顔の良い女たらし吸血鬼が、出会った美少女を手籠にしようと頑張る話   作:レネクトン

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東京祓魔局2

 

 

「とにかく、これからよろしくお願いしますねカルラ先輩?」

 

折目正しいクーリの挨拶。

うん、分かっタ!とカルラも元気にそう答えて、場の空気が少し緩んだ。

 

大丈夫そうですねと、灯香がホッと息を吐いてーー

 

 

「何をーー!?」

 

唐突に発生する、爆発的な氣の起こり。

それを感じ取った灯香が声を上げるより早く。

 

笑い、雷神のような速度で腕を振り抜いたカルラは、練った氣功を猛然とクーリに撃ち放った。

 

ゴシャアという肉が弾ける炸裂音。

 

氣弾はクーリの腹を狙い違わず穿ち、吹き飛ばし、長机や椅子を巻き込んで彼の大柄な体を激しく壁に叩きつけた。もうもうと舞う埃がその体を隠していくのを見やりながら、腰に手を当て屈託なくヤハハと狂犬は笑う。

 

 

「改めて名乗るけど、カルラはカルラだ! これからはカルラの方が偉くて親分になるけど、よろしくだぞクーリとヤラ!」

 

 

 

ーーーーー

 

 

「何をっ、しているのですか本当に!!?」

 

顔を真っ青にしながら、埃の中へ駆けていく巫女。

 

 

「ん? 何って挨拶代わりの一発ダ! 初対面は最初がカンジンって、この前トーカも言ってただロ!」

 

「そんな無茶苦茶がありますか!!?」

 

「でも、避けられないのは予想外ダ! 氣や魔力を見る基本的な霊的視野(クタスタ)も持ってないみたいだし、弱っちいけど……これからは親分としてカルラがクーリの面倒を見るから任せて欲しいぞ!!」

 

 

尻尾をパタパタさせ、ニパーっと天真爛漫にそう言い切る狂犬。

 

話にならないと、もっと事前に根回しをしておくべきだったと巫女は後悔しながらひび割れた壁に背を預けるクーリに駆け寄り、手を伸ばした。

 

 

「え…?」

 

 

しかしその手は優しく払われ、不意打ちを受けた筈の男はゆらりと、幽鬼のような足取りで立ち上がった。そして自身のボロボロになった着流しを一瞥し、目を見開き、ポツリと口を開く。

 

 

おぉい……

 

 

それは地獄の底から響くかのような低い声だった。クーリの軽い調子の声や笑みしか見てこなかった巫女は反射的に、一歩二歩と後ろに後ずさる。

 

これが人間の出せる圧かと、唾を飲む。

 

 

服が、破れたんだが…?

ヤハハっ! 立った立った! 凄いぞクーリーー

 

その予想外に手を叩きはしゃぐ少女。しかしその言葉は最後まで紡がれる事はなくーー

 

 

ぐうっ…!!?

クーリ!!!

 

ーーブレるような加速をしたクーリが喉輪で狂犬少女を掴み、情け容赦なく壁へ叩きつける事によって、その言葉は中断される事となった。

 

 

「女だから顔は殴らないでやるが……灯香からの初プレゼントをボロボロにしたのは許せないな? 少し躾けてやるから、覚悟しろよクソガキ?」

 

 

着流しの男の赤い瞳が、昏く揺らめいた。

 

 

ーーーーーー

 

 

重々しい衝撃と破砕音。鉄筋コンクリートの壁がぶち抜かれ、塵と埃のカーテンを突き抜け、二つの影が祓魔局の地下訓練場に転がり込んでくる。

 

 

「謝るなら今のうちだぞ、クソガキ?」

「ヤハハッ! 面白いっ、面白いなクーリっ!!」

「そうか……噛み付く相手は、考えた方がいいと思うんだがな?」

 

 

 

クーリとカルラだ。

コンクリで作られただだっ広い地下訓練場にて、二人の拳が交差する。互いの肉を打ち合い、暴風のような衝撃が周囲に拡散する。

 

 

「おやめ下さい二人とも!」

 

作られた穴を通って、隣の会議室から駆けてきた巫女が大声でそう叫んだ。

 

 

「ええやん巫女ちゃん、好きにやらせとき」

 

「ですが!」

 

「二人とも格闘家みたいやし、殴らせとけば分かり合えるってもんやないの? 漫画でも大概そうやんか?」

 

「分かりあう前に死んでしまいます!!」

 

 

殺し合いと表現するしかない領域。二人の踏み込みにより床が冗談みたいに砕ける。弾かれてきた礫を刀の鞘で打ち払いつつ巫女はそう叫ぶ。

 

 

「でも、カルラのアホ犬は弱い人間を絶対に認めんよ? 最初にこうやって白黒付けた方が、後になって面倒がないんやない?」

 

「それ、は、そうかもしれませんが…」

 

 

巫女は口籠る。

 

なにせ円操狩羅(エンソウ・カルラ)という人妖は、その暴力性から生まれ故郷の人狼の村を追放され、東京近郊にて円操家ーー合気道の大家に拾われたという異色の履歴を持つ少女だ。そして、その合気の才を早くから存分に認められていた麒麟児にも関わらず……合気じゃ打撃を極められない、自由に殴れないという理由だけで拾ってくれた家すら捨てた天衣無縫の狂犬なのである。

 

彼女の世界観は、善悪や常識でなく強いか弱いかの二色でのみ彩られている。この部署に居る理由も訳の分からない強者と戦えそうだという理由で、自分も初対面時に襲いかかられた事を思い出す。

 

 

「男の喧嘩に女が口を挟むもんやない、違う?」

 

「片方は一応、女の子なんですけど…?」

 

「人妖の子なんやし、性別なんてあってないようなもんやん? ま、今は黙って見ときいや? ほら座って?」

 

 

魔力を手足のように操り、地面に散らばった礫を押し固め即席の椅子を用意した魔女。巫女は躊躇い、しかし無理やり止めても良い結果に結びつくと想像出来ずーー深く息を吐いて椅子へ腰掛けた。

 

 

「本当に殺しそうになったら止めに入ります」

「好きにし。そんで、どっちが勝つと思う?」

「どうでしょうね……」

 

 

リーチはかなりクーリが有利だ。カルラは人妖かつ氣で身体能力を強化しているので、膂力にそこまで大きな差はないだろう。頑丈さは……どうだろうか? 二人とも人並み外れて頑丈としか分からない。互いの肉を打ち合う痛々しい音が響き続けている。

 

 

「そんでも、流石にスカウトしただけあるやん? 合気だけやなく打撃でも天才って言われとるカルラのお嬢と互角に打ち合ってるだけでもまぁありえへんで?」

 

「理を感じますね、何処で習ったのでしょうか?」

 

「なんや、聞いてへんの?」

 

「まだ出会って日が浅いので」

 

「そ、でもまぁーー崩れるで?」

 

 

均衡が。

そう魔女が呟くと同時、カルラの全身を覆っていた氣が内側に収縮する。流転し、丹田を通って右手の手根骨に凝縮されていく膨大な氣。常人では至る事の出来ない、理外の秘拳。

 

 

「ヤハハっ、浸雷掌だァ!!」

「…!!?」

 

 

合気の天才。カルラの手によって、異常に制御され圧縮された霊氣の塊が、絶大なる威力をもってクーリを打ち貫いた。内臓をグチャグチャにシェイクし、致命的なダメージを与えていく。

 

 

「……決まったなぁ、ヤッバイ一撃が」

 

魔女はそう、ポツリと呟いた。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

浸雷掌はただの発勁に非ず。威力の全てを相手の体内の破壊に制御している関係で、その理外の威力にも関わらず、衝撃で後ろにクーリが吹き飛ぶ事はない。

 

故に、吹き飛ばなかった故に

 

 

「まだまだ! カルラのターン!!」

「ぐっ!!」

 

 

追撃が成立する。回復する間もなく暴風のような拳打がクーリに襲いかかる。それをアップライトに構え防いでいくクーリ。

 

氣が存分に乗った嵐のようなラッシュが、ガードの上からひたすら叩き込まれていく。

 

 

「あーあ〜酷いもんやねえ? カルラちゃん、氣を技の方にまで使い始めたやないの? あの男前は霊的視野(クタスタ)がないみたいやし、氣の流れも当然見えんのやろ。技の起こりが分からんってのはヤバいんやない?」

 

 

言外に、そろそろ止めた方がええんちゃう?と伝える魔女。巫女はその意志を受け取り……しかし、『まだです』と小さく呟いた。

 

確かに見ていられない。痛々しすぎる拳闘。だがまだクーリには何かがあると、ここで止めるべきではないと巫女の直観がそう囁いていた。

 

 

「確かに綺麗に防御は出来てるけど……でも、言うてる間に終わりそうやない?」

 

 

しかし、それは魔女の言う通りで。

またまた一発、強烈なミドルキックがクーリに叩き込まれる。その大柄な体が吹き飛ぶ。荒れ果てた地下訓練場の中心で闘気を漲らせるカルラと、吹き飛ばされ服をボロボロにしたクーリでは、勝負の行方は決しているかのように見えた。

 

少なくとも、魔女の目には。

 

 

「ヤハハっ! クーリっ、そろそろ本気を出したらどうだ!? 顔を狙わないなんて馬鹿な縛り、やってる内にボロ雑巾になっちまうゾ!?」

 

 

そして、相手の明確な手加減に気づいていたカルラは、呵呵(かか)と豪快に笑ってそう催促した。

 

 

「なんだ、気づいてたのかよ?」

 

「カルラは賢いからナ! 当然だ!」

 

「そうか。だがやはり、顔は狙わないぞ」

 

「何でダ!? カルラを舐めてるのか!?」

 

「悪いが、これは俺の拘りなんでな。お前には確かにクソムカついてるが、それはそれとして顔は良いんだ。傷つけるのは忍びない、そう思っちまうんだよ」

 

だから、顔は狙わないと。

淡々とクーリは言い紡ぐ。

 

 

「んん〜?? 訳分かんないぞクーリっ! それでどうやって勝つんダ!」

 

「勝てるさ。お前は馬鹿な犬っコロだからな」

 

「むぅ! カルラは馬鹿じゃない!」

 

 

誇り高きダウバ族の旅狼ダ! と。

怒りを露わにカルラが突貫する。

尋常ならざる速度。

だがーー

 

 

「ーーほら、大振りになっただろ?」

 

 

だからお前はアホなんだと、クーリはカルラの大振りな拳を掴み取る。引き寄せ、その褐色の首筋に顔を近づけて……

 

 

「…うぎゃっ!!?」

 

 

ガブリと。カルラの褐色の首筋に鋭い犬歯を突き立てた。迸る鮮血。反射的に、クーリの腹をカルラは蹴り飛ばし、後方にクルリと舞い飛んで距離を取る。

 

 

「ふむ……人妖の血は初めてだが、美味いな中々? 少しスパイシーで癖になる感じだ」

 

「な、な、なっ、何がしたいんだクーリ!?」

 

「何って……本気が見たいんだろ?」

 

 

その片鱗を見せてやると。

男は笑い、静かに一言呪文を紡いだ。

 

ーー【真血適応(ブラッド・アダプト)】と。

 

そう言葉が紡がれると共に、男の体がザワリと霊的に変異し始める。

 

 

 

「顔は狙わないし勝ちも譲らない。さて……第二ラウンドと行こうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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