感想、評価、お気に入り、しおり、どれもとてもありがたく思っています。感想貰えたときは舞い上がりました。本当にありがとうございます。
私事ではありますが、当方推しが遂に実装されてしまい、欲望に負けてリチャードのための保釈金とジョンへの税金がすっからかんになりましたことを懺悔します。
そして追加で本作のプロット見直してて今さら気付いたのですが、書きたいことが多くて思ったより長くなりそうなことも告白します。気長に見ていただけたら幸いです。
「……はあ、また素材が足りなくなっちゃったな」
なめらかで無機質なカルデアの廊下を歩きながら、私は思わず小さくため息を漏らす。
手にしっかりと握りしめているのは、今や私にとって最大の頼みの綱__輝くピュアプリズムの山だ。
頼もしいサーヴァントたちがカルデアへやって来てくれるのはとても嬉しいけれど、それに比例して一瞬で消えていく素材たち。もちろん周回も頑張っているが、マスターである私の体力にも魔力にも限度がある。そんな時に助けてくれるこの超便利アイテムは、まさに救世主だった。
第五特異点から戻ってきてもう数日が経っている。メディカルチェックを受けたり召喚したり、報告書も書いたりと色々こなしていたらあっという間に時間が過ぎていた。そしてようやく落ち着いたと思ったらまた育成の壁にぶつかり、交換のためにダ・ヴィンチちゃんの工房へと向かっている途中だった。
「英雄の証、あと十個くらい欲しいんだよなあ……」
ついでに骨も少し足りないし、塵だって欲しい。歩きながら指を折って数えていると、いくら周回してもさっぱり落ちないドロップの渋さや、逆に使えないまま倉庫に余っている素材へ対する念のようなものがフツフツと湧き上がってくる。
(もしも余ってる素材が欲しい素材に変えたりできたらなあ……それか、せめて敵からもう少しむしり取れたらいいのに……)
そんな現実逃避じみた妄想を頭の隅で繰り広げていると、目的の工房へ着いた。私はカルデアの無機質な雰囲気にはちょっと場違いな、重厚で厳かさがある木の扉の前に立ち、コンコン、とノックする。
「失礼しまーす!」
「どうぞー」
扉の向こうから返ってきたのは、いつも響くダ・ヴィンチちゃんの華やかで万能感に満ちた声……ではなかった。
「あれ?」
聞き覚えのある、穏やかでどこか波の立たない凪のような声に首をかしげつつ、重い扉を押して中に入る。ここに来るまでとは違う、工房に満ちる独特の香りが鼻腔をくすぐった。
案の定、資料や何かしらの道具が広げられた机の向こうで、ソファにゆったりと腰掛けて分厚い本をめくっていた金髪の少年が静かに顔を上げた。
「やあ、藤丸」
「カセン! ダ・ヴィンチちゃんは?」
「ロマニのところだよ。大方、また作業のしすぎだと叱りに行ったんじゃないかな。だから僕が留守番してるんだ」
「なるほど……」
彼の説明を聞いて私はおもむろに頷いた。確かに、ここ数日のドクターは目に見えて目の下に酷いクマを作っていたし、顔色も青白かった気がする。あれが噂に聞く社畜というやつか……と、怖いもの見たさ半分、心配半分くらいの気持ちで眺めていたのを覚えている。
「それで、藤丸は素材交換?」
「うん!」
「よく頑張るねえ」
「戦力はあればあるほどいいからね! みんないつも頑張ってくれてるし」
「それはそれは」
カセンは手にしていた本をパタンと静かに閉じると、ソファから立ち上がり、私がカウンターの上に置いたピュアプリズムの山を覗き込んだ。耳元で編み込まれた小さな三つ編みが揺れる。
「しかし、本当に便利だよね。限度はあるけど、これがあれば時短できるんだから」
「うん! 周回に何時間も費やさなくて済むの、本当に助かるんだ……!」
「ドロップ率が低いのは大変だもんね。時間だってタダじゃないし」
「そうなの! 落ちたと思ったら別の素材だった…とかざらにあるしさ」
「大変そうだなあ」
「……カセン、なんだかすごく他人事だね?」
「そりゃ他人事だからね」
悪びれる様子もなく、さらりと即答されてしまった。
「君が好きだから」とか「人理よりも君が大事だ」なんて、聞いているこっちが赤面するような凄いことを時折言ってくるくせに、こういう普段の時は素っ気なく、どこかすんと澄ました様子をしている。もちろん、きっと彼の今の様子も、かけられた重みのある言葉もすべて真実なんだろうな……というのはわかっているし、そもそも素っ気ない態度から繰り出されるデレ(?)のせいで威力が凄いことになってるわけで……とまで脱線気味に考えて、やっぱりカセンという人物のつかみどころのなさは相変わらずだと一人で勝手に再確認することになった。
「それにしても」
私が指定した素材を手際よく用意し、個数を確認しながらカセンがぽつりと呟いた。
「証とか骨とか、サーヴァントを強化するための素材になるのは理解できるんだけどさ」
「うん」
「でも……食べる必要あるの?」
「それは……正直、私もよく分からない」
「このランプとかも、食べてるんでしょ?」
「うん」
「黒い塵も?」
「食べてる」
「心臓も?」
「まあ……むしゃむしゃ食べてるね」
「……カルデアって、本当に変なところだよね」
「マスターやってる私も、つくづくそう思うよ……」
カルデアの妙な謎に、思わず二人で顔を見合わせて思わずクスッと笑ってしまった。
笑うと言っても相変わらずカセンの表情は仏頂面で、口元すらほとんど動いていない。けれど、夢の中とは違う赤色の瞳を細め、華奢な肩を小さく揺らしてくすくす笑っているのが伝わってきて、胸の奥がじんわりと温かくなる。
結局、サーヴァントの再臨やスキル強化に関する謎の結論は、“仕組みはよく分からないけれど、みんな美味しそうに(?)食べてるからヨシ!”という大雑把な結論で落ち着いた。
「はい、これで頼まれた分は全部かな」
「ありがとう、カセン!」
「ああ、それと」
受け取った素材を大事に抱えて部屋を出ようとした私を、彼が呼び止める。
「?」
「今夜、またお茶会をしよう」
「え! やった、いいの?」
「ロマニのこと言えないくらい、君だって大概顔色が悪いからね。強化や次の準備も大事だけど、たまにはちゃんと休まないと」
「あー……」
言われてみれば、第五特異点攻略はまさに死闘の連続だった。北米横断みたいなこともしたし、色んな意味でこれまでの旅とは桁違いと言えた。それになんとか解決してカルデアに戻ってきた後も、報告書の作成やら色んな出来事やらで、息をつく暇もなかった気がする。
言われてみると確かにと納得できるが、しかし自分ではあんまり自覚がなかった。それにまだ特異点は残ってるし、止まってると逆に落ち着かないのもあったし。……これは最近ちょっと危ない方でハイになってたのかもしれない。もしカセンに言ってもらえなかったら……他の人が指摘してくれていたかもしれないが、それにしたってきっと危なかっただろう。
無表情で少し冷たくも見えるカセンだけれど、こういうときの気配りや察しの良さには目を見張るものがある。
「うん! ありがとう、楽しみにしてるね。じゃあメディアさんたちにも後でお茶会のこと伝えておくから!」
「よろしく。じゃあ、また今夜」
「うん! またね!」
私はお礼を言ってじんわりとした温もりと、新しくできた小さな楽しみを抱えて工房を出た。
そして、その夜。
(__今夜こそ、真名を当ててみせる……!)
自室のベッドに横たわり、天井を見つめながら私は密かに布団の中で拳を軽く握りしめた。
夢から覚めると、毎回お茶会の詳しい会話や内容は少しずつ記憶の霧に包まれて薄れていってしまう。けれど、以前自信満々に挑んだ“アーサー王のお兄さん説”が見事に粉砕されたことだけは、ハッキリと覚えていた。
最近の私は、図書室の資料を漁っては“王様のお兄さん”という条件に当てはまりそうな歴史上の人物を片っ端からピックアップしている状態だ。
「せめて……真名に繋がるヒントだけでももぎ取りたい……」
そんな静かな執念とともに瞼を閉じると、心地よい浮遊感とともに、私の意識はゆっくりと深い眠りへと落ちていった。
…………
目を開けると、そこはいつもの場所だった。
のどかで美しい、湖の見える洋風な屋敷の庭。爽やかな風が草花を揺らし、テーブルの上には上品なティーセットと、焼きたての香ばしいお菓子がお店のショーウィンドウみたいに綺麗に並べられている。
「こんばんは、藤丸」
「こんばんは、カセン!」
「今日も気合が入ってるね」
ガーデンチェアに腰掛けたカセンが、クッキーを一口かじりながら面白そうに目を細めた。
「もちろん! 今夜こそカセンの真名を当てるか、せめて大きなヒントをもぎ取ろうと思って!」
「僕みたいなものに、よくそんなに精が出るなあ」
呆れたような、けれどどこか愉快そうな声音で呟いて、カセンはこちらを見る。
「というか最近の藤丸、ちょっと当てずっぽうが多くない?」
「もうわかんないから数撃ちゃ当たる作戦!」
「僕としては、もう少しじっくり考えてくれると嬉しいんだけどな」
淹れたての紅茶を一口含み、湯気の向こうで彼は小さく肩を竦めてみせた。
「まあ、藤丸がそうやって楽しそうにしてるなら別にいいんだけどね。答えはそんなに重要じゃないし。__それじゃあ、今日の予想を聞かせてもらおうか」
「ふふん、任せて。そうだなあ……」
私は腕を組み、今日のために仕込んできた知識を脳内で全力で回転させる。
「……もしかして、ユディシュティラさんだったりする?」
「マハーバーラタの五王子の長男か。また一気にスケールと地域が広くなったね。アメリカでインドの英霊がいたからかな?」
「そう! それで帰ってから色々調べてみたんだ。進歩したでしょ!」
「退化している気もするけど。ちなみに外れだよ」
「えっ、違ったかあ……」
がっくりと肩を落とす私を見て、カセンは満足そうに口元を僅かに緩めた。
「約束とかはきちっとしてるからそれっぽいと思ったんだけど……」
「そこは否定しないけど、僕が人の敷いた法を守るかは別なんだよね」
「えぇ……」
そんな他愛もないやり取りを交わしながら、私はテーブルの上の、お気に入りになっているスコーンに手を伸ばす。焼き立てのサクッとした生地を頬張ると、口いっぱいに上品なバターの風味と控えめな甘みが広がった。そしてスコーンには珍しく甘いチョコチップが入っている。これはカセンが気まぐれを起こした時にしか入っていないから、今日の私はラッキーだったみたいだ。嬉しい。
「改めて、第五特異点の攻略お疲れ様」
「うん、ありがとう」
「大変だった?」
「すっごく大変だったよ……広いのに徒歩がほとんどだったし、戦況も目まぐるしかったし、なによりスケールおっきすぎ!」
「まあ、あれは凄かったよねえ。視てるこちらにも迫力が伝わってきたよ。……あ、それとね」
カセンは紅茶のカップをソーサーに戻すと、まっすぐ私の顔を見つめ、静かに小さな息を吐いた。
「君はもう少し、自分のことを大事にするべきだ」
「私……? そうかな?」
「そうさ。アメリカでの無茶も相当なものだったし……まあ、せざるを得ないのはわかるけど。改善の余地はあるはずだ。休みをもっと取るとかね。……じゃなきゃ、ロマニのことを言えないよ?」
「うっ……」
「休める時にはしっかり休みなよ。人間は結構脆い。気を抜けばあっけなくぽっくりと逝ってしまうからね」
無表情のまま紡がれるその言葉には、けれど確かな温もりと心配が滲んでいた。まるで、年の離れた兄が妹の無茶をたしなめ、言い聞かせているみたいで、胸の奥が少しだけくすぐったくなる。
「……カセンは弟さんにも、昔そういうこと言ってたの?」
「うん?」
「ほら、話聞く限り弟さんも結構凄いことやらかしてるじゃん? だから注意とかしてたのかなーって」
「ああ」
私の問いかけに、カセンは一瞬だけ遠くを見るような目をし、懐かしさと愛おしさが混ざり合った柔らかい雰囲気で答えてくれた。
「そうだね。弟にも言っていたよ。基本、あいつは人の話を聞かないタチだったけど」
「想像できるなあ……」
「ふふ。だから結構叱ることも多かったんだ」
「そうなの? そっちはなんか意外」
「そう?」
「うん。カセンって弟さんのことすごく甘やかしてるイメージがあったから」
「まあ、確かに否定はできないな。可愛くて仕方なかったのは事実だし。でも、必要があればちゃんと叱るさ。不必要に傷付いて欲しくないからね」
そう語る彼の顔はどこまでも穏やかで優しく、溢れんばかりの愛情が感じられた。私は「カセンってお兄ちゃんとして案外しっかりしてるんだね」と口に出そうになったけれど、それを言うのは野暮な気がして、温かい紅茶と一緒にそっと飲み込んだ。
「でも、これは藤丸にもそのまま適用される話だからね?」
「私にも?」
「君だって、僕の弟に負けず劣らずすごい無茶をするときがあるだろう?」
「……ぐぬっ、否定できない……」
「だろうねえ」
私の言葉詰まりに、カセンは面白そうに鼻を鳴らした。
夢の中で繰り広げられるこのお茶会は、今日も変わらず穏やかで優しい時間に満ちている。
彼の本当の正体は分からない。隠し事も多く、怪しいところが山ほどある。
それでも__この夢の中の数時間だけは、心から無防備になって安心できた。
現実の過酷な戦いに疲れた時に、少しだけ肩の荷を下ろして、美味しいお菓子と紅茶を味わいながら他愛のない雑談に花を咲かせる。
そんなあたたかな時間を、私は案外、いや__心の底から愛おしく思っていた。
「ふふ、じゃあ今夜はこれくらいにしておこうか」
「うん。ありがとうカセン。また今度ね!」
「次はもう少し真面目に絞り込んで真名を考えてきてくれよ」
「善処しますっ!」
私の元気な返答に、カセンは満足そうに肩を小さく震わせて笑った。
外の寒さも戦いの過酷さも忘れてしまうような、今夜も変わらない、穏やかで優しいお茶会の夜だった。
本日の兄弟の様子
リチャード「兄上! スープを作ってもらいました! 私が匙で口元へ運んでも良いでしょうか!!!」
ウィリアム「ごめんね弟、ちょっと静かにしてね。頭に響くから……」
リチャード「失礼しました……! その、すみません。私が妖精について行ってしまったせいで、兄上が……」
ウィリアム「ケホ、別にいいよ。あれは低級だったし、しっぺ返しもこの程度ですんだ……それより、お前こんな給仕みたいなことして大丈夫なの? 母上に叱られるよ?」
リチャード「大丈夫です! 母上の居ない間を見計らいました!」
ウィリアム「あっ」
アリエノール「何が大丈夫なのかしら?」
リチャード「」
この後母に叱られた上、風邪がまた移った。ちなみに看病に兄が出禁になったのでリチャードは泣いた。