FSS─翡翠の雷光─ 作:アマテラス、アンタちょっとガメツイよ!
バランシェ公に先導され、今度は迷うことなく城内を進み案内されたのは応接間。
使用人のお髭が素敵な執事さんに紅茶を出され、バランシェ公と向かい合うようにふかふかのソファへと座ります。
師匠はワタクシの隣に座り、もう片方にはレイラ。バランシェ公の隣にはアトロポス様が座り、ポラリスはボディの構造的に椅子の大きさが合わないので両脚を収納してガチのドラム缶状態になって待機ですわ。
「君のことはモラードからよく聞いている。才能溢れる寵児とそれ以上に問題児でもあるとな」
「あらやだ。ワタクシ、バランシェ公から1億万年に一人の逸材の超天才美少女イリスちゃんって褒められましたわ」
「すげーな、ここまで自分に都合のいい捉え方を出来るのは確かに逸材だわ。流石はイーちゃんだ」
「わぁ、マスター後半なかったことにしてますぅ」
「俺知ッテル。自意識カジョーッテヤツ」
「絶対お父様そこまで言ってないよ」
へへへ、よせやい照れますわ。そんな褒めないでくださいまし!
「…………こんなのがあの胚から生まれたエトラムルの教育をやってるのかぁ」
どうしましたバランシェ公、そんな自分の育てた娘がプー太郎の彼氏を連れてきたような父親みたいな顔をして?
ただでさえ怖い顔が余計怖くなってますわよ〜。
「この顔は生まれつきだ、放っておけ。……本当に怖いのか? さっき、君のファティマも怖いと言ってたが。本当に?」
「はいぃ、ちょっとレイラは直視するのが怖いですぅ」
「実際暗イトコロデ見タラビビル」
「そうか。…………そうなのか、怖いのか……私は」
心做しかバランシェ公の肩が下がりましたわね。どうやらうちの子たちのストレートすぎる物言いに傷ついたらしいですわ。
アトロポス様はそんな父親の背中をポンと叩き、慰めてますわね。師匠は愉快そうに笑ってバランシェ公が睨みましたわ〜。
「んんっ、私の顔の話はいいだろう。……イリス嬢、君はアトロポスにオージェの修理を頼まれたらしいな」
「ええ、はい。アトロポス様にはあの騎体のことを頼まれましたわ」
「ふむ、不調の原因は分かっているのか?」
「ええ、はい。あの騎体、オージェ・アルスキュラは既存のMHと違いイレーザーエンジン2基を搭載している特異な設計ですわよね?」
「うむ、その通りだ。元々は私の友人がある人物のために用意したものなのだが、当人が拒否し、持ってきた本人も放ったらかしにしてたヤツではあるが」
「その話は気になりますが今は置いておきましょう。こほん、話は戻しますが元々MHに搭載されてるイレーザーエンジンは単体でも十分すぎるエネルギーを生み出します。
ですが、オージェには2基もエンジンが積まれており、この2つのエンジンを同調させてるわけなんですが……どうやらこの同調システムに問題があるみたいですの」
1つのエンジンですら持て余すこともあるのに、2つともなると出力調整やら排熱問題、エネルギーバイパスの負荷。数えればきりがないほど管理が難しいんですのよ。
ワタクシですらこのエンジン2つを完全同調させるのは難しいと判断し、フルゴールは『マルチリアクターシステム』にしたと言うのに。
「出力を低中領域に留めるだけならば問題はありませんが、最大出力にしてしまえば途端に2つのエンジンの同調バランスが崩れ、生み出されたエネルギーが溢れ出し周囲を巻き込んでBONって感じです」
手にした端末の画面にデフォルメしたオージェを描き、その下に矢印を描いて四肢が爆散するオージェを追加します。
「ふーむ、要するにあのMHのアクセルをぶん回さないがきりは問題ねぇけどぶん回したらドカーンってわけだな?」
「ですわね。アトロポス様が言ってましたが、あくまであの騎体はファティマのMH制御のテストに使うくらいに留めるなら、放置しても問題ありません。ありませんが……」
「オージェ、すっごい嫌がってるから治してあげたい」
アトロポス様は頑として譲らない様子で、ワタクシは肩を竦めてバランシェ公へ視線を向けます。
「と、まぁアトロポス様が仰ってますが?」
「……我が家の近くにいつ爆発するかも分からない危険物を置いていくわけにはいくまい。
直せるのなら直して貰ってもいいか?」
「はい、元々そのつもりでしたわ。……ひとつお願いしたいのですが」
「あの騎体の解析なら好きにしたまえ。元々の持ち主が放ったらかしにしたものだからな。文句は言わせんさ」
「っしゃ! あざーっす!! 実はあの騎体をひと目見た時からMHマイトとしての琴線をビンビンに刺激してましたの! ネジの1本から配線の一筋まで見させていただきますわ〜!」
バランシェ公からのご許可も出ましたし、早速あの子を分解……ではなく解析させてもらいましてよ〜!
てなわけで失礼しますわ!
「ま、待ってくださいマスタ〜! レイラも行きます〜!」
「俺モ手伝ウ〜」
「私も手伝うよ」
「おほー! このエンジン、ここまで小型化しておいて出力がえげつねぇーですわ! つか、明らかにふたつも要らねぇのに作ったヤツはひょっとして馬鹿なのでは?」
「オ袋、パンツ見エテルゾ?」
くまちゃんパンツがモロ出しになるのも構わずメンテナンスハッチに上半身を突っ込むイーリスと、そんな彼女の手伝いをするポラリスという光景を前に手持ち無沙汰にレイラはアトロポスと共に作業の様子を見ていた。
「ねぇ、レイライン」
「ひゃ、ひゃい! なんでしゅかアトロポス様!?」
「……レイラインは人として産まれたかったって思ったことはある?」
「あ、えっと……その……」
不意にアトロポスがそんなことをレイラに尋ねてきた。突然のその質問の内容にレイラは意図が読めず、声にならない声が喉から零れたことにアトロポスは説明不足だったと謝罪する。
「ごめんなさい、いきなりだったよね。…………私はね、ダムゲート・コントロールが施されてないファティマなの」
「っ、そう、なのですか?」
「うん。それにね、私は基礎能力も既存のファティマ以上のもの持たされて制作されたんだ」
「……」
アトロポスは膝を抱え、気持ちを吐露するかのように喋り出す。
「ファティマなのに、人間らしい感情を、意志をお父様は私に持たせた。でもね、私はそんなものなんて欲しくなかったの。
ただ、機械のようにあれれば良かった。だって、そうであればお父様を憎まないで済んだんだから」
「アトロポス様……」
「……ごめんなさい、貴方に言うことじゃなかったね」
自嘲したように笑うアトロポスにレイラは首を横に振った。
「いいえ、アトロポス様。きっと、その感情は悪くないと思います」
「……どういうこと?」
「実は、私もアトロポス様と同じようにダムゲート・コントロールは施されてないんです」
「っ、本当?」
「はい。最初の質問にも答えさせてもらいますが、人間として産まれたかった……って考えないこともありませんでしたよ?」
「そう、なんだ」
「はい。だって、ファティマは星団法でかなりの制限をかけられてます。権利なんて何一つないくらいガチガチに。
好きに買い物をしたり、遊んだりや恋愛なんてできません。それに生殖能力すら取り上げられてますから」
「……」
レイラの告げた内容にアトロポスは顔を暗くする。彼女の言う通り、ファティマは星団法によって殆ど人権などと呼べるものはない。
「……でも、レイラはファティマでも良かったって思ってます」
「……なんで?」
「だって、私はお母様の子供ですから」
レイラは微笑み、イーリスの方へ視線を向けた。アトロポスは彼女の言ったことが理解出来ていないのか首を傾げるのみだ。
「たしかにファティマは自由がありません。けれど、レイラの思いは感情はレイラだけのものなのです。
……この世界は辛く苦しく、悲しい絶望が溢れています。
でも、それでも生まれてきた生命は。生きることはとても素晴らしく祝福されるべきなのです
だから、アトロポス様。貴方の人生は素晴らしいものなんだって私は思ってますよ?」
「…………レイラインは強いんだね」
「ふふっ、なんていったって私はお母様の子供でもありパートナー・ファティマですから」
「……私もいつか、自分の人生が良かったって思えるかな?」
「そこは分かりません。思えるかもしれませんし、思えないかもしれません」
「そこは断言して欲しかったな」
「未来は可能性に溢れてますから。わかってしまうなんてそれこそ神様じゃないと無理ですよ」
「……そっか。ふふっ、未来は可能性に溢れてる、か」
アトロポスは淡く微笑み、レイラの言葉を胸の中で繰り返す。
「はいっ。レイラやマスターも祖国をクーデターされて追放された身ですが案外どうにかなってます。
アトロポス様も肩肘張らずに適当に肩の力を抜いてみたほうが結構楽しいですよ?」
「んー、私はまだそこまではいけてないかな……ん? クーデター? どういうこと?」
今もまだ、バランシェに対しての憎しみや恨みは渦巻いている。でも、それが変わって自分のこの人生が素晴らしいものだと思えたら、きっとそれは素敵なことだ。
「ちょっと、レイラ〜! 起動テストしますから来てくださいまし〜!!」
「あ、はーい! 今行きまーす!」
「あ、待ってクーデターってどういう……」
「じゃあ、レイラは呼ばれたので行きますね〜」
「聞いてない……」
呼びかけるまもなく行ってしまったレイラにアトロポスは曖昧な表情を浮かべるが、段々とおかしくなってきたのか何処か疲れたような軽いため息を吐いたあとに薄く笑う。
「肩肘張らずに肩の力を抜く……か」
目からウロコというのはこういうのだろうか? 確かに、彼女の言う通りなのかもしれない。
多分、自分は真面目すぎるのだろう。真面目にこの抱いた感情と向き合って、真面目に自分の生まれた理由を考え、真面目に生きていこうとしていた。
そんなことをしていればきっといつかは疲れてしまう。
「……綺麗な空」
なんとなしに空を見上げて見れば自分の悩みなんてちっぽけに思えてしまうほど広く青く綺麗な空が視界一面に映し出された。
……今も父に対する複雑な思いはある。でも、確かに父に対する愛情はあるんだ。
「生きることは素晴らしい……うん、そうだよね」
生まれてきたことに意味なんて無いかもしれない。でも、きっと生まれてきたことはとても素晴らしいものなんだ。
「成人したら旅に出てみよっかな」
うん、それがいい。広い世界を見て、どんな人がいてどんな風になっているのか知ってみたい。
軽やかに嘶きをあげる天使の音を聴きながらアトロポスは淡く微笑んだ。
原作だと家出だけど、本作では自分探しの旅に出ます