当適はルトイタ
『ヨシ!今日ハココマデ二シヨウ。吹雪、オ疲レ様っ!』
そう号令がかかると、ヲ級さんの周りに浮遊してる偵察ドローンが無くなる。敵である彼女から学ぶものは多く、3年間、ただがむしゃらに戦っていた私は実に単純思考だったんだなと痛快した。
ヲ級さんの見る目線は常に1手2手、あるいはその先を見据えてるような。それに、予備プランもあるようで、予想外な動きも目の眉を1つ動かす位でほとんど感情に出さない。
「ふわぁぁっっ…疲れたぁぁ…。」
その点に関して私はダメダメだ。すぐ表情に出てしまう。司令官はそんな私を「感情豊かで可愛らしい」と褒めてくれるが、ヲ級さんにここ最近口酸っぱく言われてる言葉。『戦場に甘えは存在しない』という至極真っ当な意見。
司令官の甘く甘美な言葉は、私を堕落させる。分かっていても、その甘い言葉に浸かっていたい気持ちが先行してしまう。
それこそ、ヲ級さんに諭されなければ私はこのまま司令官と身を結ぶという事しか考えてなかった。何時終わるかも分からない、それこそ終わらない戦争の途中で愚かにも恋した人と添い遂げることしか考えていなかった。
実に愚かで、ワガママな考えだろうか。私は駆逐艦、吹雪。艦娘として生まれた、それこそ人類を深海棲艦という脅威から守る為に作られた存在。
そんな私は、司令官すら守れず挙句の果てに感情的になり自分の手で愛しの司令官を殺害するところだった。
私は、そんな弱い私が嫌いになった。
そして何よりも、ヲ級さん。ぽっと出の女にその司令官さんを取られそうになっている。由々しき事態だ。
『吹雪、最初ノ頃ヨリ随分ヤリヨウニナッタナ。久シ振リ二、傷ヲツケラレタ♪』
私の側に近づくと、嬉しそうに頬につけられた切り傷に触れてそう笑う。傷つけられて喜ぶのは…なんか変態さんっぽいけど、指導者としてはむしろ安心したという点のほうがつよいのでしょう。
「全然…まだまだです…。ヲ級さんが手加減してくれてるから何とか形になってるだけです…。こんなていたらくじゃ、司令官さんなんて守れないです」
『ソレデモ、ダ。確実二成長シテルンダ。コノ調子デイコウ』ニコ
「…はいっ!ありがとうございます!」
艦娘と深海棲艦。相対する存在なのに、今じゃそんな二人が仲良く演習ごっこみたいなことをしてる。
前の自分じゃ、まずありえない選択。ありえない現実だ。深海棲艦と戯れるなど…、あってはならない。そう思うでしょう。
「おぉーい!!演習終わったのかぁぁ?!こっちで魚焼いてるから!昼メシにしよう!!」
『ムムッ!飯!?』
遠くの方で、はしゃぐようにそう手を振るう司令官。
私は、あの人に会ってなかったら今どうなっていたか。
ヲ級さんが言っていた。深海棲艦は人類に敵意ある艦娘が蘇った姿なんだと。恐らく簡潔的にそう言ったのであって、もっと複雑なのかもしれない。
でも、それを聞いて確実に思ったのは、私はあの時、間違いなく深海棲艦になっていた。
人類なんて、本当に守るべき存在なのだろうか?むしろ滅ぼしたほうが良いのでは?そんな考えさえあった。
ただ…司令官は、その他大勢の人類とは違った。
ここに住んでいいと言った司令官の目は、その他大勢の人間と違い暖かい目をしていた。そこからの司令官との触れ合いは、全部私の記憶に深く刻まれている。
初めて畑作業を手伝った時、大根という野菜を引き抜く際に上手く力が入らずに頭から思いっきりズッコケた。
『ぷはっ!!なぁにやってんだ吹雪ちゃん!全く不器用だなぁ♪』
笑われた。それはもう腹抱えて笑われた。
普通なら馬鹿にされたと思うはずなのに、その茶化しは今までされたこと無かった…。…私には、同じ対等な人として接せられてる気がして何処か嬉しかった。
私が初めて料理を手伝った時も、司令官は私の頭をわしゃっと撫でて『ありがとう』って感謝の一つを言ってくれた。
当たり前のことをしたときも、余計な事をしたときも、司令官は決まって『ありがとう』と、感謝の言葉を忘れなかった。
今までの人生で感謝された事なんてほとんど無かった。…初めて、戦闘以外で私は、胸の高鳴りを感じた。
お料理を必死に覚えて初めて作った手料理。お世辞にも美味しい料理とは言えなかった。司令官が作った料理のほうが何倍にも美味しい料理…。
『んおぉっ?!美味っ!美味いぞ吹雪ちゃん!あっ!おかわり!』
本当に美味しそうに食べる司令官が、無理してるようには見えなかった。口いっぱいにかき込んで、美味い美味いと褒めてくれる司令官。艦娘の手で作ったお料理を…人が……司令官さんが美味しそうに食べてくれる。
『っ…。っっ…♪…はいはい♪喉に詰まらせないでくださいね♪♪』
言い表せない感情はその時芽生えた。コーヒーを初めて淹れた時、『美味しい』と褒めてくれた。初めて海上訓練をし始めた時も、『凄いな』と褒めてくれた。
私は、この甘い沼からは絶対に抜け出せない。それは恐らく、ヲ級さんも理解してるはず。
少し前まで、人としてすら扱ってもらえなかった。私は艦娘。人類から化け物というレッテルをはられてる人とも、艦とも言えない、中途半端な存在。
唯一司令官さんだけが、私を私として見てくれた。そんなの…抜け出さるわけもない。
だからこそ、司令官さんを守れるぐらいには強くならなきゃならない。自分の感情にすら打ち勝てない自分が、他人を助けられるなんて思い上がりも甚だしい。
『早ク!早クイコウ!吹雪!メシ!メシガ私達ヲ待ッテイル!』
キラキラのエフェクトが見えるほどヲ級さんの目が輝いていた。こういう所は司令官さんと同じで子供らしいと言うか何というか…
「…はいはい♪すぐ行きますから…ってちょ?!」
ガシッと、私の腕を掴む。
『ダメダ我慢デキナイ!超特急デ向カウ!』
「えっ?ちょっとまっ…ひやぁぁぁぁぁぁ!???」
海の上は慣れてるけど、まさか海の上から足が浮くとは、思わなかった…。てか私と彼女にここまでの差があるとは……。
「そんな急がなくても料理は逃げないぞ…?」
『何ヲ言ウ!?熱ガ逃ゲルジャン!熱々ガ一番美味シイノ知ッテルクセニ!』
そんなに急がなくてもと呆れる提督と、そもそもそれを教えたのは提督、貴様だ!と言い返すヲ級ちゃん。
そのヲ級ちゃんの手は今も吹雪ちゃんの腕を掴んでいた。
「…ヲ級、とりあえず今焼いたばっかりだから焦らなくてもすぐには出来ないよ。とりあえずここ、座って」
そう言って私の座ってた席を譲ろうとする
『ムッ?ソウナノカ…?ソレナラ大丈夫ダ♪ソレト、ソノ席ニハ座レナイ。ソコハ響、貴様ノ席ダカラナ♪私ハ地ベタデ食ベルノガ好キナンダ♪♪』
「そ、そう?それじゃー吹雪ちゃんはこっちね」
「ありがとう響ちゃん♪…それとヲ級さん、走るなら事前に教えてください…。私そのまま海に沈むかと思いましたよ…」
『ス、スマン…。美味シイメシバカリ…。』
先程までウッキウキだったのに、吹雪ちゃんの発言に本当に反省してるのかショボンっとしょぼくれていた。
僕も長い間生きてきたつもりでいたが、今の光景はまさに異常だ。敵である深海棲艦が、同じく敵である艦娘を稽古してるという光景もそうだが
『提督、ソコノ醤油ヲトッテクレ。刺身ヲ作ル』
「いいけど怪我すんなよ…?」
『ナ!?ワタシヲ馬鹿ニシテルナ?!見テオケ?包丁位…』
「わぁ!わぁぁ!危ない危ない!ヲ級さんっめ!持つ時はこう!」
『ムッ…?コ、コウカ…?』
「もう吹雪ちゃんが捌けばいいのでは?」
『ム…。ウム。ソウスル。…頼ンデイイカ……?』
「…むふぅぅ♪」
『ナ…?』
「戦闘面では素晴らしいですけど…日常事は疎か…何ですね♪♪」
『っっっ!!ヤハリワタシガヤル!貴様ニハ負ケラレナイ!吹雪ッ!』
「まぁまぁ♪強がんなくてもいいんですよぉ?♪♪結果は、そのうちついてきますから♪」
『ムッキィィィ!!』
「本当にむきぃぃ!って言って怒る人って居るんだな。」
《人間さん、今そこ着眼する点じゃない》
深海棲艦と艦娘が和気あいあいと武力でなく、得意不得意でぶつかってふよふよとそこら辺に漂う妖精さん達が炭の補給や、調味料の調合なんかをしていた。
そして、その全てを纏めているのが今も魚を焼いてる提督本人である。
彼は凄い。彼は人…?というか、生物に対して特攻のような物を持ってるような人だ。
何よりも今の状況が何よりも証拠だ。人類の敵である深海棲艦。人前には絶対に姿を現さない妖精さんが…1…2…ここだけでも軽く10数名。もちろん、ここに居るのが全てじゃない。畑作業を中心に動く妖精さんも居れば、工房のような建物に生息してる妖精さん達。
本来妖精さんとは、居るだけでもとてつもない効能を発揮させてくれる。その中でも妖精さん達個々にもやれる事は、限られる。
恐ろしいことに、ここに居る妖精さんは全てにおいてのプロフェショナル。一応担当役割が分かれているだけで、妖精さん達皆が卒なく全てをこなせるほど高レベルな妖精さんしか存在してない。
提督は軍を抜けた人間じゃないただの一般人だ。ここに居る妖精さん達がヤバいことなんてはなから興味ないのだろう。
そもそもここの孤島、ここがあまりにも不思議すぎる。いくら妖精さんが居るからと言って、無から何かを生み出すなんて妖精さんにも不可能だ。
『んー?あーそれね。元々動物も居なかったのにね。気づいたら妖精さんが養殖所作っててさ。牛やら豚やら育ててたのやね。マジウケる。』
前に提督に肉の事で聞いたら、そんな事を言われた。あまりにも楽観的すぎる。他にも不思議な事は起き続けている。このままじゃいつな大きな事が…
「どうしたぁ?そんな真面目な表情で考え込んで」
「……提督、ここの島…というか孤島は…変だと」
『ウガァァァァァ!!貴様ァァァァァ!刺身二!刺身二ナンテ事ォォ?!』
「まぁまぁ♪ソースも案外合うかも知れませんよ?」
『合ウカァァ!』
「何やってんだ彼奴等は…あ、そうだった。ほれ、響ちゃん様に取り分けといた。召し上がってくれ」ニコ
そう言って、提督は私の好物ばかりを乗せた刺身だったり焼き魚だったりが乗ったお皿を手渡してくる。
「それで?さっき何を」
「んふ〜♪なんでもなーい♪提督好きぃ♪」
「そか?俺も響ちゃんの事大好きだぞぉ?」ナデナデ
「んふぅ♪ふぁ〜いっ♪♪」
さっきまでなんのことで悩んでだっけ〜?この状況にだっけ…?島の何かだっけ…?
「それにしても響ちゃんも美味しそうに食べるな。おじさん嬉しいよ」ナデナデ
「んふふぅ♪♪♪」
まぁいっか♪提督と過ごせるなら何でもいいや♪♪
「響ちゃんばかりずるいです!!私!私も!」
「おーおー吹雪ちゃん。うーん…、おいでぇ♪」
「っ!はーーい♪」ギュッッ
「吹雪ちゃんも可愛ねぇ♪」ナデナデ
「あふぅぅ…♡」
『貴様ハ…本当二ブレナイナ……』
「こういうのはね、フィーリングで乗り切るのが大事なんだよ。後の事は後の俺に任せた。」
『リボ払イミタイダナ』
「うんどこで覚えたぁ?そんな言葉…」ガクブル
ヲ級
面倒見が良く、指導者に向いている。彼女自身が後方で広い視野を持つからだろうか、先の事を見据える事に長けている。それは今後吹雪に新たな道を示してくれる。
吹雪
弱い自分とは別れを告げた。その新たな感情を胸に司令官の為に強くなるとより一層決意する。感情が表に出やすく、考えてることが分かりやすい彼女だが、司令官には一切バレてない。単に提督の読み解き能力が壊滅的なだけである。『吹雪!頑張って!行きます!!』
響
物事を冷静に見るのに長けており、敵の弱点を的確に突くのが上手い。どちらかと言うと近接よりで、使うのは主に機銃であり、砲撃は目眩まし程度にしか使わない。人一倍冷静な彼女は色々な不思議に疑問を浮かべていた。だが彼女にも致命的な弱点が存在していた。提督の存在だ。彼女も提督の毒牙に当てられた少女だ。その冷静な思考は提督の乱入によりIQ3に。全てをどうでもよくなる。
人間さん
無自覚キラーEX。彼にはそろそろ反省を促すダンスを踊らしたほうがいいのではないのだろうか。リボ払いみたいな人生を送っている。
「なったときに考えよう。」
クズである。
ご都合主義
全てを解決してくれる万能な言葉。だいたいコイツを添えとけば曖昧な部分も何とかしてくれる。頼れる相棒。
『何とかしてください』
「自分で考えろボケナス」
『!?!?!?』