FSS─翡翠の雷光─   作:アマテラス、アンタちょっとガメツイよ!

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018:大物登場

「あー、その、お嬢? この美人さんはドナタ?」

 

 感動の再会(ハグで窒息しかけた)の後におずおずとバルカスが尋ねてきました。

 どうにかメイド長ことクロイツェフのハグから開放されたワタクシは乱れた髪を整えながら答えます。

 

「彼女はクロイツェフ……呼びにくいならクロエと呼びなさい。彼女はワタクシの剣の師匠で祖国の近衛騎士団団長兼侍従長ですわ。貴方たちの上司とも言えるわね?」

 

「……申し遅れました皆様、私はクロイツェフという者です。

 イーリスフィア王女殿下の仰る通り、今は国を追われた身ではありますがリガリエッテ公国王衛騎士団団長及び侍従長を拝命しているものです」

 

 ワタクシの隣に立つクロエは頭を下げると、なんだかバルカスは固まってしまい使い物にならないので代わりに騒ぎを聞きつけ合流してきたフェインとルベルが驚きを隠せない様子で言いました。

 

「リトルボスって……」

 

「ホントにお姫様だったんだな……」

 

「貴方たち、信じてなかったの?」

 

「いやだって、なぁ?」

 

「まぁ、なぁ?」

 

 2人はそういうの互いにみやり何かを思い出し、苦々しい顔を浮かべましたわ。何考えてるか分かりませんが、絶対失礼なこと考えますわよねコイツら? 不敬罪でケツ蹴り上げますわよ? 

 

「だって仕方ないじゃないっすか、お嬢ってばオフの時って基本上下ジャージか素っ裸で舘ん中歩いてるし」

 

「この前なんか街中のガキども引き連れて泥んこになって遊んでたの見りゃあな?」

 

「シャラップ!!」

 

 だぁ〜! なんでクロエの前で言うのかしらコイツら!! クロエ経由で彼女のパートナー・ファティマのシンクレアに知られたら小言で済めばいいけど、本気でお説教になったらワタクシ泣きますわよ!? 

 

「ふふっ、姫様はお変わりないようですね。私は安心しました」

 

 慌ててバカ2人を黙らせようとすると、不意にクロエが可笑しそうに笑いだしました。

 ……彼女にはクーデター日からずっと心労をかけてたでしょう。元気なワタクシの姿を見て安心してくれたのなら幸いですわ。

 

「おほん、とりあえずはここを離れましょう。豚野郎の兵たちが来るでしょうからね」

 

「それもそうだな。この娘は私が責任をもって保護させてもらう」

 

「? 何故にクローソー様が3世様に……?」

 

「はい、イリス様。私はコーラス様の元へ嫁ぎます」

 

「ワッツ!? え、ワタクシとクロエが話してる間になんか大事そうな場面を見逃した感じですの!?」

 

「あはは、そうなるかな?」

 

「いやー、おデコちゃん中々様になってたぜ? にしてもリガリエッテ公国のお姫様だとはなぁ……」

 

「あーあー! ここではオフレコでオネシャスですわ!! というかビュラード様も人のこと言えて!?」

 

「アー、ナニイッテルカワカラナーイ。オレ、タダノ騎士デース」

 

 こ、コノヤロウ……! チョケたことを抜かすヒゲオヤジにキレそうになりますが、今はとにかくこの場を離れることが先決。

 フェインに連絡を取ろうとした時。

 

「見つけたぞ!!」

 

「ッ! ユーバーの兵たちが……!」

 

「む、不味いなこれは」

 

「あー、どうしましょ! ん〜〜〜〜!! とりあえずバルカスとルベルはフェインと逃げなさい! 

 3世様はクローソー様をお願いしますわ! クロエ、貴方はまだ3世様についていて! 

 ワタクシとソープ様はここにいると不味いですからワタクシと一緒に離れますわよ! ビュラード様は…………なんかこう、適当にアドリブでどうにかなさって!」

 

「りょ、了解!」

 

「うす!」

 

「委細承知したイーシェンの娘よ」

 

「承知しました姫様」

 

「わかったよイリスちゃん」

 

「なんか俺だけ雑じゃね?」

 

「ん! あ、あと人前で本名で呼ばないでちょうだいね! 今はイリス・クリィムヒルトだからそこんところよろしく!」

 

 てなわけで至って平成を保ち、クールに去りますわ〜! としようとしたところで心身が冷え込む圧を感じ取り、思わずそちらを見ればワタクシ達を見る複数の人影が見えまして。

 

(ヤバいですわ。あの人たち、戦ったら殺されますわ)

 

 冷や汗とともにワタクシはその人たちを冷静に観察します。白いマントで身体を覆っていますが、顔だけは顕となっています。男性3人に女性1人という構成で一人一人が恐らくはクロエ並の実力者。

 そして、なによりも片目が機械化されてる巨漢の人が最も強いですわね……

 

「ミラージュ騎士……」

 

「あれが、皇帝アマテラス直属のミラージュ騎士たち……」

 

 ビュラード様の呻くような声とともに彼らがどんな存在かを知り、ワタクシは改めて唾を飲み込みます。

 何故ここにいるのか気にはなりますが、とっととズラかろうとしました。しかし、時既に遅しというかビョイト率いる兵たちが現れてしまいました。

 

 仕方なくワタクシとソープ様は物陰に隠れ、成り行きを見守ります。

 

「大丈夫でしょうか? いや、これだけの実力者を前にして馬鹿な真似はしないでしょうけれども……」

 

 いや、でもなぁ〜? そんな心配を抱きつつ見ていると。

 

「おぉ、コーラス3世陛下! クローソーを見つけてくださいましたか……これは申し訳ない。飛んだお手数をおかけ申した。探しておったのですよ」

 

 クローソー様はビョイトから隠れるように3世様に抱かれ、そこに割って入るかのように先程の片目が機械化された方から声をかけられます。

 

「『マタレヨ、ビョイト卿!』」

 

「……機械音声(マシンボイス)

 

 合成音声と生身の声が混じった失礼ですが不快な音質の声でビョイトへ説明をしました。

 

「は? スパコーン殿、なにか?」

 

「多少ノトラブルガアッタヨウダガ、クローソー殿ハタッタ今コーラス陛下ノモトヘ行カレル意志ヲ示サレタ」

 

「な、何と申した!?」

 

 ビョイトはその説明に目を見開きます。まぁ、でしょうね。大事な客寄せパンダが知らぬ間にお手つきされてるんですもの。

 そして、スパコーンという名の方の説明を引き継ぐようにミラージュ騎士の方々も口を開きました。

 

 話を要約すると、星団法で騎士級の人間が4人以上いれば略式のお披露目になるから君らはもう帰っていいよ、との事ですわ。

 

 うるせー、シラネー、死ねー、と出来れば楽なんでしょうが目の前にいるのは全員が天位級の実力者。そんな素振りを見せればあっちゅーまにナマス切りにされてしまいます。

 

 てなわけでビョイトは中間管理職の悲哀を滲ませながら兵たちを引き連れて帰っていくのでした。なんか、見てるこっちが可哀想になってきましたわね。完全に恫喝ですわよこれ? 

 

「まぁ、クローソーが無事ならいいんじゃないかな?」

 

「ですわねぇ……あら、3世様がお呼びですわねソープ様」

 

「うん、そうだね。じゃ行こっか」

 

 ソープ様と隠れていた物陰から出て皆様の元へと戻ります。

 

「しかしまぁ、あれがミラージュ騎士……見た目もさることながらおっかねぇですわ! 

 クロエ級の騎士が4人とかやべぇですわ」

 

 見て見て、まだ鳥肌立ってますわ……! というか、最後にスパコーン様はソープ様のことを見てたような? まぁ、どうでもいいことですわね。

 

「彼らは連邦の要請を受けて来ていただいております。陛下にはなんの不都合もございません」

 

「すまぬなボード卿。だが、お陰で素晴らしい宝を持って帰ることが出来よう」

 

「よかったね、クローソー。幸せになるのだよ?」

 

「クローソー様、どうか健やかにお過ごしください。ワタクシの願いはそれだけです」

 

「はい、ありがとうございますソープ様、イリス様。……ソープ様、ラキシス姉様を……」

 

 クローソー様はソープ様の手を取り、泣きそうな顔になりながらもソープ様のお顔を見つめて言いました。

 

「私、ソープ様が好きです。でも、でも……ラキシス姉様はもっともっとソープ様のことを10年もの間ずっと信じ続けて待っておられます」

 

 クローソー様のおっしゃている事でようやくワタクシは気が付きました。ラキシス様の約束の相手が誰なのか。彼女が一体誰を待ち焦がれていたのかを……

 

「大丈夫だよクローソー。ボクはここにいる、あとは分かるね?」

 

「……はいっ」

 

 ソープ様の言った言葉に意図が理解できたのはクローソー様とワタクシだけ。他の方々は分からないのは無理がありませんわ。

 

「では、陛下ひとまず失礼します。後ほど城にてまた」

 

「3世様、時間があればお話を伺いに行ってもよろしくって?」

 

「無論だとも。クロイツェフも積もる話があるだろうからね」

 

「ご厚意に感謝いたしますコーラス陛下。では姫様、後ほど」

 

「えぇ……またねクロエ」

 

 最後にクロエとハグします。6年ぶりの家族とも言える存在と再会できた幸運を噛み締めワタクシは城へと戻るのでした。

 

「にしても、今回のお披露目はとんでもねー事態になりそうだわ。

 コーラス陛下にクロイツェフってぇと……確かフィルモアの元ハイランダーだよな? んでもってその主の姫君か……

 ついでに言えばA.K.D.の皇帝アマテラスとミラージュか」

 

「ですね。思いもよらない出来事ばかりで楽しめてますよ」

 

 意味ありげにソープ様はビュラードを見遣りますが、本人はニヒルに笑うのみ。

 なんというかここにいるワタクシ含めた3人って色々と隠し事多いですわね! 

 

「ワタクシはただのイリスですわ! 今はそれだけでよろしいんでなくって?」

 

「ナハハハ、そりゃそうだ! ……ところでイーちゃん、後であの別嬪さん紹介してくんない?」

 

「クロエはあげませんわ!!」

 

 何ワタクシの姉同然の人に手を出そうとしてやがるんですのよヒゲオヤジ! ぶち殺しますわよ!! 

 

 

 

 

「いやー、にしても色々とびっくり致しましたわ」

 

「クローソーは良き人に巡り会えたようで良かったです」

 

「ええ、コーラス3世は人徳のある素晴らしい方ですわ。決して悪いようには扱われないでしょうね。

 それでラキシス様、貴方様の待ち人が来ない場合ですが……ワタクシを一時的にマスターとして貴方様を連れ出す手筈となっておりますが、構いませんか?」

 

「…………はい、それで構いません」

 

 ラキシス様はそう言いますが、その表情は悲しげです。はー、ヤですわねこんな間男みたいな役回り!! てか、こんなに想われてるのに件の約束した存在はなんで迎えに来ないのかしらね!? 

 他人事ではありますが、腹たちますわよ!! 

 

「にしても、随分とまぁユーバーの奴はきな臭いことをやろうとしてるみたいですわね」

 

 ラキシス様のお部屋の窓から見えるのは領主館の上空に浮かぶ大型の赤いエア・ドーリーの姿。

 その外観は民間のものとは違い、軍事兵器を搭載し武装したもので秘密兵器にバスター砲を積み込んだちょっとした要塞級の代物ですの。

 

 そして、ユーバーは集めたお客様たちの前にデモンストレーションとして格納していた3騎のモーターヘッドを降下させました。

 ワタクシが手を加え、性能の向上したデコース様とトローラ様のバルンシャとデヴォンシャ。

 そして、ユーバーの奴が金にものをいわせて輸入した前述した2騎の『デヴォンシャ・シリーズ』を制作した『パラベラム・スターム』公の見るからに重そうな装甲が特徴の『ヘルマイネ』が重々しく着地しましたわ。

 

「はぁ、どんな名騎もあんな俗物が持てば曇って見えますわね。ヘルマイネが可哀想ですわ」

 

 何が悲しくてワタクシが手を加え、カリッカリにチューニングを施したのに扱うのがユーバーなどという騎士ですらない成金の俗物が扱うの見ることになるのか……あー、キレそ! 

 

「でも、アイツのお陰でフルゴールの建造を大幅に短縮できたんですのよねぇ〜」

 

「イリス様はモーターヘッドをお造りになってるの?」

 

「んぇ? あぁ、はい。そうですわよ。名前はTheJ.O.F.(ザ・ジェイド・オブ・フルゴール)といってワタクシの大切な子供ですわ」

 

「そうなんですね。とても大切にされてるようだわ」

 

「ええ、はい。ワタクシが持てる全てを結集して作り出した最高傑作ですもの。

 三大モーターヘッドにも劣らない、最強の騎体ですわ」

 

 ワタクシのフルゴールならば三大モーターヘッドなんて何するものぞですわ! レイラとワタクシ、ポラリスの4人が集まればちょちょいのちょいですもの。

 

「ふふっ、あの人とおなじマイスターなんですね。……私、約束したんです。あの方の作った輝きの褪せることのない『黄金の騎士(ナイト・オブ・ゴールド)』の前で結婚式をするんだって……」

 

「素敵な約束ですわね〜。ワタクシもいつかそんな結婚式を上げてみたいですわ〜!」

 

「イリス様なら素敵な人を見つけられますよ」

 

「ふふ、どうでしょう。でもそうだといいですわね」

 

 最低でもワタクシと同じか少し弱いくらい強くて賢くて下手な野心を抱かず、堅実な政治のできる人がいいですわね。

 

 キャッキャッとラキシス様と女子トークをしつつ、名残惜しいですがワタクシって意外と忙しい身ですのでラキシス様のお部屋を後にします。

 

 目的地はフルゴールのいる格納庫。そろそろ本格的にトンズラをこくために最終調整を済ませないといけませんわ。

 

「おん、おデコちゃん?」

 

「や、イリスちゃん」

 

「あら、ビュラード様にソープ様? 格納庫になにか御用?」

 

 道中にすっかりコンビみたいな関係のおふたりが目に入り、同じタイミングでワタクシを見つけたおふたりにワタクシは尋ねます。

 

「おう、これからヘルマイネ達の中身を見に行くんだよ。イーちゃんも丁度いいし来るか?」

 

「んー、別にいいですわ。あの子たちの整備はワタクシが担当してましたからね。

 今はフルゴールの建造を少しでも進めたいんですの」

 

「そっか。にしてもあの騎体、ほぼほぼ完成してるように見えたけど?」

 

「動かす分には問題はありませんが、それでもまだまだ細かな調整が残ってますの。追い込みってところですわ」

 

「ははー、マイスターってのは大変だねぇ」

 

「後でボクも手伝おうか?」

 

「ソープ様の申し出はありがたいですが、あの子はワタクシが一人で完成させるべきものです。

 王騎として、次期女王として必要なことなのですの」

 

「……そっか、わかった。頑張ってね」

 

「はい、では失礼しますね」

 

 おふたりと別れ、ワタクシ専用の格納庫へ。そこには既にレイラとポラリスがおりファティマコクピットの中でフルゴールのシステムの調整をしてくれてますわ。

 

「レイラ、ポラリス、フルゴールの調整はどう?」

 

「あ、お母様〜。はい、各種兵装、ロックオン補正、索敵や観測、騎体制御、演算システムに冷蔵庫の調整も済みました〜」

 

「兄貴、イツデモ行ケル。俺ト姉チャン準備バンタン」

 

「ふたりともご苦労さま」

 

 改めてワタクシは自分が生み出した騎体、TheJ.O.F.を見つめます。

 

「貴方の力がきっと必要になるわ。力を貸してねフルゴール」

 

『────』

 

 ワタクシの言葉に返すようなフルゴールからは低く力強い駆動音が響き、彼の目が瞬きました。

 

 きっと、ラキシスのお披露目は荒れるでしょう。その時からワタクシはイリス・クリィムヒルトではなくリガリエッテ公国第1王女イーリスフィア・ゼノ・リガリエッテに戻る日でしょうね。

 

 

 

 

 その日の作業を終え、夜も更けた頃にワタクシは自室にてレイラの髪を梳いていると入口のドアが外からノックされました。

 

『姫様、私です』

 

「クロエ?」

 

「ふにゃ? クロイツェフ様ですかぁ?」

 

「ええ、そうよ。今開けるわね」

 

 小走りで扉に近づき、扉を開けるとそこには廊下に立つクロエの姿が。

 

「入ってもよろしいですか?」

 

「もちろん! さ、入って入って」

 

 ワタクシは歓迎し、クロエは入室するとベッドにいたレイラに気が付き目を丸くします。

 

「そのお姿、レイライン様ですか?」

 

「あ、はい! レイラインですぅ。えーとお久しぶりです、クロエ様…………」

 

「成人なされたことは知っていましたが、こうして再会できたことに何よりも嬉しく思います」

 

「あ、えへへ、はい。レイラインもそう思います」

 

 まだ小さかった頃に遊んでもらったことのあるクロエにレイラは安心したように笑います。

 

「オ袋、姉チャン。誰?」

 

 すると、部屋の隅にいたポラリスがドラム缶ボディの目をピカピカ光らせて尋ねてきました。

 

「あら、このロボットは……?」

 

「はいっ、この子はポラリスでレイラの弟ですぅ」

 

「俺ポラリス、エトラムル、宜シクナ美人ナネーチャン」

 

 ポラリスは言うとボディの前面をパカリと開き、本体を彼女にみせます。

 

「エトラムルム……? え? どういうことですか、姫様?」

 

 目を瞬かせて聞いてきたクロエにワタクシは苦笑しながら教えてあげました。

 

「以前留学中に師匠に預けてた論文があったのだけど、それに興味を持った師匠のご友人が元々この子を預けてた師匠にワタクシへ教育を任せる話になったらしくって押し付けられた次第ですわ」

 

「な、なるほど……それにしても、エトラムルですか。エトラムルってもっとこう……機械的なものかと思っていましたがこの子はなんて言うか」

 

「情緒がある?」

 

「ええ、はい。何処と無く仕草に姫様の面影が見え隠れしますね」

 

「ねぇ、それってワタクシがバカっぽいって言いたいのかしら?」

 

「…………ソンナコトアリマセンヨ?」

 

 おい、こらメイド長。きちんとワタクシを見て言いなさい? 

 

「「ふふっ」」

 

 ワタクシとクロエは同時に吹き出してしまいました。城にいた頃は良くこうしてくだらない話しで笑いあっていたのも思い出し、本当に目の前に家族と呼べる人がいるのだと実感をもてます。

 

 可能ならこのままお話をしていたいところですが、そうもいきません。ワタクシはクロエと向かい合うようにして席に座ると尋ねました。

 

「……クロエ、事の経緯を教えてくださる?」

 

 あの日、ワタクシが祖国を追われた日からの出来事を。

 

「……はい、あの日から我々王国近衛騎士団と女王陛下、ご子息の殿下たちは離宮にて軟禁されておりました。

 しかし、叛徒たちの隙をついて我々は逃亡しましたが敵の数が多く女王陛下は我々を逃すために殿として残られ、背信者たちを前に戦いました」

 

「当然私も共に残ろうとしたのですが、陛下からは殿下たちを守るようにと命じると共に王家の証である剣を私に預け、私は部下たちと共に殿下たちを連れ姫様の工房に安置されていた試作騎とクルマルス・バイロンを奪取し、逃亡した次第であります」

 

 悔しげな顔を浮かべ後悔と口惜しい思いとともに絞り出すクロエは辛そうでしたわ。

 長い間仕えてきた主君でもあるお母様を敵地に残して自分は逃げるのだから、騎士として何より友人としてその内心は酷いものでしょう。

 

「そして、その後に女王陛下から言われていたこともあってコーラス王朝へ亡命し、コーラス3世の庇護の元我々の身柄は保護されました」

 

「そう……『スリービースト』を。あの子たちも祖国の未来のための大切な騎体です。よく、逆賊共に奪われないよう確保してくれましたねクロエ」

 

「……いえ、女王陛下を守れず叛徒たちを前に逃げるしかできなかった私は近衛として失格でございます。

 この不徳、次期女王たる貴方様の処罰いかようにも受けましょう」

 

 クロエは言うと、膝を着き腰から下げていたリガリエッテ公国で女王が持つ証である剣を掲げワタクシに差し出します。

 その姿は裁きを待つ罪人のようであり、実際彼女の内心は咎を受ける罪人なのでしょうね。

 

「はぁ、貴方のそういう自罰的なところはダメよ? というか、そもそもあの時は王侯貴族やワタクシの配下となるはずだった子息たちが反逆したのです。

 油断しきってたところに噛み付かれたのですから仕方の無いこと。それに、王騎であるフルゴールとレイラインは未だワタクシの手にあります。

 王権たるこのふたつとこの剣があれば正当性は我らのもの。いずれ背徳者たちを始末し祖国へ凱旋するためには貴方の力が必要ですわ。

 ……それでも納得出来ないのなら、そなたの変わらぬ忠誠と献身を我と祖国に捧げるが良い」

 

 差し出された剣を受け取り、ゆっくりと鞘から抜き放てば切っ先をクロエの肩に当て告げます。

 ワタクシからの命令をしかと聞いたクロエは深く頭を下げました。

 

「……御意に。王女殿下の勅命、しかとこの不徳の身に刻み込みます。

 我が身、我が命、我が剣、尽き果てるまで貴方様と公国に捧げましょう」

 

「良し。その言葉、しかとこのイーリスフィアが受け取ろう。…………はい、堅苦しいのは終わり! 6年ぶりの再開なんですからもっとこう楽しい会話をしましょ! 

 レイラもポラリスもこっちに来なさいな!」

 

「はーい、わかりました〜」

 

「オッケー」

 

 王族モードなんて肩がこるだけですわ!! おら、女子会しますわよ女子会! 

 

 てなわけで久方ぶりの再会を祝し、ワタクシたちは夜遅くまで話し込むのでした。

 

 

 用語解説

 

 ・スリービースト

 

 イー様がフルゴール建造の片手間にリガリエッテ公国の次期主力量産機として建造をしていた試作騎たちの事を指す。

 群島国家という周囲を海に囲まれた国柄のため、従来のモーターヘッドでは攻め込まれた時に戦力の展開に問題とリスクがあることは前々から判明していた為にイー様がその対処のために敢えてモーターヘッドのもつ万能性を排してそれぞれに陸、海、空への戦闘能力を特化させた特徴を持つ。

 陸戦型の『ランド1』水陸両用の『アクア2』空戦型の『フライ3』の3騎を纏めてスリービーストと名付けられた。

 

 量産を前提に設計したのもあって、フレームはライオンフレームを用いてパーツには互換性と高い整備性と生産性を持たせてるためにいざとなればどれかの騎体のパーツを共食いさせることも可能。

 

 フルゴールとの共闘も考え、フルゴールから放出される余剰エネルギーの吸収機構があり共にいる限りエネルギー切れの心配はなく、コーラス・ハグーダ戦争に於いてフルゴールと共に戦場を駆け巡り敵の布陣を食い破る活躍を見せることとなる。




ちなみにバイロンにはクロエが乗ってます。現在刊行されてる原作単行本最新刊に出てきてないし、ネット調べてもバイロンの姿が出てこないからどんな見た目してるのか知らないんですけどね!!
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