足音だけが反響する。奇妙と一言で片付けることもできるが、私は観察する。ここは屋内であるようで、天井がある。床は正方形のタイルが敷き詰められている。それらは少々反射する程度には滑らかであり、最初の駅の床にも近しい。
ある程度進んだところには妙な階段がある。鉄の厚い柵に、黒が黄色で縁取られた、そんな階段。周囲には旗らしいものがあったり、無数の机と椅子の集合する広場、沢山の衣服が並べられる場所や、本棚が並ぶ場もある。無論、服は人間の物と見える。
ここから見える範囲で推察するに、ここは変則的な集合商店なのだろうとわかる。加えて、ここは前の駅とも何らかの関係性があるのではないかとも思える。覚えのある、しかし読めないながらも同じ文字や、建築様式、技術や文明的な価値観とでも言うべきものが酷似しているように見えるのだ。
匂いに特別な異常などはなく、無臭に近い。空間の広さも相まって、ここは本来、多くの人が集まるような場所だったはずだ。その想像がより現在の空虚さを際立たせ、私を身震いさせる。
そうやって私が観察していると、不意に袖を引かれる。そちらを見やれば、白い少女が何とも言い難い表情でこちらを見つめていた。こう……無理矢理当てはめるとすれば、心配しようとしてできなかったような、あるいは無理に笑おうとしたような……
「何か、欲しいものはあるか」
「え?」
「ここはいくつかの商店が集まった場所だ。貨幣はある故、利用したい施設があれば言うといい」
「お、おぉ……あるんだ……じゃあ遠慮なく!」
私はできる限りの笑顔を浮かべて、この場所を楽しむことにした。できるだけ巻き込んで、彼女の色んな表情も見たいという期待も携えて。
「ところでどうやって支払うんです?」
「置いておく」
「貨幣を?」
「ああ」
◇
「いや〜ずっと一張羅だったんで気になってたんですよね〜!」
「魔導洗濯機は置いていたはずだが」
「それでも! ですよ!」
「むぅ」
私は衣服店であろう場所で服を見繕っていた。寝間着、部屋着、私服……それはもうあらゆる服を片っ端から備え付けられていた四角い籠に叩き込んでいく。少女の持つ籠はどんどんと重くなっているはずだが、少女に堪えた様子はない。
最初の駅から今の今まで、私にはあの思い出の欠片もない……いやここまでで作りはしたが、ともかく、あの面白味のない記者としての仕事着しか無かったのだ。汽車の中でもどんな駅でもベッドの中でも! あの格好だったのだ。だからこそ、今、私は猛烈に感動していた。
「ふふ、ふっふっふ……」
「君……」
両手にそれぞれ服を持ち、比較する。この異質な文明の産物だが、調べてみると、正直に言って素晴らしい。機能性はもちろん、その材質もよい。完全に未知の材質もあれど、どう考えても通気性が良さそうであったり、もうこれらに慣れたら戻れない予感がする。
茶色のコートを籠へと放り込み、他にめぼしいものがないかを一通り見て回る。そこにあるものを見つけた。水着だ。私でも水着だとわかるものが多く、これはそこまで差が生じなかったのだろうと推測できる。一部の明らかに狂ったデザインのものは見なかったことにする。
これらを買う必要性は、今はないだろう。しかし本当にそうだろうか。今後、海やそれに近しい環境の駅に行く可能性が無いと言えるだろうか。
「ちょっと来てくださーい!」
「なんだね」
「水着ありますよ! 今後海に入ったりするかもしれませんし、買っておきませんか?」
「私は不要だが……」
「そう言わずに!」
私は目に入った、白くフリルの多い、少女に似合いそうなものをいくつか手に取って、視界の上で少女に重ねてみる。雰囲気もあって、露出の控えめなものが似合うだろう。小一時間ほど迷いながら少女の分を選び、私自身の分は適当に地味なものを放り込んでおいた。
そうやって数々の衣類が籠へと集まる。明らかに少女の体躯では持てない重量になるほど詰め込まれているのだが、軽々と持ち上げているのを見るに、完全に怪力を有しているものと扱ってよいだろう。
「満足です! それで、支払うんですよね?」
「そうだ」
少女は白いカウンターテーブルに、見たことのない硬貨と紙を置いて、こくりと頷いた。
「…………それだけですか?」
「うむ」
「その、意味あるんですかそれ」
「ないだろうな」
その直後、少女は忽然と姿を消し、私が状況を把握するより早く、籠を空にして再び現れた。
「行くぞ」
◇
「ここは?」
「ゲームセンター……だな」
そのエリアは多くの変わった機械類が配置されていた。上半分がガラスのように透明で、内部に人形などが入っている四角いものや、同じような形のものが上下二段で横に無数に並んでいるもの、ビリヤードに似ているようで、ビリヤードではなさそうな台。そういったものが所狭しと並んでいるのだ。
「つまり、あれ全部遊戯の道具ですか?」
「興味があるのか」
「そうですねぇ」
「大半は機能していないだろうが……」
そう言って少女は面倒そうな雰囲気を漂わせて、ゲームセンターとやらを見て回る。これらが機械類であるなら、蒸気機関や魔導機関、ものによっては電気機関などを用いるのだろうが、そういったものが機能しているようには、確かに見えない。
暗幕の垂れている大きめの箱の中を覗いてみたり、足跡のようなマークが床にある場所で足を合わせてみたりしてみるが、わかったことはない。
ふと少女が戻ってきて、私を引っ張って行く。その先には比較的広々とした空間が広がっている。目を引くのは、レールのように引かれた線と、その先の白に赤線の入った、細長い棒状のものだ。ここからは距離があって正確には観察できないが、規則的に並んでいる。
「これはできると。どんなものなんです?」
「ボウリング。ルールは……あのピンをできるだけ多く、転がしたボールで倒したら勝ちだ。多分」
「多分……多分?」
「……興味が無かったから、覚えていない」
彼女はいつの間にか手に白いボールを持っていて、あの棒……ピンの並ぶ所を正面に見据えている。ピンからは距離があり、その左右に窪んだ線がある。
「この辺りから転がす」
「えぇと、頑張れ?」
そうして彼女はボールを片手に、正面に向けて勢いをつけ、手を離す。ボールは正面のピンに向かうことなく、盛大に真上へと飛んでいき、天井に穴を空けて姿を消した。パラパラと破片が落ちてくる。
「これ、そういうものではないですよね」
「…………そうだな」
心なし俯いている気がする少女がボールを持ってきて私に手渡す。このボールにはいくつか穴が空いていて、そこに指を通して掴むようだ。
少女の見様見真似で立ち、ピンを見据えて、ボールを投げる。私の投げたそれは真っすぐと転がっていき、中心のものからピンを全て倒し、奥へと消えた。カコン、と聞こえる奇妙な満足感のある音が鳴り響く。
「これで合ってるんですかね」
「さあな。恐らく、高得点だろう」
「じゃあ私の勝ち?」
「……そうだ」
「やった……まだやります?」
「いや、もういい」
かなり不服そうな様子であったが、彼女はすっぱりできないと諦めたのか、呆気なく敗北を認めた。彼女にもそういった側面があるのだと、妙な親しみやすさを感じる。そこからボウリング以外に利用できそうな娯楽を探していたが、結局見つからず、私たちはその場を後にした。
◇
しばらくこの場所を巡っていると、私の腹が空腹を訴え始めたので、私たちは最初に見えていた机と椅子の集合した場所の一席を陣取り、いつもの食事を取っていた。
「ここってやっぱり、前の駅と繋がってるんですかね」
「ああ、直接的に繋がっているわけではないが、同一世界だ。前の駅のような街の中に、こういった施設がある」
「便利でいいですねぇ。娯楽も買い物も何でもあるなんて。ここも食事関係みたいですし」
この周囲を見れば、果物のイラストらしきものや、加工された肉の写真など、ここが食事関係の店が集合しているエリアであったことがわかる。しかし残念ながら、食材や食事そのものは一切無かった。この点に関しては本当に残念でならない。
そして、彼女は前の駅を故郷と言った。つまり、彼女も昔はこの施設をよく利用していたと考えるべきだろう。でなければ、ここまで詳しいのはおかしいのだから。
そこでふと気になる。彼女が昔を知っているなら、あるべき姿を知っているはずだ。コーヒーを傾ける彼女へと問う。
「ここ、昔はどんな感じだったんです?」
「ここ自体は知らない。同じような施設は行っていた……そこは、人が溢れかえっていたな。特に日中は、人が居ない場所がないくらいだった」
「そりゃそうですよね。こんなに便利なんですから、賑やかで当然ですよね」
だからこそ、現状が空恐ろしいのだが。
「何かあって、こうなったんですかね」
「何もなかったからかもな」
「……それはどういう」
彼女は目を瞑ってコーヒーを嗜んでいた。特別何か考えているような印象はなく、思い浮かんだ言葉が零れただけであったようだった。
「……ふぅ」
私も紅茶を手に取って、気持ち程度に匂いを楽しみつつ飲み進める。この紅茶、味は良いのだが、やはり飽きが来る。そこで思いつく。
「そのコーヒー」
「?」
「私も飲みたいんですけど」
少女は嫌そうな顔をした。が、思い直したように表情を落とし、その手のマグカップをすっとこちらに差し出した。
「?」
「用意が面倒だ」
そう言って押し付けられる、彼女の飲みかけのコーヒー。汽車でも散々嗅いだあの匂いがしており、確かに少女がいつも飲んでいるものだとわかる。
「……飲みかけを、私に?」
「問題があるかね」
「いえ……大丈夫です」
自身の手が微妙に震えているのを自覚しつつ、マグカップを手に取って、口をつける。香りは素晴らしい。そして苦い。彼女はブラック派だったようだ。また一つ、彼女を知った。
コーヒーの匂いを、少女の気配を感じながら、静かな時間が過ぎていった。私がコーヒーを飲んでいる間、少女は隣の椅子で静かに、停まっている。
やがて食事を終えて席を立つ。私たちはあの黒い階段を上へ上へと上り、薄暗い最上階を目指す。口の中の苦味を、私は意識しながら。
◇
「ここは……なんでしょうかね」
黒地に赤や青の線が入った、カーペットのような質感の床。この床のせいだろうか、足音はほとんどしない。そして、アクセサリーや本など、統一感のない品々が並ぶ店が隅にあり、余計に混乱させられる。
壁には広告らしき縦長の、額縁に入った張り紙とでも言うべきものが並んでいて、それらの内容はどうも劇の類であろうと見える。
また、カウンターらしい場所もあり、その奥には大きめの機械類も目立つ。カウンターの前には、上部から帯が伸びて接続し、柵のようになっている棒が立ち並んでいて、そのエリアの横にゲームセンターでも見たような、人ほどの高さの機械がある。そこには画面があるようであった。
奥には通路がある。その通路の両サイドにいくつか扉があり、その扉の横にもこの文明の文字が刻まれていた。総じて広い空間であり、ここもまた人の集まる場所だったのだろうことはわかった。
少女から離れて、あの店舗へと入って行く。見たところ、やはり商品は多種多様だ。雑貨屋と考えるべきだろう。そして一つ気づいたことがある。これらの商品は、あの壁の広告に関連のある品ばかりであるようだ。例えば、派手な色合いのピッチリとした衣装を身に纏っている、五人の人型の意匠が施されたバッジのような物や、常軌を逸した巨大さを持つと見える黒色の二足歩行爬虫類が表紙に描かれた薄く大きな本。そういった品々が並んでいる。
「まあ……この文明の劇場辺りでしょうね」
「かね、そうだな」
声に振り向くと、いつの間にか近くまで来ていた少女が居る。その両手には、赤と白の入れ物に、小さな雲のような物体が無数の乗せられた代物が抱えられている。
「ポップコーンだ。安全は確認した」
「……食べ物ですよね」
それに少女は然りと頷く。どうやら、私が食事に飽きているのを察してか、わざわざ探してきたらしい。今すぐにでも食べてみたいと思ったが、彼女は手招きしながら奥の通路へと入って行く。そこで彼女は両手が塞がっているからか、扉の一つを蹴り壊し、その残骸を奥へと吹き飛ばす。この世のものとは思えないような、異常で耳障りな音が静寂を粉微塵にするのを気にしないように、そのまま進む少女について行く。
扉の奥にはまた通路があり、そこを左に曲がったところで、この暗い部屋の構造を把握することができた。感想としては、やはり劇場に近しい。扉から見た正面方向を向いた、多くの黒い座席が規則的に配置され、後方へ行くほど高くなっている。そこまでは左側と右側で二個の階段があって、後方へと上っていく形態だ。その階段には白く小さな光が縁に灯っていて、この暗さの中でも足を踏み外さずに済みそうだ。
少女は後方の座席へと向かい、その席の腕掛けの先端に空いた穴にあのポップコーンの入れ物を置いて、座り込む。私もその隣に座った。
「それで……何が始まるんです?」
「……待っていろ」
少女はすぐに席を立ち、瞬きの間に姿を消した。沈黙がこの場を包む。手持ち無沙汰になった私は、ポップコーンに手を伸ばし、口へと運んでみる。
「微妙」
何の味もなく、パサパサとしている。そこに硬い粒のようなものが入り混じり。食感をより悪化させていた。正直に言うと不味い。この文明の人々はこんな物を好んでいたのだろうか。食べていると喉が渇きそうだ。後から美味しさがわかるのやもと更に口に運ぶが、やはりパサパサとした無味だけが口を覆う。私は手を止めた。まあ、舌の気分転換にはなっただろう。
そして唐突に、正面の壁に映像が映し出される。それは何ともまあ、おかしなものだった。まず、それは撮影されたものではなく、イラストであるようで、平面的に描かれている。今映っているのは、一昔前の貴族の屋敷のロビーらしき光景だ。
「内容は知らないから、聞くな」
「むっ、は〜い」
最初からそうであったように隣に座る少女へ生返事を返し、映像に集中する。音楽が流れ始めた。ノイズ混じりでありながら、どこか懐かしいような。それでいて、その音は既知のどの楽器にも一致しない。不思議な感覚だった。
そこで、映像の屋敷の階段上から何者かが降りてくる。これは恐らく、人だろう。肌色の肌を持ち、貴族的衣装を身に纏い、目が二つに、口と鼻が一つ。四肢は四肢であり、現実と比べればおかしな点はあるが、絵の表現の範囲に収まっている。特徴として、赤く目立つハート型が取り付けられたネックレスをしている。
その人はロビーの中央に立ち止まり、ボソボソとした、囁くような声で何かを呟く。その言葉に覚えはない。この文明の言葉と見るべきなのだろうが、その響きにはどこか違和感があった。
しばらく、その人による囁きと、不可解な身振りが続く。音楽は繰り返され、目的も何もわからない時間だけが流れる。
そして、唐突にその人は両手を左右に限界まで伸ばし、吠えるような、泣き叫ぶような、不快感のある叫びを上げる。画面が暗転し、肉を掻き回すような、ぐちゃぐちゃとした君の悪い音が鳴り響く。そうして、画面に大きな目が付いた。それはぎょろりとこの場を見渡した後、ゆっくりと閉じられ、同時に暗転が開ける。
身体がぶよぶよと肥大し、半ば液体のようになって床に広がる人と、直立する黒く形の曖昧な影。それが屋敷のロビーに居る。影には目が二つ、現実的過ぎるタッチで描かれて付いており、これは先の暗転と関わりがあるのだとわかる。見ているだけで不安感を覚える。この存在は、意図的に人間に不快感を抱かせる為に描かれているようにも感じた。
それは身体を左右に振り回し始める。手を振るように、あるいは、何かを振り払うように。音楽が速くなっていく。高速化された音は高く響き始め、徐々に懐かしさを耳障りさが上回る。瞬間、それは画面の半分を覆うほどに広がり、その人を覆い尽くす。数秒後には小さくなり始め、そこには暗転する前の、正常だった人の形をした影が姿を表す。影はその両目から血を流していた。好意的に見れば、涙のようにも見えただろう。
そのまま影は滑らかに床を滑り、屋敷の壁も小物も何もかもをすり抜けて外へと飛び出す。赤い太陽が照りつける草原に出でて、影はそれを眺めた後、姿を消した。
再び暗転し、次は何処かの街中が映る。その街は古めかしい石像や木組みが見られ、貴族の屋敷と同じ時代のことだと理解できた。その人々が行き交う道の中央に、あの影が居る。人々はそれを気にすることなく、影はただ正面を、こちらを見つめている。
影はそこで立ち尽くしたまま時間が過ぎていく描写がなされる。経過と共に日は暮れ、夜になり、ようやく動き出した。それは子どもを見つける。暗闇に紛れた、ボロ布の子ども。その子はある家屋の周りを彷徨いて、やがて窓の前に止まる。影はそれをつけ回し、その子どもがある家屋に入ろうとしていたところで、家の内側から顔を覗かせた。
子どもは顔を青ざめさせて、逃げていく。それを尻目に、影は追うことなく、家屋の中を見て回っている。棚を開けて見てはすぐ閉じたり、その行動は理解しがたい。寝室に入り込んだ影は、そこに眠る人を数秒眺めた後、闇に溶けるようにして、消え失せる。そこで映像は途切れ、終わったのだと把握した。
「…………よくわからなかったんですけど」
「…………つまらなかったな」
画面から目を外し、少女と見つめ合う。無表情ながら、落胆を感じさせる、いつもより目を細めた顔。私自身、せっかくの楽しみで高揚気味だった心を鎮められ、この映像が恨めしい。現実を突きつけられた気分だ。ポップコーンは全く減っておらず、私も彼女も手をつけていないことが丸わかりだった。
「もう帰ります? 大方この駅は見て回ったはずですけど」
「そうだな。君も満足したなら戻ろう」
「私は服沢山買えた段階で結構満足してましたよ〜」
「ならいいだろう」
席を立って、少女と共に来た道を戻り始める。ポップコーンは放置された。音の出ないカーペットのような床、黒い階段、ゲームセンター、衣服店と、足跡を辿る。しばらくすれば建物の出入り口に汽車が見えた。その横の、食事を取ったあの場所も。
「そのぉ……また、コーヒー飲ませてもらっていいですか」
「気が乗ったらやろう」
その返答に、飽きへの対策ができたことと、もう一つ、不明な喜びを感じながら、私たちは汽車へと戻った。そして部屋の隅に、買った品が乱雑に積まれているのを見つける。
「あっ、色々服試してみていいですかね」
「好きにするといい」
その許可に、遠慮なく着替え始める。実際に部屋でしてみると、素晴らしい買い物だったという確信が強まる。その中から、今後の駅の探索で着ようと思っていた組み合わせを試してみる。白いシャツに茶色のズボンとベスト、その上にあのコートを羽織る。
「どうですかこれ!」
少女は私をしばらく眺めた後に、はっと笑った。その笑顔は明確で、私が初めて見た微笑みだったから、私の脳に焼き付いた。
「いつもとあまり変わらないな?」
その言葉に、私はようやく自覚する。彼女の笑みに、私もまた微笑んだ。自らへの落胆と共に、仕事着を脱ぎ捨てて、いつもの笑顔を作ったのだ。