FSS─翡翠の雷光─ 作:アマテラス、アンタちょっとガメツイよ!
お披露目を目前にし、星団の各国から集まった客たちの歓迎の為の晩餐会。
その会場にてデルタ・ベルン、ボォス、カラミティ、ジュノーの大国の王たちが一堂に会し表向きは親睦を深めていた。
表面上は和やかに、しかし裏では様々な手練手管での暗闘が繰り広げられる伏魔殿を遠目から手に持ったグラス越しに眺めている存在がいた。
「ふむ、あの娘があの俗物の下にいると聞いていたのだが……ここにはいないようだな」
フィルモア王家の紋の刻まれたマントを肩に下げ、その孔雀色のウォータークラウンの家紋は正しくレーダー家を示すもの。
この初老の男こそ正しく現フィルモア帝国皇帝『ドル・パーマネント・レーダー』……別の名を『レーダー8世』
しかし、その鋭い眼光に宿す感情の色は目の前の晩餐会やお披露目に注目しているものではなく、もっと別のことに向けられていた。
「それにしても驚いたものよ。行方知れずと思っていたらユーバーめの下にいたとは……
おおかた、あの男を利用して国を取り戻す算段を立てているのだろうな。アレは無能だが、財だけはもっておるからの。
くくっ、国を追われてなお諦めぬか……やはり、あの娘は見ていて退屈をせんわ」
レーダー8世は裏で支援を行っている存在を扱き下ろしつつ、とある人物の初めての出会いを思い出して愉快げに笑う。
「イーちゃんの事ですもの。きっと今回のお披露目も派手に引っ掻き回すでしょうね」
「うむ、それについては同意するとも『
レーダー8世の隣のドレスの老女が言えば、勝手知ったる仲といった様子で首を縦に振る。
『慧茄・ダイ・グ・フィルモア』その名を知らぬものは星団にはおらず、かつて剣聖の称号を与えられ星団中に勇名を轟かした生きる伝説そのもの。
「それにしても、本当にイーちゃんやクロエの国をあんなふうにして良かったのですか?
事と次第によっては大層恨まれますわよ?」
「覚悟の上だとも。元々、アヤツの願いを私が許したのですから。そう遠くないうちにハクーダはコーラスに侵攻する……遅かれ早かれ我が国の関与に気が付くでしょう」
「はぁ……それにしたって貴方の孫には困りましたねぇ。イーちゃんが事の経緯を知ったら王宮に一人で乗り込んでくるんじゃないかしら?」
「ハハハ、それはそれで面白そうですな。……冗談ですので
二人の和やかな会話は続くのであった。
「ぶぇっっくしょい!!」
『風邪ですか〜?』
『冷エピタ貼ルカ?』
「ただ鼻がムズムズしただけですわ! お気になさらず!」
どうも皆様御機嫌よう、初見の方は初めまして。愛読者の方にはあいらびゅー、ワタクシですわ!!
現在ワタクシ達はMH格納庫におり、本来なら本館のほうでパーリナイの最中ですがモチロンんなもんに出るわけありません。
「そちらの首尾はどう?」
『へい、ディグの準備は出来てるっすよお嬢』
『こっちも警備員を黙らせるところだ』
『うす、合流地点にゃ既に控えてます。お姫様は何時でも保護できますも』
「ん、ご苦労さま3人とも。ペリル、騎体は?」
『はいイリス様、何時でも成層圏から降下可能です』
「そ、流石にMH戦は無いだろうけど残りなふたりも準備はしておいてね」
『『はい』』
クローソー様を逃がすためにバルカスたちを配置させ、いざとなったら彼らのカスタムサイレンを成層圏から降下させる手筈となっております。
といっても、今は晩餐会中ですから殆どの人員は向こうの会場に回されてますしデコ助達も適当にパーティを冷やかしてるでしょうから大丈夫でしょうね。
作戦としてはレイラとポラリスが城の警備システムを一時的にダウンさせ、ルベルがクローソー様の脱出経路にいる警備員を昏倒させる。
そして城の地下にある今は使われてない古井戸を伝って城の外に出ると出口にはバルカスの用意していたディグに乗って脱出。
荒野にある寂れた『ベトルカ』という小さな町にいるフェインと合流し、彼の護衛の元にモラード師匠のいるペトルカへ連れて行ってもらうというのが作戦の概要です。
殆ど実行担当はバルカスたちで、発案者のワタクシは何してるのかですって?
トンズラこくまえに少しでもフルゴールの完成度を上げるためにひたすら一人で作業ですわ!
「ぷひぃ〜……でも流石に休憩ですわ。はぁ、ったく動かすのには問題ないとはいえ実際に動かしたらどんな不具合が出るか分かりませんもの。
……ごめんなさいね、貴方をまだ完成させることができなくて」
休憩のため騎士殻から外へ出てワタクシは翠の装甲へ額を当てて語りかけます。
『─────』
すると、微かな振動が額越しに感じられ我が子がワタクシへ何かを告げているのだとわかりました。
「ふふっ、励ましてくれてるの?」
ゆっくりと顔を上げれば視線の先にあったフルゴールの顔と目が合えば装甲の奥の目が微かに瞬いているのが見えました。ファティマではないのでMHとは会話をすることはできませんが、それでも愛しい我が子か励ましてることくらいは分かります。
「よしっ、休憩終わり! さーて、追い込み行きますわよ〜!」
ベチッ、と頬を叩き作業に戻ろうとすれば。
「モーターヘッドをお持ちになっていたのですか?」
「そうさ、オレのは特別なんだぜ?」
下の方からそんな内容は分かりませんが、話し声が聞こえてきたではありませんか。
ワタクシは身を乗り出し、下を覗いてみれば何やら粗野な印象を受けるオッサンと男? 女? とにかくチョーキレーな人が格納庫の通路を歩いているのが見えましたわ。
どちらもワタクシの知る顔ではなく、格好から見て整備員の方ではありません。というか、そもそもここの格納庫のワタクシ以外立ち入り禁止の看板があったはずですわよ。
「ちょっと! そこの方たち! ここは関係者以外立ち入り禁止ですわよ!!」
「おん?」
「ん?」
とぅっ! 騎士殻のハッチから飛び降り、部外者ふたりの前に立ち塞がるように着地!! ズビシッっと指を突きつけ。
「どこのどなたか知りませんが、とっとと回れ右してお帰りなさい! ワタクシのチャーミングなおデコが眩いうちはイタズラなど許しませんでしたよ〜〜〜!!」
「「…………」」
ふっ、決まりましたわ! ワタクシのインパクト満載の登場に度肝を抜かれてるようで目の前の2人はポカーンとしてましてよ〜!
「や、やややや!」
「ん?」
すると、粗野な方の男が突如として動き出したかと思えばワタクシの視界いっぱいに髭面がドアップで映りましたわ!
「なんて眩いほどのおデコだこと!!」
「ギニャー!!?」
「しかもこの丸さ、広さ、輝き!! これに並び立つのは俺が知る中で他に1人しかいない逸材だぁ!」
こ、このオッサン淑女のおでこをなに撫で回していやがりますの!? しかもめちゃくちゃいやらしい手つき!! やーめろー!! はーなーせ!!
ジタバタと藻掻いて逃げようとしますが、このおっさんの力が思ったよりも強くなかなか抜け出せませんわ!! こ、このやろ! やめろっつってんだろ!!
「なめるなっ オスブタァッ!!」
「ぶげっ!?」
「しゃあ! シバクヤンケ!!」
髭面のど真ん中へ拳を叩き込み、吹っ飛んだオッサンはトドメを刺さんと飛びかかろうとしたところで美人さんにふわりと優しく肩を抑えられました。
「それ以上はやめてくれるかな? 流石に目の前で殺人事件を起こされるのは勘弁願いたいんだ」
「ぺっ、命拾いしやがりましたねあまちゃんが! ぺっぺっ!」
美人さんの頼みを聞いてワタクシはトドメを指すのを止めてあげます。チッ! 運のいいヤツめ!!
「いででで……なんていいパンチをしてるおデコちゃんなんだ。芯から響くいいパンチだぜ」
「そのままポックリ逝っても良かったんですのよ?」
シュッシュッ、シャドーを繰り返しおっさんへ軽口を叩けばワタクシが殴った後の目立つ頬を擦りながら戻ってきます。
「俺が死んじまったら世界中のレディが悲しんじまうから無理だな。
流石にさっきのは俺が悪かった。ごめんなお嬢ちゃん」
「ボクからも彼の非礼を詫びます。どうかお許しをレディ」
「……いいでしょう、謝罪を受け取ります。それで貴方たちは?」
「俺は『ボード・ビュラード』だ。今回のお披露目で連邦から派遣された見届け人さ。こっちのは」
「初めましてレディ、ボクはレディオス・ソープ。しがないモータヘッドマイスターです。
良ければ貴方の名前を教えてもらっても?」
「ッ!!」
その名を聞いた瞬間、ワタクシは電撃が走ったかのような衝撃とともに反射的にソープ様の手を取って叫んでいましたわ。
「レディオス・ソープ様! ずっと貴方にお会いしたかったですわ!! ワタクシ、貴方のファンのイリス・クリィムヒルトと申します! 貴方と同じマイスターですのよ!?
バランシェ公のお城で貴方の製作なされた騎体を見てからずっと、ずっとず〜〜〜っと! 焦がれてましたの!!!」
「おー、なんて派手な告白! 良かったなぁソープくん?」
「え、えーと……」
どんな偶然でしょう! まさかこんなところであのオージェの製作者に出会えるなんて!!
ありがとう神様、仏様、女神様!!
「そ、その……手を離してくれても? ちょっと、痛いかな……」
「あ、ご、ごめんなさいませ! いつもはこんな淑女らしくない真似をしませんのよ!?
それに、この格好もさっきまでフルゴールの調整作業のためをしてたので普段着ではないのですわ!」
ああ、やだ恥ずかしい! 会いたかった人に会えたのは嬉しいけど肝心の格好がオイルまみれで上下ツナギだなんて! シンクレアに知られたら絶対バチボコに怒られますわ!!
いたたまれなくなりソープ様に背を向け羞恥心から穴があったら入りたいですわ〜〜〜!!
「フルゴールって……このモーターヘッドのこと?」
「ひゅー、なんて立派な騎体なんだ。明らかにワンオフだぜコイツ」
「うぅ……は、はい。この子はザ・ジェイド・オブ・フルゴールといいます。
ワタクシが一から建造した子供ですの……」
真っ赤になった顔でも聞かれたからにはきちんと答えれば、お2人は同時にワタクシを見ます。な、なんですの?
「イチから?」
「お嬢ちゃんが?」
「ええ、はい……イチから。設計と建造全てを」
「フレームは? 『ライオン』? 『チーター』?」
「いいえ、フレームはワタクシオリジナルのモノを使ってます。名称は『クーガー・フレーム』と」
「おいおい、マジかよ! え、一体いつ頃に設計したんだ!?」
「えーと、今から凡そ20年くらい前だから…………ワタクシが36歳頃かしら?」
「さんじゅ……!?」
いやー、我ながらこの子の建造に30年くらい使ってるんですのねぇ……ここまで時間をかけた騎体なんてそうそういないのではないのかしら?
「凄いな……それほどの年齢でここまでの完成度の騎体を作れるなんて!」
「い、いいえ! そんな、まだまだこの子のポテンシャルはありますわ!!
でも、ワタクシの力不足で本来なら2つのイレーザーエンジンを並列させ完全同調させるツインリアクターシステムにしたかったのですが、技術的な問題で難しかったので止むを得ず直列させたマルチリアクターシステムに……って!
そうだ! ソープ様にお聞きしたかったんですの! オージェのあの2つのエンジンをどうやって同調させてらっしゃるの!?
差し支えなければどうかご教授をお願いしたいんです!」
ずっと気になってたことを漸く聞ける人が前に現れたのです。ここで聞かないならいつ聞くんですかって話ですわ!!
ワタクシがソープ様に尋ねると、聞かれたソープ様は困ったような顔をしてしまいます。
「っあ〜……ごめんなさい、普通にマナー違反でしたわよね。
申し訳ありませんでした……その、おふたりは何故ここに? この格納庫はワタクシ専用に与えられたものでして……」
やらかしましたわ〜! モーターヘッド設計においてエンジン周りは基本的に尋ねるのはマナー違反なのは知ってたのにぃ!!
「おーっと、そうだった。オレの騎体をソープに見せようとしてたんだったな」
「ええ、はい。彼のモーターヘッドを見せてもらう話だったんですが、どうやら入る場所を間違ってたみたいで」
「そうなんですか。失礼ですが割り当てられた場所は?」
「えーと、たしかB区画の4番格納庫だな」
「それならひとつ隣の区画ですね。ご案内しますので着いてきてくださいませ」
悶えそうになる気持ちを必死に押さえつけ、早歩きでお2人を先導します。
「いやー、にしてもスゲーもん見れちまったな」
「ですね。まさかあんな男の下にあれほどの逸材がいるなんて思いもしませんでした。
可能なら思う存分技術談義をしたいところです」
「ハハハ、専門外の俺からしたら呪文にしか聞こえんだろうな」
お二人の会話を背後に聴きながらワタクシはビュラード様の騎体の収められている格納庫の入口に立ち止まり、おふたりに向き直ります。
「こちらにビュラード様の騎体が安置されてますわ」
「おう、悪かったなお嬢ちゃん。詫びがわりに俺の騎体を一緒に見るか? けっこう珍しい奴なんだぜ?」
「そうなんですか? えーと、ソープ様。ご一緒しても?」
「ふふっ、ボクは構わないよ」
「じゃ決まりな」
てなわけでワタクシも一緒に見物することなりましたわ。
「じゃーん、コイツが俺のモーターヘッドの『ブランジ』だ! 製作者を当てられた子には飴ちゃんをやろう!」
その騎体をひとめ見た瞬間、ワタクシは思わずビュラード様を2度見してしまいました。
その理由は、この騎体の骨格に酷く既視感があったからです。
なぜなら、ワタクシは過去この騎体の兄弟騎をある経緯で入手しているのだから……
(なんで『クルマルスシリーズ』の3番機『クルマルス・ビブロス』がッッッ!!? え、トラン連邦の象徴が何故!? というか、ビブロスの持ち主は確かミッション・ルース大統領だったわよね!?
え、その騎体がここにあるってことはビュラード様ってひょっとして……あ、そういえばアトロポスがメガエラ様の選んだマスターの名前にビュラードって……
うそ、やだ、つまりこの人って……!!! あぁ、でしょうね! そりゃ国際問題になりますわよ!!! 本来あのお披露目にこの方は居なかったのですから!!)
「お、どしたイーちゃん? 流石に見ただけじゃ製作者は分からないか?」
「ひゃい!? え、えええ!? そ、そうですわねぇ!! フレームの意向がA・トールに似てますし、まさか『セビア・コーター』公のものかしらぁぁあ!!?」
「マジか! ソープに続いてイーちゃんもすげぇな! 大当たり!!」
(でしょうねぇええ!! だって、ワタクシの祖国にクルマルス・シリーズの1番機『クルマルス・バイロン』がありますもの!!!)
やばい、これ以上この場にいたらボロが出そうですわ!! そんな焦りとキリキリ痛むお腹を抑えつつ、ワタクシは懐に入れていた端末に合図を出します。
(作戦遂行!! ポチッとな!)
瞬間、城の全ての電源が落ちる。
「…………どうか、お逃げ下さいクローソー様」
完全な暗闇の中、ワタクシは作戦の成功を祈るしかできませんでした。
用語解説
クーガー・フレーム
イー様がフルゴール建造の為にイチから設計したオリジナルフレーム。予算度外視かつ貴重な素材をふんだんに使っているために細身でありながらもかなりの堅牢さを誇り、後のリガリエッテ公国で運用される騎体にも少数ながら採用される。
何故イー様の国にバイロンがあるかの理由は本編でお出しますのでお待ちをば。