兄弟仲良くFateしてる奴ら   作:pipet

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ロザリオが正式にできたのって15〜6世紀辺りの話だそうで、思ってたより近年だったんだなと驚いています。


カルデアに不法滞在?してる兄の話

 

 

 

 

 人理継続保障機関カルデアという場所は、ひどく味気ないところだった。

 白一色に染め上げられた無機質な壁、規則正しく明滅する人工の灯り、剥き出しで張り巡らされた冷たい金属のパイプ。そこには、ウィリアムがかつて暮らしたポワティエの瑞々しい森や牧歌的な風景などは一切見えない。

 人理を継続させるためだけに築かれた、科学と魔術の交差点。それは冷徹なシステムそのものの場所であった。

 少なくとも、彼の意識がこの場所を認識した時に抱いたのは、そんな乾いた感想だった。

 もっとも、その退屈さが長く続くことはなかったのだが。

 

 

 

 深い、深い底から、閉ざされていた意識がゆっくりと浮上してくる。

 ウィリアムが最初に見たのは、一面に広がる真っ白な天井だった。

 いや、正確には「見えた」わけではない。弟リチャードによってロザリオに閉じ込められて以降、彼には外界を直接見聞きする肉体も、感覚器官も残されておらず、ずっと静かな暗闇の中にいたのだから。

 だが、彼には生まれつきの「眼」があった。

 久方ぶりに開いた千里眼が、流れ込んできた熱と魔力に反応し、外の過去を無作為に映し出し始める。まだ目覚めたばかりで制御の術が拙くなっているせいか、視界は情報の濁流そのものだった。この部屋が作られた時の光景、かつてここを行き交った人々の残像、このロザリオが何者かの手によって持ち込まれ、保管庫の片隅に置かれるまでの軌跡。不連続な過去の光景が、コマ送りのように脳裏へ直接焼き付けられては流れていく。

 彼は少しずつ呼吸を整えるように眼のピントを合わせ、見たい過去の糸を一本ずつ手繰り寄せていった。そうしてようやく、自分が現在、世界の極点に位置するどこか人工的な魔術施設に置かれているのだと理解した。

 

 それにしても、と彼は思う。

 ウィリアムの記憶の最後にあるのは、戦場を駆け回っていた頃の輝きを失い、今にも風に吹かれて消えそうな蝋燭の火の如きリチャードの姿だ。

 壊疽が進行し、じわじわと死に侵食されていく弟。彼を共に見守る母アリエノールの、張り詰めた横顔。

 最期の瞬間まで自分を求めたリチャードの願いに応じるために、魔力で仮初の身体を作り、彼に寄り添い、その瞳の光が失われるのを見届けた。その後、母へ別れの言葉を告げて、ウィリアム自身も力尽きるようにして眠りについたはずだった。

 

 あれから、どれほどの時が流れたのだろう。数百年の重みか、あるいはそれ以上か。

 ただ一つ確かなことは、ここにリチャードの気配も何もかもがなかったことだ。

 

「……そうか」

 

 声にならない呟きが、ロザリオの暗闇にぽつりと落ちる。それは納得と同時に、少しの悲しさを滲ませたものだった。

 

 あの最期の時、ウィリアムはリチャードと共に眠る約束をした。死が二人を分つことすら許さない。どうかいつまでも傍に、と。

 可愛い弟の最期の願いだった。執着は立派なくせ、その願いを呟く姿は幼い頃にすら見たことのない弱りきったもので、たくさん慰めて、安心させてやりたいと思ったのを、ウィリアムは鮮明に覚えている。

 

 今、彼の胸を満たしたのは、どこまでも淡々とした、けれどひどく個人的な諦念だった。

 

「約束、守れなかったんだなあ……」

 

 リチャード。可愛い弟。

 ウィリアムは母アリエノールに、このロザリオをリチャードの心臓と共に眠らせてほしいと頼んだはずだった。弟の骸の傍で、彼が自分に注いだあの重苦しい愛の檻の中で、ずっと眠り続けるはずだったのに。

 どうにもここには、リチャードの心臓がない。

 いいや、正確には、ウィリアム自身がその心臓のもとから強引に引き離され、あちこちを転々としてここに流れ着いてしまったのだ。彼の千里眼は、その冷酷な事実をありありと映し出していた。

 

 帰らなければならない。

 リチャードのもとへ。

 あの、戦いの中でしか己の居場所を見出せず、なにもかも恐れることのない、獰猛な獣の性を持つ弟。しかし同時に人を愛し、人並みに焦がれ続けた弟。彼が暴走し、人でありたいと願っていたことを忘れてしまわないよう、その獣性を躾けて繋ぎ止めるのは、カリバーンを自称したウィリアムだけの役目なのだから。

 約束をしたのだ。それを違えたまま、自分だけが暢気に眠っているわけにはいかない。

 心臓のある場所でもいいが、そこにリチャード本人がいるわけではあるまい。せっかくだから謝罪も兼ねて、座でも煉獄でも、弟の元へ飛び込みに行ってしまおう。

 幸いなことに、ここには驚くほど潤沢な魔力が満ちていた。過去を覗けば、どうやらここでは電力を魔力へと変換する独自の技術が確立されているらしい。

 

 彼は静かに、かつて湖の乙女から教わった「秘匿の魔術」を自らに編み込んで、ロザリオの存在を薄くした。そしてここにいる者たちが違和感を覚えない程度の、ほんのわずかな分量だけ、施設の底流を流れる魔力を吸い取り始める。

 

 いずれ、あの傍らへと戻るために。交わした約束を果たすために、彼は誰にも気づかれぬよう、そっと潜伏を始めた。

 

 

 

 それからしばらくの間。

 彼はただ、じっと気配を殺し、再び深い眠りに就くようなふりをして過ごしていた。

 だがある日。

 ロザリオ__ウィリアムを手に取った、ある誰かに意識が向いた。

 それは魔術師として見れば、ひどく未熟で、矮小で、今にも消えてしまいそうなほどに弱い波長だった。この施設にいる他の者達と比べても、路傍の石ころと大差ないような凡庸な存在。

 

 けれど、不思議なほどに真っ直ぐな気配だった。

 魔術師にありがちな歪みも、澱みも、己の血筋に対する傲慢さもない。ただただありふれた凡人そのものの気配に惹かれるように、千里眼が自然とその人物の過去を覗き込んでいた。

 

 視界に飛び込んできたのは、世界を焼き尽くすほどに燃え盛る、昏い赤色──地獄の炎だった。

 壊滅し、瓦礫の山と化したカルデアの指令室。絶望的な状況。命を落としていく多くの人々。

 そして、そんな絶望の極致のような炎の真ん中で、血を流しながらも、後輩の手を固く繋いでいた少女の姿。

 

 特異点、人理定礎、サーヴァント、冠位指定。

 

 

「……どうやら、外は大変そうだ」

 

 

 誰に聞かせるでもなく、彼は思わず声を零していた。

 歴史から葬り去られ、もはや存在価値などないはずの自分の眼が、どうしてこれほどまでに泥臭く生が明滅する光景を捉えてしまったのだろう。

 

 __すべては、そこからだった。

 彼がその少女、「藤丸立香」という存在を静かに見守り始めたのは。

 本来なら折れてしまってもおかしくない過酷な運命の中で、それでも人間を、世界を救うための頼りない道を開こうと、一歩一歩進み始めた少女。

 灰燼となった世界の中で輝く、一筋の光。

 ひたむきなその姿に、かつての美しい光を見出した。

 __故に彼は、その光の照らす先を見つめることを望んだ。

 

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なんてね。僕ってば文才あるかも」

「? どうしたの?」

「なんでもないよ。さあ、今夜はまた傷だらけだったみたいだけど、何があったのかな? お兄さんに喋ってみるといい」

「いやあ、えーっと……お恥ずかしながら、編成とかをミスしちゃって。」

 

 なんとかなりはしたんだけど、かなり大変なことに……なんて、彼女は包帯だらけで笑っていた。

 

 僕は現在、人理修復というトンデモな目的の旅に出る肝っ玉な女の子と、2人でのんびりティータイムしていた。

 なぜそんなことをしているか?

 もちろん、面白そうだったからだ。

 

 これだけ言うとどこぞのロクデナシ以下になりそうなので付け加えておくが、僕の言う“面白そう”とは、壮大な冒険譚になりそうだと褒めているという意味で……これ、付け加えになっていない気がする。

 ともかく、年端もいかない未成年の子供が、無謀な旅に挑むというのに感動したのと、酷い有様なカルデアにバックアップが十分にできるわけないだろ! という気遣いの下、僕によるなんでも相談の時間を彼女へプレゼントしていたのだ。

 人類最後のマスターという重荷は、どんなものよりも重くて、大人ですらまともに受けきれはしないだろう。

 しかし目の前の彼女はそれを受けようとも、きちんと前を向いて進んでいた。

 

 

 だが、いずれ限界も来る。

 大層な肩書きを持っていようと、所詮は子供。ストレスだって溜まるし、本当なら大人が請け負うべきものを背負って苦しんでいた。

 だというのに、カルデアは人員不足で誰も彼も手が足りない。肝心の後輩だって、まだまだ情緒を育てている途中だ。

 心優しい彼女には、その環境で悩みを相談するというだけでも大きな負担がのしかかっていた。不安を吐き出すことで苦しさを軽減させるはずが、かえってその苦しみを増やしていたのだ。

 そこで、お節介の出番というわけだった。

 ある夜、疲れ切った彼女の夢にお邪魔して、勝手にお茶したのだ。

 最初こそ彼女も警戒していたが、そこは僕のお兄さん力であれこれ世話を焼いて温かいお茶やらお菓子やらを与えたりしていれば、少しずつ悩みを零してくれるようになった。

 我慢するようにしていたらしく、ちゃんと全てを吐き出せるようになるまで時間がかかったけれども、きちんと絆を深めて、こうして穏やかなお茶会をできるようになったのだ。

 

「……そこでもうダメだ、って思ったら、ゲオルギウスが助けてくれたの。でもめちゃくちゃ怒っててさ、むしろその後の方が……ねえ、聞いてる?」

「もちろん。確かその後、治療後にこんこんと説教されてたんでしょ? 他の人達に見られながら」

「ウッ……そうです……」

「怪我してたんだし、早めに切り上げられてよかったね? 罰としておやつ抜きだったみたいだけど」

「そうなの! というか、やっぱり私から私聞かなくてもいいんじゃないの? その眼で全部見れちゃうんだし……自分で自分の恥ずかしいこと言わないといけないのはちょっと……」

「それが楽しみで言わせてるって言ったら怒る?」

「あ、悪魔…!」

「冗談だよ。本当は君の口から色んな言葉を聞くのが楽しいんだ。

それに、君が語る時の顔も好きだしね」

「悪魔だ…!!!」

「えっ褒めたのに。しかも心の底から」

「……そういう歯の浮くような言葉言うのって西洋の人だからなの? 恥ずかしくてきよひーみたいに火が吹けそう……」

「そんなにかな、君は変な所で恥ずかしがるよね。

……にしても、悪魔か。いい線いってるんじゃない?」

「え、遂にカセンの正体明かしてもらえる!?」

「いや明かさないけど」

「えー!」

 

 2人だけのお茶会が賑やかになる。

 そう。僕は正体を明かさずに、いまの今まで彼女と交流していた。“()去視の()里眼だから、カセンとでも”、なんて安直な偽名を使って。

 名前を明かした所で、英霊みたく何かデメリットがある訳ではないが、しかし名乗るとなにかしら縁がてきてしまうらしいので、それで芋づる式にロザリオのことやこの夢でのことがサーヴァント、ひいてはカルデア職員にバレるのを恐れてのことだった。

 

 

 酷い話、僕は人理修復に手を貸す気はさらさらなかったのだ。

 

 だってリチャードは人理が終わるまで煉獄で焼かれ続けているそうだし、たとえ弟が望んだことでも、流石にこんがり焼かれてることまで肯定はしづらい。

 だからもしも人理が終われば僕含めてみんな死ぬだけだし、リチャードも煉獄から解放されるし。その前に僕に十分な魔力が貯まれば、そのまま英霊の座でも煉獄でも乗り込んで、それから人理の終わりまで待ってやろうという魂胆だった。我ながら最悪な人間である。

 

 たがそこに現れた「藤丸立香」という存在が、僕をそんな最悪な人間から、“お節介な夢のお兄さん「カセン」”程度まで引き上げたのだ。

 

 目の前の僕がそんな奴だとは微塵も思わない様子で、彼女は僕の名前当てに勤しんでいた。

 

「悪魔なら…えーと、メフィストフェレスに、ルシファー? とか、あとはディアブロとか……あと、」

「どれも違うよ。僕はそんなに大御所じゃないしね。というか、人だし」

「えー。じゃあ悪魔がいい線いってたのってどういう意味? ヒントちょうだい!」

「やだよ……いや、まあいいか。僕はマイナー中のマイナーだからね。それくらい教えてもきっと分からないとも」

「イヤな方向での自信だね……なら、絶対に真名明かしてみせるから! ということでヒントを!」

「うーん必死。そうだなあ。僕の家系は悪魔の血が流れてる、っていう話があるんだよ。とは言っても、その血の種類が悪魔かも少し怪しいけど。家族が中々元気いっぱいな人達が多かったからね。変な理由付けしたい人がそういってるのさ」

「へえー。あ、弟さんとか凄いもんね。私よりも年下の時に盗賊を……」

「そうそう。あと、弟は有名人だし、これを手がかりに頑張ってみてね」

「よぉーし!」

 

 ふんすと意気込んでいる彼女を尻目に、テーブルの砂時計を見る。彼女の目覚めの時間を教えてくれる特別なそれは、こんもりと砂が下へ積もり、もうすぐ全て落ちきってしまいそうだった。

 

「さて、そろそろお開きだ。今度は傷に気を付けてね、藤丸。()()や破傷風は怖いよ」

「こわ……というか、もうそんな時間? 次はカセンのこと、もっと知れたらいいなあ」

「強欲だね。僕は大したことないんだから、僕の弟自慢で満足しててくれ」

 

 そう言って彼女の頭を撫でる。

 すると、たちまち彼女は消えて、千里眼で確認すれば随分とスッキリした顔で起きる彼女が視えた。

 そして、朝イチで枕元にあったメモへ、夢であったことをなんとか書き出そうとしているようだった。

 彼女はどこまでもまっすぐで善性が強い。夢の中でしか会わない僕にすらお世話になったからと、きちんとお礼がしたいなんて言ってくるほどだ。

 しかし、僕からしてみればただお節介を焼いているだけだし、話を聞かせてもらえればそれで十分だったし、なによりもバレたらまずいので、その夜に見た夢の内容を全て書き出せて、なおかつ僕の本当の名前を言えたなら。という条件で好きにさせている。彼女はそれを男に二言はないからね! と言って、躍起になっているのだ。

 

 もっとも、夢でのことはほとんど忘れて貰うのだが。

 意地が悪いと思っただろうか? しかしこれは彼女も承知済みのようだ。まあ子供であれどいくつものサーヴァントを従える身なので、僕みたいな不思議な存在が夢や記憶を操れることもなんとなく分かっていたのだろう。

 なので大抵はカセンという偽名や夢に現れること、弟がいることなどに焦点を当ててなんとか名を当てようとしている最中みたいだ。

 まあ、僕のような史実から随分とかけ離れた妙ちきりんな奴を当てられる訳がないと思うが。

 

 そんな余裕な心持ちで、藤丸の懸命な様子を片目に、もう片方をティーセットを片付けるのに使って、僕はのんびりと魔力を蓄えていた。

 

 

 

 

 

 人はこれをフラグだと言うのを、後に僕は知った。

 

 

 

 







本日の兄弟の様子

リチャード「兄上は約束をきちんと守ってくれる人だ。情や脅しに流されてくれはしないが…それならば契約で縛ってしまえばいいというもの! だから兄上は未来永劫、世界の終わりまで俺と共にあるんだ。そのはずなんだ」

ウィリアム「約束は守るし嘘はつかないよ。特にリチャードとの約束はね、兄としての矜持があるからもちろん果たすとも。リチャードがなんかじっとりしてるだって? ……可愛いのでヨシッ!」

とっても仲良し
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