FSS─翡翠の雷光─ 作:アマテラス、アンタちょっとガメツイよ!
「うん、うん、そうだね。私は普通かな。貴方はどう?」
調子良、身体。披露目?
「ううん、お母様はまだ貴方の調整をしておきたいみたいだから無理そうかな?
大公を騙してどうにかブースターを作れたけど、背中までは流石に手を出せないからね」
未完成、然、戦闘可。奴等、求闘争。
「貴方は好戦的だね。でも、駄目だよ? あの2人はとっても強いから戦うってなったら私たちも無傷じゃすまないもん。
お母様が私たちが傷つくのは望まないのは知ってるでしょ?」
母様、心配性也。我等、戦闘兵器?
「お母様からしたら私たちは可愛い子供だからね。あの子とはどう?」
愛奴、也。先日、演算模擬遊戯。
「ふふっ、仲が良さそうで良かったよ。……ねぇ、私たちは祖国に帰れるのかな?」
変質問也。不安也妹?
「うん、私はいつも不安。アトロポス様には適当でもどうにかなるって言ったけどね」
心配不要、我等、隣存在。
「ふふっ、貴方はいつだって自信満々だね」
無論也、我王騎。故最強自負。汝等守護、我役目也。故、心配無用。
「そっか。じゃあ、私と一緒にお母様を守ろうねフルゴール」
了承、我等共母様守護。
「ん、じゃあ私はもう行くね」
────
「ん、お休み」
「はい、これで仮登録は解消。すでに貴方のことはワタクシの配下たちが護衛する手筈となっています。
「ご好意に感謝しますイリス様、このご恩は忘れません」
「この程度当然ですわ。いいこと、もうあんな下衆に捕まってはいけませんからね?」
「はい、今までお世話になりました博士」
頭を下げ、そのファティマは停められていた黒塗りのディグのもとへ向かっていき最後にもう一度頭を下げると乗車し程なくして発進します。
ワタクシはその車両が見えなくなるまで見送り、勾配によって見えなくなれば館へ戻るために踵を返しました。
館までの長い道を歩いていると、庭木の影から現れた大男がワタクシの隣に来ると。
「お嬢、ユーバーがお呼びです」
そう耳打ちしてきました。
「ユーバー様が? ご要件は聞いていて?」
「はい、なんでもお披露目の挨拶のため付き添いで来て欲しいとの事です」
「そう、わかったわ。貴方はいつも通り護衛として来なさい」
「へいっ。……つっても、お嬢に護衛なんて必要なんすかね? 俺らより強ぇーのに」
「要らなくても『私たちはきちんと考えてるぞー』っていう周りに示す必要があるんですのよ。よーするにパフォーマンスですわ。貴方は見た目だけはイカついですからね……威圧の意味もあります」
「へへぇ、上流階級ってのは面倒なんすねぇ」
「はぁ、貴方もいずれはそういった場に出ることになるのですからこれも勉強ですわ。他の者たちにも貴方から伝えておきなさい『バルカス』」
「うす、了解っすお嬢。アンタに救われ、拾われた恩にゃ報いたいっすからね」
この男『バルカス・バスタンク』は以前ワタクシがデコ助……じゃなくてデコースと出会った時に彼に喧嘩をふっかけ、蹴散らされて死にかけてた所を救った不良騎士たちのうちの一人ですの。
ユーバーの元で働き始めてひと月ほど経った頃にたまたまこの男とその取り巻きが館の周囲を彷徨いていたのを目撃しました。
んで、何となく声をかけてみたら性懲りも無く襲ってきましたので適当に2、3発ボコしたら何か舎弟みたいな感じになりまして、それ以来ワタクシの配下として色々と便利使いしてるんですのよ〜。
そして、さっきのファティマはユーバーが色々と悪どい手を使いお披露目でマスターを見つけられなかったか子なのですが、奴の毒牙にかかる前にマイトパワーでアイツの記憶を弄り、壊れたことにしてワタクシが秘密裏に保護。
機を見てモラード師匠の元へ逃がし、師匠経由で製作者のマイトの元や騎士団へ送った……ってところですわ。
「にしてもお嬢、良かったんですかい? あのファティマ、銘入りっすよ。お嬢の元で保護しときゃ戦力になったのに」
「そんな余裕も暇もありませんわ。貴方たちの子だけで手一杯ですし。
それに、下手にユーバーの近くに置いとけば絶対にろくな目に会いませんもの。
それより、貴方たちに預けた騎体の慣熟訓練の程は?」
「うす、俺含めて『フェイン』と『ハルベス』の奴は問題ねぇっすよ。にしてもまさか俺らみたいな不良騎士がデチューン版とはいえ三大MHのサイレンに乗れるなんて思ってもみなかったすよ。
お嬢のお陰で本家本元並にチューンされてるし、操作系にも変なくせもない。
……つか、よく手に入れることが出来ましたね?」
「ふふん、これもワタクシの力ですわ。……まぁモラード師匠のおかげとも言えますが」
「へへぇ、コネって奴っすね」
バルカスの言葉に肩を竦めつつ、扉を開けて館の中へ入れば。
「オ袋、終ワッタノカ?」
ドラム缶ボディのポラリスが迎えてくれました。
「ええ、ついさっき送ったところよ。ポラリス、貴方は彼女たちとお勉強してたの?」
「オウ、姉チャン達ト演算勝負シテタ」
「そう。この子のお守りありがとう『ペリル』『リュカ』『イェンファ』」
ワタクシが視線を向ける方向には3人のファティマがおり、彼女たちは先のファティマ同様にユーバーから保護した子達で、バルカス含むほか2人のパートナーですわ。
「はい、イリス様。ポラリス様の今回の学習記録の写しはこちらです。
それと、マスターの礼服は既に用意しています」
「おう、すまねぇなペリル。じゃあお嬢、俺は着替えてきますんでユーバーの所に行ってください。
行こうかペリル」
「はい、マスター。イリス様、失礼します」
「ええ、バルカスの着替え手伝ってあげなさい。ソイツ、未だに一人でネクタイすら付けれないんですから」
「ちょ、お嬢! 俺だってネクタイぐらい付けられますよぉ!」
「そう言ってこの前首を絞めかけてたのは忘れてませんよ?」
「ぐぬぅ……」
「ふふっ、大丈夫ですよマスター。私が付け方を覚えるのを手伝いますから」
「くぅ、男として悔しいけど嬉しく感じちまう!」
「相性は良さそうですわね。ほら、早く行きなさい」
パートナー・ファティマ『ペリル』に手を引かれてドレスルームに消えていくバルカスを見送り、ワタクシは残った2人へ声をかけます。
「リュカ、イェンファ。貴方たちのマスターが戻ってきた時に着替えるの手伝ってあげて。あの2人もまだそういったのに慣れてないし」
「はい、承知しましたイリス博士」
「わかりました先生」
「ん、じゃ私はユーバーのとこに行ってくるから。あぁ、あとレイラを見かけたらお留守番って伝えておいてくれる?どうせフルゴールのとこにいるだろうし。ポラリス、着いてきなさい」
「リョー」
ユーバーのもとへ向かうワタクシの後ろをポラリスがついてくるのでした。
ユーバーの元に来て1年近く、奴の資産の権利書の名義を秘密裏にワタクシに書き換えたり裏金を洗浄して懐に入れたりという日々を送りつつ、ワタクシの配下を得たりして着実に力をつけあと1、2年もあれば祖国へ凱旋できそうというレベルまで来ました。
ここまで長かったですわね〜。ジョーカー星団の人々にとっちゃこれくらいそこまで長く感じないんでしょうけど、前世の時間感覚がまだあるワタクシからしたら充分長く感じるんですの。
でも、これまでの日々が報われそうなのは素直に嬉しいですわね。……でも、最後の最後に油断してはいけませんわよワタクシ。
そう思ってあの日のクーが起きたんですもの! 最後まで油断してはダメでしてよ〜!
オホン、ともかくもう少ししたらユーバーもお払い箱ですわね。ここ一年でアイツの持ち金やら資産の大体の隠し場所も暴き終えましたし、犯罪の証拠も殆どこちらが握ってます。
……コイツを領主にした支援者がフィルモア帝国の髭チョビン皇帝と判明した時はビビりましたが。その時は即座に逃げようか悩みましたわね。
つか、デコ助との決闘で完全にバレたと思ったのですが、一切手を出してこないのがめたくそ不気味ですわ!
まぁ、幸いにもワタクシの素性が向こうにバレてないっぽいですし、後は適当にでっち上げてユーバーを人知れず始末できたら雲隠れしたいところですわ。
「……にしても暇ですわねぇ」
今回ユーバーの付き添いできたのはファティマのお披露目です。と言っても今回のお披露目のファティマの殆どが前の主が病気だったり戦いで失ったロスト・ファティマ。
もしくは故障だったり精神不安定で制作元のマイトの元に送り返されたブーメラン・ファティマ。
もうひとつがファクトリー製の安価で大量生産されたファティマがメインの小規模なものです。
特に高名なマイトのファティマもいない為、今回のお披露目の格は大分下がってはいますがそれでもお披露目の本場であるバストーニュということと、有望な騎士のスカウトマンだったり主を求めて探しに来るファティマも来るのでそこそこ賑わっていますわ。
「オ袋ヒマ。外行ッチャ駄目カ?」
「駄目デス。お披露目までは騎士やファティマは控え室で待つことになってますのよ。というか、貴方のその格好じゃ今更感ありますが変に注目集めてしまうでしょ?」
「早ク人間ニナリターイ」
妖怪人間みたいなこと言ってますわねこの子、この1年で大分感情豊かになったポラリスを呆れた目で見つつ手持ち無沙汰ですので描きかけのMHの設計図を端末に映し出し、設計を進めようとしたところ。
「オ袋、客」
「簡潔すぎません? ったく、誰よ一体」
ポラリスからワタクシに話がある人がいるらしく端末を仕舞い顔をあげるとポラリスの少し後ろに見た覚えのない方がいました。
その方は肩ほどまでに揃えた茶髪で男物の服を着ていますが、小柄な体格からみて女性のようです。
それに加えて、腰からは
「? どなたでしょうか?」
「んー、やっぱり気が付かないか……レイラ、私よ私」
その女性が顔を指さし、ワタクシはマジマジと観察します。はて、何となく声に聞き覚えが……ん? んんん? あっ!
「アトr……モガッ!?」
名前を言おうとした瞬間に体温が低めの手のひらで口を抑えられましたわ! ちょ、鼻! 鼻も塞がってますわ!! 力強ッ!? 引き剥がせねぇですわ!
「A-T、オ袋息デキテネー」
「あ、ご、ごめんなさい」
「ぜぇ、ぜぇ、ふー……失礼、呼吸を整えさせて」
アトロポス様に手を向け、深呼吸。すー、はー、すー、はー……よしOK。
「ご機嫌麗しゅうアトロポス様、ご成人なさったようでおめでとうございます」
「うん、ありがとうイリス。一昨日に成人したんだ。それと、今はA-Tって名乗ってるからそう呼んで?」
「わかりましたわ、A-T様。それで、何故そのようなお姿なのですか?
お披露目……というわけではありませんよね?」
「うん、実はね」
アトロポス様改めA-T様はワタクシにことのあらましを説明しました。
「家出、ですか?」
「うん、自分探しの旅ともいえるかな。ここを発つ前に最後に貴方に会いたくて寄ったの。あ、もちろんレイラインには挨拶をしたから」
「それは、また……行くあてはあるのですか?」
「んー、特にないかな。適当に色んなところを見て回ろうと思ってるの」
「なるほど。じゃあワタクシが祖国を奪還した後に気が向いたらワタクシの祖国に遊びに来てくださいませ。友達として歓迎いたしますわA-T様」
「─────」
私がそういえば、何故かA-T様は目を僅かに見開いて固まってしまいました。あら? 何か変なこと言ったかしら?
「と、友達?」
「? ええ、はい。貴方様とワタクシがですが……ひょっとしてそう思ってたのはワタクシだけ……って、こと!?」
わァ…………あ…………!
「あぁ、ごめんなさい! 泣かないで! ううん、そんなことないわ! 私も貴方のこと友達だって思ってるもの! その、そういう関係になった人って初めてだったから……ビックリしちゃっただけよ? 本当よ?」
「あ、そうなんですのね。良かったー。てっきりA-T様と一方的に友人と思ってた恥ずかしいやつになるところでしたわ!」
「名前」
「うん?」
「"様"は付けないで呼び捨てでいいわ。友達、でしょ?」
「……はいっ、A-T。じゃあワタクシは偽名ではなくて本名をお教え致しますね。
ワタクシの名前はイーリスフィア・ゼノ・リガリエッテと申します。是非イーリスとでも呼んでくださいませ」
「うん、宜しくねイーリス。初めての私の友達」
ワタクシの小さな手といつの間にか大きくなったアトロポスの手を重ね、握手を交わす。
互いに色々としがらみはありますが、今この瞬間はただの人として交友を重ねるのは悪くありません。
「ジャ、俺モA-Tト友達」
「ふふっ、ええ、そうね。貴方も友達ねポラリス。ここにはいないけど、レイラインとも友達よ」
そうすると、自分もと手を挙げて声をあげるポラリスにアトロポスは微笑んで3人の手を重ねます。
色々と話をしたいですが、アトロポスはもう行くようで名残惜しそうにしながらも立ち上がりました。
「じゃあ、私は行くねイーリス、ポラリス。それと、オージェがありがとうとも言ってたわ」
「ふふっ、ええ。ではワタクシからも何処か不具合を感じたら直して上げるとお伝えくださいな」
「もちろん伝えるわ。あぁ、それとポラリス」
「なんだ?」
「……あの日は気が付かなかったけど、改めて宜しくね私たちの新しい弟。そして、いつか遠い日にまた『
「ヨクワカンナイケド、ワカッタ。ジャーナA-T」
「うん、さようなら」
ワタクシには分かりませんが、きっとファティマ同士通じ合うのでしょう。最後にポラリスと会話を交わしたアトロポスは部屋をあとにし、ワタクシたちは彼女を見送りました。
用語解説
・バルカス・バスタンク
年齢:地球換算で凡そ24歳
所属:イーリスフィア直属騎士団(現状3人)
ボォズ・カステポー出身の筋骨隆々の平民騎士。
元は立身出世を夢見て国家騎士団に入隊したが、その騎士団では出自による不遇な扱いから心折れ、後述する2人を連れて共に脱走。その後傭兵に身をやつしていたが、ユーバーが騎士を大金で雇ってるという話を聞きバストーニュへやってきた。
内心ユーバーのような俗物の下につくことに思うところが無いこともなかったが、生きるためには仕方ないと割り切り雇われるといったところで先に雇われていたデコースによってご破算。
話が無かったことになった原因のデコースを3人でリンチしようとしたが、呆気なく蹴散らされ致命傷を負ってしまうがたまたま喧嘩に巻き込まれたイー様が3人を治療。
その後、気まぐれにデコースによって病院へと叩き込まれ入院していたが退院したらこんな目に合わせたデコースに落とし前を付けるついでにイー様にお礼を言おうとユーバーの館の周囲を彷徨いていた。
しかし、これまた偶然3人を目撃したイー様に声をかけられ驚いた、バルカスが殴り掛かるもイー様の双児響転によって翻弄され2、3発どつかれ気絶。
ただでさえ粉々だったプライドが更に粉微塵となるも、3人の連携を見たイー様はその完成度に感心するほどだったので手駒が欲しかった彼女が勧誘。
素直な賞賛の言葉とシンプルな口説き文句によって脳を焼かれ、イー様の配下に。
その後、惑星ジュノーのコーラス戦争にてイー様から与えられたサイレン重装型を駆り多数の戦果を挙げ、後に『黒鉄の巨兵』と呼ばれることとなる。
・ペリル
M型/スティール・クープ作
クリアランス:VVS2
マスター:バルカス
所属:リガリエッテ公国
スペック:戦闘能力(B1)・MH制御(A)・演算性能(B1)・肉体耐久(B1)・精神安定(B2)
元々はフィルモア帝国に所属していたが、主である騎士が戦闘で死亡しクープ博士の元に送られた後にバストーニュでのお披露目でマスターが決まらず、そのまま留まることとなり案の定というべきかユーバーの毒牙にかかる所をイー様がお得意のマイトパワーでユーバーの記憶を改竄し保護。
そしてクープ博士に送り返そうとしたところで、たまたまバルカスが出くわし開口一番に
この申し出を了承したバルカスと見事パートナーとなり、初々しくも仲睦まじい主従関係となる。
平民出身のため、礼儀作法に疎いバルカスに彼女は良くマンツーマンでレッスンしてる様子が目撃されておりイー様曰く『めたくそラブラブですわ!』とのこと。
彼女は己のマスターのことを『熊さんみたいで可愛くて一目惚れでかした』と後に語る。