FSS─翡翠の雷光─ 作:アマテラス、アンタちょっとガメツイよ!
どうも皆さんこんちには、
本日は祖国奪還の為の兵力確保のため、傭兵騎士ナイアス・ブリュンヒルデ様率いる傭兵騎士団のご雇用に滞在中のホテルへと赴きましたの。
しかし、当の本人はご不在で代わりにパートナーのバランシェ・ファティマの一人、ジゼル様が対応してくださりお部屋の中で待つことになりました。
お部屋の中で待つこと10分ほどでしょうか? ジゼル様とお話をしていると彼女の主人であるナイアス様は帰宅しましたわ。何故か窓を突き破って。
いやー、ビックリしましたわね〜。最近の帰宅方法はこんなにも派手だったかしら?
おまけにナイアス様ったらお連れの方もいたのでしたのね〜。あんなにも殺気立って光剣を振り回すなんてトンデモナイ人ですわね。
ひとまず落ち着いてお話したいのですが? ダメ? そう……
「んー、帰りてぇですわ」
「ひょええ〜、危なくて動けませーん」
「こんのクソ女! いい加減死ね!」
「はっ! 生憎、愛しのカイエン様とデートするまで死ねないねぇ!!」
互いの姿がブレ、瞬時に空気の弾ける音が複数響き既に数の少なくなっていたガラスが余波で砕け散る。
ワタクシ達は余波に巻き込まれないよう辛うじて無事だったキッチンのカウンターの後ろへと周ることで凌いでますが、いつ流れ弾で怪我をするか分かりませんわねこれじゃ。
「あわわ、このお部屋の修繕費って幾ら掛かりますかね……」
「修理で足りますかねこの惨状?」
「多分作り直した方が早い気がしますぅ」
ジゼル様が呻くような呟きにワタクシとレイラが反応しつつも飛んだきた瓦礫をベシッと叩き落とします。
超高速の斬撃。回避、踏み込み、交差。
剣聖剣技を派手な見せ技としてその裏に隠れるようにして幾つもの絶死の斬撃を潜ませる高等技術のオンパレード。
剣がぶつかると思えば中断し、次の攻防へと移り互いに次のポイントへ次々と手を替え品を替える。
速く、巧く、鋭い、凡百な騎士ではこの戦いに踏み込めば容易く細切れにされるだろうレベルの高い読み合いと裏の取り合いは実に勉強になりますね〜。
常に持ち歩いてる記録用カメラがあって助かりますわ! うわ、危ねッ!!
飛んできた真空剣を慌ててかわしせば頭のすぐ上を通過した斬撃がオーブンを真っ二つにし、漏電した火花が引火して燃え上がり発生した煙に反応してスプリンクラーが作動。
「あばばばば、カメラが濡れる!! これ
「うわーん! レイラの上着を剥いで傘代わりにしないでくださいぃいい!!」
「おぎゃー!? ただでさえ家計が火の車なのにこれじゃ消し炭になますぅぅうう!???」
バターン、とジゼル様がぶっ倒れてしまいまして。顔のすぐ手前でパラパラと手を振ってみますが白目を向いて気絶してしまってますね。
先程の発言から推測するにナイアス様の騎士団の財政は芳しくないみたいですわね〜……金がねぇとは辛ェですわよね。よーく分かりますわ〜……
「お母様お母様」
「あら何かしら?」
そんな折、レイラがちょいちょいとワタクシの肩を叩きます。
「どうやら通報でナイトポリスが急行中見たいですが、どうします?」
「え、やばいじゃん」
ナイトポリスというのは騎士を専門に相手をする警察組織です。毒を以て毒を制すというように、名前の通り騎士が騎士の取り締まりを行う感じですわね。
といっても、所属してるのはどれもこれもパッとしない実力の者たちではありますが、相手は公権力です。敵対していい事なんてありませんわ。
でも、あの戦いを止めようにもノコノコ出ていったらナマス切りにされそうだし……ん? よくよく見たらあのお2人サンダルとブーツですが、そこまで絶縁性が無さそうな素材ですわね。
ちょうど床はスプリンクラーで水浸しですし…………うし、アレをやりますか!
鞄に入れていたゴム手袋を装備し、キッチンの収納スペースへ頭を突っ込んでコンセントを確認。延長コードを挿して包丁で延長コードの先端部分を切り落とし、内部のコードを露出させーのっと。
「へーい、おふたりさーん!!」
「あん?」
「ん?」
「ちょいとおいたが過ぎましてよ〜〜〜!!」
「「は?」」
お二人の目には先端からバチバチと火花の飛び散る電源コードが握られてるワタクシが映ってるでしょうね。
てなわけではい水浸しの床へビリビリ〜。
「「アババババババババババ!!!!?」」
おほほほほ、感電して髑髏が見えてやんのウケる〜。
「ひええええ、悪役顔ですぅ〜」
「そんなことより車、外に回してくれる?」
「既に近場の駐車場から遠隔操作で向かわせてますぅ!」
電気によってアフロヘアとなったお2人が床へと倒れたことでひとまず静かになり、直ぐに部屋のブレーカーを落として駆け寄ります。
先の電流で気絶した2人は目を覚ましません。レイラの背にはジゼル様が担がれており、ワタクシは2人の片手を掴んで引き摺り窓辺へ移動しました。
それと同時に無人のディグが現れ、窓のすぐ外に停止しひとりでに扉が開きます。
後部座席へ気絶したお2人を押し込み、ジゼル様もレイラが押し込めばワタクシは助手席から運転席へと座り、レイラは助手席へと座れば座席の位置を調節。
ワタクシはハンドルを握り、シフトレバーを下げてギアをニュートラルからローへ移行しアクセルを勢いよく踏み込みました。
レイラがハッキングにより持ってきたどこの誰の物かも知れない車ですが、有難く使わせてもらいましょうかね!
急速発進した車はそのままノーキィ市のビルの間へと消え、そのすぐ後にナイトポリスの車両がホテルへと殺到しますが既に底はもぬけの殻ですわよ〜!
「さーて、このままヴァキ市へ帰りますかねェ」
「ですぅ。ふぃー、無駄に疲れましたね〜」
心底同意しますわ! ……にしても、ナイアス様に斬りかかってたこの方はどなたなのでしょうかね?
「……マスター、遅いですね」
ノンナはイーリスと話すためホテルへ一人で行ってしまい、マスターの彼女が戻ってくるまでホテル近くのカフェで待機していたのだが予め指定した時間になってもノンナからは連絡ひとつ来ない。
「ホテルでなにか騒ぎもあったみたいですし、無事だといいのですが……」
少し前にホテルで何やら暴徒騒ぎがあったらしく、ナイトポリス達が急行するのを見ていた瑠璃はノンナの実力を疑ってる訳では無いが、巻き込まれてないかと心配を顕にする。
そんな折、彼女が持たされていた端末に着信が入った。画面を見ればノンナの番号だった為、すぐに通話ボタンを押して耳へ当てた。
「はい、もしもし
『はいはい、どうもこんにちはバランシェ・ファティマの瑠璃様。貴方様のマスターでは無いことには謝罪いたしますわね』
「ッ、どなた様ですか? その端末はマスターのものですが……」
『あぁ、予め言っておきますが貴方様のマスター……えーと、ノンナ様? は無事ですわ。少々手違いがあって気絶してもらいましたが命に別状はありませんの』
瑠璃の僅かに険の籠った声に電話の向こうの相手はすぐにノンナが無事であることを伝え、そのことに瑠璃は声のトーンから見て嘘では無いことを看破し肩の力を抜く。
しかし、依然としてノンナの安否は不明のため瑠璃は警戒を緩めない。
「……それで、貴方はいったい」
『イリス・クリィムヒルトですわ』
「え……?」
通話の相手の正体はまさかの人物で瑠璃は驚きを隠せなかった。何故イーリスがノンナの端末を? それに、手違いとは?
気になることが多々ある。しかし、今はノンナの所在を確認しなければならない。
「……クリィムヒルト博士、マスターはノンナ様は差し支えなければお教え下さい」
『あー……まぁ、はい。一応無事ではありますわよ一応。声聞きます?』
「はい、お願いします」
瑠璃がそう言った瞬間、凄まじい怒声が鼓膜をつんざいた。
『────ざっけんなクソゴスがよぉ!』
『あぁ!? その不細工な面をさらにブサイクにしてやろうかゴラァ!!』
『やってみろよタマムシ女ァ!!』
『ワモンゴキブリ野郎!!』
そして鈍い殴打音が立て続けに響き、瑠璃は状況が上手く飲み込めず頭上にハテナマークが大量に浮かんでしまう。
「?????」
『えーと、貴方のマスターですがこのとおりピンピンというか元気が有り余ってると言いますか……まぁ、この通りです。
座標を送るので合流したいのですが、宜しくて?』
「あ、はい。わかりました」
イーリスの声が酷く疲れた様子ながらも有無も言わせぬ迫力で言われ、瑠璃は素直に頷けば程なくして通話が切られそのすぐ後にノンナがいるであろう座標が添付されたメールが届く。
ノーキィ市から凡そ数時間ほどの距離だが、車を急がせればすぐに着く場所であるため瑠璃は店員を呼び止め会計を済ませると足早にレンタカーショップへと急ぐのだった。
「死ね!」「あほ!」「ぼけ!」「ブス!」「毛穴見えてんぞ!」「ケバいんだよ!」
罵りながら殴り合う2人を岩陰から眺めつつ、飛んできた大きな石を叩き落とします。
いやー、拝借したディグでノーキィ市を脱出したまでは良かったんですが、後部座席で気絶したお2人が目を覚ましそのまま車内でマウストゥーマウスしちまいまして大激怒。
即座に殴り合いへと発展しました。まぁ、気持ちはわからなくもないですわよ? 親しくもなけりゃ本気で殺しあってた人物といきなりキスするなんてどんな罰ゲームよって話ですもの。
でもね、流石にそこまで広いとも言えない車内。おまけに運転中に後部座席で騎士の身体能力で殴り合うのは勘弁して欲しかったナー。
そんなことをされればどうなるか分かります? はい、案の定車の操作所ではありませんわね。
スリップして道路から外れ、岩に激突して空中で何回も回転して車はクラッシュしましたわよ。
んで、なんとかワタクシとレイラは車から這い出しクラッシュする前に車の外へ出ていたお二人の喧嘩に巻き込まれる前にジゼル様も救出して離れた岩陰へと退避しましたの。
ほんとまじ、ヘッドハンティングしにきただけなのになんでこんなアクション映画顔負けの事故にあってるのかしら? ワタクシ何か悪いことした? 泣きたくなりますわ〜〜〜!
涙がちょちょぎれそうな思いの中、ワタクシはナイアス様と殴りあってる方の身元がわかるか一応車内から回収していた彼女の荷物らしき鞄を漁ればパスポートやら携帯端末を発見。
端末のロックはレイラにハッキングを頼み、ワタクシはパスポートを見ますわ。
パスポートに記入されていた名前はノンナ・ストラウスと書かれており、どうやらクバルカン法国の方らしいです。
ワタクシの端末で騎士データバンクで名前の検索を掛けてみたら出てきた情報に驚きましたわね。
なぁんで、クバルカンのローテ騎士団の団長で大司祭様がこんな所にいるんですかねぇ……? 慈悲のノンナって異名で呼ばれてる割にはさっきから聞くに絶えない罵詈雑言が聞こえてくるんですが……
これじゃ慈悲じゃなくて"無"慈悲でなくって?
ともかく、これで身元が判明した訳ですがどういたしましょ? あんな猛獣同士の喧嘩に飛び込んだら即座になます切りですわよワタクシ。
怖いわねぇ、とお二人の喧嘩を眺めているとノンナ様の端末へ着信音が鳴り響きました。画面を見てみるとノンナ様のパートナーの瑠璃様からの通話です。
出るのはマナー違反でしょうが、この喧嘩をどうにかして欲しかったワタクシはレイラから端末を受け取り通話ボタンを押しました。
そこからは簡潔に合流したい旨を伝え、座標を送ること数時間。その間にジゼル様は目をお覚ましになり、事情を説明して喧嘩の成り行きを見守ることに乗ります。
ワタクシ、レイラ、ジゼル様で暇だからとドラゴン饅頭を摘みながらレイラの持っていたトランプでババ抜きや神経衰弱、スピードで時間を潰し、夕焼け小焼けの時間帯になった頃に漸く瑠璃様の乗ったディグが到着しました。
「ら、
「わぷ、お久しぶりですお姉様」
姉妹の感動の再会、ジゼル様は半泣きで瑠璃様へ抱きつきます。いやー、流石にトランプだけで時間潰すのはきつかったですわね。
姉妹の交流もそこそこに瑠璃様はワタクシの方へと顔を向けました。
「クリィムヒルト博士、ノンナ様はどちらに?」
「はい、ノンナ様ならアチラに─────
瑠璃様に聞かれ、ワタクシはおふたりの方へと目線を向けたと同時にクロスカウンターが炸裂。双方のお顔にパンチが突き刺さり沈黙、グラりと揺れたかと思えばバタリと後ろに倒れてしまいましたわ。
「すりー、つー、わーん……ドローですぅ〜」
レフェリーのレイラは地面を叩き宣言をします。どうやらお二人とも気絶してるらしいですわね。
にしてもこの人たちタフですわね。タフって言葉はこの人達にあるんじゃないかしら?
「ひとまず、おふたりを積み込むの手伝ってもらっても?」
「……はい」
「色々と疲れました……」
ワタクシが聞けば瑠璃様は苦虫を噛み潰したような渋面と共に承諾してくださり、ジゼル様も酷く疲れた様子でおふたりの元へと向かうのでした。
程なくして積み込みの終えた定員オーバー気味なディグはヴァキ市への道へ走り出すのです。