ゴブリンに転生した俺、スキル無限魔力で無双確定!空きスロットは家事スキルで埋まってるけど今更気づいてももう遅い!! 作:夏目陽光
オリジナル:ファンタジー/日常
タグ:神様転生 転生 AI共同創造 不定期更新 ほのぼの
どこを見ても、笑っちまうほどに真っ白な世界だった。
上も下も、右も左もありゃしねえ。地面を踏みしめてるっていう確かな感覚すら消え失せてやがる。ただ、どこまでも見渡せるくせに、どこまで進んでも何もねえ、脳みそが沸騰しそうな純白がすべてを呑み込んでいた。まるで、デタラメな絵描きが世界をまるごとホワイトのペンキで塗り潰しちまったような、ゾッとするほどの空白。
……いや、違ったな。
その狂った色の世界のど真ん中に、ぽつんと座り込んでる「異物」がいた。
長い白い髭。ボサボサの白い髪。おまけに纏ってるのは、背景の白に溶け込みそうなほど真っ白な麻のローブ。全身がそのロクでもねえ空白と同化しかけてるくせに、そこだけ空気がねえじ曲がるような圧倒的なプレッシャーを放つ、一人の老人がそこにいた。
そのクソジジイは、まるで虚空に正座でもしてるみたいに浮き上がった姿勢のまま、皺だらけのツラをこれ以上ねえってくらい情けなく歪めていた。その濁った目から、大粒の涙がぼろぼろと零れ落ちては、床なんてねえはずの空間にぶつかって、パチンと光の火花になって弾けてやがる。
「すまなかったなぁぁぁぁぁぁっ! すべては、すべてはわしの不徳の致すところじゃぁぁぁっ!」
いきなり鼓膜を引っぱたいてきたのは、神社のでけえ鐘を耳元でガツンと打ち鳴らされたような、重低音の効いたダイナミックな大音声だった。思わず耳の穴を指で塞ごうとしたが、そもそも自分の手が今どこにあって、どんな形をしてるのかすら、さっぱり実感が湧かねえ。俺自身のフィジカルな感覚が、まるで氷水に突っ込まれたみたいに、あやふやで希薄だった。感覚がマヒした頭の中で、その爺さんの情けねえ叫び声だけが、ガンガンと五月蝿くリフレインしやがる。
老人は、床があると思い込んでるらしい場所に、激しくその額を叩きつけた。世に言う土下座ってやつだ。その拍子に、クソジジイの背後から、言葉の刃でも表現しきれねえ「何か」が、濁流みたいに溢れ出していた。
それはオーラだのフォースだのといった、生温いもんじゃねえ。空間そのものが老人の泣き言に合わせてぐにゃりと波打ち、プリズムみたいに不気味な七色の光の筋を撒き散らしている。一目見れば、嫌でも魂が理解させられる。ああ、こいつ、人間じゃねえ。それこそ、この頭の上の宇宙を丸ごと一つひっくり返せるくらいの、とんでもねえ「謎の力」を持った化け物だ。あまりの超常的なアクシデントを前にすりゃ、普通の奴なら腰を抜かして、思考のギヤを完全に止めてしまうところだろう。
だが、俺のソウルの芯にある、あの燃え盛るような熱量までは、この奇妙な空間でも冷やせちゃいなかった。俺の魂は、まだビンビンに猛ってやがる。
「おいおいおい、何を真っ白なツラして縮こまってやがる、このクソジジイ! ここはどこだ? というか、あんた誰だ! 男が一度前を向いたなら、涙なんざ引っ込めてツラを堂々と上げやがれ! そんな惨めな姿を晒すために、そこに生きてんのか!」
俺の声は、妙にクリアに空間をブチ抜いて響いた。焦りや恐怖なんてケチなマインドは、俺の辞書には最初から入ってねえ。あまりの非現実感に脳みそが追いつく前に、俺の熱い血が勝手に吠えていた。とりあえず、この大声で泣き喚いてる爺さんのひん曲がった性根を正面から叩き直してやるために、俺は全力の言葉を叩きつけた。
だが、老人はガバッと顔を上げたものの、俺の言葉なんて一言も耳に入っちゃいねえって様子で、さらに顔をぐしゃぐしゃに歪めて叫び続けた。
「御主を……そう、御主をこのような理不尽に巻き込んでしまうとは! わしがほんの少し、動画投稿サイトの最新おもしろ動画を見ようと端末をいじっておったばかりに、謎の術式が暴走して、御主のいた星の3分の1を物質ごと綺麗に消し飛ばしてしもうたんじゃ! ああっ、なんという痛恨の極み! なんという大失態! 御主が本来全うするはずだった、現世での平穏なる日々を、わしが、わしのせいで……!」
老人が胸のローブをかきむしるようにして叫ぶたび、周囲の白い空間にピキピキと黒い亀裂が走る。その不気味な亀裂の向こうには、数多の星々が禍々しく渦巻くギャラクシーのような光景や、見たこともない巨大なシャドウが歩く荒野が一瞬だけ見え隠れした。
どうやら、このクソジジイは本当に「世界の管理者」か何かの絶対的な存在で、その超常的な「謎の力」の、あまりにもくだらねえエラーか何かに、俺が巻き込まれたらしい。
現世での平穏なる日々、という言葉が、かすかに記憶の底をかすめていく。
聞いたか今の? 動画サイトの最新おもしろ動画だぁ? そんなくだらねえイノベーションのせいで、俺たちの生きてた星が3分の1も消し飛ばされたってのか。笑えねえ。笑えねえが、最高に滾ってきたじゃねえか。
最後に覚えているのは、いつもの通学路だ。全国大会の切符をかけたインターハイ予選で大負けした翌日、悔しさで拳を血が出るほど握り締めながらも、誰も見たことのねえ広い空を見上げて、魂の急速充電をキメてやるって胸の奥をこれでもかと熱くさせていた、あの帰り道――。
気づけば、ここにいた。痛みも、衝撃も記憶にねえ。だが、ぷつりと映画のフィルムがハサミで切られるように、俺の日常は終了していたのだ。
ああ、そうか。俺は死んだんだ。肉体ごと、あのお気楽なジジイのせいで綺麗さっぱり消されちまったわけだ。だが、だからどうしたってんだ。そんなことで、俺の魂の炎まで消せると思うなよ。終わったなら、そこからさらにデカい一歩を踏み出して、新しい歴史をビルドアップするだけだ。
「おい、待て! 動画サイトを見ようとして俺たちの星を消したってのか? 上等じゃねえか! 未練だの絶望だの、そんなセコいもんに俺の足が止められると思うなよ! あんたの不始末だろうが神様のプロットだろうが、俺の命は俺のもんだ。運命なんて分厚いウォール、俺の拳で木端微塵にブチ破ってやるから、そこをどきやがれ!」
俺は必死に、いや、むしろ狂おしいほどの笑顔を浮かべて声を張り上げた。いくら状況が飲み込めないとはいえ、自分の人生が他人のアホなミスで強制終了させられたとなれば、ただ地面にしがみついて泣くより、その倍以上のモチベーションで突き進むのが俺の生き様だ。俺の咆哮は、この白い空間に地鳴りのような衝撃波となって響き渡ったはずだった。
しかし、老人は全くこちらの声に耳を貸す様子がない。彼は自身の犯した罪の重さに脳みそまで打ちひしがれるように、再び両手を床について、激しく首を左右に振った。
「すまなかったな……本当に、すまなかった。御主を元の世界に戻してやりたいのは山々なのじゃが、すでに御主のいた星の3分の1ごと、肉体は時空の彼方に霧散してしまってな……。わしの力をもってしても、一度完全に消失した因果を巻き戻すことは叶わんのじゃ……。ああ、御主のあの無念に満ちた表情、わしには痛いほど伝わってくるぞ! 言葉も出ぬほどに絶望しておるのじゃな!」
「耳の穴にクソでも詰まってんのかコラ! 誰のツラ見て絶望とか抜かしてやがる! 聞こえてんならさっさとその貧弱な涙を拭きやがれ!」
「責めてくれ、わしをいくらでも責めるが良い! その怒れる魂の叫び、しかとこの胸に刻むぞ!」
「会話のドッジボールしてんじゃねえぞクソジジイ! 肉体がねえなら、この魂一つで天をも突く新しい身体を創り上げてやるまでだって言ってんだろ! お前が俺の背中を見失って、そんなところで勝手に泣いてんじゃねえよ!」
俺の熱いツッコミは、老人の圧倒的な声量と、周囲に漂う「謎の力」の波動に無残にかき消される。老人は完全に自分の殻の中に引きこもって、自分の世界に入り込んでおり、俺の姿は見えているようだが、俺の発する言葉や、天をも恐れぬその意志を認識する気が最初から一切ないらしい。ただひたすらに、自分の過失に対する自己嫌悪のエネルギーを周囲に撒き散らしている。
老人ががっくりと肩を落とし、まるで中の空気が抜けたしぼんだ風船のようになっていく。その姿からは、先ほどの圧倒的な神威が嘘のように、ただの哀れな老人の悲哀が漂っている。だが、その背後に渦巻く七色の光は、依然として空間を猛烈に歪め続けており、彼が持つ絶対的なパワーの片鱗を、これでもかと見せつけていた。
「おい、無視してんじゃねえ! 戻れねえなら、前を向いて進むだけだ! 次に行く場所はどこだ? おい、その涙を今すぐ拭いて、俺の進むべきルートを指し示しやがれ!」
俺の魂を真っ芯から震わせる問いかけに対しても、老人はただ自分の言葉をマシーンみたいに紡ぎ続ける。
「……異世界、じゃ。わしが管理する、もう一つの世界。そこへ、御主の魂を転生させる。それしか、御主に新たな生を与える方法がないのじゃ。もちろん、ただ転生させるだけでは、わしの気が済まん。御主が向こうの世界で――」
「おい待てコラ! 異世界って言ったか今!? 異世界だな!? 最高じゃねえか、今度はそっちで大暴れしろってことだな! 頼んでもねえ加護なんて置いて、さっさとその新しい世界とやらへ俺を送り出しやがれ!」
「――何不自由なく、むしろ前の世界よりも何倍も謳歌できるような、強力な『加護』を授けよう。それが、わしにできる精一杯の償いじゃ……。御主が『嫌だ、動画ごときで俺の星を滅ぼすな』と泣き叫びたい気持ちは分かっておる」
「だから誰も泣いてねえっつってんだろ!! 人の話を聞け!!」
俺がどれだけ叫ぼうが、老人の言葉のトレインは脱線することも止まることもなく、完全に俺の声を轢き潰して進んでいく。老人は涙を拭うことすら放棄し、ただひたすらにこちらの精神的な痛みを勝手に推し量り、さらに深い自己憐憫の底へとフォールしていく。本当に、このジジイの頑固な耳はどうなっていやがる。自分の物差しで人の器を測るんじゃねえ。
「さあ、受け取るが良い。御主の魂に、この世界の最高位の祝福を刻み込む。……御主の歩む新たな道が、光に満ちたものであることを、心から願っておるぞ。御主の言葉なき許しなど、わしは求めん。ただ、この力だけは持っていってくれい!」
老人がゆっくりと両手を天へと掲げた。
その手のひらの上に、眩いばかりの黄金の光球が出現する。光球は心臓のビートみたいに脈動しながらみるみる巨大化し、周囲の白い空間を黄金色に染め上げていく。その光から放たれるプレッシャーは凄まじく、もし普通の人間なら、その場にクラッシュされて消えていただろう。
だが、俺は違った。その圧倒的な光の力を前にして、俺の魂の炎はさらに激しく、熱く燃え上がった。これほどの極大のエネルギー、俺が乗りこなして見せなくてどうする。男が立って歩むなら、これくらいの大波のほうが、かえって面白い。
これが、ジジイが放つ、異世界の理を書き換えるための「謎の力」の結晶。
老人はその光球を、俺の頭上へと乱暴に放り投げた。光球は俺の周囲をゆっくりと旋回し始め、体に吸い込まれるような感覚と共に、底知れない万能感と絶対の力が魂の奥底に満ちていく。
「よし、この力で新しい世界をブチ抜いてやる!」――そう、俺が遥か彼方のフロンティアを見据えた、まさにその瞬間だった。世界が、最悪の形でひっくり返った。
「……あっ」
老人が、唐突にマヌケな声を漏らした。その視線は、俺の正面ではなく、俺の後方へと向けられている。
老人の顔から、先ほどまでの「申し訳なさ」とは明らかに違う、本気の焦燥と恐怖の色が浮かび上がった。その皺だらけのツラが、今度は底知れぬ恐怖で引きつり、青ざめていく。
「し、極大の因果の歪みが……! 先ほど、御主のいた地球の3分の1を消し飛ばした時の『因果の歪みの残りカス』が……今、授けた最高位の加護の莫大なエネルギーと、最悪のタイミングで融合成形されてしもうた……! 時空の底に、底に穴が……!」
老人が絶叫したその瞬間、俺の背後の空間が、音もなく「反転」した。
ジワリ、と背中側から強烈な冷気が這い上がってくる。いや、肉体がないはずなのに、魂そのものが凍りつくような、絶対的な「無」の気配。
振り返る感覚すらないまま、俺の視界の端に、漆黒の渦が映り込んだ。
それは、光すらも透過させない、完全なる闇の穴。中心に向かって、周囲の白い空間が細長く引き伸ばされ、もの凄まじい勢いで吸い込まれていく。
この空間そのものを、世界そのものを噛み砕いて呑み込もうとする、底なしの暗黒。
地球を消し飛ばしたやらかしの残骸が、俺の加護と混ざり合って生まれた、次元の墓場。
背後からゴリゴリと魂を削り取っていく漆黒の引力。光も、音も、俺の放つ熱量すらも、その冷酷な闇は一瞬で吸い尽くしていく。
「おい、なんだこの穴は! 魂ごと引きちぎろうってのか!? ふざけんじゃねえ、俺を引っ張りたきゃ、もっとマシな力で来やがれ! こんな底の浅い闇で、俺の行く道を遮れると思うなよ!」
「すまぬぅぅぅっ! わしのやらかした因果が、最悪の形で爆発してしもうたぁぁぁっ! どこに繋がっているか分からんブラックホールが開いてしもうたぁぁぁっ!」
「うるせえ! こんなところでビビってんじゃねえよジジイ! 前を向け!」
「最後まで御主に迷惑をかけるとは、わしは、わしはどこまで愚かなんじゃぁぁぁっ! すまなかったなぁぁぁっ! 達者でなぁぁぁっ!」
最後の最後まで、こちらの声を聞く気は一切ねえらしい。老人は俺が吸い込まれていく様を見ながら、ただただその場で、さらに激しく頭を地面に打ち付け、謝罪の言葉を叫び続けていた。
「ふん、泣いてばかりのジジイに用はねえ! どんな闇だろうが、俺が突っ走って光をこじ開けてやる!」
遠ざかる老人の絶叫と、空間が激しく軋む、この世の終わりを告げるような不快な音。
俺の視界は、背後から迫る圧倒的な漆黒に完全に包まれ、光も、音も、そして最後まで一度だって噛み合わなかった謎のおじいさんの姿も、すべてが暗黒の底へと引きずり込まれ、完全に消失していった。