何が起きたのか分からなかった。僕という人生は約二十年間という短い、幕間程度の劇で締めくられたはずだった
この世界は一体....いや、知っている。僕はこの世界を、神が生きる世界を、童話、または神話のその後のような話の世界を知っている
ああ、そうだ。これは、僕が夢にまで見た舞台だ_____
いいだろう、チャンスをくれるってんなら、もう一度演じて、誰もかも騙して.....
最後のトリックってのを見せてやる
※ ※ ※※ ※ ※
「何なのかしらねあいつ」
「誰のこと?」
「ほら、最近女皇様から新たな席次と名を与えられたあいつよ、あいつ!」
彼女の疑問に、さらに問うかのように黒髪の内側と先がマゼンタ色の少女は首を傾げる
「何が?いつも通り彼は活発で元気な人だったよ?」
「そこよ、私の知るあいつは元気はつらつなやつじゃなくて、厳格で、作法も拙いところはまだあるけどちゃんと学んで、真面目に茶会をしてくれる人のはずなのだけれど」
真面目な茶会とは何?という問いをしてみたくは思うが、とりあえず聞き流して、彼女の疑問のすり合わせのため、他二人も答える
「確かに彼は真面目だが、厳格というにはいささか寛大な人物な気もするが」
と、白色の毛先に向かって黒色がかけられた内側には赤がある髪色の召使いは彼を寛大と言った。
「あら、あいつのこと?厳格というには程遠いと思うけれど、あんな生意気な、でも少しばかり可愛げのあるような猫みたいな、そう猫みたいなやつだったわ」
白銀の髪色の淑女は猫みたいなやつといった。
「ほらね、何なのかしらあいつ、全員の印象が違うって少し...こうなんていうか、気持ち悪いというか」
「言い過ぎじゃない?それと....」
「きたみたいね、あいつが」
なぜ気がつく、そんな何度目かの疑問が受け流されて、今回の茶会の場、そこにつながるドアが開く
「失礼します、執行官の皆様方。自分は席次第十二位『演者』様直属の先遣隊隊員のカーブです。『演者』様から、皆様方への伝言と贈り物を預かっています」
しかし、ドアから来たのはファデュイに属するただの一般兵だった
彼女たちの勘が外れたことに少し拍子抜けしつつも、この中で一番位が高い”少女”が直接応対する
少女がとった行動は特段不自然ではない...のが普通だが、いつも、こういう時は他の人に任せるか、直接の応対なんて彼女はしないはずと一人、傀儡は思っていた
「....あれ...」
「伝言の内容は、ケーキを作りましたのでよろしければ紅茶と共に嗜んでください...とのことです」
手渡された袋の中には、大切に箱詰めされたケーキ。そのプレゼントに少し胸を躍らせ、どんなケーキか気になって、気になりすぎてたまらず袋から箱を取り出して、開けてしまう
ケーキの種類はまさしく十人十色。チョコ、ストロベリー、ショート、果てにはミントまで、これには思わず少女も「わぁ」と喜びの一言
....の、後ろで体を震わす傀儡。
「ちょっと、コロンビーナ!先にテーブルに置きなさいよ!」
”少女”の本名を呼ばれ、これまた傀儡の注意に意を唱えるかのように首を傾げる
「....淑女らしくないから?」
「あんたの歩き方が持ち物落としそうで、正直怖いのよ...」
コロンビーナの歩き方は他とは違う独特なもので、彼女だけまるで月面にいるかのようにふわふわと浮くように歩くため、落とさないのか心配になるのである
「では、
「.....あなたも食べないの?」
「.....いえ、自分には他にも任務がありますので....」
「そうよコロンビーナ、今回の茶会は男子禁制、これを作った本人ならともかく」
今回は執行官の女性組だけでの茶会。そう易々と人を呼び込むのは避けたいもの、増えすぎるとやかましくなるし
「それなら別にいいんじゃない?作った本人だし」
と、指差す先はそそくさと逃げるように離れようとする一般兵。<ビクッ>と肩震わすその人と、淑女として指差すのはダメだと諭そうとするものの、コロンビーナが言ったことに
「え、え、何言ってるのコロンビーナ?」
「だって、『演者』...だよね、与えられた名、その『演者』がこの子だよ?」
「何言って....姿も、身長も、声もちが___」
「はは、さすがはコロンビーナちゃん、いやファトゥスの『第三位』にはかないませんよぉー」
見破られたことに反論もせず、潔く正体を表す
素肌の部分が、装甲へと変わり、背丈も、姿も、声色全てが変化し、サンドローネがよく知る姿へと変わる
「あ、あんた_______」
それは素肌を全て隠した服装、顔も仮面で隠し、腕部と脚部は装甲で覆われた。声色は低く、身長も『公子』と同程度。
彼こそは、ファデュイ執行官第十二位『演者』のメッツェッティーノ。
そうケーキを作った料理人本人が来ていた。それも変装して
「私も一瞬わからなかったけど....サンドローネが気付いてないのはちょっと驚いた」
「あんたそれバカにしてる?」
「?...バカにしてないよ?」
その一言はある種の煽りだと認識したのか、サンドローネは青筋立てて体を震わしていた
「落ち着いてくださいませ、サンドローネ様。もとよりこれは私めが一時の感情に任せ、いたずらに変装し近づいたのがいけなかったのです。怒りはこちらに向けてくだされば.....」
「そうよ、なんで変装なんかして________え、悪戯って言った?本当にちょっとした出来心ってこと?」
「はい」
「私の中のあなたが、崩れていくのわかってるよね?」
「ははは、お褒めの一言。ありがとうございます」
褒めてないと、ツッコミをいれ、サンドローネは事前に用意してあった予備の折り畳み椅子を取り出し、配置する
「これは....」
「特別に茶会に入れてあげる。ケーキの感想欲しいでしょ?」
突然のお誘い、正直嬉しくて、気恥ずかしさのあまり後ろ頭を掻く
とはいえ、この後の用事は人生でもっともと言っていいほど外せぬ事だったので、丁重に断りを入れる
「申し訳ございませぬ、私めは、この後は早急にモンドに行かなければいけず....そのため、事前に箱に添付しておいた紙に感想を書いて、そうですね....モンドに潜伏しているファデュイの一員に送ってくだされれば、いずれは接触したのちに回収、拝見いたしますので....」
「はぁ?なんでモンドに?あそこは
「何もないは流石に....と思いますが、そうですね....」
口ごもる。その問いに上手い返事が返せないよう
「私の記憶では、君にモンドに関係する任務等は与えられていないはずだが?」
追撃。さすがは第四位の召使い、返答を考えている途中だというのにさらなる一撃を加えると....
しかし、まぁ僕は『演者』だから、それっぽく、かっこいい返答をしてみよう
「モンドには、私が演じなければいけない舞台だと認識しているからですかね....」
少々、鼻につく物言いかもしれない例えかっこいいと思える姿形をしようとも、中身が共わなければ滑稽に見える
その滑稽な中身は自分にもあるようで
やはりというか、カッコつけは、過ぎればダサくなる。
周りの反応は、既にケーキを頬張っているコロンビーナ、紅茶とケーキを優雅に嗜む淑女、以前としてこちらを見据える召使い、「はぁ?」という怒りこもる疑問の表情をしたサンドローネ。失敗した___
その事実に演者は、仮面の内側の頬を赤くする
「.....では、私はこれで....」
「はっ、ちょっ!!」
傀儡の静止虚しく、既に虚空となりて、この場から消え去る演者。
枯葉を運ぶ風、気まずさを象徴するかのようなそれは、数秒の沈黙の後に
「____なんなのよあいつ_______!!」
という叫びで、このプロローグは幕をとじる。
オリ主
原神本編から約二十年後の未来の人間。
彼が生きた時代にはとある旅人監修の物語が大流行、それを脚本にした演劇、ミュージカルは素晴らしい出来で、評論家や民衆たちの評価も良く、当時の彼に大層な感動を与えてくれて、俳優になりたいという夢を抱く
彼の俳優としての才能はとてつもなく高かったが、運悪く、日の目に出ない売れない俳優だった
ならばと、他の人にはない方法で有名になろうとし、ある技術と理論を完遂しようと躍起になったが、道半ば過労による心臓発作で倒れそのまま逝去した
その魂がなぜか彼がよく知る夢の物語の舞台へと転生してしまう
彼は、未来の物語の知識と、この時代で完遂させたとある技術とともに、人目を引く演者になりたいという夢を叶えようとする
....っていう設定です