FSS─翡翠の雷光─ 作:アマテラス、アンタちょっとガメツイよ!
良い子も悪い子も寝静まる時間帯、アドラーの夜空の下にてモラード・カーバイトが居を構える屋敷に忍び込む影が2つ。
その影は素早い動きで至る所に仕掛けられた監視カメラの死角やセンサー類の網をすり抜けるように掻い潜り、ものの数分で敷地内へと到達した。
その身のこなしと常人離れした身体能力から、その影達は騎士かそれに準ずる存在である事は明白であり壁をよじ登る影はひとつの部屋の窓へ張り付くと、片割れが掌を窓に当てれば数秒で窓の鍵と連動した警備システムを解除。
ひとりでに鍵は解錠し、窓を静かに開けると音もなく屋敷の中へと忍び込んだ。
その影は足音を立てぬよう抜き足差し足忍び足で部屋の中を歩き、モラードの自室の机の上に懐からナニかを取り出し置こうと───
「よー、家出娘たち。挨拶もなしか?」
「!!!!?」
「ひょえっ!?」
照明の光が灯り、影を照らす。
「せ、
「お、お邪魔してまふぅ」
そこには全身を黒づくめのくノ一スタイルのイーリスと頭にほっかむりを装備したレイラがおり、出入口の扉にもたれかかるようにモラードが立っていた。
「ヨースオ袋、姉チャン」
そのすぐ後ろにはポラリスの姿も。
「お話、しよっか♡」
「……っす」
「はいぃ……」
「ったく、クロエから聞いたぜ? ド派手にやらかしたってな! カラミティにいた時と似たような事してびっくりしたわ」
「い、いやー。その場のノリと勢いでツイ……」
「マスター、凄くかっこよかったですぅ」
「凄カッタ。クロエ姉チャント知ラナイ婆チャン、オ袋無双」
カチカチとポラリスがマジックハンドを鳴らし、椅子の上で思わずワタクシ縮こまってしまいます。
流石にあそこで名乗る必要なかったかナー? と思わないでもないですわよ。ノリと勢いで行動する悪癖が変わってなくってワタクシ、ハズカシー……
「んで、ニュースで見たけど郊外てバスター砲ぶっぱなしたのイーちゃん?」
「んな訳ねぇでしょ! つか、師匠もフルゴールの武装にバスターランチャーないこと知ってるでしょうに!
とち狂ったことをしたのユーバーとあま……ま……まぁ……ソープさまですわよ!!」
「あれは凄かったですねぇ」
いや、ほんとマジであの時は色んな意味で非常識バトルでしたわ。ワタクシもフルゴールにバスターランチャーを搭載したオプション装備を作るかどうか考えもしましたが、流石に倫理観やらなんやらでペーパープランに終わらせたんですし。
「んで、行っちまうのか?」
「……ええ、はい。流石にああもド派手に動いてしまえばさすがに居られませんからね」
師匠の家に忍び込んだのも別れの手紙を置くためでしたからね。ついでにポラリスの回収ってのもありますが。
「……それで、行っちまうのか?」
「……ええ、はい。流石にお披露目であそこまでド派手にやらかしましたし、書類上はユーバーの姪ってことになってますからね。あのままジッとしてたら警察に拘束されてしまいますわ。
だから、まぁ……はいズラかろうと思いましたのよ。既にユーバーから搾り取れるものは搾り取ったあとですしね」
既に色々とやらかしてて手遅れだろって? おほほほほほ、データ上の記録は全てレイラやペリル達に協力してもらって改竄済みですわぁ!!!
お陰様で懐がウハウハで笑いが止まらねぇですわね!!
「あ、ところで師匠。ワタクシが消えたあとにクロエはどうしましたの?」
「ん? おお、クロエならポラリスを俺のとこに送り届けた後に本人は残りたそうにしてたけど、シンクレアから電話越しに正論で論破されて泣く泣くコーラスと一緒にジュノーに帰ってったぞ」
うわー、想像できるぅ……シンクレアに真顔で言葉の暴力によるリンチを浴びせられて半泣きになってるクロエの姿が……
小さい時から思ってましたが、彼女ってファティマなのに割とマスターや人に対して辛辣というかスパルタというか平気で言葉の暴力を浴びせますわよね。口調は丁寧ですが、それが返って怖いと言いますかねぇ……
彼女を前にすると城の者達は全員逆らえないんですよね。ワタクシのこの口調も彼女によって魂レベルにまで矯正されたからなった経緯がありますし。
実質公国の裏の支配者ですわ!
「うちのファティマ達はシンクレアを前にしたら姉のエストもビビるからな……」
「シンクレア様は怖いですぅ……」
師匠とレイラがここにはいないシンクレアの事を思い出し、ブルりと背筋を震わせます。
ここに居る面々はポラリスを除き等しくシンクレアにお叱りを受けた者達。彼女のお説教を想像するだけで震えが止まりませんわ……
「シンクレアハ最強ッテコトカ?」
「まぁ、精神的な意味で最
「シンクレア様に逆らえる人は多分いないですぅ」
「いたらそいつをある意味尊敬できますわ……」
って、話がズレましたわ。とにかく、ここにいたら師匠に迷惑がかかりますから活動の拠点を移すのです。
一先ずほとぼりが冷めるまではボォズのカステポー身を潜めましょうかしらね。あそこならまず警察は追ってこれませんし、ついでにヘッドハンティングもすることができる一石二鳥ですわ〜!
「別に迷惑なんて思っちゃいねぇんだがなぁ」
「師匠はそう思ってても、ワタクシが嫌なんですのよ。ケジメですわケジメ」
「……そうか、意思は硬いみたいだな」
「ええ、はい。この数年間は本当にお世話になりました。本当だったら女王として立派になったワタクシの姿をお見せしたかったのですがですが……」
「ふっ、気にすんなよ。それに、イーちゃんはもう立派になってるだろ?」
モラード師匠はそう言い、ワタクシの頭を撫でます。ガシガシと雑な手つきですが、こういう父親って感じの撫で方は嫌いじゃありません。
今世にもお父様はいるにはいますが、少々関係が冷えてると言いますかなんというか殆ど親子らしいことをしたことがありませわ。
リガリエッテ家自体が女人家系といいますか、家の君主も代々女性が務めてきたので我が家では表立ってはいませんが男性よりも女性の立場が上です。
それに加えてワタクシは長女に加えて次期女王としての役割がありましたから、殆どの日々を勉強とお稽古、鍛錬に割いてきました。
前世の記憶があるかるか、そういったことは特に苦でもないのですが子供らしくもなかったのです。
寝る時間の以外の殆どをそれらに取られたことでお父様とマトモな会話もしたことがありませんのよね〜……
最後に会話したのだって留学から帰ってきた時に二、三言でそれ以降は国内の膿を出すための裏工作、大陸本土へ拠点を制作のための視察やコネ作り、フルゴールやレイラの製作のために殆ど工房に籠ってましたし……
…………ん、そういえばクーされたメンバーに王侯貴族もいましたわよね? 子息たちは冷遇されてたのでコロっと間者のハニトラかまされるのは理解できますわ。
でも、それ以外はそんなにあっさり陥落するでしょうか? んー、よくよく思い出したらあのクーに参加した面々って前々からそういう立場の改善を望んでた連中だったような……?
……………………まさか、ね?
「どした、イーちゃん? 今更お別れになって寂しくなったか?」
「んなわけねーですわ! 師匠、お酒の飲み過ぎには気をつけてくださいまし! もう若くねぇんですから!」
「へーへー。イーちゃんとレイラも体調に気ぃつけよー? 風邪ひくなよ? ポラリスもじゃーな」
「はーい」
「あ、はい。モラード様、お世話になりましたぁ」
「バイバイ爺チャン」
てなわけでお別れですね、となろうとしたところで。
「おっと、そういやイーちゃんに渡すもんがあったんだった」
「はぇ?」
師匠はそう言うと机へ近寄り引き出しから書類の入った封筒と何やら綺麗に包装された包みを取り出します。
「ほい、俺からの餞別。今ここで開けてくれ」
「はぁ……」
言われ通りに封筒を開けてみます。
「えー、なになに? 『多数の協議の結果、ファティマ・レイラインに『フローレンス』の称号を与え、モーターヘッド・The J.O.F.の特異性を省みて製作者でもあるイリス・クリィムヒルト博士には以上の功績から10のシグナルボーダーを与える』…………ふぁっ!!?」
「おめでとう、今日からお前は10本線のダブルマイトだ。本当の名前で申請したかったんだが、お前さんの場合立場から偽名の方が動きやすいと思ってな」
マジ!? え、ワタクシが10本線のマイト!!? しかもレイラにフローレンス!!?
なんで!!?
「前々から俺が申請してはいてな。レイラとフルゴールにはエストとバッシュのシステム……『シンクロナイズ・フラッターシステム』が搭載されてるのが決め手になったんだよ。
これまでのマイトやマイスター達が再現を試みようとして出来なかったことをお前はやって見せた。それも1人でだ。
お前はすごいやつだよ、本当に」
モラード師匠は笑ってワタクシの肩へ手を置きました。
「卒業だイーリスフィア。本当に立派になった。お前は俺の自慢の弟子だ」
「…………そういうの、ズルいと思いますわ」
こういうサプライズ弱いんですのよワタクシぃ……!
「なんだ、泣いてんのかー?」
「泣いてませんわよぉ! これはあれですわ、花粉症ですわ!! あー、目がムズムズしますわー!!」
「お母様、ティッシュです」
「ん、ありがとうレイラ」
チーンッ! ふー、スッキリしましたわ!
「本当ならパーッと送り出してやりたいところなんだがなぁ」
「ふふ、師匠のお言葉だけだけでもどんなプレゼントよりも嬉しいですわ」
なんせ四大マイトと一角ですもの。
「今日から五大マイトだけどな。そら、その包みも開いてくれ」
「はいはい」
急かされ、ワタクシは包みの封を丁寧に剥がして中を見てみると綺麗に畳まれた服とマントが入ってました。
「服、ですか?」
「おう、シアン夫人に特注して作ってもらった装甲服さ。お前さん、これからドンパチするだろ? なら、必要だと思ってな。
星団の最高の騎士団が使うものよりも高性能な装甲服さ。もちろん、シグナルボーダーも入れてあるぞ」
広げたソレはまるでドレスのようにも見え、各部分には主張しすぎずかと言って存在感が無さすぎないように配置された装甲が取り付けられた服でした。
生地、縫目、装甲の位置、全てが計算されつくされておりワタクシの成長も加味して大きめに作られていますが、調整可能のようです。
そして、左右の胸元には5本ずつの線が付けられておりマイトとしての立場も示す意匠が施されていました。
「これ、本当に貰っても宜しくて……?」
「当たり前だろ? そのためのプレゼントだからな」
「……」
装甲服をぎゅっと抱きしめ、ワタクシは滲む視界を隠すように顔を埋めます。
ほんと、ワタクシって幸運ですわ。
「こんなにも人に恵まれているのだから……」
「イーちゃん、お前さんはこれからも大変なことが待ってる。でもな、俺はお前の師匠だし、お前さんのことは娘のように思ってる。
いつでも何処でも頼りにしてもいいんだぜ?」
「っ、はい……はい、ワタクシも師匠のことお父様のように思ってますわ。
大変になった時は是非頼らせてもらいます……」
そして、ワタクシはモラード師匠とは名残惜しくと最後にその場の全員でハグをして別れ、レイラとポラリスを連れて屋敷を後にします。
さて、と。
「進路を惑星ジュノーへ! ワタクシの祖国を奪還しに行きますわ!!」
『ヤーボール!!』
艦長席へ座り、貰ったばかりのドレスを着たワタクシは宣言します。
配下の皆からは勇ましい声と共に持ち場へとつき、母艦の進路を祖国のあるジュノーへ舵を切りました。
さぁて、反抗の狼煙をあげますわ〜!
リガリエッテ公国、その玉座にて本来ならばイーリスが就くはずだったその椅子へ不遜に座る少年がいた。
その少年は玉座へ肘を着き、その瞳には退屈という色を占めている。
そんな時、柱の影から滲むようにして男が1人現れた。その男は少年へと近づけば耳打ちを行う。
「殿下」
「なんだ?」
「はっ、例の少女が玉座を奪還のためにアドラーから発ったと報告が」
「ほう、ついにか。いや、奴だからここまで早く準備を整えられたと見るべきか? まぁ、いい。下がって良いぞ」
「はっ」
男は一礼すると、音もなく柱の影へと戻り出てきたと同じように消えていった。
「くくっ、ようやくか。待ちわびたぞイーリスフィア・ゼノ・リガリエッテ」
少年は玉座から立ち上がり、ゆるりと振り返る。
「さぁ、早く来い。この俺……『ラグナル・パーマネント・レーダー』と『Vサイレン・ネプチューン』が待っているぞ?」
鮮やかな孔雀色のモーターヘッド、フィルモア帝国が誇る皇帝騎『Vサイレン・ネプチューン』を見つめ、少年は不敵に笑うのだった。
用語解説
・ラグナル・パーマネント・レーダー
年齢:地球換算で16歳から17
所属:フィルモア帝国・
現フィルモア帝国皇帝、レーダー8世の直系の血筋で孫にあたる人物。
歳若くも
ネプチューンは彼専用にチューンされており、両手には縦長の独特な形状の
そして、リガリエッテ公国のクーデターを裏から手引きした人物でありイー様とは深い因縁がある。
しかし、当の本人には決して彼女に対して悪意がある訳ではなく今回のクーデターも彼にとってはとても大事な目的があるとか……?
レーダー8世も皇帝なんだから子供くらい残してるやろと捏造しました。クリスの先代ネプチューンのパイロットです。尚、きちんとクリスにネプチューンは継承されますのでご心配なく