兄弟仲良くFateしてる奴ら   作:pipet

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長いです。


兄と弟が生きてた頃の話

 

 

 

拝啓

名も存在も不確かな神へ。

 

夢うつつで真面目に生きようとしなかったことは認めよう。

実際に僕は夢見心地でまともに周囲のことに目を向けなかったし興味が無かった。

生きてほしいという願いを受けて、なされるがまま受動的に生きていただけに過ぎない。

 

そんな怠惰な自分への罰だと言うのなら仕方がない。

仕方がないのだが。

 

 

「兄上、兄上! やはり貴方もここへ連れてきて良かった! このような窮屈なところにいさせることは申し訳ないんだが、兄上には傷付いて欲しくないためこのような形になってしまったことを謝罪しよう。しかし貴方がいなければ先程の戦いで俺は歯止めが利かなかったことだろう。流石俺だけの選定の剣(カリバーン)! 俺を人の英雄へと導いてくれる唯一の人。あぁ、この感動を、愛を表すための道具が無いことが悔やまれるな! 決めたぞ! 次の遠征ではそれらも用意するとしよう!」

 

 

4つ下の弟に拉致された挙句、毎夜のように愛やら何やらを囁かれるのは、流石にいかがなものかと思う。

 

早急に別の神罰へ変更願いたい。

敬具

 

 

 ……ふざけておくのも大概にしておこう。

 さて何の運命の悪戯か、僕はなぜか獅子心王と謳われる弟によって十字架の中に拉致され、彼の手元でどうすることもできずに暇を持て余していた。

 だから僕は暇つぶしに、聖母に幾度も祈りを捧る敬虔な信者の如く、もう何度目かの“どうしてこのような現状になったのか”をまた視直すことにした。

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

 

 まずは僕の生い立ちの話からしよう。

 

 僕が産まれたのはフランスのノルマンディー地方のある所、それから生まれた時は結構盛り上がったと聞いている。

 なんでも母は後継ぎの息子が産めないと旦那にあたるフランスの王に貶され腹を立て離婚したことがあるそうで、そんなことがあった後に僕というイングランド王の後継を産めたことに大層喜んだとか。

 しかも僕の伯父にあたる人物が僕の誕生日の日に亡くなられたことで王位継承権が父に回ってきたことから父も(流石に大々的には言っていないようだが)吉兆の印だと喜び、あまり関係が宜しくないと有名である父と母が珍しくその数日間だけは仲睦まじく過ごしたとかなんとか。

 

 つまり、僕は割と祝福されて生まれてきた。

 僕に付けられた名はウィリアム。ウィリアムと言えば父方であるイングランドではかの偉大なる征服王ウィリアム1世が有名どころだろうか。それに母方のフランスではギヨームと呼ばれるが、こちらは母の祖父であるアキテーヌ公に因んでいる、家にとって大事な名を賜っていたらしい。

 父がイングランド王に戴冠してからは王位継承第一位としてそれはそれは喜ばれた僕だが、しかしいかんせん父母は運が悪かった。

 

 何故ならば僕は2人の理想とはかけ離れた存在だったからだ。

 まず僕というのは出生した時点である程度形成された自我と、ここではないどこか遠くを見ることができる眼を持っていた。

 自我だけならばどうにでもなっただろうが、問題は眼の方だった。

 僕の眼は過去に起きた出来事ならばなんでも見せる不思議な眼だった。見たかろうが見たくなかろうがありとあらゆる過去のどこかの場面を映し出し、僕を退屈させないと同時に現在を見るための視界を全て覆われてしまっていた。

 

 そんな眼の制御をちょっと自我があるだけの僕ができるはずもでなく、いつも自分のいる場所とは違う何処かを見る羽目になっていた。そのため、話しかけられてもろくに相手を認識できなかったし、何をするにも手間取ってしまうために周囲からは知恵遅れだか白痴だかと言われていた__ちなみにそれらの不敬な発言の元は父母によって何度か消されていたらしいが、しかし噂自体は消えることはなかったように思う。

 父母には2つ下の弟しかまだ生まれていなかったことと、また当世の雰囲気からして長男が家を継ぐような風潮であったため、僕が後継として相応しくあれるよういくつもの教育と施しを頂いた。

 

 しかしそんな2人の努力も虚しく、僕はほとんどそれらを受け取ることができなかった。

 理由は単純で、眼のせいである。

 正確に言えば集中力のない僕のせいでもあるのだが、しかし音と接触でしか現在を認識することのできない僕には、目蓋を閉じていたとしても流れ続ける過去の場面をなんとか無視して教育を精一杯受けるということは不可能に近かったのだ。

 

 

 さて、そういうわけで城中に僕の白痴説が濃厚になってしまった頃。ついに転機が訪れた。

 

 

 母が僕の首を絞めてきたのだ。

 

 

 但し書きしておくと、これは母が遂に僕に愛想を尽かしたとかではない。呪いによって母に取り憑いた何かしらが、僕を殺めようとしてきたのだ。

 というのも、僕が眼でなにか良からぬものを覗き見してしまい、それに激怒した魔術師だか上位存在だかが呪いを送ってきたのだ。そしてそれが魔性のものや神秘などに関わりのあるらしい母へ辿り着き、とうとう僕を殺めようとした、というわけだ。

 

 結論、原因は眼。ついでに制御できない僕。ただ誤って見ただけで殺されるだなんて理不尽な気もするものの、相手は過去から未来へ最悪の贈り物ができるほどの力を持っているんだから恐らく神代の大物であるので、世は無常なものと捉えるほかないだろう。やはり運が悪いようだなと首に力が加わるのを感じながら死を待っていた。

 

 しかし奇跡的なことに、僕は生きることができた。

 

 母は強しと言うらしいが、我が母はその体現者とも言うべき人だったのだ。恐らく神代由来と思われる呪いをなんとか跳ね除け、僕の首に残っている跡を見て嘆いてくださった。

 そしてそんな哀しみの声に僕は我慢ならなくなって、ポロリと眼のことを言ってしまったのだ。

 

「ごめんなさい、僕にこんな眼があったせいです」

 

 そうすれば母は驚きと納得を得たようで、その後は僕の死を偽装してポワティエへ連れられた。

 

「大丈夫ですよ。お前がそんなことを言う必要はないのです。きっと、私がお前を助けてみせますからね」

 

 決意の籠もった言葉を聞き、次に頭に温かな感覚が伝わった。

 

 なんて行動力と根性のある母だろう。僕は死ぬか生きるか政治の傀儡になるかくらいは想像できていたが、まさか母に亡命させてもらうだなんて思いもしなかった。

 しかしこれら一連の出来事のおかげで、僕はなんとか助かったのだった。

 

 呪いにより殺されかけた後、僕は母と縁のある湖の乙女に世話になることになった。

 母は一度呪いを受けたために、また害することがあってはいけないからと距離を取ることになった。そして代わりに湖の乙女を師として眼を扱えるようなりなさいと言われたのだ。

 

 そうして預けられてからは緩やかでありつつも劇的な変化が僕へ訪れた。

 

「あなたのその眼は、人ならざるものが持っているものによく似ている。確かに、アリエノールが私を頼るわけですね」

 

 湖の乙女である彼女は僕の眼を妖精眼のようだと表しながら、少しずつその正体を明かしていった。

 

 過去を見通す千里眼。それが僕の目に宿っているもの。

 

 彼女が正体を明かしたことで神秘とやらが少し薄れ、僕にも制御できるものになるだろうと言われた。彼女の言う通り、数年はかかったものの、ようやく僕は眼を抑えられるようになって、現在を見られるようになった。

 

 ようやく現在を見られたときの感動はなんたるものか。目を動かしても過去の場面は映らないし急に年代や場所が変わったりしない。嬉しくてついはしゃいだのもつかの間。今度は目に映る現在と動く体とが一致せずに転びまくって湖に落ちたり頭を打ったりでしばらく大変だったこともあったが、概ね僕の人生というものは好転しつつあった。

 

 母とも再会し、ようやく初めて目と目を合わせて話し、物語を改めて聞かせてもらい、王位などはなくともやっと手に入った普通の日々というものが尊かった。

 

 そんなある日のことで、僕は弟に会うことになった。

 名はリチャード。赤毛交じりの金髪が眩しく、爛々と輝く赤い目が特徴的な4つ下の弟。

 

 2つ下のヘンリーとはほとんど言葉を交わすことも顔を合わすこともなかったために、僕にはほとんど初めての弟で、人並みに嬉しかったことを覚えている。

 まだ歯が生え変わっている途中で、手足だって小さい。でもそんなことを気にせずに、忙しなく動いてあちらこちらへと俊敏に駆けていく様は僕の目によく焼き付いた。

 母はポワティエ、ゆくゆくはアキテーヌをリチャードへ継がせようと考えていたらしい。僕にそれを言うのに躊躇いもあったそうだが、僕のことを気にする必要はないと言うと、目を細めて僕の頭を撫でていた。この時は表情というものがいまいち分からなかったから何も思わなかったが、もしかすると彼女は哀しんでいたのかもしれない。本当に興味が無いだけなのだが、ぱっと見だと僕は意志薄弱に見えるようだから。

 

 とにかく領地として僕の住んでいる場所もリチャードは継ぐことになるから、親交を深めて欲しいという母の願いのもとにこの顔合わせがなされた。

 

「どうか()()()()()()()()に、立派な兄として振る舞ってやって欲しいの。ほら、リチャード。こちらはお前の兄様ですよ」

 

 そんな言葉とともに背中を押されたリチャードは、初めて見る僕に興味津々のようで、僕の周りを野ウサギか小鳥のように跳んで回り、辺りを散策しようと幼子特有の高くて舌足らずな声で僕を呼んで手を引くなどそれはもう可愛らしかった。母はその様子に安心していたが、その後はしゃぎ過ぎだと叱り、リチャードはしなしなの葉のようになっていて、その光景が可笑しかった。

 

 僕らはすぐに打ち解けた。

 いい感じの棒を拾ってリチャードに渡せば、これをエクスカリバーとする!なんて言って振り回し、湖の乙女はいないだろうか!としきりに湖を覗き込んでみたりと本当に忙しない子供だったが、僕もそれに負けないくらい浮かれて弟の後をついて行った。

 夜は母にアーサー王伝説を寝物語として読んでもらいもして、もうすっかりと家族同然だったろう。数日後に訪れた別れ際にはきのみを必死に掴むリスのように頑なにしがみついて凄かったが、母はそれをものともせずに引っ剥がしてイングランドへ戻っていった。

 

 以降も何度も母と弟が訪れ、その度に縁を深めていき、遂に弟がアキテーヌ公へなった頃だろうか。

 

 その時にはリチャードは既に僕の背を越え、声も少しずつ低くなっていた。

 

「リチャード、随分と大きくなったね」

「あぁ! 馬にも一人で乗れるようになったし、これで更に冒険が捗る! しかし、兄上はあまり変わらないな。はっ、まさか兄上、湖の乙女の加護を!?」

「違うと思うけど…僕もリチャードくらい大きくなりたいなあ。そろそろお前に付いていくのが厳しいんだよね」

「……!」

「黙ってしまった。おーい、リチャード?」

 

 そう、僕はなぜかわからないが、全然身長が伸びなかった。同年代の女子にも負けるかもしれないくらいには。

 しかしこれでは足が速くなってきたリチャードの冒険に付いていくにも一苦労。兄としての矜持も芽生えているため、湖の乙女直伝の魔術でどうにか追いついているが、リチャードに置いていかれるのも時間の問題だった。

 故に成長したいし、乙女にも相談したのだが、普通に僕の背は成長できる伸び代があんまりないそうで、がっかりとショックが僕を襲ったのは御愛嬌というやつか。

 沈んだ僕に魔術の才能ならたくさんあると乙女が言ってくれたが、それとこれとは別だったので、このリチャードとの会話の時も僕はちょっとしぼんでいた。兄なのに弟より足が遅くてチビ。言語化するとより惨めで、僕の数少ない表情筋ですら仕事して我が仏頂面を歪ませるほどの威力である。

 そしてリチャードはそんな情けない兄に何を思ったのか、今度は“なら俺の馬に兄上を乗せよう! そして俺が走れば全く問題ない!”などと言い出して思わず吹き出した。一緒にいて飽きない人間というのはこの弟のことを指すのだろう。それはそれとして“馬の主人が他人を馬に乗せるなど何事か、そういうのはするにしても妃にだけにするものだ”と叱ったが。突拍子のない弟にこの程度の釘を刺した所であんまり変わらないけれども。

 

 

 それからもう一つ、リチャードが成長したなと思う会話もあった。

 

「兄上。俺はもしかしたら…怪物のような心を持っているのかもしれない」

「突然どうしたのさ?」

 

あれはリチャードが思い詰めた顔で僕を覗き込んできたときのことだった。目だけが爛々としていて初めて会った時と変わらず、しかし何処か曇っている顔の弟。

 

「俺は、人を殺めることに抵抗がない。それどころか、戦争があれば嬉々として向かってしまうし、戦いを心から望み、楽しんでいる自分がいる……人々はそれさえ英雄である証だと褒め称えるが、俺にはどうもそう思えないんだ」

「自分がいつか、怪物になってしまいそうで恐ろしい。そして、怪物になるのも厭わないと思えてしまう」

 

「なあ、兄上。今の俺は、何なのだろう」

 

 家族にもそうやすやすと打ち明けられないだろうリチャードの心の内を、僕は聴いた。

 過去で見た人々がしていたような苦難の顔を、僕は弟の中に垣間見た。

 過去で弟と似た表情をしていた人々は、暗く悲惨に散った者もいれば、その曇りを払拭して華々しい栄転を迎えた者もいる。

 僕は弟には、後者になってほしかったが、なんと言えばいいか分からなかった。だから、単純でありきたりなことしか言えなかった。

 

「周りがなんて言おうと、リチャードはリチャードでしかないと思うけど。お前はどうありたいの?」

「俺は…」

「リチャード、知ってる? お前は悪魔だの英雄だの言われているらしいけど、これまでの歴史の中でお前と似たような事を言われた者達は、必ずしもそれらの言葉通りの人物ではなかったってことを」

「騎士として立派だと讃えられた者でも、恋に現を抜かして国を崩壊させる。悪魔と呼ばれた者でも、一欠片の良心を他者へ向けることがある。人は往々にして多面的だ。ただ一側面しかないだなんてあり得ない。そして、その色んな側面を周囲が雑に纏めてしまうというのはよくあること」

「……」

「お前はきっと、人よりも多面の部分が多いんだろうね。その中に悪魔と呼ばれる残酷な側面も、英雄と呼ばれる勇敢な側面も抱えている。だが、それだけのことだ」

「他者がお前の全てをひっくるめて悪魔と呼ぶのも英雄と呼ぶのも仕方ない。彼らはみな見たい部分だけを選り好みしていることが多い。リチャード、お前はそれを甘んじて受けるだけの人だった?」

「……!」

「それに怪物になってしまいそうで怖い、だったか。そんなに怖いなら、それを僕が止めてあげるさ」

 

僕は君の兄上だよ? 弟の躾くらいはしてあげる。

 

 あんまりに弟が落ち込んでいるものだから、僕は珍しく必死になって、拙く色んなことを並べ立てた。

 リチャードは僕の言葉で目をまん丸にしていた。幼い頃に枝を拾って、それを聖剣なのだと心の底から信じていた時の瞳に似ている、自分の唯一を見つけたみたいな、そんな輝いた瞳を覗かせた。

 

「ほら、そんな綺麗な目ができるなら、お前はやっぱり怪物じゃなくて、ただの僕の弟だ」

「……兄上ッ!!!」

「ぐえっ」

 

 そう言って小さい頃冒険していた時のように手を握ってやれば、もう片方の腕とリチャードの体にぎゅうぎゅうに抱きしめられて、締められた鶏みたいな声が出る

 

「……りちゃ、ど! くるしい」

「すまない、今俺は加減ができそうにない…耐えてくれ兄上」

「……」

 

 こいつ…と胡乱げな目をしそうになったが、しかし話しかけられたときの思い詰めた表情を思い出して、堪える。

 興奮した獣を落ち着けるみたいにゆっくりと頭を撫でつけていれば、リチャードはとつとつとまた思いを吐き出し始めた。

 

「……俺は、英雄や騎士というものに焦がれている。それは事実だ」

「うん」

「そして、怪物のように、戦いを楽しみたいというのも……事実だ」

「うん」

「俺の欲は消えない。まるで獅子が心で暴れているかのように激情が渦巻いて、止まることができない。そして、それは俺が憧れていた英雄や騎士とは違ったものだ。それが、ひどく苦しく感じる」

「そっか」

「兄上の言う多面的な俺というものは、多面ゆえに自分の矛盾に苦しんでいるんだ。俺自身の欲が、互いに互いを傷付け合っている」

「……」

「さっき兄上は、俺が人よりも多面なのだと言い、そしてそれは周囲の声によって縛られるべきではないと言った。自分のなりたいようにするべきだと」

「うん」

「なら、……なら俺は、どうすればいい?」

自分が自分を苦しめている、この俺自身は。

 

……

 

「もう、言ったでしょ」

 

「僕が面倒見てあげるんだって。お前の頼りになる兄上である、この僕が」

「お前が望むなら、怪物になるのを止めてあげる。英雄になるのも手伝ってあげる」

「あぁ、なんならカリバーンの代わりに僕がなって、選定してあげようか」

 一番にしたいことを言うといい。

 リチャードが苦しまないように、僕が叶えてあげるから。

 

 

 

 

 

 言い終わって、空気を吸い込もうとしても上手く吸えない。

 リチャードがもう一度、僕を強く抱きしめていたからだ。そしてそんな苦しい中でも、僕はそれに応えようと、めいいっぱい抱きしめる。

 

 僕達兄弟はそうやって、湖畔に見守られながら、ぎゅうと抱きしめ合っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

 

 

 やっぱりこの場面である。

 何がかと言えば、リチャードが僕を拉致した理由のことについてだ。もう明白だろう。

 冒頭に戻るのだが、いつもここで見直しをやめる。だって客観的に見ると小っ恥ずかしくて見てられない。

 何度見てもここが戦犯。なに弟をたらし込んでいるのだろう過去の僕。

 慰めるために必死だったとはいえ、その結果弟が暴走し始めて僕のことを“俺だけの選定の剣(カリバーン)”だとか呼んで戦場まで連れ込んでいるのだ。しかも十字架の中に入れて。

 

 十字架というのは比喩ではなく、まんま十字架。神父や敬虔な信徒が手に持っているもの。

 何をどうしたのか、リチャードは十字架の形をした魔術的な道具を手に入れ、そしてその中に僕を閉じ込めてしまった。

 本来ならば悪さをする妖精を懲らしめたり、捕まえてなにかしらの材料にしたりというための道具だったそうだ。…十字架の形なんかにして、宗教とか大丈夫だったんだろうか?

 

 そんなものの中になぜ僕が入れることができたのかは、恐らく湖の乙女との縁が濃かったのと、千里眼を持っていたからそういう幻想種の判定が下されたのだと思われる。それ以外に理由がないので。

 

 話を戻そう。リチャードは突然僕の所にやってきたと思ったら、そのまま僕を十字架に入れてしまった後、すぐに第3回十字軍遠征へ向かったのだ。そしてエルサレム奪還のため、今も楽しそうに戦っている……。

 まだ昼だから僕は呑気にしていられるが、夜になれば恐怖の始まりである。

 夜は暗いので、当然進軍は止まり休息の時間となる。もちろんリチャードだって例外ではない。しかしこの休息時に彼が何をしているかと言えば__

 

 

「あぁ、兄上。今日も俺はたくさんの敵を斬ってしまった。強敵も雑兵もすべてだ。血と汗が流れ、怒号に鎧の擦れる大きな音、火の弾ける音もあったし馬の悲鳴も聞こえた。まさに戦いの最中だと感じられて…そしてその感覚が俺には心地よいものだったんだ…今日も祈りと懺悔をさせてくれ。俺の祈りを、懺悔を、貴方だけに捧げよう。我が祈りもこの罪も、余すことなくその耳で聞いてくれ。そして決して赦さずにいてほしい。罪を刻み込み、俺を覚えていてくれ、どうか……」

 

 

__これである。

 毎晩このように長々と僕に祈りを捧げているのだ。本来なら聖母マリアに祈るはずであるところを、拉致している実の兄に対して行っているのも含めてあまりに歪な光景だ。

 しかもこの地獄のような様子は最低でも数時間続く。酷いときには朝が明けるまで続いたこともある。

 あまりに長く辟易しそうになるのだが、ひたすら僕にリチャード自身のことを覚えていてほしいのだと切実に願うため、僕は暇なのも相まって仕方なく弟の懺悔とも祈りとも区別がつかない言葉たちを頑張って記憶している。

 千里眼で過去にリチャードが言っていたことも取りこぼしていないかわざわざ幾度も確認して、一言一句きちんと覚えている。なんて弟想いの兄なんだろう。その覚えるための理由が暇だったからということと、言ったことに責任を持たなければならないと教育されたことから来ていることでなければもっと感動的だった。

 なんならリチャードのおかげで僕は読唇術まで体得した。あまり嬉しくない技能の獲得の仕方だったのは言うまでもないだろう。

 

 一切の表情を削ぎ落として、ただ純粋に祈りを捧げることだけに集中しつつも、目だけはずっと爛々と輝かせるリチャードの顔を眼で眺めて、必死に唇の形を読むことで捧げられた言葉を思い返す。

 時に弟は我に返ったように祈りの途中で僕にこの祈りが届いているだろうか?と問うてくるのだ。抜き打ちで行われるそれにひやりと背中や手足が冷たくなる感覚を感じて、それでもきちんとお前の祈りを聞いているよと言葉を返し、これまでに捧げられたいくつかの祈りの言葉の数々も唱えてやる。そうすればリチャードは安心し、また祈りを捧げ、明日のために眠る。

 

 朝になれば元の獅子心王として進軍を再開して、夜になれば祈りを捧げての繰り返し。

 十字軍遠征が終われば流石に帰してもらえるかなと希望を抱えて、僕はひっそりと十字架の中で過ごしていた。

 

 

 しかし、この希望は打ち砕かれることになる。

 

 悲しいことにリチャード、味方の国の国旗を何を思ったかはたき落としてしまい、その復讐とばかりに捕虜として捕まえられたのだ。

 虜囚になり、僕と弟で2人きり。リチャードの僕への祈りと日常会話(傍から見たら獅子心王による恐怖の一人芝居である)が倍増したおかげで僕の何が大事なものが減っていく気がしたのは気の所為ではないだろう。

 

「聞いてくれ兄上! 俺が虜囚になってからもう冬も来たというのに一向に身代金が払われず釈放されないままなんだ! これはどういうことなのだろう! 冒険もできず、こんなに不自由な身では俺は……なに? 母上は俺の為に奔走してくださっている? しかしジョンが俺の事を思っての行動で逆に閉じ込めようとしているので、2人の行き違いなどから現状になっているようだと……そうか。ならば俺からは何も言うまい! 教えてくれて感謝するぞ兄上! それにしてもその眼もそれを扱う兄上も本当に凄いな! 流石は湖の乙女にその魔術の才を讃えられた人だ!」

 

 

「……あの、あれ本当に報告しなくても宜しいんでしょうか?」

「……放っておけ。かの獅子心王の御心というのは我々には分からんよ。その口から紡ぎ出された言葉も含めてな」

 

 今日もリチャードは虜囚とは思えないほどに元気で、傍目から見ればとても大きな独り言をしているものだから見張りの兵も呆れている。

 この前は囚われの自身について歌まで作っていて、胸元に居る僕と外の見張りも含めた多くの人間の度肝も抜いたりと全く大人しくなる気がないようだ。

 こんなにそそっかしいから末弟のジョンも胃を痛めているらしい。13歳下のまだ若い末の弟は、せっかく兄の居ぬ間に政をしようとしても母上がリチャードを何とかしようとしているのもあって、いつ兄が解放されてしまうだろうかと不安で不安で仕方ない様子が見えていた。一応過去のことなので現在はわからないが、恐らく今も不安に駆られて顔色が悪そうなのは想像に容易い。

 

 そんな末弟のかわいそうな姿はリチャードに黙っておきつつ、今度は母上の方を見てみた。

 鬼の形相で資金集めする母、湖の乙女となにか話し合う母、その話し合う姿を見られていることを乙女に知らされたらしく、僕と目が合った母…これ以上は止そう。とにかくこちらもこちらで大変そうだなというのが素直な感想だった。まあ、肝心の本人はこんな有様なんだけれども。

 

 

 そんなこんなでリチャード、解放である。

 リチャードは母との再会にとても嬉しそうにしていた。母もやっと元気な息子を見られてほっとしたようだが、すぐにお叱りの態勢に入った。

 そしてこんこんと説教される羽目になり、しおしおになるリチャード。まあ味方の旗を落とすなんて行為してたらさもありなんだよな…と対岸の火事でも見るみたいな目を向けていたのだが、なぜか僕に飛び火した。

 まあ早い話、女性を覗き見するとは何事ですか、ということだ。眼に振り回されていた頃ならまだしも、意図して他者、特に女性を見るなど言語道断ですとピシャリと言われてしまい、思わず背筋が伸びる感覚がした。

 

 それを察知したリチャードが笑って、そこでお叱りは切り上げとなった。

 あとは帰るだけとなり、ふと気になって末弟の方を見てみたら書簡を手に持って可哀想なほど震えていた。冬に冷水でも被ったみたいな震え方と顔色だ。どうやらいち早くかの尊厳王とやらが知らせてしまったらしい。

 あちらとこちらで温度差がここまで酷いのがおかしくて、気の毒やら愉快やら。散々な目に遭ったものの帰り道は悪くないものになった。

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

 

 リチャードはその後また戦争をした。こいつ本当に戦うのが好き過ぎである。

 国に戻って早々、末弟と尊厳王が結託していたのでそれをすぐに破り、尊厳王へ戦争を仕掛けたのだ。

 ちなみにジョンは尊厳王に放り出されたらしく、すぐにイングランド兵に捕まえられた所をリチャードに許され、ついでに鮭まで一緒に食べていた。この時僕(なお見た目は完全に十字架)も紹介されたのだが、ジョンは遂に気が狂ったかとでも言いたそうな目で見てきた。

 無理もないので僕は気にしていなかったが、リチャードはそうでもなかったようでジョンに十字架を握らせ、パスが軽く繋がったことで僕は末弟に初めましてを言った。

 

「〈やあ、初めまして末の弟〉」

「うわぁ本当に喋った!!!」

「はは! ジョンは大袈裟だなぁ。どうだ、兄上とは仲良くやれそうか?」

「まだ初めましてしか言ってませんよ兄上……まったく…ええと、その…お初にお目にかかります、ウィリアム兄上…?」

「〈うん、死んでると言われていた一番上の兄が突然生きてるとか言われても驚くよね。リチャードが突発的で申し訳ない限りだ〉」

「いえ、兄上はいつもの事なので……それにしても貴方はなぜ十字架なんかに…」

「〈言ったらリチャードの奔放さで君が倒れそうだし秘密にしておくよ。それより、ちょっと2人で話してみたいから、リチャードに席を外すように言ってもらえないかな? ……君がリチャードをどうしてしまおうかと考えていることについてだよ〉」

「!?」

「どうかしたか?」

「いえっ……あの、ウィリアム兄上が私と2人で話がしたいとのことなんですが…」

「なに? もうそんなに打ち解けたのか? 凄いなあ……まあ、ジョンならばいいだろう。終わったら声を掛けてくれ! あんまり俺の兄上を独占しないでくれよ!」

「しませんよそんなこと……

 

……それで、兄上はもう退出されましたが。なぜ私と兄上でしか交わさなかった言葉を貴方が知っているんです」

「〈……〉」

 

 きちんとリチャードが席を外したことを眼で確認して、改めて深呼吸した。

 次にいつこの末弟に会えるかは定かじゃないから、半ば脅しのような形を取ってまで僕はしなければいけないことがあった。が、まずすべきは謝罪だろう。

 

「〈僕はちょっと変な眼を持っていたからね。悪気は無かったんだけど、君とリチャードのやり取りを見ていたらたまたま知ってしまったという形かな。謝罪はするよ〉」

「…別に、知られているならもういいです。しかしこんな物になってまで兄上と共にいる貴方が、私に何の用ですか。まさか、閉じ込めてしまうのを止めるためだとでも?」

「〈そんなまさか。僕はリチャードを慮ってくれる人が居て嬉しいんだよ。母上もリチャードのことを思ってくれてはいるが、その心の底の苦しみまでは見つけられなかったみたいだからね。

僕はね、ただ君にリチャードを頼みたいと思っているだけさ〉」

「……貴方は兄上の苦しみを知った上で、そこでただ見ているだけだと? “リチャードのカリバーン”の呼び名に違わず、まるでアーサー王の持っていた“カリバーン”のように、勝手に選んで勝手に折れると? ……ぁ、いや、」

「〈おお、言葉の切れ味が凄いね。まるで母上と話してるみたいだ! 確かに僕はここでのんびりするしかないし、あってもリチャードに言葉を贈る程度しかできないだろう…君の言う通り、可愛い末弟にかわいそうな役を押し付けようとしているだけの怠惰な長男だ〉」

「そこまで言うつもりは、すみません俺の失言なんですっ!」

「〈いいんだよ。君には僕がそう見えてしまうだろうことは予想できていた。しかしそれでも僕は伝えなければならない事があるから、言わせてもらうよ。リチャードを心から心配して、自由な人であってほしいと願う君に〉」

「〈その前に、人に頼みごとをするんだし、きちんと礼儀は尽くさなくてはね〉」

 

 今宵は満月。魔力も心許ないものの用意できた。__だから、なんとかできる。

 十字架を核として魔力で身体を編み、簡素な服を着せる。__人体を丁寧にした分、服はほぼ1枚の大きな布のようなものになってしまったが致し方ない。

 身体に妙な部分がないかと確かめ終えて、ようやく末の弟の方を見れば、あんぐりと口を空けていた。まるで臭いものを嗅いだ猫みたいな顔である。

 

「初めまして、僕らの末弟」

「な、な……!?」

 

「驚いている所を申し訳ないけど、この姿はそんなに保たないから簡潔に言うよ。

__リチャードが本当の怪物になってしまった時は、君がトドメを刺してあげてくれ」

「は…」

「僕のやり方ではリチャードが本当に止まれるか分からないんだ。こんなことを彼を慕っている君に任せるのが酷なのはわかっているし、兄の僕としても不甲斐ないが……それでも、やはり君に頼みたいんだ」

 

 そう言い切って、ジョンを見つめる。まだ呑み込めないようで目もゆらゆらと視線が覚束ない。いきなり言われて困惑もあるだろうが、それでも僕は彼の目をじっと見た。

 

「……殺すだなんて、俺は嫌ですが。そんなにも言うからには、それ相応の理由があるんでしょうね」

「もちろん。というのも、僕の止め方というのが問題でね。

 

僕はリチャードが怪物になろうとしていると判断したときには、自死しようと思っている」

「はあ? …っそれは、…………それが! 兄上への抑制になると、本気で思っての言葉ですか!?」

「僕としては、そうあれたらいいと願っている。なんせ僕はリチャードのためのカリバーンだそうだからね。ならアーサー王伝説になぞらえて、彼の行動が一線を越えた時に消えてしまおうと思ったんだ。リチャードは、その意味を正しく理解できるだろうから」

 

 我ながら頭も理屈もおかしいが、しかしこんな姿となってはもうにっちもさっちもいかないため、もうこの手段しか取れないのだ。

 

 “リチャードのために”

 

 母の言葉を思い出す。ジョンには悪いが、僕は基本的にリチャードを止めたりしない。というか止められない。可愛い弟がしたいようにさせたいのだ。止めることがあるとてせいぜいがリチャードに忠告するくらいであるし、どうしてもジョンとは同じように考えられない。

 しかしリチャード自身の苦しみも理解しているつもりだ。どれだけ兄だから弟を導いてみせると僕が虚勢を張っても、リチャードの苦しみを完全には拭い取れないという現実は消えないし、いずれは彼を苦痛に塗れさせてしまうだろう。

 僕は湖にいる魔性の者たちみたいに、リチャードへお前は人として英雄になれるのだと甘言を囁き、苦しみの湖に誘い込もうとしている自覚があった。

 

 それは止めなければいけない。でも僕自身で止められる確証はない。

 

「だから、君に頼むよ」

ジョン。真にリチャードを思える兄弟思いの君。

 

 頭を下げて、彼の返事を待つ。

 

「ふざ、けるなよ…!」

「……」

「どうして…どうしてあなたたちはそんなにも残酷なことを平然と言える…! なぜ自分の命をそうも軽く扱える!? それは献身でもなんでもない、ただの自傷行為であるというのに!」

「……」

「兄上もあなたも、何も理解しちゃいない! 自分を傷付けるだけ傷付けて、痛々しいだけなのに満足したような顔をして、苦しいと零すことすらできずに死のうとする! そんな、惨たらしいことを……!

そんなの、僕は……、…………」

 

 そうして最後には荒くなった呼吸と、大きな足音が2つ聞こえた。

 うち1つは足を床に叩きつけるみたいな音を立てながら遠くへと消えていき、もう1つは軽やかさと速さを際立たせながらこちらへ近付いてくる。扉が開けられる寸前に身体を編んでいた魔力を霧散させ、僕を納めた十字架は床へポトリと落ちた。

 

 リチャードが部屋に入る寸前まで見つめていたカーペットは、月明かりに照らされて、砂粒まで見えていた。嫌に汚れが目について、後味の悪い心の中を表しているみたいだった。

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

 

 尊厳王との戦争の中、リチャードは左肩に弓を受けた。

 当然処置はされたものの、壊疽は傷口から広がり続け、生きるのが絶望的なのは一目瞭然だった。

 いつその時が来てもおかしくない彼に、母が寄り添う。かつてあった勇猛さが随分となくなったリチャードの頭を撫で、静かに最期の時間を過ごしていた。

 そしてそのどれも、僕は見ているだけだった。

 

「リチャード。ウィリアムを呼ばなくて良いのですか」

「なにを言っているんだ、母上。兄上ならば…この手のなかに居る…私と、ずっと共にあってくれている」

「もう一度、姿を見たくはないのですか」

「見たいとも。しかし……私自身がこの中に閉じ込めてしまった。それを今さら姿を見せてほしいからなどと……」

「それをウィリアムには言いましたか。願いも思いも、口に出さなければ叶うものも叶わないのですよ。まして、お前はもう……」

「……そうか、そうだな。母上の言う通りだ」

 

 おもむろにリチャードが十字架を握る力を強くし問いかける。僕はそれに凪いだ気持ちで応えた。

 

「兄上、聞こえているだろうか?」

「〈聞こえているよ、リチャード〉」

「すまない、身勝手な願いを今1つ、願わせてはもらえないだろうか」

「〈なんだっていいよ、僕に教えて〉」

「……もう一度だけ、最期に貴方の姿を見たい。過ぎた願いなのは、分かってはいるのだが」

「〈いいさ。君の無茶振りは今に始まったことじゃない。その上で僕は君とともにあると決めている。

 

……そうだね、目を一度閉じてよ、リチャード。僕がいいって言うまで〉」

「ああ」

 

 ジョンへ頼んだ時と比べて、この日は特別な日でもなんでもなくて、神秘と魔力の薄い当世のありきたりな日だった。

 しかし弟の切な願い、最期の願いには応えるとも。もとより僕はこういう時の為に、十字架に閉じ込められようとも魔術を研磨していたのだ。

 再び十字架を核にして、身体を編んだ。あの末弟と言葉を交わした日との違いは、効率がぐんと良くなって、服もかつて着ていたものと遜色ないものへ凝ることができたことだろうか。

 僕は敢えて、初めてリチャードと会った日と同じ服装を再現した。たとえ彼がもし覚えていなくとも、僕は細部まで再現したかったから、眼を使ってまで。眼をこんなことに役立てられたのは幸運だったのかもしれない。

 

「リチャード」

 

 まだ言う通りに目を瞑ったままのリチャードへ、声をかける。

 

「リチャード、いいよ」

 

「目を開けて」

 

「ねえ、リチャード」

 

 

 

 

「目を、開けてよ……」

 

 リチャードは、目を瞑ったままだ。

 こんなにも声をかけているのに、気配にも聡いはずなのに。

 

 リチャードは、目を瞑ったままだ。

 頬を触ったらくすぐったいと笑って、いつだってすぐに僕のことをその目に映すのに。

 

 

 

「リチャード……」

 

 母が僕の肩を抱く。久しぶりの温もりだった。

 ……僕が握ったリチャードの手よりも、ずっと温かい。

 

「リチャード…………」

 

 

 

……部屋は静かなままーーー

 

 

 

「…………ぁあ」

「「!」」

 

ーーーうっすらとリチャードの目が開く。

 

「すまない、兄上。少し眠かっただけなんだ……しかし、こうも願いが叶っているのを見ると、まだ夢の中にいるような気分だな」

「……バカ。夢でもなんでもいいけど、願いが叶っているんだからきちんとこっちを向いてよね」

「ああ、すまない。……またその姿を見られて光栄だ。

不思議だな、私が自ら奪ったというのに……こうして会えたとなると、喜びが心の内から湧いてくる」

「僕も、こうしてお前と触れ合えるのは嬉しいな」

「そうか……なら、やはり悪いことをしてしまったな……ああ、いけない。こうも喜びを噛み締めていると、願いが次から次へと湧いてしまう」

「いいじゃんか、人は願いがあるから進めるんだ。それにお前はいつも強欲だったでしょ? 最期にだって、欲張っていいんだよ」

「流石は兄上。貴方は変わりなく、私へなみなみと喜びを注ぐのが上手い。なら、貪欲な私からの願いをどうか聞き届けてくれ。

……私の死後も、ずっとこの身と共にあってほしいんだ」

「なかなか凄いこと言うね。プロポーズみたいだ」

「はは、それはベランジェールに申し訳が立たないんだが…そうだな、そうなるか。私は貴方に、私のカリバーンだなんて呼んで、ずっと側にいてもらった。だが私の死後、貴方が他の者の手に渡ると考えると…悔やみきれなくてな。どうか、獅子心王が十字架として、共に眠っていてほしい。……ダメだろうか」

「いいよ。僕もこの魔力が尽きれば…身体どころか、次はもう目覚めることもないかもしれない。兄弟仲良く寝るのも悪くはないさ」

「そうか…! やはり、嬉しいなあ。母上、どうか兄上とは、共に眠らせてもらえるよう…お願いします」

「……ええ、いいでしょう。必ず、お前たちを引き離さないと誓います。……さあ、たくさん話して疲れたでしょう。少し眠るといいわ」

 

 母にそう言われるやいなや、僕ももう限界だったために十字架へと戻る。意識が沈む中で、リチャードが十字架を強く握りしめるのを感じたのが僕の最後の記憶だ。

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、僕は今ここにいるって訳だ」

「ほへ〜」

「話聞いてた?」

「いやあ、なんだか色んな意味で凄いなあと思って…なんだかんだ今まで便利な魔術礼装だとばかり思ってたから……」

「まあ仕方ないよね、十字架にただの一般人が居るとか」

「いや、割とトンチキには慣れてるのでそこはあんまり…むしろウィリアムの身の上話の方がびっくりで」

「んん? ……ああ、チェイテピラミッド姫路城なんちゃらにぐだぐだ…だっけ。確かにこんな事あったら十字架1つで驚くようなこともないね。

 

__なら早速で悪いんだけど、今リチャードが僕を捕捉して全速力でここに来ようとしているよ。真名を解放して完全に秘匿の術が解かれたからバレちゃったんだよね。この辺りが木っ端微塵になるのを防ぐためにも、僕に魔力をくれないかな?」

「え!?」




ぶっ飛んだプランタジネットのメンバーを紹介するぜ!

弟のすることなす事ほぼ可愛い判定!弟バカのウィリアム!

兄を監禁するくらいにはゾッコン!一時期は嫁にできないかすら考えていたぞ!クレイジーブラコンライオンハートのリチャード!

裏切りと自虐はお手の物!リチャードに色々と拗らせ過ぎのジョン!

ホントにこれでプランタジネット朝大丈夫なのか?
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