キヴォトスにおける卒業の概念   作:壊れたファングメモリ

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翌日。

 

モモイとミドリの2人を連れ、私は昼過ぎに廃墟の前まで来ていた。

 

「さて、2人とも。分かっているとは思うが廃墟は危険なエリアだ」

「分かってるよ、だからちゃんと銃もメンテナンスバッチリしてきたからね!」

「お姉ちゃんそれ当然だから」

「それよりも君たち……その服で行く気か?」

 

2人はこの前ゲーセンで見た時と全く変わらない格好だ。

 

「ジャージの方が良かった?」

「欲を言うなら私くらいで来てほしかったが、少なくとも制服は……まぁ今から変えるのも面倒か」

 

今の私の格好は普段のワイシャツの上に複数のポーチが付いた戦闘用ベストと、スカートではなく硬めのズボンを履いている。

 

ちなみに銃はPDWとそのサイドアーム用ピストルだ。

 

「あ、あの……その太もものマガジンて必要なんですか? 正直上半身の分で足りません?」

「念には念を、ってやつだよ。私の勘が持っていくことを選んだから」

 

勘……というよりかは嫌な予感だ。言わないが。

 

「おぉ……! 今のセリフゲームに入れていい?」

「……まぁ別に構わない」

 

帰るまでに覚えていられるかどうか。

 

「話が逸れたが、2人はそれで大丈夫なのか?」

「シュテ先輩、ミレニアムの制服はそこそこ頑丈なので大丈夫ですよ」

「そうだよ! 爆発にだって耐えられるからね!」

「そう、なのか。わかった」

 

爆発しそうな部活筆頭の物を持ってきてる身としては助かる。

 

三大校ってすごいんだな。

 

「ってかずっと気になってたんだけど……それ何!?」

 

モモイは私の隣にある、上部に大きなリングのくっ付いている手のようにアームが生えた冷蔵庫っぽい何かを指さしてそう言った。

 

「これか。これはな、昨日完成した『マルチタスク君』だ」

「名前ダサっ!?」

「言うな。『エンジニア部』が勝手に名付けただけだ」

「『エンジニア部』……てことは自爆機能付いてるんですか?」

「付いてるぞ。残念なことに」

 

やっぱ有名なんだな、アレ。

 

「結局それはなんなのさ!」

「ドローンだ」

 

スマホから専用のアプリを起動して『マルチタスク君』……長いな、マルでいいか。マルの電源を入れる。

 

─ブォォォ……

 

「浮いた! 冷蔵庫が浮いた!」

「ドローンだからな?」

「でもどう見ても冷蔵庫ですよ……?」

「これはドローンだ。誰がなんと言おうがドローンなんだ」

「でんき・こおりタイプのアレじゃん!」

おいバカやめろそれにしか見えなくなっただろ

 

どうするんだ文字に表すと『ミ゚ヨ゛ォォォーーイ!!』みたいな鳴き声を発して『ふぶき』し始めたら。

 

『システム起動』

「喋ったぁ!!??」

「AI搭載だ。かなり自律思考で動けるらしい」

 

今朝ちょっと試運転しただけだから、まだまだ分からないことの方が多い。というか自律思考するなら本格的に□卜─

 

「─やめとこ。ともかく、コイツは捜査中にあると便利な物を収納できるようになってるんだ。ゲーム風にいうとインベントリ兼、支援機ってやつさ。ほら、もういいだろ。行くぞ」

 

貰った鍵でフェンスの錠を開け廃墟に足を踏み入れた。

 

……そういえば警備の生徒が誰もいないな。普通SRTの生徒がいると思うんだが。

 

 

モモイが持ってきた『宝の地図(電子)』に従い廃墟を進んでいると、変なロボットが動いているのを見つけた。

 

人型で複数いる。

 

「あれはなんだ? 知ってるか?」

「「知らない」です」

「そうか……」

 

古びた塀から顔だけを出して様子を伺う。

 

ロボットの市民では無さそうだが……。

 

「……アレ、銃持ってるな。見つかったらいきなり撃たれるかもな」

「ええ!?」

「お姉ちゃんあんまり大声出さないで……!」

「ごっ、ごめん……!」

「モモイ、方向はあっちか?」

「うん。でもロボットに見つかっちゃうよね」

「あぁ……どうするかな……」

 

結構な数いる……戦闘となると圧倒的に不利だな。であれば。

 

「隠れながら、しかなさそうだ」

「だよねぇ」

「……それ、ものすごく目立ちませんか?」

 

ミドリがマルに対してそう言う。

 

「なら……そうだマル、あの廃ビルの上まで高度を上げられるか?」

『可能。今からそうしますか?』

「準備はいいか?」

「うん!」

「はい、いつでも」

「いい返事だ。マル、高度を上げてくれ」

 

静かに高度を上げ廃ビルの上に陣取った。

 

「それじゃあ、潜入開始だ」

 

 

体勢を低く、足音を出来るだけ小さくして素早く進む。

 

数が多いから大変だと思ったがそれらは決まったルートで巡回しているようで、死角を通るようにしたら案外簡単に進めている。

 

「(こっちだ)」

 

ハンドサインで2人に移動を促す。

 

さささっ……

口に出さないで

ごめん

 

ま、まぁ見つかってないしいいか。

 

立体駐車場のような場所を通り抜け、特にトラブルもなく目的地にたどり着いた。

 

廃墟の建物の中に入ると、そこは生物の気配がない寂寥とした場所だった。

 

私としてはこういう場所は何となく不安が溢れてくるようで得意じゃないんだが……2人の目が輝いている。

 

「ロボットいないね?」

「うん、そうだね」

「気にはなるが、今のうちに探そうか?」

「「賛成!」」

 

室内にはガラクタとなったパソコンや家具なんかで雑多としている。

 

「とりあえず……電子データを収納するならUSBメモリとかそういうのか?」

「多分そうです」

「よーし、片っ端から引き出しを開けてくぞー!」

 

 

「……見つからなーい!」

 

15分しか経ってないのにモモイが早くも音を上げた。

 

「お姉ちゃんそこ邪魔」

「無理もないさ、ミドリ。そもそもどんな形の物なのかわかってないんだろ?」

「確かに……そうですけど」

「よい、しょっ……」

「お、おわ!? シュテ先輩意外とパワータイプ!?」

 

スプリングが飛び出たボロボロのソファに座ったモモイごと持ち上げて動かす。

 

─ドンッ

 

「あべっ!?」

 

電子データの類だからな……この中からUSBやSDカードみたいな小さな……待て。

 

「『G.Bible』って電子データなんだよな?」

「そうだよ! だからそれが入ったメモリーカードなんかを──」

「パソコンの中とか。それ以外にもここには機械があるし、その中に入ってるんじゃないか?」

 

あ、という表情を見せたモモイに手を貸して立ち上がらせる。

 

「もしくは、最後に起動したのがここってだけで、その後に動いたんじゃないか?」

「なるほど、それなら納得いきますね」

「……あーそっか!」

 

後者の場合だとはっきり言って手の打ちようがないが、そうでは無いことを祈るさ。

 

「さて、この場で起動する機械はあるかな?」

 

 

「あ、点いた! なんかよくわかんないけど…ミドリ! シュテ先輩! 来て!」

 

言われてモモイの方を見れば、水色に光る画面を前にブンブンと手を振っていた。

 

「ホント!?」

「なんかデカイな、その機械」

 

アーケードゲームとかの二画面に別れている筐体に近い。私もこどもの頃……何してたっけ?

 

─ザザッ……!

 

『Divi:sion Systemへようこそ。何をお望みですか?』

 

「喋っ「それ二回目」……」

 

キャンセルされてる……。

 

「音声認識か。私たちは『G.Bible』の現在位置について知りたいんだが……」

 

というかコイツはどこから電源を? 電気通ってるのか?

 

『……』

「……時間が掛かってるな」

「つまり、この中には無い……ってことですかね?」

「そ、そんなぁ〜」

 

恐らくはAIだろうが、何年前のものなのだろう? 最新のならここまで時間は掛からないよな。

 

そんなことを考えていたら返答があった。

 

『この場からでは正確な位置の特定は出来ません。しかし、私が外部へ移動することが出来れば特定をできる可能性が高いです』

 

……そりゃそうか。

 

「データ移行ってこと? なら私のゲーム機に入る? そこそこ容量あるよ?」

『まぁ可能……ではあります』

 

明らかに不服だな……!? 心があるように見えるなんて相当だぞ?

 

「というかモモイ、ゲーム機はないだろう? なぁ君、私のプライベート用スマホの容量110GB余ってるからそこに入れないか?」

「いや余りすぎでしょ!?」

「買う機種間違えたんですか?」

「恥ずかしながら。で、どうだ?」

『充分可能です。ゲーム機よりも安全性が保証されているため、そちらを強く推奨します』

「そんなに嫌だった!?」

「AIをゲーム機に入れるのがおかしいんだよお姉ちゃん」

「あちらにだって選ぶ権利はある。

 

それにこんな廃墟でもインターネットに繋がるしな。

 

無駄に高性能だが、悪くはないだろう。さて、移行はどうやるんだ?」

『既に完了しました』

「お?」

 

スマホから声がした。

 

いつの間にか移っていたようだ。背景は……これは何のマークだ? ……反応しないんだけど。これどうやってホーム画面に戻せば?

 

「おぉ! よっし! これでG.Bibleのところまで案内してもらえる!」

「……そうだな。とりあえずは外に出て情報収集か」

 

廃墟のAIをプライベート用のに入れるのは少し不安だが、別に変なことにはならないだろう。終わっても直せないならミレニアムの生徒に何とかしてもらおう。パスワードなんかは自分の頭で覚えているし、最悪スマホを叩き割ればいい。

 

……20万円を叩き割るのは正直嫌だが。

 

「あと、外には変なロボット兵士みたいなのがいるんだ。なるべく安全なルートで行けるか? 無駄な戦闘は避けたい」

『了解しました。ルートを検索中です、しばらくお待ちください……』

 

……我ながら無茶を言ったと思ったんだが、この廃墟のルートを検索できるのか。

 

 

ロボットのいない場所を少し探索してAI─名前はKeyというそれ─は『G.Bible』の位置を割り出せたらしい。

 

原理が全くの不明なんだが。私のスマホのカメラ1つで周囲の地形どころかここに無い『G.Bible』の場所までわかるなんて、Keyはどうなってるんだ?

 

意外と最新のAIなのだろうか?

 

『私がG.Bibleまで案内をします。指示に従ってください』

 

画面が切り変わり、カメラからの映像の上に矢印が表示されている。

 

「これは…ARか」

「おぉ、これまたレトロな……」

 

えっ。

 

「確かに」

 

嘘だろ……? これ古いのか……?

 

「どうしたんですシュテ先輩?」

え゛、あ、あぁいや、なんでもない。少し驚いただけさ」

 

そうか……レトロか……。でも確かに立体映像がある中で画面上のARはレトロと言えばレトロか。

 

仕事用のスマホが振動する。

 

ん? ……あ、そういえばマルのこと忘れてた。

 

廃ビルの上に放置したまんまだ。ごめん。

 

ポーチから仕事用のスマホを取り出しマルを……見つかるとマズいからな。私達の上空で追随するようにしてもらおう。これでよし、と。

 

「さて、向かうか」

 

 

─ズガガガッ!!

 

「……撃破だな」

「これで入れる!」

 

最後の最後でロボット兵士に見つかった時はどうなる事かと思ったが、そこはやはりPDW。継戦能力の高さのおかげで『ずっと私のターン』だった。

 

20m未満の距離なら誰にも負けるつもりはない。……ネルには勝てないが。

 

「さて……ここか?」

『はい』

 

入った建物は工場のようで、生産ラインを動かす多くの機械とKeyがいた筐体に似た機械が一つ置いてあった。

 

いかにも廃工場という感じのここは酷く寂れている。

 

「この台ってことでいいんだな?」

『はい。このスマホを接続できますか?』

「接続か。……接続とは言ってもだな」

「端子とかどこにも無い…ですね」

「あっ、これじゃない!?」

 

そう言ってモモイは台の側面にある正方形に区切られたスペースを指した。

 

恐らく……カードリーダー的なあれだろう。自動改札のアレみたいな。

 

「Key、これか?」

『……はい、それです』

 

…なんだその間は。モモイに先越されて悔しいのか?

 

「お手柄だな、モモイ」

「でしょ! もっと褒めてくれてもいーんだよ?」

「お姉ちゃん調子乗りすぎ」

『このスマホをそこへ』

「ん」

 

側面の読み取り部分へかざす。

 

「これでいいのか?」

『接続中です。しばらくお待ちください』

 

「レトロゲームのレースゲームでオンラインに繋げる時みたいじゃない?」

「あー確かに」

「……全然わからん」

 

レースゲームやらないんだよな。

 

『下部の扉が開きます。足元にご注意ください』

 

「「「えっ?」」」

 

─ばかんっ

 

「「うわぁぁあ!?」」

「掴まれ!」

 

2人を引き寄せ安全に着地あ待ってくれバランスがっ

 

─ゴスッ……!

 

ウッ!? ……うっぐぉぉ……!!」

「わぁ!? 大丈夫!?」

「ご、ごめんなさい! すぐ降りますねっ!?」

 

かなり……効いた……!

 

ギャグ漫画みたいに全身で地面に激突したところの上から2人が落ちてきた。

 

私が頑丈じゃなかったら内臓破裂レベルの衝撃じゃないか? こんなのは理不尽なトラップだ。

 

「いっつつ……」

「大丈夫?」

「ああ平気だ。にしても、なんだか……はぁ……いっつも、落ちてるな……?」

「いっつも、って何言ってるの? シュテ先輩ここ来るの初めてでしょ?」

「……そう、か? 前にもこんなこと──」

 

─ギィィ……!

 

まさか閉まった?! 本当に(トラップ)なんじゃ…!?

 

マルも上に残してしまったし、マズイか……?

 

「いっ……なぁKey、こういうのは先に言ってくれないか? スマホ()が壊れる可能性もあっただろう?」

『ご安心を。もう案内は終了しています』

「終了……?」

 

それはどういうことかと聞こうとした瞬間、地下の空間をライトの光が照らす。

 

眩しっ……なんで照明が……? こんな廃墟に人感センサの類があるなんて到底思えない。

 

もしかしてこれはKeyが─

 

「ミドリ! シュテ先輩! あっちになんか……あ、女の子だ! 女の子がいる!」

「お姉ちゃん何言って…本当だ」

「いやこんな所に人が……いる」

 

通路の先で台座のような物の上に微動だにしない少女がいた。

 

誰…というか全裸……死んではなさそうだが……。

 

間違いなくマトモじゃない。

 

「……が、とりあえずは病院か? しかしここから脱出するのは─」

『彼女がG.Bibleです』

「なんだって?」

 

それは情報媒体じゃなかったのか? ……ああ、アンドロイドみたいなものってことか。ゲーム作りをサポートしてくれるんだろう。

 

恐らくどこぞのサクライさんみたいな。

 

『絶対に触ってはいけません。データの破棄が開始されます』

「よく分からないが分かった。そういう訳だかモモイ?

 

少女の方へ進もうとしていたモモイがピタッと止まった。

 

「わ、わかった! 絶対さわんない!」

「触ろうとしてたでしょ」

「そっ、そそ……そうだよ悪い!?」

「なんで開き直る……とにかくKey、次はどうすればいい?」

 

それを待っていた、と言わんばかりにすぐさま回答が返ってきた。

 

『私を彼女に接触させてください。それで起動します』

 

「わかった」

 

近づいて眠っている少女の手、は無理そうなので腹部にスマホを置いた。

 

『少し離れてください』

「ん」

 

モモイ・ミドリの元へ戻る。

 

やがて少女が目を開ける。

 

鮮やかな()()の美しい瞳だ。

 

ぱちぱちと何度か瞬きを繰り返すと、腕や手を動かし……少女はスマホを持って台から降り立ち上がった。

 

「「「おぉ……!」」」

「無事に起動したみたいだな」

「やったねお姉ちゃん! これで最高のゲームが作れる!」

「うん! あ、とりあえず服着せないと!」

 

確かに。このままだといろいろ問─

 

 

「感謝しますよ、シュテ。そして……王女よ、目覚めの時です!」

 

 

両手を上に広げ恍惚の表情で叫んだソレは、一転し糸の切れたマリオネットのように腕と首をガクンと倒した。

 

「「ひっ……!」」

 

()()

 

じっとり、と嫌な汗が背を伝う。

 

何か……とんでもない間違いを、してしまったんじゃないか?

 

取り返しのつかない事を……気付かぬうちに厄災の封印を解いてしまった……!?

 

最初から嘘だった? 全て? 

 

「状態を確認」

 

ゆっくりと顔を上げたソレの目は青かった。

 

「システム、ALLGREEN」

 

「これより当機AL-1Sはプロトコル:ATRAHASISを起動します」

 

「ッ2人とも今すぐ逃げるぞ!」

「えっ、あ、えっ!?」

「いいから逃げるよお姉ちゃん!」

 

出口はどこだ!?

 

ソレに背を向け走り出す。

 

この端末からネットワーク情報の解析を開始、完了。ミレニアム自治区サーバーへの侵攻を開始、同時にDivi:sionシステムの全稼働を開始──

 

何かブツブツと言っているのが聞こえる。

 

そうだ! 入ってきたところ! あそこなら!

 

「マル! 聞こえるか!?」

 

マルを操作する用のスマホに問いかける。

 

『はい、聞こえます』

「落ちた地面をぶっ壊してくれ!」

『了解。グレネードランチャーを使用します』

 

─ドォン!

 

「なんの音!?」

「上から……開いてる!」

 

「武器の生成を完了、攻撃を開始します」

 

離れた位置からでもそれだけはハッキリと聞こえ、見れば右手に見たことの無い銃を持っていた。

 

……待て、武器の生成だと……!? いや今そんなことはどうでもいい!

 

私は反射的に振り向き自分のPDWの照準をソレに合わせる。

 

隙間から降りてきたマルがアームで2人を掴んだ。

 

「行け!」

『了解』

「うわうわ何!?」

「待って! シュテ先輩は!?」

「モモイミドリ! 落ちるなよ!」

 

「敵対行動を確認、優先攻撃対象を変更」

「先手必勝!」

 

悪いが容赦なんて──

 

チ゛!

 

「痛ッ!?」

 

レーザービームのような高温の何かが私の左頬を削り取るように通過した。

 

反射的に持っていたPDWを落としてしまう。

 

「しまっ──」

「……」

 

落としたPDWに向けソレが発砲すると、マガジン内部の弾薬に含まれる火薬が熱で爆発を起こした。

 

─パァン!!

 

「がァっ!!?」

「──!?」

 

両者の間、と言うには些か私よりに起きたそれはPDWを破片手榴弾のように弾き飛ばしお互いに切り傷を付けた。

 

咄嗟に顔を守った左腕にワイシャツ越しの血が滲む。……まだ動く、大丈夫だな。

 

「ッ……!」

 

しかし、焼かれた頬がジリジリと痛む。

 

くそっ!

 

マガジンごとベストを脱ぎ遠くへ投げ捨てる。

 

あんな武器の前ではこのベストはダイナマイトを着ているようなものだ!

 

「損傷部位の修復……完了。攻撃を再─」

 

射撃。

 

ピストルの早撃ちが相手の額に当たり……なんっ!?

 

「─開します」

「ダメージ無しか!?」

 

怪我どころか仰け反りすらしないだと!?

 

あのネルでもノックバックはするんだぞ!? どうなっている!?

 

投げ捨てたベストと反対方向に走る。

 

─ヂ!

 

「熱ッ……!」

 

左の大腿部の服が熱で溶け、皮膚が焼ける。

 

「偏差を修正……」

 

アイツ、私の太もものマガジンを狙って……!

 

爆発させられる前に外して相手に向かって投げつける。

 

「攻撃を確認」

 

空中でマガジンが撃たれ爆発する。

 

今度は身をかがめて破片を回避した。

 

正確な射撃……戦闘用アンドロイドってやつなのか? ロボット兵士とはまるで違う……!

 

スマホに小声かつ早口で話しかける。

 

マル、2人は?

『無事に届きました』

なら私も回収してくれ。出口の真下まで跳ぶ

『了解』

「3、2、1、GO」

 

相手の銃を狙ってピストルを撃ちながら大きく後ろに跳んで出口の真下に着地する。

 

伸びてきたアームを左手で掴んで上昇する。

 

「逃走を確認。追撃は不要と判断、プロトコル:ATRAHASISを遂行します」

 

追撃は無い、か。

 

扉を抜け地上に出る。

 

「「シュテ先輩!」」

「2人とも無事か!」

「私たちは無事だけど……!」

「シュテ先輩そのほっぺと左腕大丈夫なんですか!?」

「……軽い火傷と切り傷だ。問題ない」

 

痛みがあるということは神経までは死んでいない。なら手術も要らない。神秘に感謝だな。

 

─ゴゴゴゴ……!!

 

『この地点からの退避を推奨します』

「そうだな。ここを離れるぞ」

「わかった!」「分かりました!」

 

 

走ってあのアンドロイドから離れている最中に無数のロボットと遭遇した。

 

遮蔽に隠れるが、位置がバレているようで包囲され始めている。

 

「ちょ、なんか変なロボットがいっぱい!?」

「巨大なサソリとクラゲ……?!」

「数が多いな……!」

 

不良に囲まれるのとは訳が違う。

 

圧倒的な物量差を前にしながらもこの場を切り抜ける方法を考える。

 

私が前に出て囮になる、その間に2人が脱出、そして私も逃げる……これしかないか?

 

「マル、近距離…いや、接近戦用の武装は何がある?」

『お持ちのFive-seveN(ピストル)、もしくは護身用の機械剣のみです』

「……とりあえず弾薬の補充と、剣もくれ」

『了解』

 

弾を受け取ってリロード。その後に左腰のホルダーに剣をセット。

 

「シュテ先輩……私たちどうすれば……!?」

「なんとかしなきゃ!」

「安心しろ、作戦なら─」

 

─ズダダダダッ!!

 

誰かがサブマシンガンが乱射する音と共にロボットが煙を上げて倒れていく。

 

そしてその誰かは破壊したロボットの上に乗り、こちらに話しかけてきた。

 

「よお、チビ共! そんでシュテ!」

「ネル!」

 

美甘ネル、登場。

 

「誰だっけ……? ていうかなんで?」

「なんでって、今ミレニアムのサーバーが乗っ取られたかなんだかで……つまり原因をぶっ壊しに来たんだよ! オラァ!」

 

いつの間にか飛んできていたドローンをサブマシンガンで薙ぎ払うように撃ち落とした。

 

「んで、お前らなんか知ってんだろ?」

「ああ知っている。なんなら原因らしきものとさっき戦ったところだ」

「その怪我それか」

「そうだ。だが説明の前に、モモイとミドリを廃墟の外まで逃がすのを先にしていいか? コイツが運ぶ」

「あ? あー……そうか。いいぜ」

「ちょ、ちょっと待って! 私たちは─」

「お姉ちゃん、私たちがここにいても足でまといになるだけなの」

「でも─」

 

─ザザッ……!

 

後ろの方から異音。

 

振り返ると、液晶画面に赤や緑色のノイズが走るかのようなエフェクトが先程までいた工場を覆っていた。

 

「何あれ!?」

「な、なんか気持ち悪い……!?」

「なんだありゃ……」

「分からない……が、ヤツも何も無いところから武器を生成していたし、それと同じ力なんじゃないか?」

 

しかしそうなると、あの工場からは何が造られるんだ? ただ、近くにいるとマズイだろう。

 

「マル」

『了解』

「ま、またぁ!?」

「いいから!」

 

……行ったな。

 

モモイ・ミドリが向かった先とは反対からロボットが集まってくる。

 

「そんじゃあ……戦いながら説明してもらうぜ、シュテ」

「わかった。一言で表すと『戦闘用アンドロイドが起動した』だな」

 

ロボットに向けて戦闘を再開する。

 

「戦闘用アンドロイド?」

「確か……AL-1S…だったか? 名前なんてどうでもいいか。このピストルでビクともしなかった。さすがに対物ライフルなら効くと思う。効かなかったら大砲だな」

 

「なんで起動した?」

「変なAIがアレに接触したからだ。……接触させたのは私だ」

 

「そうかよ。このロボットは?」

「よく分からないが確実にアレの手先だろう、なっ!」

 

サソリのようなロボットを剣で叩きつけるように斬って破壊する。

 

「相変わらずの馬鹿力だな!」

「取り柄なんでねっ!」

 

その残骸をクラゲ型のロボットに投げて怯ませ、その隙に剣を頭部に刺し込み倒す。

 

スマホが震える。

 

『モモイ・ミドリの退避を完了』

「わかった。ネル! モモイとミドリは廃墟を抜けた!」

「了解!」

 

─ザザッ……!!

 

再びノイズのような音がした。

 

「……はぁ!?」

「どうし……工場が造り替えられた……!」

 

工場だった場所に近未来的な塔のようなものが現れた。

 

周りの廃ビルが低く見えるレベルで高い。どうやって造ったんだ……?

 

塔の側面には大砲……と思われる物が付いている。

 

「ネル! 頂上付近にいるアイツだ!」

「へェ! お出ましってわけかぁ! ミレニアムのサーバー止めて、こんなロボット使って……ぶっ殺してやるからそこ動くんじゃねぇぞ!!」

 

相変わらずの口の悪さだ。

 

頂上付近のAL-1Sは黒いボディスーツらしき物に身を包み、両腕に先程の銃をパワーアップさせたようなライフルを装備していた。

 

遠くからでも伝わる威圧と恐怖を感じるこの状況は、あたかも魔王と対峙しているかのようだ。

 

彼女がこちらに銃を向けた。

 

「待てネル突っ込むな! あれはレーザー銃みたいなものだ! 当たると灼かれるぞ!」

「ハッ! なら当たんなきゃいいだけの話じゃねぇか!」

 

その言葉の通りネルは光線を紙一重で躱し、二丁のサブマシンガンから伸びる鎖をロボットに刺して三次元的な動きで前へ前へと向かっていく。

 

すぐさま私も走って後を追う。

 

いや、なんで躱せるんだ……? 銃の鎖にも当たってないしアイツやっぱおかしいな? 私も赤い残像が残るくらいのスピードがあれば躱せるようになるのか……?

 

『戦闘のサポートを開始します』

「戻ってきたか!」

『謎の構造物の側面に無数のドローンを検知』

「ドローン!? ならグレネードランチャーをくれ!」

 

マルからグレネードランチャーを受け取ると、ドローンが塔の側面から飛び立った。

 

「やらせない!」

 

飛んでこようとしている大量のドローンに向け、エアバーストグレネードランチャーを撃つ。

 

遠距離射撃は苦手だが、これにはあまり関係ない!

 

─ボォン!

 

爆発の破片で壊れたものと、爆風で吹き飛ばされ他のを巻き込んで撃墜されたもの、かなりの数を一発で持っていけた。

 

「シュテ! 乗り込むぞ!」

「ああ!」

 

 

私たちはマルに持ち上げられ塔を登り、頂上の展望台のような円盤の上で元凶と対峙する。

 

視界の端にミレニアムサイエンススクールの校舎─というかビル群─が見える。

 

そして、そこへ向かうロボットの軍勢も。

 

「チッ……時間がねぇ」

「AL-1S……だったか? 何が目的でこんな塔を?」

「回答。目的は『アトラ・ハシースの箱舟』生成。この塔はそのための演算器である」

「『アトラ・ハシースの箱舟』とは何だ?」

「回答。プロトコル:ATRAHASISを実行するための多次元計算機。プロトコル:ATRAHASISは物質の変換を可能とし、素粒子や量子を超越する」

 

……何言ってるか分からないな。

 

「……お前は何がしたくてそれを実行する?」

「回答。『無名の司祭』は世界のアーカイブ化を当機に命じた。よって、当機はアーカイブ化と新世界の創造を望む」

「おいシュテ」

「分かってる。だが確かめたかった。でも、もう大丈─」

 

─ザザッ……

 

視界が歪み、ノイズが走る。

 

大きく体が傾いたところをマルに支えられる。

 

「ッ……!?」

「どうしっ、お前か!」

「あなた達がここへ乗り込んでくるのは想定済み。よって、脱出シークエンス・自爆シークエンス・演算器生成シークエンスの同時実行を開始します」

「テメェ! 待ちやが─」

 

AL-1Sが目の前から消え、そして、衝撃。

 

音を聞く前に意識が無くなった。

 

 

AL-1Sが言っていたことをコンクリートと鉄骨に埋もれながら整理する。

 

『プロトコル:ATRAHASIS』……『アトラ・ハシースの箱舟』なるものを作るためのプログラム…のようなもの……らしいな。

 

その『アトラ・ハシースの箱舟』で物質を作り替え、さらにそれで世界のアーカイブ化に必要な何かを作る。

 

手間のかかる計画? いや違うな。たったそれだけで世界が破壊されるんだ。破格にも程がある。

 

例えるならカードゲーム、最初に出したモンスターのカードを2回進化させたら勝利が確定するようなもの。しかも進化に条件は無いときた。

 

絶望的だ。

 

世界のアーカイブ化、そして新たな世界の創造。

 

アーカイブ化とはなんだ? いやなんとなくだが意味は分かる。

 

キヴォトスという世界に溢れる神秘と全ての可能性をデジタルデータ─尤も、私たちの使えるデータではないだろうそれ─に変換する事象と考えられる。

 

予測不能な混沌から、全てを管理できる秩序へと。

 

しかし動機がどうにも理解し難い……『無名の司祭』とやらが本当にこのキヴォトスに秩序を作りたいのであれば、何故アレを少女の形にする必要があったのか。

 

私なら簡単には壊されないような完全な兵器として……いや待て。逆か?

 

明らかに異物として分かるものではなく、少女の形である方が有用だと。

 

……それとも、単純に神秘に関わるのは少女でなくてはならないのか? 分からないな。

 

これも世界の謎に関わっているのだろうか。

 

……そもそも、だ。

 

そもそもそのプロトコルは何に対して発動している? 身一つでそんな大層な物をどうやって作るんだ?

 

リソースは? いやオーバーテクノロジーと言われたとしても原理が分からない。

 

物質の変換って何? そんな事が本当に可能だと? 原子ってそんな簡単に変えられるものなのか?

 

明らかに現代の技術じゃない。過去の時代の技術?

 

それならその技術があって滅んだ過去の時代について誰も何も知らないのは何故?

 

何故プログラムを起動するだけで物質を作り替えることが出来る?

 

プログラムで作り替えられるなんてまるでゲームじゃないか。今いるこの世界は現実? それとも全て偽物?

 

知りたい
知らない方がいいんじゃないか?
知りたくない
       

 

この世界(キヴォトス)は……何かおかしい。

 

…………だが、とりあえずは。

 

私を覆うコンクリート片を壊し起き上がる。

 

「……行かなくちゃ、な」

『ここからの速やかな逃走を推奨』

「いたのかマル。逃走はダメだ。そもそもどこに逃げる? アレは間違いなく世界を壊すぞ? 無謀でも賭けるなら今しかない。ここでやらなきゃ明日はないんだ」

『……目的地、ミレニアム廃墟に設定。…装備の提案』

 

マルが瓦礫の中から機械剣を拾い上げた。

 

……そうか。私の銃は……無いな。いや、効くかわからない小銃よりも確実に傷つけられる武器が必要だからこれでいい。

 

「……ありがとう」

『機械に礼は不要』

「そっか。……ネルは?」

『伝言を預かっています。再生します』

 

『シュテ! あとはあたし達C&Cに任せな!』

 

銃声に混じって力強くその声は届いた。

 

『再生終了』

 

……なるほどな。

 

「悪いけど、行くよ」

『了解』

 

というかネル、C&Cを公言するのはアウトなんじゃないか? お前たちはシークレットサービスだろ?

 

 

ビルの影に潜みながら静かに息を整える。

 

無数のロボットが百鬼夜行さながらの進軍をし、それを瓦礫の山の上から見下ろす人型のアンドロイド、『AL-1S』が立っていた。

 

……近い。

 

どこからが聞こえる戦闘音はネルのサブマシンガンと……何だ? 金属同士が何度もぶつかるような音。ハンマーか? C&Cにそんな生徒はいないと思うんだが、新入部員か?

 

─ヴーー…!

 

飛んできたドローンのモノアイと目が合った。

 

「ッ!」

 

振った剣によってドローンが爆ぜた。

 

直後、機関銃を備えたドローンが外敵を攻撃するスズメバチのように集まってきた。

 

マズイ……なら!

 

ビルからかつて車道だった道に走り出す。

 

「マル! グレネード! 一気に走り抜ける!」

『了解』

 

マルの援護射撃で僅かな空いた隙間を縫うように、左腕で顔を防ぎながら走る。

 

防ぎきれない銃弾が頬を掠めるがそれでも前へ進み続ける。止まるつもりはない。

 

ネルみたいに足が早ければよかったとこれほどまでに思ったのは初めて、だよっ!

 

ジャンブしながら剣を振り上げる。

 

狙うのは……頭!

 

脳天に突き刺し、すぐさま抜いて前の敵へ飛び移ると今度は剣で叩きつけるよう体ごと回転しながら斬り、反動で更に前へ進む。

 

「うぅぁあ゛!!」

 

腕が痺れる。

 

少しずつワイシャツが裂け中からの血が滲んできている。

 

顔を守るための左腕は既に赤に染った。

 

飛びながら視界に入ったのは、ネル達が大量の機械を壊して進んでいるところだった。

 

今ならいける! このまま! アイツを壊しに!

 

目の前に突撃してきたドローンを薙ぎ払うように斬る。

 

ネル達が大暴れしているからか、リソースも意識もそちらに割いている。そしてそれが運の尽きだ。

 

背中に向かって跳び、突きを放つ。

 

「──!」

「見誤ったな! 機械!」

 

ズッ……!

 

振り向いたその心臓部分に剣が突き刺さった。

 

「これで、終わ─!?」

「────!」

 

甲高い異音を発しながら私の首を掴んできた。

 

万力のような力で締め付けられ、ミシミシと人体の発するアラートが聞こえてくる。

 

そうだ……! 機械に心臓なんて……! 首…がっ……! コイツ……なんて力…!

 

死ぬ…………!? 死ぬのか私は!?

 

AL-1Sが自身に刺さった刀を抜こうとする。

 

いや、まだだ……! 一人では死なない……!

 

刀を押し込む。

 

火事場の馬鹿力か、さらに深く刀を押し込めた。

 

AL-1Sから火花が散る。

 

まだ─

 

「シュテ! くそッ、邪魔だ!!」

 

「あ……が……!」

「ピ──ヴ─閾エ蜻ス蛯キ───?」

 

ダメだ……これ、以上『自爆機能、起動』は? 待─

 

瞬間、私の目の前で爆発起こった。

 

 

 

ガラガラと崩れていくロボットたちの音と……ドサリ、と何かが倒れる音。

 

シュテ!

「ぁ……」

 

倒れる寸前で抱えられる私の体。

 

「……勝っ、た?」

ああそうだよ! お前は勝ったんだ! だから絶対死ぬんじゃねぇ! 死んだら殺すからな!!?」

「相、変わら、ず……口が、悪いな……」

 

 

 

 

病室に入ってきたネルに声を掛けた。

 

「よっ」

「……お前ぇぇぇ!! お前なぁ!」

「ネル、ここは病院よ。静かにしなさい」

「こッ……! あ゛あ゛……ッ! シュテ、お前心配掛けやがって……!」

「そういうネルも包帯やばいぞ? 焼かれたな?」

「うるせぇ。あたしのことはいーんだよ」

 

さっき起きたばかりだが、そうか……まぁあの力で首を掴まれたんじゃな……。

 

生きているだけ……ん? ギプスとかは無いのか?

 

「少しいいかしら?」

「あっ……」

 

会長さんだ。

 

「ミレニアム自治区内で問題を起こし、多大なる損害を与えてしまったことを謝罪しま「必要ないわ」……何故、ですか?」

 

「むしろ謝罪すべきはこちらだからよ。実は廃墟にアレがある事はとっくに把握していたの」

「なんっ…!? リオお前知ってたのか!?」

「ええ」

「ならなんであたし達に─」

「ネル。一旦最後まで聞こう」

 

舌打ちとため息、そしてネルは椅子に座って聞く姿勢に入った。

 

「助かるわ」

「いえ」

「続きだけど、起動するまでに時間があると楽観視していたこと、そしてそれで怪我を負わせてしまったこと。これらはこちらの責任よ。謝罪するわ。─────さん、ごめんなさい」

 

リオ会長は深く頭を下げた。

 

「そういうことなら、謝罪を受け取ります。頭を上げてください」

「……ありがとう」

「いいのかよ?」

「いやだって私があのAIをスマホに入れてなかったらこうはなってないし」

 

恐らくあの時の選択が間違いだった。

 

モモイのゲーム機に……そういえば。

 

「モモイとミドリは? というか今ミレニアムってどうなってるんだ?」

「2人は無事よ。特に怪我もないわ」

「なら、良かった」

「それでもミレニアム自地区は廃墟近くの一部が物理的に崩壊、そしてサーバは一週間経った今も復旧中よ」

「……一週間経った?」

「シュテ、お前一週間寝たきりだったんだからな?」

 

マジか……!? 夢とか何も見なかった。

 

「寝てる間後処理大変だったんだからな? ……一番はエンジニア部があのアンドロイドをバラした事だけどよ

 

あ、アイツら……。

 

「その一週間で頚椎の複雑骨折は快復。痛みを感じない分、寝たきりで良かったわね」

「複雑か……複雑だ、色々と」

「笑えねぇジョークだなぁオイ」

 

そんな目で見ないでくれ。

 

 

─カランカラン……

 

「店長、一週間ぶり」

「お、英雄様のご帰還だ。体調は?」

「英雄? 何の話だ? 体調は大丈夫だが」

 

火傷も治してもらったし。治療費はミレニアム側が負担してくれた。

 

そして……。

 

「つーか何だその……何だ? 冷蔵庫?」

「ドローンだ」

『マルです。よろしくお願いします』

「おおっ、喋んのか」

 

マルも()してもらえた。

 

まさかあの自爆機能が役に立つとは……明日のエンジニア部へのお礼には美味いお菓子も持っていくか。……このバッキバキのスマホも改造してもらおうかな。

 

ガラガラの店内でお気に入りの席に座る。

 

「それ冷蔵庫として使える?」

「いや一応『捜査部』の物だからな? 店の電気代は浮かないぞ?」

「……え、冷蔵庫としては使えんの?」

 

うん。

 

「で、英雄って?」

「露骨に話題を……まぁいいか。いや何、噂になってんだよ。『ミレニアムの危機を救った英雄、シュテ』ってな」

「なんであだ名(そっち)で広まってるんだ……」

「そりゃみんな本名知らねーし。あとプライバシー」

「……」

 

リテラシーが高いのはいい事……だが、それ私の学園の生徒ならすぐに私って分かるんだが……!

 

「言っておくが店長、私の口から今回の事は話せないぞ? リオ会長とそういう取り決めになったんだ」

「そりゃ残念。色々話してみたかったんだがなぁ。特にアンドロイドってやつについて。いやぁ、ロボットの軍勢を操れるのに加えてミレニアムのサーバー乗っ取れるなんて怖い怖い!」

 

店長は大袈裟に自分の肩を抱いた。

 

……いや大袈裟じゃないかもな。実際ネル達もかなり怪我を負ったらしいし。一般的な生徒ならすぐに死んでしまうかもしれない。あのレーザーの銃は脅威でしかないからな。

 

「ま、───がちゃんと殺してくれたお陰でこの世界は変わらずだ。良かった良かった」

「こ……!? いや、私は……私、は」

 

アレは生徒そっくりのアンドロイドであって生物では……。

 

ベッタリと血で汚れた自分の手が目に入る。

 

「ッ!?」

 

違う! 幻覚だ! その証拠に今は普通の手だ。……でも。

 

「ん? あ、言い間違えたわ。悪い悪い。『壊した』ね。壊した」

 

アンドロイドと人間の違いは何だ? 少なくともAL-1Sの見た目は髪が長いだけの普通の少女だった。

 

人間であることの条件は?

 

昔どこかで読んだことがある。人間の心には、物事を学習する知能・自己を認識する力・感情や思考する意識、その3つがあると。

 

知能はあった。明確に敵を区別し銃の扱いも学習していた。

 

自己認識も出来ていた。自身をAL-1Sと名乗ったし目的も理解していた。

 

既に3分の2は人間……なら、意識は? AIに意識はないとされるが、アンドロイドは?

 

『The proof is endless』……無いことの証明、悪魔の証明は終わらない。もし、意識があるのならあの少女は人間と何も─

 

─カランカラン……

 

「「シュテ先輩!」」

「ッ、モモイにミドリ? なんでここに……」

 

昨日と……一週間前と変わらない服装で店にやって来た。

 

後ろに赤い髪の誰かを連れて。

 

「君は?」

「は、はい……! 花岡ユズ、です……! えっと……その」

頑張って!

大丈夫だよ、シュテ先輩優しいから

 

なんか聞こえる。

 

「こっ、これ! みんなで作ったゲームです……! い、一緒にプレイしてくれませんか……!?」

 

そう言って電源の入った携帯用ゲーム機を差し出してきた。

 

「『テイルズ・サガ・クロニクル2』……! 出来たんだな、最高のゲーム。なるほどドット絵か。面白そうだな。わかった、一緒にプレイしよう」

「あ、ありがとうございます……!」

 

 

その後すぐ上の私の部屋でゲームをすることになったのだが。

 

『GAME OVER』

 

…………。

 

フフッ、楽しいなコレ

「「「!!」」」

 

そりゃ、全部が全部完璧ってわけじゃない。しかし、純粋にゲームを楽しんでいたあの頃に戻った気分になれるというか……ターン制のRPGはやっぱり楽しいな。

 

「凄いな。これをたった3人、しかも一週間で?」

「フリーのアセットとか素材は使いましたけどね」

「でもストーリーはオリジナルだろ? ところどころでクスッと笑っちゃうようなのもあってすごくて楽しいゲームだ」

「あ、ありがとうございます……!」

「でしょでしょ! もっと褒めてくれてもいいんだよ!」

「バグと誤字脱字を修正すればもっと良くなると思うぞ。テストプレイだったか? ちゃんとやったのか?」

「げっ! そっ、それはぁ〜……!」

 

その後もクリアまでぶっ続けでゲームをプレイした。

 

その結果、今回の一連の報告書が書き終わったのは深夜2時になった。

 

流石に遊びすぎたか……。

 

 

 

 

 

 

─カランカラン……

 

喫茶店の扉が歓迎を知らせる。

 

「いらっしゃいま、せ。…こちらへどうぞ」

「ん……」

 

片目を覆う包帯と汚れて傷んだ制服。そして私を見るあの目。

 

普通の客じゃなくて依頼主になりそうだ。

 

「店長」

「元から俺一人で十分さ」

「ありがとう」

 

店の奥にあるパーテーションで仕切られ、周りから見えない席へ案内する。

 

「どうぞ」

「ん、ありがとう…」

 

覇気の無い声、押したら倒れそうなほどに不安定な足取り。

 

素人の私でもわかる程度にはメンタルをやられている。

 

棚から依頼内容を記録するための用紙とペンを取り、席に座る。

 

「──学園『捜査部』へようこそ。私は部長の─────です。あなたの名前は?」

「私は、砂狼シロコ……」

「依頼ですね。何を探しますか?」

「行方不明の……後輩(セリカ)を」

「……本人の特徴を教えていただけますか? 写真などでも構いませんよ」

 

そう言うと、シロコは鞄からボロボロの集合写真を出した。

 

「この、黒い猫耳の生えてるのがセリカ」

 

写真は少し血で汚れていた。

 

……大変な依頼になりそうだな。

 

気合い入れていこう。

 

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