さっさと原作突入させたいんであと少しで原作突入させるはず!タブン
オルステッドと離別してから半年――その歳月は、レオンから迷いという感情を静かに削ぎ落としていた。あの男は生きている。根拠などない。
ただ、それ以外の結末を想像すること自体が愚かしく思えた。ならば自分がすべきことは一つしかない。再び相まみえたその時、ほんの一太刀でも、あの絶対的な背中へ近付いていると証明すること。
その執念にも似た一念だけが、少年の歩みを止めなかった。
夜明け前には剣を振る。だが、振る回数に意味はない。
一振りごとに踏み込みを半歩変え、重心を一寸ずらし、刃筋を修正する。同じ太刀は二度と振らない。
敵は毎回違う。ならば剣も毎回違わなければならない。陽が昇れば実戦へ赴き、日が沈めば焚き火の前で魔術式を書き換える。上級魔術の冗長な詠唱を削り、魔力の循環経路を組み替え、炎へ風を、風へ土を重ね、一つの術式を幾通りにも変質させる。
暴発して腕を焼いた夜もあった。魔力が逆流し、丸一日まともに立てなかった日もある。それでもレオンは失敗を嘆かなかった。失敗とは、次に同じ過ちを犯さないための情報に過ぎない。その思考だけは、オルステッドと旅をした四年間で骨の髄まで刻み込まれていた。
旅の果てに辿り着いたのは、鉱脈で栄える山間の町だった。昼なお薄暗い路地には煤の匂いが立ち込め、鍛冶場から響く鎚音が絶え間なく山へ反響している。レオンは宿を取るより先に冒険者ギルドへ向かった。
依頼書へ目を通す。薬草採取、護衛、採掘……視線は一枚の紙で止まった。
『渓谷一帯に棲み着いたアースオーガ二体の討伐』
Bランク。
紙の端は何度も触れられた跡がある。それでも誰も剥がしていない。
「……坊主、その依頼はやめておけ」
背後から低く響く声だった。
振り返ると、歴戦の冒険者らしい男が腕を組み、こちらを見下ろしている。鎧は幾度も補修され、右頬には古い裂傷が走っていた。
「俺達も三組で挑んだ。返り討ちだ」
レオンは依頼書から目を離さない。
「アースオーガは腕力だけの魔物じゃねぇ。岩壁を利用して獲物を追い込み、逃げ道を潰す。下手な人間より余程狡猾だ」
沈黙が流れる。
やがてレオンは依頼書を静かに剥がした。
「話は聞きました」
男の眉がぴくりと動く。
「それでも受けるのか」
「だから受けます」
短い返答だった。しかしその声音には、若さゆえの蛮勇も虚勢も混じっていない。ただ、勝算を積み重ねた者だけが持つ静かな確信が宿っていた。
男はしばらくレオンを見つめ、やがて苦笑した。
「……なるほど。止めても無駄らしい」
その言葉だけを残し、酒場の方へ歩き去る。
翌朝、レオンは単身で渓谷へ入った。
谷間を吹き抜ける風は冷たい。しかし、それ以上に不自然だったのは静寂だ。鳥の鳴き声すら聞こえない。生き物が本能で避ける縄張り――そう判断するには十分だった。
歩みを緩める。
視線は足跡ではなく、岩壁へ向く。
新しい傷。
砕けた岩。
崩落の跡。
魔物は力任せに暴れたのではない。意図的に地形を変えている。
「……やはり頭が回る」
独り言が風へ溶けた、その刹那だった。
轟音。
頭上の岩壁が崩れ落ちる。
レオンは咄嗟に後退しない。
前へ踏み込む。
落石の隙間へ身体を滑り込ませ、剣を一閃。
刃は岩を断つためではない。
落下する岩の軌道を僅かに逸らす。
砕けた岩塊同士が激突し、落石の流れが乱れた。
その僅かな空白を縫うように駆け抜ける。
直後、岩陰から巨体が姿を現した。
全長三メートルを超えるアースオーガ。
灰褐色の筋肉を鎧のような岩殻が覆い、その眼だけが獰猛な知性を宿している。
一体ではない。
もう一体。
左右から挟撃。
レオンは剣を中段へ構え、微かに息を吐いた。
「来い」
挑発ではない。
確認だった。
先に動いたのは左の個体。
棍棒のような腕が空気を裂きながら振り下ろされる。
レオンは受けない。
刃を滑らせる。
腕へ沿わせるように剣を流し、その勢いを利用して懐へ潜り込む。
一閃。
狙いは首ではない。
脇腹でもない。
肘関節。
金属音にも似た衝撃が響き、岩殻へ一本の細い亀裂が走る。
浅い。
だが十分だった。
オーガの腕が一瞬だけ止まる。
その一瞬を見逃さず、レオンは右足で地を蹴った。
追撃ではない。
距離を取る。
背後からもう一体の拳が通り過ぎ、先程まで立っていた地面を粉砕した。
砂塵が舞う。
視界が閉ざされる。
レオンは目を閉じない。
耳だけで風を読む。
拳が風を裂く音。
足が岩を踏み砕く音。
二体の位置が脳裏で組み上がる。
「――遍く大気を巡る烈風よ、紅蓮を抱き、我が刃へ収斂せよ」
詠唱を紡ぎながら剣は止まらない。
砂塵の中で刃が幾度も閃く。
一撃目は牽制。
二撃目は誘導。
三撃目で二体の位置関係を入れ替える。
レオンは魔術で勝つつもりはなかった。
勝敗を決めるのは、最後まで剣だ。
砂塵の中で視界はほとんど利かない。それでもレオンの剣は止まらなかった。視るべきものは目の前ではない。呼吸の乱れ、岩を踏み砕く足音、風圧の変化、その全てが敵の位置を物語っている。
左から来る――そう判断した次の瞬間、レオンは半歩だけ踏み込みを浅くした。
轟ッ――。
拳が鼻先を掠める。
避けたのではない。避けさせた。
踏み込みを半歩ずらしたことで、アースオーガは獲物を仕留めるため無意識に一歩深く踏み込んだ。その一歩で重心は完全に前へ流れる。
(今だ)
剣閃が奔る。
袈裟斬り。
横薙ぎ。
返す刃。
三閃は全て急所を狙わない。
肩、肘、膝。
筋肉と関節だけを削る。
巨体が僅かによろめく。
その瞬間、背後からもう一体が咆哮を上げた。
岩壁を抉り取るほどの勢いで突進してくる。
レオンは振り返らない。
目の前の個体へさらに一歩踏み込む。
相手は勝機と見たのだろう。大きく腕を振り上げる。
「遅い」
低く漏れた一言。
レオンは身体を沈め、脇を抜けるようにすり抜ける。
二体の進路が一直線に重なった。
直後、轟音。
互いの拳が激突する。
骨が軋み、岩殻が砕け散る。
砂煙が爆ぜる。
狙い通りだった。
初めから二体を斬る気はない。
敵の力で敵を削る。
それが最も効率的だった。
体勢を崩した一体へ肉薄する。
剣を逆手へ持ち替え、柄頭を鳩尾へ叩き込む。
鈍い衝撃。
巨体が仰け反る。
その一瞬だけ胸部の岩殻が開いた。
レオンは左手を静かに掲げる。
「赫灼たる焔よ、奔流たる烈風を従え、その威を一点へ収斂せよ」
詠唱と同時に炎が生まれる。
しかし放たない。
風で包み込む。
圧縮する。
さらに圧縮する。
暴れ狂う炎は暴風によって刃の表面へ押し込められ、紅蓮の輝きは次第に白熱へ変わっていく。
周囲の空気が揺らぐ。
地面の小石が熱で弾けた。
アースオーガが本能的に危険を悟り、後退しようとする。
だが遅い。
レオンは地を蹴った。
風魔術は使わない。
己の脚力だけで踏み込み、その最後の一瞬だけ風で加速を上乗せする。
魔術は剣を補佐するもの。
剣を代替するものではない。
一閃。
横薙ぎ。
ただそれだけ。
しかし白熱した刃は岩殻を紙のように断ち切り、肩口から胸部までを深々と斬り裂いた。
鮮血が噴き上がる。
巨体は二歩、三歩と後退し、そのまま膝をついた。
まだ終わらない。
残る一体は仲間が倒れたことなど意にも介さず、狂気の形相で突進してくる。
今度は真正面。
力比べを望んでいる。
レオンは口元を僅かに緩めた。
「そう来るか」
剣を下段へ構える。
呼吸は一度だけ。
鼓動が静まる。
距離が五歩。
四歩。
三歩。
オーガが拳を振り上げた瞬間、レオンは真正面から踏み込んだ。
避けない。
受けない。
拳が振り下ろされるより速く、懐へ潜る。
相手の腕の内側へ身体を滑り込ませ、刃を僅かに寝かせる。
剣術は斬る技術ではない。
刃を最も通る角度へ導く技術だ。
腰を切る。
肩を返す。
手首を僅かに捻る。
その全てが噛み合った瞬間、剣は吸い込まれるように首筋へ滑り込んだ。
ズ――ン、と重い音が響く。
一拍遅れて巨体の首が傾く。
血煙が舞い、巨大な身体が音を立てて崩れ落ちた。
静寂。
吹き抜ける風だけが渓谷を流れていく。
レオンは剣を払うと静かに納刀した。
「……まだ甘い」
小さく呟く。
最後の踏み込みは半寸深かった。
あれでは達人級の剣士には読まれる。
詠唱もあと二節削れる。
魔力の循環にも無駄が残っていた。
勝ったことより、課題の方が多く目につく。
それでいい。
完成した剣士は成長しない。
未完成だからこそ強くなれる。
町へ戻ると、討伐を聞き付けた冒険者達が入口へ集まっていた。
「おい……本当に一人で仕留めたのか」
「アースオーガ二体だぞ……」
誰も信じられないという表情だった。
受付の女性も魔石を確認する手が震えている。
「間違いありません……討伐完了です」
レオンは報酬だけを受け取る。
歓声にも賞賛にも興味はない。
必要なのは金だけだった。
武具の整備代、旅の食料、魔術書を買うための資金。
強くなるために必要だから稼ぐ。
それ以上でも、それ以下でもない。
数日後、再び町を後にしたレオンは北方へ続く街道を歩いていた。山岳地帯を抜ければ深い原生林、その先には幾つもの国家が連なる未踏の街道が続く。歩きながら剣を抜き、何もない空へ一太刀を放つ。
風が裂ける。
以前よりも速い。
以前よりも鋭い。
それでもレオンは首を横へ振った。
「まだ届かない」
脳裏へ浮かぶのは白髪の男の背中。
未だ追い付ける気配すらない。
だから歩みを止める理由もなかった。
____
14歳となったレオンは、既に一つの町へ留まる冒険者ではなくなっていた
王国北部でワイバーンを討てば、数日後には西部で盗賊団を壊滅させる 南では魔物の群れを一人で殲滅し、東では護衛依頼を成功させる
依頼を終えれば報酬だけ受け取り、名誉も歓声も求めず町を去る
その背中だけが、人々の記憶へ残っていった
いつしか冒険者達は彼をこう呼ぶようになる
「銀灰の剣士」
名より先に、その二つ名だけが各地へ広まっていった
ある日、レオンは王都近郊にある冒険者ギルド本部を訪れる
扉を開いた瞬間、酒場の喧騒が止まった
「……あいつか」
「銀灰の剣士だ」
「本当にあんな若いのかよ」
視線が一斉に集まる
だがレオンは気に留めることなく受付へ歩く
受付嬢は小さく息を呑み、すぐに姿勢を正した
「レオン様ですね」
「はい」
「ギルドマスターがお待ちです」
応接室へ案内されると、そこにはギルドマスターだけではなく、本部幹部や各支部の責任者まで揃っていた
レオンは静かに一礼する
「失礼します」
白髭のギルドマスターは一枚の書類を机へ置き、ゆっくり口を開いた
「レオン」
「お前のこれまでの実績を全て確認した」
「Bランク依頼成功率百パーセント」
「Aランク依頼成功率百パーセント」
「討伐、護衛、救助、その全てにおいて非の打ち所がない」
部屋が静まり返る
ギルドマスターは一枚の金色のプレートを取り出した
「本日付で、お前をAランク冒険者へ昇格とする」
レオンは一瞬だけ目を細めた
「……ありがとうございます」
「だが忘れるな」
ギルドマスターの声に重みが宿る
「Aランクとは強さだけではない」
「一国の命運を左右する依頼すら任される立場だ」
「その覚悟を持て」
「承知しました」
レオンは静かにプレートを受け取る
部屋を出ると、待っていた冒険者達の視線が一斉に集まった
「本当だったのか」
「十四歳でAランク……」
「冗談じゃねぇぞ」
誰も笑わない
嫉妬より先に畏怖が勝っていた
その日のうちに本部から各国のギルドへ正式な通達が送られる
“十四歳のAランク冒険者 レオン”
その名は数日のうちに大陸中へ広まり始めた
そして、それから五日後――
まだ朝日も昇り切らない時間
ギルド本部へ一人の伝令が飛び込んできた
「き、緊急伝令です!」
息を切らしながら机へ一通の封書を置く
部屋にいた幹部達の表情が変わる
封には王国騎士団の紋章が刻まれていた
ギルドマスターは素早く封を切り、中身へ目を通す
その顔から笑みが消える
「……災害級指定か」
一人の幹部が息を呑む
「Sランクは?」
「全員遠征中だ」
重い沈黙が流れる
やがてギルドマスターは立ち上がり、低い声で言った
「他に間に合う者はいない」
「依頼は一名を指名している」
幹部達が互いに顔を見合わせる
次の瞬間、ギルドマスターは迷いなく告げた
「Aランク冒険者――レオンを招集しろ」
王国が名指しで依頼した初めての任務
その知らせを受けたレオンは静かに剣へ手を添え、ゆっくりと立ち上がった
王国騎士団が用意した馬車で半日
レオンが辿り着いたのは王国北方の渓谷だった
辺りには無数の倒木と抉れた岩壁 地面には巨大な爪痕が幾重にも刻まれ、戦いの凄惨さを物語っている
騎士団長が地図を広げながら口を開く
「相手は《グランドキマイラ》」
「既にAランク冒険者三組が敗れ、騎士団も百名以上の負傷者を出している」
「……正直に言おう」
団長はレオンを真っ直ぐ見据えた
「お前が最後の希望だ」
レオンは静かに剣へ手を添える
「分かりました」
その一言だけ残し、森へ足を踏み入れた
数十分後、空気が変わる
魔力が濃い
木々は薙ぎ倒され、獣の咆哮が谷全体を震わせる
直後、巨大な影が木々を突き破った
獅子の胴体 山羊の角 蛇の尾
災害級魔物《グランドキマイラ》
互いに動かない
レオンは剣を抜き、全身へ魔力を巡らせる
次の瞬間、キマイラが地面を砕きながら突進した
速い
だが、見える
レオンは半歩だけ踏み込み、牙を紙一重で躱すと、その勢いを利用して首元へ斬り上げた
火花が散る
硬い
鱗が刃を弾く
すぐさま距離を取り、左手へ魔力を集める
疾風が渓谷を駆け抜け、砂塵を巻き上げる
視界を奪われたキマイラは咆哮しながら炎を吐く
だが、それこそ狙いだった
炎が風へ煽られ、一瞬だけ軌道が逸れる
その隙へレオンは飛び込んだ
剣へ雷を纏わせる
雷鳴と共に振り下ろされた一撃が、首元の鱗を砕いた
キマイラが苦悶の叫びを上げる
追撃
一閃
二閃
三閃
剣戟が嵐のように続き、傷口だけを正確に斬り裂いていく
やがて蛇の尾が襲い掛かる
レオンは跳ぶ
空中で身体を捻りながら右手を掲げた
圧縮した炎が尾へ直撃し、轟音と共に吹き飛ばす
体勢を崩したキマイラへ最後の踏み込み
全魔力を剣へ収束する
「終わりだ」
静かな声だった
次の瞬間、白銀の斬撃が一直線に走る
首筋を深々と断ち切られたキマイラは数歩よろめき、地鳴りを響かせながら崩れ落ちた
長い静寂が訪れる
レオンは剣を納め、大きく息を吐いた
「……まだ未熟だ」
勝利より先に反省が浮かぶ
魔力の消費
踏み込みの甘さ
改善点はいくらでもあった
その日の夕暮れ、王都へ帰還したレオンを待っていたのは歓声だった
「帰ってきたぞ!」
「銀灰の剣士だ!」
「災害級を一人で討伐したらしい!」
騎士達も冒険者達も惜しみない拍手を送る
ギルドマスターは静かに笑みを浮かべた
「今日から、お前の名を知らぬ冒険者はいないだろう」
レオンは照れることも誇ることもなく、小さく頭を下げる
その日を境に、《銀灰の剣士》《最年少Aランク》《災害級討伐者》という名は王国中、そして他国の冒険者達へも広まっていった
14歳
その名は、もはや一人の少年ではなく、未来を担う天才剣士として語られ始めていた
正直主人公の設定全部忘れてもうた
もう全部感で書いてるから不自然なとこあるかもだけど許してください
今後の展開
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一気に歳をとって成長する
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修行
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魔法を極める
-
剣術を極める