それから一年――。
七歳だったレオンは八歳になっていた。
季節は四度巡り、少年は森の中で生きる術を身につけた。
朝日が木々の隙間から差し込み、葉に残る朝露が宝石のように輝いている。
レオンは大木の太い枝の上でゆっくりと目を開けた。
ここが今の寝床だ。
地面で眠れば夜行性の魔物に襲われる危険がある。だから丈夫な枝を選び、縄で簡単な寝床を作る。それも一年かけて覚えた知恵だった。
大きく息を吸い込む。
冷たい朝の空気が肺を満たした。
「……今日も生きてるな。」
そう呟くと、レオンは迷いなく枝から飛び降りた。
ドンッ。
着地と同時に膝を柔らかく使い、衝撃を逃がす。一年前なら転げ回っていた高さも、今では何ともない。
腰には一本の鉄剣。
村を出た頃に握っていた木剣ではない。旅の途中で見つけた朽ちた剣を何度も研ぎ、手入れを重ね、ようやく実戦で使えるまでにしたものだ。
背中には母の杖。
革袋の中には干し肉、水筒、火打石、そして何度も読み返した魔術の入門書が入っている。
表紙は擦り切れ、角は丸くなっていた。
それでもレオンにとっては、世界で一番大切な本だった。
森を歩き始めてしばらくすると、茂みが大きく揺れた。
ガサッ!
「ギャアアアッ!」
二匹のゴブリンが飛び出してくる。
一匹は棍棒を振り上げて真正面から突撃し、もう一匹は横へ回り込みながら距離を詰めていた。
レオンは慌てない。
静かに剣を抜く。
「……遅い。」
ゴブリンの棍棒が振り下ろされる。
レオンは半歩だけ身体をずらした。
ブンッ、と風を切る音だけが耳元を通り過ぎる。
空振りしたゴブリンの体勢が崩れた。
「そこだ。」
ヒュッ――。
一筋の銀閃。
ゴブリンは何が起きたのか理解する間もなく、その場へ崩れ落ちた。
だが、もう一匹が背後から飛びかかる。
「ギャッ!」
レオンは振り返らない。
左手だけを後ろへ向け、静かに魔力を流した。
「ウォーターボール。」
詠唱はない。
次の瞬間、三つの水球が一瞬で生み出される。
バシュッ!
三発の水球が一直線に飛び、ゴブリンの顔面へ炸裂した。
「ギャァッ!?」
視界を奪われたゴブリンがよろめく。
レオンはその一瞬を逃さない。
地面を蹴り、一気に間合いへ踏み込む。
ザシュッ!
剣が横薙ぎに走り、ゴブリンは力なく倒れ込んだ。
静寂が戻る。
レオンは剣についた血を払い、魔石だけを回収して革袋へしまう。
「まだまだだな。」
剣術も魔術も、一年前とは比べものにならないほど成長した。
初級魔術なら無詠唱で発動できる。
しかも剣を振りながら魔術を放つことも、少しずつ形になり始めていた。
だが、それだけだ。
中級魔術はまだ詠唱が必要で、戦闘中に使うには時間がかかる。
剣も父の背中には遠く及ばない。
「もっと強くならないと。」
父と母との約束を果たすため。
そして、自分だけの剣を見つけるために。
レオンは再び森の奥へ歩き出した。
だが、その日はいつもと違っていた。
歩き始めて十分ほど経った頃、ふと違和感を覚える。
鳥のさえずりが聞こえない。
虫の羽音も止んでいる。
森全体が、何かを恐れるように沈黙していた。
「……なんだ?」
レオンは立ち止まり、周囲へ視線を巡らせる。
その瞬間だった。
ズン――。
足元がわずかに揺れた。
地震。
そう思った直後、さらに大きな衝撃が森を震わせる。
ズンッ!!
木々の葉が激しく揺れ、小石が跳ね上がる。
レオンは反射的に近くの大木へ飛び乗り、高い枝へ身を隠した。
耳を澄ます。
ズン。
ズン。
ズン。
何かが近づいてくる。
そして――。
バキィィィン!!
一本の大木が根元から吹き飛んだ。
続いて二本、三本と、何十年も立ち続けてきた巨木が紙細工のようになぎ倒されていく。
木々の向こうから姿を現した巨大な影を見た瞬間、レオンの呼吸が止まった。
「……ドラゴン。」
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もちろん。ここは「レオンが初めて本気で剣と魔術を同時に使う」見せ場にしつつ、ドラゴンの圧倒的な強さと、最後にオルステッドが現れる流れで書いてみた。
巨大な影が姿を現した瞬間、レオンの全身から汗が噴き出した。
漆黒の鱗。
黄金に輝く双眸。
息を吐くだけで周囲の木々が大きく揺れる。
「……ドラゴン。」
父から何度も聞かされた存在。
森の頂点。
人では決して敵わない災厄。
ドラゴンはゆっくりと首を持ち上げると、大きく鼻を鳴らした。
「グォォォ……」
風向きが変わる。
レオンの匂いが流れた。
黄金の瞳が、まっすぐレオンを捉える。
「――ッ!」
次の瞬間、ドラゴンが地面を蹴った。
ズドォン!!
爆発したような轟音とともに巨体が迫る。
「速い!」
レオンは枝を蹴り、横へ飛ぶ。
直後、さっきまでいた大木がドラゴンの爪で真っ二つになった。
木片が雨のように降り注ぐ。
「こんなの……!」
息をつく暇もない。
ドラゴンは振り向きざまに尾を薙ぎ払った。
ブォンッ!!
空気が裂ける。
レオンは咄嗟に剣を構えた。
ガァァン!!
「ぐっ!」
衝撃で十数メートル吹き飛ばされ、地面を何度も転がる。
腕が痺れる。
骨が軋む。
それでも剣は離さなかった。
「まだ……!」
立ち上がる。
逃げるという考えは、もう頭になかった。
勝てない。
それは分かっている。
それでも、生きるためには戦うしかない。
レオンは剣を構え、左手へ魔力を集中させた。
「ウォーターボール!」
無詠唱で三つの水球が生まれる。
そのまま剣を振る。
水球が斬撃と同時に放たれ、ドラゴンの顔面へ襲いかかる。
バシャァッ!!
しかし、水球は鱗へ当たる前に霧のように弾けた。
まるで岩へ水をかけたようだった。
「なら……!」
今度は右へ駆ける。
「ウィンド!」
風魔術を足へ纏わせ、一気に加速する。
地面を蹴るたび、身体が軽くなる。
一瞬でドラゴンの懐へ潜り込んだ。
「はあああっ!」
全身の力を込めて剣を振り抜く。
ギィィィン!!
甲高い金属音が森へ響いた。
鱗に細い傷が一本走る。
だが、それだけだった。
ドラゴンは痛がる様子もなく、ゆっくりとレオンを見下ろす。
「そんな……。」
直後。
巨大な前脚が振り下ろされた。
「――ッ!」
避けきれない。
死を覚悟した、その瞬間だった。
「――そこまでだ。」
低く、それでいてよく通る声が響く。
ドォォォン!!
凄まじい衝撃が森を駆け抜ける。
レオンの目の前からドラゴンの巨体が弾き飛ばされ、何本もの大木をなぎ倒しながら地面を滑っていく。
「え……?」
土煙の向こうに、一人の男が立っていた。
白い髪。
鋭い金色の瞳。
背中に背負われた剣からは、言葉では表せないほどの圧力が漂っている。
男はドラゴンへ視線を向けたまま、一歩だけ前へ出た。
その一歩だけで空気が変わる。
ドラゴンが初めて警戒するように低く唸った。
「グルルル……」
男は無言のまま剣を抜く。
次の瞬間、レオンの目でも追えない速度で姿が消えた。
キィィン――。
澄んだ音が一つ鳴る。
気づけば男は元の場所へ戻っていた。
数秒遅れて、ドラゴンの胸元から一本の赤い線が走る。
「グォオオオオオオッ!!」
ドラゴンは苦しげな咆哮を上げると、大きく翼を広げ、そのまま空高く飛び去っていった。
森に静寂が戻る。
男は剣を納め、ゆっくりとレオンへ視線を向けた。
「……八歳か。」
その一言だけで、まるで心の奥まで見透かされたような感覚がした。
「その歳で剣と魔術を同時に扱うとは珍しい。」
レオンは息を整えながら答える。
「……レオンです。」
男はわずかに目を細めた。
「レオンか。」
短く呟くと、踵を返す。
「ま、待って!」
思わず呼び止める。
男は足を止めたが、振り返らない。
「あなたは……誰なんですか?」
数秒の沈黙。
やがて男は静かに口を開く。
「――オルステッド。」
その名だけを残し、男の姿は一瞬で森の奥へ消えた。
レオンはその場に立ち尽くしたまま、握り締めた剣を見る。
ドラゴンには届かなかった。
だが、初めて剣と魔術を完全に噛み合わせて戦えた。
そして同時に知った。
この世界には、自分では想像もできないほど強い者が存在するということを。
今後の展開めちゃくちゃ迷う……
何か面白いネタがあればください!
今後の展開
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一気に歳をとって成長する
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修行
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魔法を極める
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剣術を極める