始まりの日
この世界には、剣士がいた。
魔術師がいた。
そして、人々は口を揃えて言う。
「剣と魔法は別の道だ」と。
だが、その常識を覆す男が現れるのは、まだ先の話。
その男の名は――レオン。
⸻
フィットア領から離れた辺境の小さな村。
そこが、レオンの故郷だった。
「父さん! もう一回!」
七歳のレオンは木剣を握り、父へ斬りかかる。
「まだ甘い!」
軽く受け流され、尻もちをつく。
「痛っ……」
父は笑いながら手を差し伸べた。
「剣は力任せに振るうものじゃない。相手をよく見ろ。」
「うん!」
家へ戻ると、母が笑顔で迎える。
「レオン、おかえり。今日は魔術の練習もするわよ。」
「やる!」
母の前に立ち、小さく息を吸う。
「ウォーターボール!」
拳ほどの水球が浮かび上がる。
「上出来。」
頭を撫でられ、レオンは照れくさそうに笑った。
父から剣を。
母から魔術を。
それがレオンの日常だった。
そして、その日常が永遠に続くと信じていた。
⸻
夜。
村の外から鐘の音が鳴り響く。
ガァン! ガァン! ガァン!
「魔物だ!」
誰かの叫び声が響いた。
村人たちは慌てて武器を手に取る。
父は剣を抜き、母は杖を握った。
「レオン。」
父の声は、いつになく真剣だった。
「家から出るな。」
「でも……!」
「約束だ。」
その瞬間、外から轟音が響く。
ドォン!!
家が揺れた。
窓の外では、巨大な魔物が村へ雪崩れ込んでいた。
「そんな……。」
父はレオンの肩に手を置く。
「必ず、生きろ。」
母はレオンを強く抱きしめた。
「剣も魔法も……あなたの好きなように使いなさい。」
「母さん?」
「あなたならきっと、大丈夫。」
二人は微笑み、家を飛び出していった。
「父さん!! 母さん!!」
レオンも追いかけようとする。
だが、扉は外から閉じられた。
「開けて!!」
何度叩いても開かない。
外では剣戟の音と爆発音が響き渡る。
やがて、その音も一つ、また一つと消えていった。
静寂が訪れる。
恐る恐る扉を押すと、今度は簡単に開いた。
村は燃えていた。
倒れた家々。
横たわる村人たち。
そして――。
父と母の姿も、その中にあった。
「……いやだ。」
震える足で駆け寄る。
返事はない。
温もりも、もう残っていなかった。
レオンはその場に膝をつく。
涙が止まらない。
それでも、父の最後の言葉が頭に響く。
『生きろ。』
母の最後の言葉も。
『剣も魔法も、あなたの好きなように使いなさい。』
レオンは涙をぬぐい、静かに立ち上がった。
木剣を拾う。
そして、母の杖も背負う。
七歳の少年は、この日すべてを失った。
だが同時に、この日。
後に世界中へ名を轟かせる”魔剣士レオン”の物語が、静かに始まった。