雑魚狩りなので妖魔戦はカットしていきます
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コンクリートの街並み。往来を行き交う自動車と人混みの喧騒。車窓を開ければ、折からの雨で湿った地面から、アスファルトの匂いがふわりと漂ってくる。
「仕事の報告に夜のお務めの準備、貴方と同僚の顔合わせ。やる事が山積みですね…」
ゆるりとハンドルを握る灯香が、確認するようにそう呟いた。
「大変そうだな」
「クーリの服もどうにかせねばなりません」
「服?」
「流石にボロいですよ、目立ちます」
「そうか?」
確かに各所がほつれたり銃痕が空いてたりするが、まだまだいけないか?
「身長185cmの金髪着流し男、しかも服が浮浪者寸前。目立ちますね?」
「身長165cmで黒髪が麗しい美人巫女。しかも巨乳で白衣がはち切れる寸前。これも目立つな?」
「阿呆な事を言ってないで服屋を探して下さい」
呆れた調子でそう言われてしまった。
ツレないな?と笑って俺は、通りの店に服屋がないかと観察する。数分ほどジッと見て、あった。大手チェーン店の看板。灯香にあったぞと告げて駐車場に止めてもらう。
「今更だが金はないぞ?」
「スーツ一式くらい贈るのでご心配なく」
「出来れば着流しがいい」
「それはまた何故でしょう?」
「ガタイが良いんでな、和服は肩周りが楽で気に入ってるんだよ」
肩を回しつつそう答える。
あと、すぐ脱げてすぐにヤレる所も素晴らしいポイントだ。と思っているがそれは伏せておいた。
「そうですか。まぁ祓魔局に服装規定は無いので構いませんよ、好きなのを選んで下さい」
「お言葉に甘えて」
自動ドアを通って店内に入る。白を基調とした明るい内装。ズボン、夏着、小物コーナーを横目に和服のブースへと一直線に向かう。このご時世、和服を手に取る若者も少ないのかラインナップは少なめだった。
紺の着流しと紐帯を早々に選び店員のお姉さんに声を掛ける。
「すまない、これの一番大きいサイズあるか?」
「はい、お客様なら……4Lほどですね、こちらです〜」
「試着してみても?」
「はい、勿論どうぞ〜!」
愛想良く案内され、ボックスの試着室に入っていく。
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(……流石は男性の買い物、早いですね?)
店内の椅子に座り、仰いでいた扇子をパチリと閉じた巫女。しばし、クーリという吸血鬼の男について考えを整理する。
(半端なく強い男。本能に忠実ですが、店員さんへの対応を見るにただの乱暴者という訳でも無い。女性にだけ優しいのでしょうか? 魂の匂いは独特で、驚くべき事に体内に一切のエネルギーを感じられませんし……最初にお会いした時、人形かゾンビが動いてるのかと錯覚しましたよ。彼を同僚に紹介する時はその点を十分に説明してーー)
「あの……」
唐突に声を掛けられ、巫女の意識が思考の海から浮き上がった。目線を上げた彼女の視界にソワソワした様子の店員が映り、何か?と巫女は端的に言葉を返す。
「あの、先程の男性の方はお客様のお連れですか?」
「そうですが、彼が何か粗相でも?」
「いえいえ! そんな事ではなく、そのーー」
ガシリと、巫女の両手が勢いよく掴まれる
「超! カッコ良くないですか!?」
「はい…?」
興奮する店員のお姉さん。唐突に訪れるキャピキャピした空気。巫女の頭を疑問符が埋め尽くし、言葉を処理できず数秒フリーズする。
(か、カッコいい…?)
いや確かに、顔の造形は整っているだろう。身長も高いし体付きも無駄ない痩身だ。口付けをした際によくよく見たが、睫毛もけぶるように長くてーーって、何を考えているのだ自分はと、巫女はブンブン頭を振った。
出会った人のその過去を問わず、その容姿を問わず、その貧富を問わず、平等に扱うのが巫女としての態度だと、気を取り直し毅然と対応をする。
「見た目については、評価しかねますね」
「えぇ〜? あの笑顔の色気ヤバいっていうか、どっかのモデルさんだったりします? ていうか巫女様も超美人ですね!? お二人は付き合ってたりするんですか!?」
「ちょちょちょ、ちょっとお待ち下さい…!」
一体何個質問が飛んできたのかと、巫女は少し頭が痛くなった。縁の無い話すぎて、どう答えれば良いか分からない。誰に対しても優しく愛を持って接したいとは思っているが、故に、特定の誰かに好意を寄せて付き合う自分も想像できなかった。
「とりあえず、付き合っていません」
「本当ですか?」
「モデルは恐らくですがやってませんね」
「そうなんですか〜……あ!」
シャーっとカーテンが開き出てきた噂の男。店員さんの興味がそちらに向き、巫女はホッと息をつく。手を上げ此方へ近づく男に、感想を投げかけた。
「似合っているではありませんか?」
「そうか? 嬉しいな、これ本当に貰っていいのか?」
「勿論です」
「そうか……灯香からの初めてのプレゼントだな?」
噛み締めるようにそう言って、嬉しげにはにかむ男。キャー!と小さく悲鳴を上げる店員さん。写真を撮っていいですか!?と言われ断ろうとしたが、それよりも早く男は巫女の肩を抱き横に立った。
「ちょっと、女性の肩をいきなり不躾ですよ」
「いいじゃないか、灯香の初プレゼント記念だ」
「そんな大層なものでは無いんですけどね…?」
大型犬のような屈託のない笑み。
本当に嬉しそうな眼前の男に毒気を抜かれ、巫女は大人しく写真を撮られる事にした。一枚、二枚。写真を送りますねと言われたので連絡先も教えておく。
「灯香、良い写真だ」
「まぁ、否定はしませんよ。それより、古い着流しを頂けませんか? こちらで使いますので」
「使う? 捨てないのか?」
「裁断して縫えば雑巾にはなるでしょう。物を最後まで使うのも、神々に対する報恩というものですよ?」
出来たら祓魔局の職場に寄付しますが良いですね? と言われた男は、相変わらず変わった所があるなと思いつつも、問題ないと笑顔で返した。
「さて、格好も整えましたしこれからの貴方の職場、祓魔局に向かいますね。同僚に、貴方を紹介せねばなりませんので」
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行政組織としての風格を感じさせる質実剛健な作りの局舎。防衛省の内部組織である祓魔局の本部は、新宿の一等地にて悠然と居を構えていた。
「これ、仮パスだから首に掛けといてね」
入場ゲートの職員から貰ったそれを首に掛ける。ガラスの自動扉を通って清潔感を感じるロビーに入れば、併設されたカフェに目をやる灯香が口を開いた。
「私が率いる霊的特別捜査班ーー特捜班は、超零細部署ですので割り振られたオフィスがありません。会議や待ち合わせはもっぱらあちらのカフェで行いますので覚えておいてください」
マジか。
部屋すらないなんてどういう部署なんだ?
そんな疑問を抱きつつも、喫茶『ルクリエ』との看板が掲げられた店の場所を把握しておく。灯香と共にエレベーターに乗った。
「あと、一応言っておきますが、喧嘩はダメですからね?」
下へ下へと降りていくエレベーター内にて、そう釘を刺されてしまう。
「勿論だ、そんなに凶暴そうに見えるか?」
「一応、念を押しただけです」
「別に、他人には普通に接するけどな」
男がいようが別に興味はないので、マウントなどのアクションを起こす気はない。普通に、一般的な対応をするのみだ。
「普通、そうですね。そうして頂ければ有り難いのですが、特捜は癖の強い人が多いんですよね…」
「成程? まぁ灯香もそうだしな」
「そう評されるのは釈然としませんが、とにかく、そういう人達との顔合わせなので穏やかに、努めて穏やかにお願いします…!」
無論、俺も灯香の顔に泥を塗るつもりはない。
チーンと開いたドアから出て、彼女に案内されるまま第一会議室と書かれたドアを開けた。中には、沢山の長机と椅子。巨大なELパネルのスクリーンが備え付けられた室内が広がっていた。そしてーー
「どうも、先輩方になりますかね? 俺はクーリと言います。灯香の紹介で此処に所属する事になると思いますので、どうぞよろしくお願いします」
ゴスロリ服を優美に着こなし、如何にもな魔女然とした三角帽を被る妖艶な女と、行儀悪く机の上にケツを置いた銀髪褐色の少女に、ペコリと頭を下げておいた。演技マシマシの爽やか笑顔もオマケしておこう。
完璧にフレッシュな新人ムーブメントだ。
これが、普通ってものだろう?
「なぁなぁ、お前って強いのか?? 魔力や氣を全く感じられないし、カルラにはどう見ても雑魚に見えるぞ??」
しかし返ってきたのは、よろしくでも男前だねでもなく、そんな少女の率直な暴言であった。なんだコイツは…? 俺はそう反射的に思ってしまうもーー
(ーーいや、コイツは人妖というやつか。初めて見たが、なら多少の常識外れな言動は許すべきだろうな)
その銀髪の頭部に生えているピョコンとした狼耳を見て、先程のご挨拶な言葉は仕方がないかと納得した。
妖とは、人々の願いや恐れといった"認知"を原因に発生する存在なので、その中には極々稀に、『人妖』と呼ばれる人に仇なさない友好的な妖も存在すると聞いたことがあるが……この子もそうなのかと、シゲシゲと目の前の少女を観察する。
「なぁなぁ本当に強いなら、戦わないカ? いや、戦うべきだカルラ達は!!」
「ははは、今は勘弁してくれませんかカルラ先輩?」
やんわりとそう断った。
新顔の俺に興味津々なのか、カルラと名乗った少女は俺に近づき、首筋あたりをスンスンと嗅いでくるがまぁ、悪い気はしない。実に可愛らしい見た目だからな。
整った顔立ちによく焼けた褐色の肌。膝の位置まで伸びた無造作な銀の髪は幻想的で、ホットパンツとタンクトップという露出の多い格好は実に眼福だ。
「とにかく、これからよろしくお願いしますねカルラ先輩?」
仲良くしよう。
そしてあわよくば、ベッドに行こう。
そう思っていた。
「うん、分かっタ!」
ーーこの狼耳のアホ女が、俺の挨拶を無視して腕を振りかぶり、全力の拳を俺にご馳走するその時までは。
「クーリっ!?」
灯香の悲鳴。
腹に叩き込まれる凄まじい衝撃。
吹き飛ばされ、意識が欠け落ちていく。