FSS─翡翠の雷光─ 作:アマテラス、アンタちょっとガメツイよ!
マスターから渡された紙によるとナイアスは現在カスでポー内にあるいくつかの都市のうちの一つ、ノーキィ・シティに滞在してるらしいです。
バスを乗り継いで辿り着いたのターミナルの外へ出れば、石畳やクラシックな街並みのヴァキ市とうってかわり、高層ビルが立ち並びその間をディグがアリの巣のようにあちこちへと走るザSFといった街並みが広がっていました。
「初めて来ましたけど世界観変わりすぎじゃない?」
「ですぅ……コンクリートジャングルってやつですか〜?」
近代的な街並みですから仕方ないのだろうけど、太陽の照り返しと熱されたアスファルトや人混みの熱気のせいで額にじんわりと汗が浮かび、張り付いた前髪が鬱陶しいですわね。
隣のレイラ(ファティマとバレないよう変装済み)も暑そうに手を団扇にして扇いでますが、来るのはぬるい風のみですぐに辞めてしまいました。
「えーと、メモによるとこの街で1番高いホテルで宿を取ってるらしいですわね」
「検索中……この地点から北西に1200m程の距離です」
「そ、んじゃパパっと行って終わらせますわよ〜」
「終わったらレイラ、この街で口コミが評判のスイーツを食べたいです!」
「はいはい。まずは目の前の仕事を片付けてからよ〜」
レイラがはぐれないように手を繋ぎ、歩き出すワタクシたち。さーて、ナイアス・ブリュンヒルデ、どんな人物なのかしらね?
マスターから聞かされた限り、天位授与式で同僚数人を斬り殺したパンクな人って印象しかありませんが……
「怖い人じゃないといいですぅ」
「希望的観測をへし折るつもりで悪いけだど、絶対やべー人よ」
「交渉中、レイラは遊びに行ってていいですか?」
「ダメに決まってんでしょ」
無言で逃げようとしたレイラの手をがっちり握り直し、イヤイヤと病院へ行くのをいやがる柴犬のように踏ん張る彼女を無視して引き摺るように進みます。
「あれが、イリス・クリィムヒルトとフローレス・ファティマ『翡翠のレイライン』ね」
街中を進む小さな少女と変装したファティマ、傍から見れば姉妹にしか見えない2人を少し離れた地点から観察していた人影があった。
「はい、マスター。それと付け加えるのなら追放されてはいますが、リガリエッテ公国の第1王女イーリスフィア・ゼノ・リガリエッテという名の方が正確かと」
「今の彼女はイリスと名乗っているでしょ? なら、そちらが正解よ」
「そらもそうですね。……どうやら2人の目的地はこの街で1番グレードの高いホテルのようです」
「ふーむ、観光目的?」
「……いえ、目標の金銭感覚は倹約気味です。止まるのならパートナーのこと加味してもグレードの方は抑えるかと」
「そういえば彼女はココ最近カステポーで人材確保をしてるんだったんだっけ?
目的地がおそらくそうなのかしらね」
「可能性は高いかと。そのホテルに彼女のお眼鏡にかなう人材が滞在してると予測します」
「そう。なら、彼女の身柄を確保するついでにその騎士も『クバルカン』へ迎えられたら一石二鳥かもしれないわ」
「ですね『ノンナ』様」
イーリス達を見る2人、その正体はカラミティ・ゴーダース星へ本国を置く宗教国家『クバルカン法国』の女性騎士のみで構成された『ローテ騎士団』の団長『ノンナ・ストラウス』とそのパートナーであるバランシェ・ファティマ『
何故彼女達のようや重鎮がここにいるか、理由はイーリス達にある。
イーリスは10本線のダブルマイトであり、その技量の程は星団中への知れ渡っている。故にどの国もその才能は喉から手が出るほど欲さらるのは当たり前だ。
加えて、表向き彼女はどこの国にも所属していないマイトではあるがクバルカン法国の諜報部によって彼女の正体も判明している。
彼女達はクバルカン法国の法皇『リオ・スパンダ』からイーリスの身柄の確保または法国へスカウトの密命を帯びたことでカステポーへとつい最近降り立ったのだ。
「スカウト出来るならよし、出来ないのなら彼女の国を取り戻すのを協力し、返しきれない恩を売ることで後々の法国の民たちが移民してくるのを拒否できないようにすること……ね。
まったく、法皇さまも人使いが荒い」
「これも未来の法国のためですよマスター。それに、リガリエッテ公国は風光明媚な国らしいですから観光も宜しいかと」
「といっても、当の王族はクーデターによって追い出されてるでしょ?
おまけに現在は表向き別の貴族が代理として統治はしてるけれど、その裏ではクーデターを唆した側のフィルモアの王子の命令に逆らえず殆ど独裁で軍備拡張をしてるって調査報告書に書いてあったわよ」
「だからこそ、彼女を支援するメリットがあると法皇様は判断したのでしょう。
それに、ジュノーは若い星……ボォズも悪い星ではありませんがドラゴンという不確定要素がありますから」
「それもそうね」
瑠璃の言葉にノンナは肩を竦めて前を見据える。視線の先には人混みを縫うようにして進むイーリス達がおり、歩き方から自分たちには気がついていないらしい。
「さて、と。ちゃちゃっと彼女と接触しないとね」
ノンナは言うとイーリス達を追うように歩き出す。
バスターミナルから十分弱歩いてたどり着いたホテルの外観は見るからに高そうで出入りをしている宿泊客たちも皆着飾ったマダムや紳士、ボンボンにお嬢様ばかりですわね。
「ひゃー、おっきーですぅ〜」
「はいはい、早く行きますわよー」
見上げるレイラを引っ張り、ホテルのロビーへと足を踏み入れます。
高い天井には大きなシャンデリアが吊るされ、制服をきっちり着込んだホネルマンが宿泊客たちの荷物を預かったり運ぶのを横目にワタクシは受付に声をかけます。
「もし、少し宜しくて?」
「はい、ホテルパークハイアットへご宿泊ですか?」
「あぁ、実は泊まりに来たわけじゃないの。ナイアス・ブリュンヒルデ様にお取次ぎ出来る? 彼女に用があってきたの」
「……申し訳ありません、当ホテルはプライバシーの観点から第三者にご宿泊なされているお客様の情報は提供出来ないのです」
「まぁ、当然わよね」
受付の女性のホテルマンからの返答はマニュアル通りのものです。しかし、ここではいそーですかと引き下がる気はないのでワタクシは身を乗り出してホテルマンへ耳打ちしますわ。
「ワタクシ、マイトのイリス・クリィムヒルトと言いますの」
「は、はあ……なる、ほど?」
ホテルマンは言うとワタクシとその背後に目立たないよう控えていたレイラへと視線を向ける。
傍から見れば若い姉妹にしか見えません。実際、ホテルマンからも何言ってんだこいつ? という感情が目に浮かんでるのが見えますわよ。
「ナイアス様って騎士でしょう? んで、ワタクシはマイト。ご存知ないようだけど、騎士とマイトといったらどういう了見かお分かりでして?」
ダメ押しとばかりに服の脇腹あたりの位置に付けられた装飾のシグナルボーダーを見せれば漸く何が言いたいかホテルマンは理解できたようです。
この星団においてシグナルボーダーは身分証明書みたいなもので、それが5本ならば或る意味で特権階級的な立ち位置となりますわ。
もし偽装すれば重罪で投獄は免れません。それでも一応ということでホテルマンはワタクシの顔を見ながらネットで公開されているデータベースへと照合をかけます。その数秒後に慌てたように姿勢を質したホテルマンがワタクシへ頭を下げました。
「大変失礼いたしましたクリィムヒルト博士、直ちにナイアス様へご連絡を───」
「ああ、それは必要ないわ。どの部屋に泊まってるかだけ教えて頂戴」
「わ、わかりました……ナイアス様は……えーと、現在12階の34号のスイートルームへお泊まりになっています」
「そ、無理を言って悪かったわね。これチップ代わりに受け取っておいて」
財布から取り出した数枚のフェザー紙幣をカウンターの上に置いてワタクシとレイラはエレベーターへと乗り込み、12階のボタンを押しました。
「意外とどうにかなるんですね〜」
「勢いと権威があればゴリ押しでどうにかなりますのよ」
2人だけのエレベーターの中で他愛のない会話をしつつ、目的の階へ着いたことを知らせる軽快なチャイムの音がなります。
エレベーターを出て廊下へ出ると静かな空間が広がり、最高級のスイートルームが並ぶ階層なのだから掃除も行き届いています。流石は高級ホテルと言ったところかしら?
えーと、34、34……31、32、33、34……ありましたわね。チャイムをポチッとな。
リンゴーン、と来客を知らせるチャイムが鳴るとその数秒後に。
『はい、どちら様でしょうか?』
可憐な声がスピーカーから流れ、ワタクシとレイハは思わず顔を見合せます。
てっきりゴリマッチョなド低音ゴリラボイスかと思えば真反対のキューティーボイスでありませんこと〜〜〜???
「…………開けろ! デトロイト市警だ!!」
「『!!!?』」
すいません、なんかやりたくなって……だから叩かないでレイラ。手加減はしてるんでしょうが、割と痛いんですのよ……
「どうぞ、粗茶ですが」
「これはどうもご丁寧に。ワタクシからもこれ。つまらないものですが食べてください」
「まぁ、ありがとうございます。後でマスターと頂かせて頂きますね」
「いえいえ〜」
部屋に迎え入れてくれたナイアス様のパートナーでバランシェファティマの『ジゼル』様へ手土産のカステポー名物『ドラゴン饅頭』を手渡します。
はじめはワタクシのオフザケでジゼル様はお玉とフライパン頭にお鍋という完全武装で迎撃する姿勢を見せましたが、レイラの必死の説得により誤解が解けました。
彼女が言うには現在ナイアス様は所用で部屋を留守にしているらしく、では後日伺いましょうかとなったのですがもう直ぐ帰ってくるから部屋で待っていてくださいと言われ、部屋で待つことになりましたのよ。
「マスターマスター、このソファふかふかですよ。レイラ達の泊まってるお宿のベッドより」
ソファに座り、ジゼル様の珈琲を飲んでるとレイラがヒソヒソと耳打ちしてきます。
暗にグレードの高いホテルに泊まりたいと催促してますが輸送船の係留代、モーターヘッドおよびファティマの維持費、エアドーリーの修理費用、配下たちへとお給金他雑費……
ユーバーからぶんどった資産はありますがそれだって無限じゃありませんのよ? 節約できるのなら節約ですわよ、節約! なんで1泊50万もするようなの使わにゃならんのですか。
でも、それはそれとしてレイラには窮屈な思いをさせてますからねぇ……ナイアス様を雇えたらご褒美に美味しいものを沢山作ってあげましょうかね。
「それにしても驚きました。まさか、かの新進気鋭のクリィムヒルト博士がお越しになるなんて……
差し支えなければ、理由の程をお教えになっても宜しいですか?」
「ええ、はい。構いませんよジゼル様」
カップをソーサラーの上へと戻し、ワタクシは鞄に入れていた書類の入ったクリアファイルを取り出し机の上へ広げます。
「本日はナイアス・ブリュンヒルデ様が団長を努めますブリュンヒルデ傭兵騎士団をご雇用する為にお伺いした次第ですわ」
道中のうちにレイラに協力してもらい、これまでの実績を調べたものですわ。
「多数の紛争などで活躍し、統率と規律の取れた部隊運用は雇ったどの国や組織からも高評価が多く、団長たるナイアス様は単騎でも多数の戦果をあげています。
流石は元とはいえフィルモア帝国のノイエ・シルチス所属の天位騎士と言えましょう」
「よくお調べになっていますね。……ですが、不可解なことがあります」
ジゼル様は手に持っていた書類を机に戻します。
「確かにマスターや部隊の方々は歴戦の猛者です。五大マイトとして名を連ねるクリィムヒルト博士が注目するのも理解はできます……ですが、傭兵騎士団を雇う理由が思いつきません。
マスター1人をテスターとして迎えるのなら分かります。ですが、貴方様は騎士団を雇うと仰っていましたね」
「ええ、言いましたわ」
「……マイトというのはその特権から基本的に中立を保つことになっています。
ですが、貴方はまるで自分からどこかへ攻め込む意図を感じます」
「ふふっ、素晴らしいご推理ですね。バランシェ・ファティマは探偵も出来るのかしら?」
「…………本当に何処かへ攻め込むのですか?」
「言葉が強いですわね。盗人からあるべきものをあるべき場所へ取り戻すだけでしてよジゼル様」
でもま、何故そうするかの理由を説明すべきですわね。
「ワタクシの本当の名は─────
名乗ろうとした瞬間、咄嗟にワタクシは横にいたレイラに覆い被さるようにしてソファの裏へ倒れ込んだ───数瞬後に窓を次破りナニかが部屋の中へとダイナミックエントリーをかましてきたのです。
「っっつ〜……あんのクソ
テーブルや椅子などを巻き込み、木屑のオブジェと化しもうもうと室内に煙が充満する中で怒声が響き渡りました。
なにかの砕く音と踏み抜く音をたてながら煙を引き裂いて現れたのはワタクシのチンチクリンなミニマムボディと比べるまでもないモデル体型のゴスロリな派手派手メイクを施したねーちゃんがいたではありませんの!
その手には光剣が握られており、身体のあちこちには擦り傷が見え口の端には痣と細い血の筋が流れ明らかにただ事じゃありませんわねぇ!!
「ま、マスター!? どうなさったんですかぁ!」
「あん? ジゼルか、いやさぁホテルに入ろうとしたら知らんブスに絡まれたのよ。
んで、なんやかんやあったこうなった」
「なんやかんやが気になりすぎますわねぇ!」
思わず突っ込んでしまい、ワタクシに気づいたナイアス様は怪訝な表情を浮かべました。
「あん? 誰だいこのおチビ」
「イリス・クリィムヒルトも申しますの! 失礼ですが、貴方様はナイアス・ブリュンヒルデ様で宜しいかしら!?」
「こいつはご丁寧にどーも。私がナイアスだけど、なんか用かい?」
ワタクシはソファから顔だけを出して叫びます。
「貴方様の騎士団を雇うために来ましたの〜!」
「へー、クライアントってことね。商談に移りたいところだけど────」
「くたばれゴス豚ァ!!」
ナイアス様の発言を遮るようにして窓の外から新たな人影が飛び込み、光剣で斬りかかりナイアス様はそれを受け止めます。
「このブスを片付けてからさね!」
「ん〜〜〜、混沌ンンンン!!!」
なんでワタクシ人を雇いにきただけなのにこんな修羅場になってますの!? イーリスビックリ!!