FSS─翡翠の雷光─ 作:アマテラス、アンタちょっとガメツイよ!
無事オージェのエンジンシステムの修正が終わり、ついでとばかりに色々と調整を済ませていたら空が暗くなっていましたわ。
レイラ達は既にその場にはおらず、今この場にいるのはワタクシとMHの調整の仕方を教えるついでに助手として残らせたポラリスのみです。
「あら、もう夜? MHを前にするとどうしても時間を経つのが忘れてしまうのが悪いところね……」
「オ袋、髭ノオッチャンガ夜食置イテッタ」
「そうなの? ありがとうポラリス。後でお礼を言わないといけませんね……というか師匠の付き添いできたのにそっちのけでMHの整備をするのって大概失礼なのでは?」
「今更ジャネ?」
ポラリスのボディの上に置かれていたバスケットを受け取り、中を見てみればサンドイッチに付け合せにはキャベツ入り肉団子のトマト煮ときのこのホットサラダ。
魔法瓶にはミネストローネという組み合わせでしたわ。
「……流石はバランシェ公の使用人の作った料理ですわね。うめーですわ」
「ウメーッテドンナ感ジ?」
「んー、説明するのが難しいですわねェ……こう……なんて言うんでしょ? 気分が落ち着いてほっとするって感じかしら?」
「
「んー、ちが……わないのかしら? ある意味では温いですわねぇ」
「温イ、俺感覚トカ無イカラ
カチカチとポラリスがマジックハンドの手を鳴らして言いました。彼の言うとおり、エトラムルには感覚と呼べる器官はありません。
元々、MHの制御さえ出来ればいいと言う設計思想なのですから当たり前といえば当たり前です。
「ふーむ、実装できるかどうかといえば出来なくはないでしょうね〜」
「ホントカ?」
「ええ。騎士の中には身体の大半を機械化してる方も居ますからね。そのサイボーグ技術を応用すれば貴方のボディにも触覚などを実装可能でしょう」
「オー、夢ガ広ガルナァ」
「ふふっ、良い子にしてたら夢は叶いますわよ〜」
無邪気に両腕を広げるポラリスが微笑ましく思いながら食事を食べ進め、ほとんどを平らげたころに芝生を踏む足音が聞こえました。
そちらを見ればバランシェ公が杖を片手に佇んでおり、その背後には気配を消して控えている執事さんが。
「作業はどうだね?」
バランシェ公はライトによって照らされた膝立ちの姿勢で佇むオージェを見ており、ワタクシは慌てて立ち上がり端末を目を通しながら作業進捗を報告します。
「あ、バランシェ公。ええ、はい。エンジンの同調システムを最適化し、エンジンから生成されたエネルギーは増設したバイパスによってこの両肩のバインダーの防御兵装へ余剰エネルギーを逃がすことでどうにか致しましたわ。
本格的な改修については設備的な問題で出来ませんでしたからこれくらいが精一杯ですが、少なくとも最大出力にしても不安定となることはないかと。
それ以外にも各種パラメーターの調整であったり、トルク部分、ジェネレーターの具合の程を────
「君はMHを触ってる時は随分とイキイキしているようだな」
「───あ〜……その、そんなに
バランシェ公の私的にワタクシの顔が赤くなる感覚が致します。いや、だって、ね? ロボットですよ? ロボット。オトコノコの浪漫を触れていて興奮しない人っております? いいえ、いません(断言)
「いえ、やっぱり言わないでくださいマシ! ワタクシだって王族なのに顔や身体中オイルまみれにして機械いじりなんてどうなの? とは思ってるんですの!
でも、常日頃から淑女たれというシンクレアの過去の
「う、うむ。どうやら苦労しているようだな……」
「……申し訳ありません、貴方様に言うようなことではありませんでしたわね。んんっ、それでどう言ったご要件で?
モラード師匠から教えられていますが、貴方様のお身体は具合が良くないと聞いています。
あまり、お外に出られては障りますよ?」
「あぁ、確かにそうだな。けれど、君に聞きたいことがあってね」
「はぁ……聞きたいこと、ですか?」
「そうだ。イリス・クリィムヒルト……いいや、イーリスフィア・ゼノ・リガリエッテ。お前はどんな思いでファティマを生み出した?」
「えっと……」
「…………」
バランシェ公の芯の通った光を宿す瞳に見据えられ、ワタクシは自然と背筋が伸びました。
きっとこれは大切なことです。ワタクシは視線を宙に彷徨わせた後に深呼吸をおこない、バランシェ公の目を逸らさずに見つめます。
「……最初はあくまでも王家の象徴としか考えていませんでした。
ワタクシが女王として即位し、民草や他国に向けての王権としての証という扱いだったのです」
そう、フルゴールもレイラインもあくまでワタクシの女王としての権威の象徴の役割でした。
そこに愛情などはなく、ただ冷徹に簡潔に『コレらを持っている者が王なのだ』という判りやすい記号。
……だったのですが。
「ベッドから出し、赤子のあの子を抱いた時に本当にちっちゃな手がワタクシの親指をギュッと握った瞬間にあの子に母性と呼べる愛情が湧き上がりました」
今でも鮮明に思い出せます。胚から培養し、成長し赤子となったレイラインをベッドから出して抱いた日のことを。
ワタクシが生み出した小さな命。ワタクシの女王としての証。王権の象徴。
そんな思いも我が子を抱いた瞬間に消え失せました。
────可愛い
────可愛い
────可愛い
ふくふくとした頬が、閉じられた目が、ちっちゃな手が……目に映るすべてが可愛い。
「あぁ、こんなにも愛らしいと思いました。この子のためならワタクシはなんでも出来るとも。
だから、えーっと、その……なんて言えばいいんでしょうね……うーん?」
上手く言葉にできませんわね……こう、喉まで出かかってるのですが。
ワタクシがうんうんと唸っていると、バランシェ公はクツクツと笑いだしました。
「ふっ……そうか。お前の言いたいことは理解したよ。どうかその思いを大事にしてくれたまえ」
「は、はぁ……その、良かった、です?」
「ああ。私の確かめたいことはもう済んだ。時間ももう遅い、作業をやめて休むといい」
「あ、はい。わかりましたわ」
バランシェ公が踵を返し、お城へと歩き出しました。その背を見送りながらワタクシはあの人結局何のために来たのかしら? という疑問でしたわ。
ぶっちゃけ心臓に悪いからやめて欲しいですわ〜!
「……シャワー浴びて寝ましょうか」
「オツカレ」
「貴方モボディが汚れてますし丁度いいから洗浄しますか」
「エー」
「風呂キャンは許しませんわよ!」
「ヘーイ」
ドラム缶ボディをべちべち叩きつつ、ワタクシとポラリスはお城へと戻るのでした。
もちろん、途中に執事さんにはバスケットを渡して美味しかったことも伝えるのを忘れませんでしたわ!
「……それにしても、あの騎体を作ったマイスターにはいつか会ってみたいですわね〜」
あれほどのMHを作れる存在がいた事に尊敬の念を抱き、ワタクシはその名を呟きます。
「『レディオス・ソープ』……」
数奇な事に、そこまで時を経たずにその名を持つ方と出会うことになるとはその時のワタクシは思いもしませんでした。