチャンスあるかもだよね。ほら、ただでさえ人間さんって艦娘ちゃんをヒョイッと持ち上げられるし、元々の適性が高いんだと思うんだよね。》
「え?普通の人はあの子達持ち上げられないの?」
そもそも見た目通りの重さしかないわけだから、持ち上がる上がんないの話じゃない気が
《そもそも、適性がない人だと艦娘と拍手出来ないよ?こう、握られた瞬間に手の骨がバキバキっと》
「ぇ、なにそれ怖い」
《冗談冗談。でもここの娘達は確かにそうだよ。本来は人に危害を加えないように特殊な装着かなんかを装着して、地上にいる間はその力を極限まで抑える装置が確かにあるんだよ。恐らくここの娘達は『一度沈んだ』艦だからね。その制御装置が機能しなくなってると思うんだ。》
《まぁ、人間さんはそんな事しなくてもさっきも言ったとおり元々の適合率が高すぎて本気で艦娘達が危害を企てない限りは大丈夫だよ。適合率が低かったら、響ちゃんを膝に乗せたり、吹雪ちゃんを抱きかかえる事も本来は出来ないからね》
《それに不思議なのが深海棲艦とのパスも正常に繋がってるんだよね…。まぁーそれのおかげで僕達もヲ級ちゃん専用の装備だったり、ヲ級ちゃんからのリクエストを答えられるんだけど》
頭いい妖精さん組が頭良さげの会話をしている。要は、深海棲艦にも艦娘にも触れるにはその『適合率』が異様に高いと無理って認識で良いのかな。
「んで…その適合率が高いのと、艦娘の制作にどうつながるんだってばよ。」
そう言うと、妖精さんは首を傾げる。なんで俺が『何言ってんの…?』みたいな表情されなきゃならないんだ
《ただの勘だよ?人間さんならできるかなぁーっていう》
《事実できちゃったら、それこそ大事だからね〜♪色んな鎮守府の努力やら、研究やら、全部パーだね♪♪》
妖精さんも、根拠が無いことを言う事はあるんだなって。
いや、そもそも存在事態根拠も事実もクソもないのは分かってはいるんだが、それでも妖精さん達は憶測で物事を話したことはない。
いやまぁ、すでに憶測だろっていう装置を山程作ってるからアレだけど、妖精さんには妖精さんなりのロジックが確実に存在しており、それを駆使して色々なものを生み出してきている。
俺のオツムがあまりにも弱すぎるが為に、妖精さんのそのロジックを説明できない。そもそも理解出来る頭があったら今の『適合率』もすんっと理解してるはずだ。理解出来てない時点で察しろ
《とりあえず、物は試し。ドックに行ってみよう!》
「ゑ?」
《とう!ちゃーく!》
《イエーイ!》
《なんやかんや久しぶりに来たなぁ…。最近はずっと機械ばっかイジってたから、なんか新鮮。》
《人間さん♪人間さんの背中って意外とおっきいんだねぇ♪》
《おてても!人間さんのお手てもなかなかこう…凄い!》
《………。》ゴクリ
俺の有無なんてどうでもよくらしく、ズンドコズンドコ押されに押されて現在。俺の家こと鎮守府、その外側でなく敷地内にあるもう一つこじんまりした倉庫のような場所。
中には人一人はいれそうなカプセル状の筒が3つほど置かれており、後ろには冷却用のファンが幾つも回っていた。
そして、それぞれのカプセルの横には、透明の箱。なんか、『出来立てのポップコーンはいかが』とか言ってきそうな箱がある。
俺自身、最初のうちに一回だけ覗いたことがある程度でガッツリ見たことはなかった。なんせ黄色いテープがグルグルまきにされていたり、核爆弾のシールが貼られてたり、こう、いかにも触れるな感が満載だったからだ。
それこそ今は妖精さん達が毎日お掃除してくれる為、この中も綺麗さっぱりになっていた。
《それじゃー、レッツゴー!》
《ゴー!》
そう言うと、複数人ついてきた妖精さんが一斉に動き始めた。
「俺は一体何をしてればいいんだ」
無理やり連れてこられたとはいえ、連れてこられたからには何かさせていただきますよ。えぇ。
《じゃー、僕達と雑談してて欲しいかなぁ♪》
「そんなんでいいのか」
妖精さんがせっせこせっせこ作業してる時、暇してる妖精さん達と雑談という名の近況報告会をしていた。
基本的に俺と妖精さんが関わる時はある程度決まってる。この鎮守府の事であったり妖精さんの発作のような物作りの承認だったり、大なり小なりあれど、どれもこれもはこの鎮守府全般の事だ。
今も、話してる内容は最近海水の水位が上昇してるから、それとなく気おつけてだったり、気温の変化が少し激しいから体調を崩さないようにとか畑の事だったり。
なんか、大昔に働いてた頃を思い出すなぁ…。今と大昔どっちが話しやすいかって言ったら、断然こっちだけどな。人の顔色をうかがいながら心理戦させられたからな。
《こっち準備オッケー!》
《こっちあと少し。ここのネジさえ締めれば完了ー。》
《オラオラー♪キリキリ働け働けぇー!身体と脳をフルで動かせぇー♪》
《セイセイ!ソイヤッサー!》
《もうちょっとで終わりそうだね〜♪》
《じゃー人間さん、僕達はこれで♪あ、そうそう♪
ハイ、コレ。》
俺と雑談していた妖精さん達は、作業組の進捗を察して一人一人ふよふよとどっかに飛んでいく。自分達の持ち場に戻っていったのだろう。
最後の2人は、バイバーイと手を振ってさっていく。
「………。これを、俺に、どうしろと…?」
不意に渡された多機能工具。てかこんな物、あんな小さなフォルムにどう収納していたんだ…?
《人間さーん!こっち準………。……何持ってるの?》
「多機能工具」
《あ…、うん。それは見ればわかるんだけど〜…なんで…?》
何でと言われましても。それ一番俺が聞きたいというか何というか
ふよふよと浮遊してる彼女の頭には明らかに大きな?マークが。
《と、言う事で大体の使い方はこんな感じ♪簡単でしょ?》
「うん、理解はした。納得はできんけど」
《『出来立てのポップコーンはいかが箱』もとい『感応装置』の中身に、呼び覚ましたい、または呼びたい艦隊の元となる素材を置きます!》
《…そしたら、横のレバーを下げます》
《なんやかんやしたら成功します♪でも、曖昧だと失敗しちゃうから注意ね♪》
《ね?簡単でしょ?》
「なんやかんやってなんやねん。」
それに失敗の定義も俺が言えることじゃないけど曖昧すぎませんか?そういう存在は俺だけでいいのよ。
《うむぅ…分からないかぁ。もうちょっと分かりやすく言うとぉ……》
「…大丈夫だぞ。無理に頭使わなくて。」
一瞬俺の事を可哀想な人みたいな目で見る。俺も人の心はあるんだよ…?人間さん泣いちゃうよ?
「まぁ…物は試しだしな。失敗しても何もおきんのやろ。はいガチャコン」
《あっっ…》
「どうした?」
適当に多機能工具を犠牲にしてガチャコンした途端、後からあっと声がする。
《いや…言い忘れたてたんだけど、いい加減な素材で失敗したら大爆発するといいますかぁ…》
「… … … 。んっっ??!」
3秒ぐらいフリーズした。レバーを下げた状態でそう言われた。
箱の中身は既にやっべー機械音をけたたましくならし、蒸気を発しながら熱をドンドン帯びていってる。
「おいぃぃぃ!?なんかヤバそうだぞ!?爆発するんじゃないだろうな!?」
《大丈夫大丈夫。なんか大丈夫そうだよ》
「おうまてや!飛べるからって何一目散に逃げようとしてるんだ!逃さんからな!?貴様だけは逃さんからなぁぁ!?」
他の妖精さん達は逃がした。だがここに連れてきた元凶で率先してここを指揮していた妖精さん!貴様は逃しはしない!
《は、はな!話すのだ!まだ死にとうない!死にたくない!!》
「はーっはっは!!甘かったな妖精さん!!貴様はここで俺と死んでもらう!!」
《いやぁぁぁぁぁぁぁ!!》
《くたばりやがれぇぇぇぇ!!!》
プシュップシュッっプシュッっっ!!………プシャァァァァァァ。
「工作艦、明石です♪多少の修理なら私がバッチリ直してあげます!お任せくださいね!」
「はっっ………?」
《へっっ…………???》
俺と妖精さんが固まる。もう爆発するぅ!っという瞬間、蒸気が軽い煙のように辺りを包み込むとハッチのような場所が自動で開く。
中から、本当に少女が現れる。ピンク髪を赤いリボンであつらえた女性。なんか背中から、黄色いショベルカーみたいなのが生えてるのが見える。
ん?待てよ?あれ多機能工具じゃね…?面影が…、面影があるぞ!
「所でその…司令官さん…で、よろしいんですか?私は何をすれば……?」
《出来ちゃった…。本当の本当に……出来ちゃった………》
なんかフリーズしてる妖精さん。そんな事より気になる事を聞こう
「所で明石さん。一つ質問良いですか?」
「…?は、はい!司令官さんの質問であれば、私が答えられる範囲で何でも答えます!」
ほう、何でもとな?じゃーそのおっ
「身体に異常とかない…?ちょっと、いやだいぶ、端折って君を召喚してしまったというか…。身体に何処か異常とか……」
そう言うと彼女は頭に?マークを浮かべる。後なんか時間と空間を削り取られた気がするが、気にしないことにしよう。後俺は今日だけで何回この顔で見られるねん。
「………?と、特にこれと言って…。でも!でもでも!この愛機!私の愛機がこうもはやく会えるなんて!うぅぅ!司令官さんは特別な司令官さんなのかもしれませんね!」
なんて言って、後ろにある黄色いショベルカーのような物を持ち上げ、それをギュッと抱きしめる。
「そ、そうなのか。そ、それはよかった」
「はい!こんな完全状態で召喚されては、こちらも本気を出します!司令官さん!なんなりと私にご指示下さいね♪司令官さんの頼みならどんな無理難題でもこなして見せちゃいます!!私の本気!司令官さんだけのものです♪」キラキラキラ
うん、すっごいキラキラなエフェクトが。愛機と言われた道具を抱きしめながら、『お役に立ちます!』と言われてしまう。
適当に妖精さんが俺に手渡した多機能工具なんて口が裂けても言えない……。
「と、とりあえず、明石さん。ウチにようこそ。これからも、えぇっと、よろしくな……?」
「っっ!♪はいっ♪司令官さんの為に♪この明石♪誠心誠意尽くさせて頂きます!♪♪」
キラキラが、キラキラのエフェクトが凄い。目が潰れる。
《そんな…本当に……そんな馬鹿な…。失せやろ工藤……》
まだフリーズしてるよ。あーもう無茶苦茶だよ(今更)
明石
明石型工作艦一番艦。恐らく世界で初めてピュアな心のまま生きるであろう艦娘。全世界が労働環境ブラックコーヒーの中、その豪運で恐らく世界一ゆるい場所で召喚された完全体明石。
人類史上、『完全体』の召喚は初である。その戦力は通常召喚と頭2つ抜けるほどの戦力差が生まれる。
『司令官さんの第一印象…ですか…?うーん…。…うーん♪秘密です♪』
妖精さん
この事実は妖精さん達のほとんどを戦慄させた。『艦の記憶』も『媒体』も『エネルギー源』も必要なしに艦娘を召喚した人間さんに、特殊なロジックを持ってる彼女らですら理解に及ぶものではなかった。それでも何処か安心していた。
『流石は僕達の人間さんだ!』
妖精さんはむしろ、鼻が高くなった。
人間さん
非公認での鑑定結果。
適合率…オーバーリミット・・・測定不能。
感応適性…オーバーリミット・・・測定不能。
提督適性…文句なしの逸材。
コミュニケーション能力…扱いに難あり。まともな会話は不可能。