FSS─翡翠の雷光─ 作:アマテラス、アンタちょっとガメツイよ!
「オーライオーライ!」
「ストップ、ですわ〜!」
ツナギにヘルメット姿のワタクシ、隣にはソープ様が立って作業の陣頭指揮をとります。
最初はヒラヒラとした私服のまま出ようとしてましたソープ様ですが、バチボコ現場猫案件でしたので即座にお説教と共に髪を縛って服装もツナギに変えてヘルメットを被せましたわ。
最後らへん半泣きになってましたけど、命には代えられませんことよ〜!! (半ギレ)
「ヘルマイネの各種予備パーツ及びデヴォンシャ、バルンシャパーツの欠品及び記入漏れはありませんわね」
「うん、そうだね。じゃあ地下まで運んでおいて」
今行ってる作業は先日行われたのユーバーのデモンストレーションにて運び込まれたヘルマイネのパーツの納品作業です。
一応ワタクシとソープ様が整備のツートップですのでその監督作業と納品書の確認のため立ち会いで行ってるのですわ〜。
作業も終わり、ワタクシたちは屋上へと登り風を浴びていました。
「にしたって昨日のユーバーのあの腹いせの行動、性格悪すぎですわよね。3世様とクローソー様に恥を掻かせるような真似をさせるなんて」
「そうだね。でも、アマテラス陛下が、助け舟をだしてくれたから助かったよ」
ワタクシ達の話題は昨日のことです。あのデモンストレーションのときにワタクシはその場にいませんでしたが、ユーバーのやつは見せしめにするようにして3世とクローソー様にモーターヘッドの
しかし、クローソー様は生来の性格ゆえかは分かりませんがモーターヘッドに脅えており、3世様はこの提案を拒否。
しかし、ユーバーはクローソー様を3世様に嫁いだことによる腹いせか、お客様たちの前で恥を掻かせるようなことをしましたわ。その後すぐにアマテラス陛下が間に入ったことでそれ以上のことはありませんでしたが……ほんと、器が小さい男ですわね!
「……それにしてもいよいよ明日ですか」
「そうだね。星団中の大物を前にしたお披露目だ」
明日になればラキシス様は正式にマスターを決めることとなります。一応手筈ではワタクシを選ぶことになっておりますが、彼女が本来マスターとして選ぶ方はワタクシの隣にいますわ。
「ソープ様」
「うん? なんだい」
「ソープ様は昨日、お茶会で歴史に残すようなモーターヘッドをお作りになりたいとおっしゃてたんですね」
「うん、そうだよ。ある人との約束でね。今思えば大変な約束をしちゃったよ」
「それって、ラキシス様……と、ですか?」
ワタクシがそう言えば、ソープ様は僅かに固まった後に困ったように笑います。
「……君は全部知ってるんだね」
「ラキシス様の約束の相手までは分かりませんでしたが、ベトルカでクローソー様が仰ったことで漸く確信をもてましたわ。
……貴方はそのためにここにいらっしゃったのでしょう?」
気がつけば周囲には音が消え、ワタクシとソープ様のみ。
微かに遠くから聞こえる機械の稼働音が聞こえる中でソープ様の顔をじっと見つめ、ソープ様の瞳がワタクシを映しています。
「…………本来の計画では嘘とはいえ、ワタクシをマスターとしてラキシス様を娶りユーバーの元から逃亡しモラード師匠のもとへ預ける手筈でしたわ。
ですが、あの方の本心はそんなことを望んでおらず、今も貴方のことをお待ちしております」
「そう、なんだ」
「はい。ですから、必ず迎えに行ってください。そして、彼女を、アトロポスの妹を泣かせるようにしたら怒りますわ」
「……うん、約束だからね」
「はい、もし破ったらワタクシがフルゴールに乗ってぶん殴りに行きますわ」
「本気かい?」
本気と書いて"マジ"と読むくらいには。
「そっか。それは怖いね」
ソープ様はそう言うと屋上の縁へと腰掛けます。物憂げなその横顔は美しくもあり、どこか退廃的な雰囲気を抱きましたわ。
「……貴方は恐怖を感じてなさるの?」
ワタクシは何故かソープ様がラキシス様へ恐れを抱いていると分かりました。しかし、それは他者を排するものではなく慮る意味であると。
「ッ、君は随分と聡い子だな。……うん、その通りさ。ボクはラキシスをファティマを愛することが怖いんだ」
「……」
ソープ様の表情はまるで迷子の子供のようでした。親とはぐれ、自分がどこに進めばいいのか分からないそんな幼子のような。
ワタクシはソープ様の隣へそっと腰をおろし、そこから見える景色を眺めながら独り言を呟きます。
「ワタクシも同じような気持ちを抱いたことがありますわ。……初めてワタクシはレイライン……ワタクシの創り出したファティマを初めて抱いた時に『私はこの子の親になれるのか? 傷つけてはしまわないか?』と思いましたわ」
「……」
「多少違うのでしょうが、きっと根っこの部分では相手からの好意に応えられるのかわからないのでしょう?」
「そう、だね……うん、ボクは彼女から向けられる無償の好意や愛に応えることができるのかわからないんだ。無遠慮な言葉を向けてしまい傷つけてしまうかもしれない。
……それに、昔に
逃げてしまおうかと思うボクはきっと冷血なロクデナシなんだろうね」
一瞬、本当に一瞬だけソープ様の髪色が白くなり瞳も紅へと変わった姿を幻視しました。けれど、瞬きをした瞬間に元のソープ様に戻っており、先の姿は幻だったのでしょうか?
「ワタクシはまだ恋なんてしたことはありません。誰かを夫として迎えるのでしょうが、それがどんな人かも分かりませんわ。
……でも、ソープ様はラキシス様との約束を覚えていたから大切だったからここに来たのでしょう?
本当にどうでもいいのならそこまで悩むこともしませんし、覚えてることも無いはずですわ」
そっとソープ様の手をワタクシは両手で優しく包み、ゆっくりと頬に当てました。
確かに脈動を感じ、暖かなその手はソープ様が優しい人であると示しております。
「どうか恐れないで、レディオス・ソープ。貴方はきっとあの子を愛してあげられる。
貴方は冷血でもなければ、ロクデナシでもない。今ここにいて悩み苦しみ、そして真摯に応えようとする優しい人よ?」
「イーリスフィア……」
風が吹き、それぞれの髪を揺らし瞳に互いの顔を映し出す。
「だから、怖くても逃げないで。きっとその選択をしたら貴方はずっと後悔することになる」
その言葉を送ると手を離し、縁から降りました。
「ソープ様、あちらを見てあげて」
最後にそう言い残し、ワタクシはその場を後にします。
「…………」
ソープは手のひらに残る不思議な少女の頬の温かさを確かめるように手のひらを握りしめた。
「あっちの方を見て、ね」
彼女が去る前に言い残した言葉を思い出し、ソープは言われた方へ視線を向ける。
その瞬間に、息を呑み目を僅かに見開いた。
「ソープ様……?」
偶然かもしれない。けれど、確かにそこには窓辺にたち自分を見つけた栗色の髪の乙女がそこに居たのだ。
10年越しの再会、遠いけど近い。けれど確かにそこにいる。大切な約束をした彼女が。
「ラキシス……」
時間にして1分にも満たない短い邂逅。
けれど、確かに互いを認識する。
永い永い『
そして、お披露目当日。周囲には絢爛たるドレスや礼服に身を包んだゲストたち。
星団中の人々が注目し、期待し熱中するバランシェ・ファティマの最新作であるラキシスのお披露目会場。その中にワタクシはいました。
「あわわわわわ、来ますわよね? 来てくれますわよね? 来てくれないと困るんですがねぇ〜……」
「まぁ、落ち着きたまえイーリスフィア。こういう時は深呼吸だ。ひっひっふーとしたまえ」
「コーラス様、それだとラマーズ法になってしまいますよ?」
「2……3……5……7……11……13……17……19……23……28……いや……ちがう29だ。29……31……37……38」
落ち着くんだ……
『素数』を数えて落ち着くんだ……
『素数』は1と自分の数でしか割ることのできない孤独な数字……
ワタクシに勇気を与えてくれる。
「なんだと、素数になそんな効果が……!?」
「多分イリス様だけの独特な落ち着き方です。素数にはそんな効果は確認されていませんよ」
「姫様は昔から変な落ち着き方を使ってますからね」
「オ袋、38ハ素数ジャネーヨ」
よし、落ち着きましたわ!!
「ご迷惑をおかけしましたわねクローソー様、コーラス様!」
そして隣にはクローソー様とコーラス様。ワタクシの隣になクロエとポラリスがおりますわ! なんかコントをしてたような気もしますわね。
昔にお母様が学生時代に御学友だったコーラス様や今のお后である『エルメラ』様や現トリオ騎士団団長の『アイリーン』様の話を聞かされたことがありますが、コーラス様は意外と茶目っ気のある人みたいですわ。
今回のお披露目も何処で見てよーか迷ってるとたまたまコーラス様に遭遇し、どうせなら一緒に見よーぜというお話になりましてコーラス様の観覧席であるロージュ──壁にあるあの席ですけど──へとご案内されましたの。
「それにしてもイーリスフィア」
「はい、なんでしょう?」
「クロイツェフから聞いていたが、君は自分で生み出したファティマがパートナーであると聞いたが傍にはいないのかな?」
「あー、レイラインですか? あの子は……」
折角だからお披露目の出来なかったあの子にせめてお披露目の空気がどんなものか見せてあげたかったのですが……
『無理です〜! レイラは知らない人達が周りにいるだけで蕁麻疹が出るくらい苦手なんですぅ〜!
レイラはこのお布団バリアから絶対出ませんンん"ん"ん"ん"ん"!!! ふにゃー! みしゃー!! うにゃにゃにゃ〜!!』
ワタクシの部屋のベッドにしがみつき、布団に包まって抵抗されてしまい断念しましたわ。仕方ないからポラリスを連れてきましたが。
途中ロージュの入口にポラリスの魅惑のドラム缶ボディが挟まってしまうハプニングもありましたが、現在こうして観覧できてるので問題ありませんわ! (幅が著しく広がった入口を見ながら)
「ふむ、残念だ。イーシェンの娘がファティマ・マイトであると聞いていたからどんなファティマを生み出し、パートナーにしたのか見てみたかったのだが」
「うちの娘がすみません……悪い子では無いのですよ?」
「姉チャン、優シー。毎日ボディピカピカ」
「ふふっ、よく手入れされてますね」
クローソー様はボディを見せびらかすポラリスの頭部分を撫でてあげれば、ポラリスはマジックハンドをぐるぐる回して喜びました。
「そういえば、君はモーターヘッド・マイスターでもあるのだな?」
「ええ、はい」
「良ければだが後で君に幾つか聞きたいことがあるのだ。私もとある事情でモーターヘッドの設計をしているのだが、どうしても改善できない箇所があり専門家の意見を聞きたい」
「……それって明らかに国家機密でなくって?」
「ふふっ、オフレコというやつだよ。どうかな?」
イケメンフェイスと甘い声で囁くのやめてくださいません? メスになりますわ!!
よくお母様、こんなイケメンが居たのに堕ちませんでしたわね!!
「ええ、もちろん構いませんわ。では、お披露目の後に」
「うむ、感謝する。……そろそろ始まるな」
「ラキシス姉様……」
心配そうなクローソー様の手をワタクシはそっと握ります。
「大丈夫、きっとあの方は来てくれますわ」
「……はい、きっと」
寧ろ来てくれないと困りますわ!!
そんな切実な思いを表情に出さず見守っているとユーバーが舞台の上にたちホールへよく響く声とともにゲスト達へ告げます。
「お集まりになった紳士淑女の皆様! 今日ほどこ私めがの舞台に立てたことを光栄に思ったことはありません……!
ですが、長々と前口上をするつもりはありませんとも! さぁ、どうぞご覧ください!
これが今回のファティマ」
ユーバーの背後の幕が上がり、スポットライトがその奥に控えていたラキシス様の姿を照らしました。
「クローム・バランシェ公の最新作! ラキシスであります!!!」
瞬間、ゲストたちの声がピタリと止まります。彼らの目にはラキシス様しか映らず、その美しさに目を奪われ息を飲んでいる姿があちこちに見えますわ。
「さて、お披露目の前に今回の見届け人……トラン連邦評議会のボード・ビュラード卿よりご挨拶を」
ユーバーはそう言い、カッチリとした礼装に身を包んだビュラードさまが舞台へと上がります。
にしても、あの人がこの国の大統領ミッション・ルースご本人って案外誰も気がつかないのかしらね?
そんなことを思いながらここ数日のちゃらんぽらんの様子とはうってかわり、ハキハキとした声で喋りだします。
「見届けを任されましたボード・ビュラードであります。星団法にもとづき、今回のお披露目が公正に行われることを……
ファティマは各王、騎士との謁見の後、本人の口より一名のマスターの名を口上とすること」
「万が一、ファティマがマスターとなるべき良人を認められ得ぬ時はこの地にとどまり、次の機会を待つこと!
そして王、騎士ならびにファティマ所有の権利を持つ者たちよ。ファティマの口より言い出しマスターの名に関しては一切の発言を慎むべし! 以上!」
ビュラード様はそう言い終えると、ユーバーが引き継ぎます。
「ではこれよりラキシスのお披露目を始めましょう!!」
そして、ついにラキシス様のお披露目が始まります。
次々と星団の大物たちが現れては短い時間で流れ作業のようにラキシス様の前に出ては次の人へ入れ替わります。
しかし、待てどもソープ様の姿はありません。
「クローソー、あれは本当に君の姉上なのかい?」
途中、3世様がクローソー様へ尋ねました。きっとラキシス様を見て何かを感じ取ったのでしょうね。……ワタクシも初めて見た時はなんというか言葉にできない雰囲気を彼女から感じましたもの。よぉく分かりますわ。
それなりの時間が経った頃、ついにお披露目で一番の大トリと呼べる方が現れました。
大国A.K.D.の皇帝アマテラスです。
「デルタ・ベルンのアマテラスです」
そう名乗り、アマテラス陛下はラキシス様の手を取りました。しかし、ラキシス様の顔は悲しげで周囲の人々は騒めきユーバーは冷や汗を浮かべています。
「ッ、早く来なさいよ……」
けれど、待てどもソープ様はお越しになりません。ついに最後のひとりがラキシス様との謁見を終えたのです。
「さて、皆さまよろしいか? では、ボード卿! ファティマの声を!」
(仕方ありませんか……)
ワタクシは懐にしまっていた端末を手に取り、ラキシス様へ合図を送りました。
これで、ひとまず時間稼ぎをするしかありませんわ。
「……ラキシス、マスターの名を」
ビュラード様が硬い表情でラキシス様へと尋ねます。ラキシス様は何度も逡巡する素振りを見せた後に小さく口を開き。
「イリ─────『待って!!!』ッ!!」
ワタクシの名を言おうとしたのを遮るように待ち焦がれた声が響きました。
んもぅ、遅いですわよ!!
そこには人混みを掻き分け、汗を流し息を乱しながら駆けるソープ様のお姿が。
ついにラキシス様の前に出たソープ様は手を広げ大きく叫びます。
「ラキシス!! おいで!!」
「ッッッ! はいっ! マスター!! ずっと、ずっとお待ちしておりました!」
花開いたような笑顔とともにラキシス様はソープ様の腕の中への飛び込み、強く抱擁を交わしました。
「ば、馬鹿なッ! ヘッドライナー以外の者にマスターなどと……!!」
「やはり! あのファティマは狂っていたのか!!」
「つっ、捕まえい! こんなことが、こんなことが許せるものかぁ!!」
みっともなく叫び散らかすユーバーの命令が響き、兵たちはお二人を捕らえんと現れました。
お二人は直ぐに走り出すと同時にワタクシはポラリスに持たせていた包みを受け取り、ロージュの縁に足をかければ一息で飛び降ります。
「パパラッチはお断りでしてよ〜〜〜!! しゃあっ、
クロエから渡されたリガリエッテ公国の歴代女王が受け継いできた剣を用いて、超高速の抜き打ちによる剣聖剣技を放ちます。
兵たちに当てないよう気をつけながらカーペットの敷かれた床を一直線に切り裂いて兵たちの歩みを停めればワタクシは彼らの前に立ち塞がるように着地。
「これより先は通行止めだ!
ここを通りたくばリガリエッテ公国第1王女イーリスフィア・ゼノ・リガリエッテを打ち倒して見せよ!!
そのような気概を見せる者は大いに結構。しかし、その境界を超えた時は命がないと思え!」
「ッ!! イリス! 貴様、何のつもりだ!! それに、王女だと!?」
ビョイトが唾を撒き散らしながらワタクシへと怒鳴りますが、ちっとも怖くありませんわね。
「構わん! 排除しろ!!」
ビョイトが命令し、兵たちが銃口の引き金を引きました。けれど、銃口からビームが放たれる直前に2つの疾風が吹き荒れ兵たちをなぎ倒しました。
「ふふっ、今の口上かっこよかったわよイーちゃん?」
「姫様! 後先考えずにやりすぎですよ! ……ん? げぇえっ!!?」
光剣を手にしたクロエとドレス姿のお婆さん……え、嘘!! このお婆ちゃんは……!
「「
ワタクシは嬉しさを隠せず、クロエは悲鳴混じりにその方の名を叫べば当の本人の慧茄・ダイ・グ・フィルモアはにこやかに笑っています。
「はぁい、久しぶりねイーちゃんとクロエ」
「なんでここにおばあちゃまがいますの!? ワタクシびっくり!」
「え、ええええ、え、慧茄様!? ま、まさか私を連れ戻しに来たんですか!? 嫌です、もう絶対に私は戻りませんから! 私の居場所はイーちゃん様達のところですからね!?」
「んもぅ、イーちゃんの反応は嬉しいけどゲェ! は流石におばあちゃん悲しいわ! 折角数十年ぶりに可愛い孫と会えたのにハグのひとつも無いの?」
「無理です! 無理無理無理!!」
「クロエ、貴方って剣聖に対してのトラウマってまだあるの?」
「そう言いますがね慧茄様! 小さい頃にいきなりダグラス・カイエンの前に出されて肩砕かれたり、鍛錬だからってダブル・ヘキサグラムをぶん投げられりゃトラウマのひとつふたつみっつ持ちますからね!!」
普段の凛々しい様子からは想像できないほどビビり散らかしたクロエですが、その手は淀みなく兵たちをシバキ回しており慧茄おばあちゃまも真空投げで兵たちが転げ回ってますわ。
「これワタクシ必要?」
「ふふっ、イーちゃん。貴方は貴方のやるべき事をやりなさいな! ここは私たちに任せて先に行きなさい!」
「姫様! クロイツェフは何時でも貴方のお傍にいますので!!」
「ッ、はい! 分かりましたわ! 心配いらないでしょうが、お二人ともお気をつけを!!」
そう言い残し、ワタクシはフルゴールのいる格納庫へ全速力でかけ出します。
イーリスが走り去った後に残るのはクロエと慧茄の視線が絡み合い、クロエは光剣の切っ先を己の祖母へ向けた。
「ひとつお尋ねします慧茄様。あのクーデターの手引き、フィルモア帝国の手引きですか?」
「……なぜ、そう思ったの?」
「クーデターの日に叛徒達の用いたモーターヘッドにブーレイ傭兵騎士団のブーレイがいました。あれは偽装されていますが、中身はわが祖国フィルモアのサイレンであることは知っています。
なぜ、あのようなことを?」
有無を言わせぬクロエの気迫に慧茄はなんとも言えない顔とも共にため息を着くと、徐に指をとある方向へむけた。
兵を気絶させながらクロエは慧茄の指した方向へ見た瞬側にとんでもなく嫌そうな顔をして慧茄に向き直る。
「……ひょっとしてあのことですか?」
「ええ、あのことよ」
2人にのみ通じる話題、それの意味は遠くないうちに判明するだろう。程なくして兵たちはソープ達を追うため、彼女たちを迂回するのだった。
「レイライン!!」
「はい、お母様! 既にエンジンはアイドリング状態で待機してます!」
「流石私の娘!」
フルゴールの胸部騎士殻へ飛び移ればワタクシの全身を覆い、モニターへ光が灯る。
「さぁ、行きましょうレイラ、フルゴール。貴方たちのお披露目よ!!」
『イェス、マイマスター!! 行くよ、フルゴール!』
レイラの呼び掛けに応えるように高いイレーザー音が轟き、遂に雷光が目を覚ます。
「な、なんだ!?」
「イレーザー音!?」
「あっちの方向からだ!!」
騒然した城内に突如として響き渡る甲高く歌うような澄んだ特徴的な高音。
ゲストの何人かが足を止め、そちらを見た。
閉じられた格納庫の扉が内側から破られ、破砕音と土煙を引き裂いて現れた一騎のモーターヘッドを見てその場にいた者達は息を飲む。
荒々しくも神々しい翡翠を思わせる翠の装甲、天を衝くかのごと聳えた角。
周囲には雷を思わせるスパークが迸り、現れたるは星団に於いて最強の機動兵器モーターヘッド。
片手には全長に迫る巨大な剣槍を掲げたその騎体は徐にある方角へ身体を向ければ、腰部より伸びていたパーツが展開され変形を開始。
その姿はまるで神話の人馬ケンタウロスの如き姿へ変わったと思えば僅かに膝が曲がる。次の瞬間、雷鳴が轟くような音と衝撃が周囲に轟く。
空気を破裂させる音により堪らずゲストたちは耳を塞ぎ、収まった頃に顔をあげるが視界には巨大なクレーターが残るのみで、モーターヘッドの姿が消え失せていた。
そして、遠くから雷鳴のような残響が断続的に響き渡るが空は晴れ渡り雷雨などどこにもない。
「な、なんだったんだ今のは……」
不可思議の光景を前にしてゲストの言葉は空気に溶けて消えていく。