FSS─翡翠の雷光─   作:アマテラス、アンタちょっとガメツイよ!

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たくさんの人が見てくれて嬉しい、嬉しい。


028:召雷閃光

「ひっさしぶりっすねイー様! 変わらずチビで安心したっすよ〜!」

 

「貴方も久しぶりですわねルル! それはそれとして誰が豆粒ドチビですかゴラァ!!」

 

 しゃあ、光針剣(フラッシュ・ニードル)! 

 

「あひゃひゃひゃ! 相変わらず身長のこと気にしてるんすかー?」

 

 着崩したメイド服女の顔目掛けて放ちましたが、腹立つ笑い声をあげながらひょいと避けやがりました。

 避けてんじゃねーですわよ! そのまま踏み込み、双児響転による撹乱を行い無手による連打! 

 

「おっ、久しぶりに組手っすか? 鈍ってないか見てやるっすよ!」

 

 そのまま忍者メイドことルルカもにやけながら分身達の攻撃を見切り間に挟んだワタクシの連撃をいなし、手首のスナップによる衝撃波を放ちます。

 

 ワタクシは手の甲を当てることで手の軌道をずらし、衝撃波が髪の毛を撫でアホ毛が揺れる中で素早く掌打。

 

「あっぶね!」

 

 上体を逸らし、イナバウアーのような体勢のルルカはあえて膝の力を抜いて床と平行になるように落下。

 ぶつかる直前に両手を床に当て、腕の力で跳ね上がりブレイクダンスのように蹴りを放ちました。

 

「パンツ丸見えですわよ!」

 

「見せパンっすよ! イー様は変わらずだっさいクマちゃんパンツっすかぁ?」

 

「うるせーですわ! 淑女がそうそう下着を見せるわけねぇでしょうが!!」

 

「しゅく、じょ……?」

 

「なめるなっ メスブタァッ!!」

 

 その減らず口、黙らしてやりますわよぉ!! 

 

「ひゃひゃひゃ!! 出来るっすかぁイー様に?」

 

 互いの拳がぶつかり、空気が弾け格納庫がビリビリと震わせる。ぶつけあった拳の勢いを利用して距離を取り、剣聖剣技の構えを撮ろうとして────

 

『格納庫で何をしてるんですかー!』

 

『ダメですよぉマスター!』

 

 ふたつの声とともに2騎のモーターヘッドが間に掌を差し込まれました。

 

「あー、いい所だったのに空気読めっすよクララ〜」

 

「チッ、命拾いしましたわねクソボケがっ!!」

 

 スカイ3とフルゴールに搭乗したクララとレイラによって仲裁されたことで拳を下ろします。

 

「久しぶりねルルカ、元気してた?」

 

「うっす、お久しぶりっすイー様。このとり元気ビンビンっすよ!」。

 

 着崩したメイド服、短く切りそろえた黒髪と褐色の肌。

 不思議な色合いの銀色の瞳。軽薄な笑みを浮かべた6年前と変わらぬ姿の彼女、リガリエッテ公国近衛騎士団の1人、ルルカ・リールルとワタクシはハイタッチを交わしました。

 

「にしたってびっくりっすよー。所属不明艦がコーラス王朝の領空に侵入してくるんですから。

 慌ててスクランブルしたと思ったらイー様がいるんですもん」

 

「そういうワタクシもびっくりですわよ。クロエから聞いてはいたけど貴方今はコーラス王朝にお世話になってるみたいだけど、騎士としても動いてるの?」

 

「働かざる者食うべからずって奴っすよ。戦争が起こる前はセイレイのおぜうさまのお着きとして楽させてもらったっすけど、ハグーダのあほ共がやらかしたせいで、人手が足りないからってお客さんのアタシらも持ち込んだモーターヘッド駆り出されて戦場のあちこち飛び回ってますもん。

 スカイ3なんていっちゃん機動力あるからって理由でだだっ広い領土をアタシらで偵察してるんすよ〜?」

 

 休みがほしー!! って叫ぶ相変わらず働くことに対しての様子を見せる彼女にワタクシは懐かしさを覚えますわ。

 よくコイツ仕事ほっぽらかして勉強中のワタクシにサボろうと提案してきて提案に乗ったワタクシが最終的に2人してシンクレアにゲンコツされて正座でお説教されるまでがワンセットでしたわねぇ。

 

「あ、そういやイー様」

 

「あら、なにかしら?」

 

 ワタクシが懐かしんでるとルルがぐるりと格納庫を見渡しながら口を開きます。

 

「この輸送艦たちってひょっとしなくてもイー様の持ち物っすか?」

 

「ひょっとしなくてもワタクシのものよ。祖国へ凱旋するための戦力ね」

 

「ほほー、良くもこれだけ集めたもんすねー。てか、サイレンがひーふーのー……ひゃあ9騎も!」

 

 格納庫のカーゴ内に収められていたサイレン達を見やり、最後にレイラがフルゴールをカーゴ内に収納してるのを見つめルルは言い放ちました。

 

「オマケにフルゴール完成してたんすか!? あのポンコツ起動すら出来てなかったはずなのに!」

 

 瞬間、カーゴに入ろうとしていたフルゴールの足が止まりぐるりとその顔がルルに向けられました。

 あらぁ、絶対キレてますわよあの子。だって両目がビカビカ光ってますもの。

 

『あわわ、怒らないでフルゴール! 実際貴方ってば起きるの面倒だからってわざと起動しないようにしてたでしょ!』

 

 ファティマ・ルームで必死にレイラが宥めてますわね。てか、なに? クーのあの時まで起動しなかったのってそんな理由だったわけ? 

 え、マジ? 初耳なんだけど……そんなんあり? 

 

 ワタクシが突然のカミングアウトにわなないてると。

 

「あー、すんませんお嬢。結局この子らは何もんなんすか?」

 

 バルカスが手を挙げて聞いてきました。意識をそちらに戻したワタクシは咳払いとともに彼に体を向けて説明をします。

 

「彼女はルルカ・リールル、リガリエッテ公国王族近衛騎士団の1人で諜報活動などを主とした騎士兼メイドの1人ですわ」

 

「どーもー、ご紹介に預かりましたルルカ・リールルっす。好きなことは他人の金で食う焼肉、嫌いなことは労働、趣味は盆栽でっす! 

 どーぞよろしゃーす!」

 

 ぺこーっと頭を下げるルル。そしてその背後には誘導員の案内の元、空いてるスペースへ移動している鋭利的なシルエットが特徴のモーターヘッドが1騎。

 

「そして、彼女の乗ってたモーターヘッドはスカイ3、元々公国で将来ワタクシの直属騎士団になる団員用に設計建造していた騎体群、スリービーストの内のひとつの試作騎です。

 そして、彼女とそのパートナーのクララはスカイ3のテストパイロットですわ」

 

「なんか随分とまたキャラの濃いのが来たなぁ……」

 

「だな」

 

 ルベルと、フェインがなんとも言えない顔でバチコン☆とウィンクをするルルを見ています。気持ちはわからんでもないですわね。こいつ結構変人ですので。

 

「よりにも寄ってイー様がそれいいます?」

 

「はぁぁぁあ???? このとーりワタクシ常識人ですが〜???」

 

「ハハッ、ワロスww」

 

 第2ラウンドやるかテメェ!! 

 

「わー、大きくなりましたねレイラ〜」

 

「えへー、お久しぶりですクララ姉様〜」

 

 ワタクシとルルのキャットファイトの傍らで騎体から降りたレイラとクララの2人が10数年ぶりの再会にはしゃいでますわね〜。イデッ! 顔面にエルボーとか正気かテメー!!? 

 

「おごぉ!? こ、股間を蹴るとか協定違反っすよ!?」

 

「黙らっしゃい! 今日こそ上下関係教えこんでやりますわー!!」

 

「公国のトップはシンクレア様っすよなにいってんすか、も〜」

 

「それもそうね!」

 

 よし、不毛な争いおーわり!! 

 

「何事も無かったようにやってるけど、さっきまでガチの殴り合いやってたよなこの2人?」

 

「だな」

 

「遠くないうちに俺ら3人、おひいさまの部下になるんだよな? やっていけるのか心配になってきた……」

 

 なんかバルカスたちが言ってますけどどうでもいいことですわね。んで、ルル貴方いつまでここにいるの? 哨戒任務中なんでしょ? 

 

「あ、そうだ忘れてた。めんどくさいな〜このまま帰っても直ぐに別の空域の偵察行けって言われそうだし……

 このままイー様と一緒にいちゃダメっすかー?」

 

「ダメに決まってるでしょおバカ」

 

 何とち狂ったこと言ってんのかしらこの子は。仮とはいえ貴方は現在コーラス王朝の騎士でしょ? 

 合流するならせめて筋は通しなさいな。

 

「へーい。まぁ、そうなりますよね〜。んで、イー様ってばこのまま公国にカチコミに行くんすか? 

 アタシ、喜んで同行しますけどー?」

 

「んなわけないでしょ。二個小隊でどうやって攻め込むっていうのよ? 

 とりあえず今回の戦争でワタクシはコーラス側に着いて武勲を上げ、祖国奪還の為の援助を要請するつもりですわ。

 それに、この戦いで出来る限りコーラス側に恩を売って戦後の賠償責任を少しでも軽くしないと攻め滅ぼされる未来しか見えませんわ!」

 

「あー……公国のバカ貴族共のせいでハグーダのカス共と勝手に同盟結ばれましたもんねぇ……。

 お陰様で城内の人たちの見る目が辛いのなんの……」

 

「だからこそよ。幸いにも貴方達もコーラス側で戦ってるんでしょ?」

 

「ええ、はい。今もクロエ先輩達はバランカ領で戦ってると思いますね。

 スクランブルする前に聞かされた話だと結構押し込まれててきついみたいですけど……」

 

「バランカ? …………ちょっと待っててちょうだい」

 

「うぃーす」

 

 ルルをその場に待たせ、ワタクシは格納庫の入口近くにある通信端末へ近寄り操作して艦橋へ内線通信します。

 

「もしもし船長? 船の進路をバランカ領に向けてくださる?」

 

『別に構いやしないが……なんでだ?』

 

「思いついたことがあるのよ。頼める?」

 

『雇い主はアンタだ。指示には従うさ』

 

「そ、ありがとう」

 

 端末を戻し、ワタクシはナイアス様を呼び出しました。

 

「ナイアス様、仕事の時間ですわ」

 

「いきなりだね。ま、構いやしないけど」

 

「ええ。貴方々の活躍を期待させていただきますわ」

 

 

 

 

 

 

 

 コーラス王朝バランカ領、そこはコーラス本国首都ヤースにほど近い距離にあり攻め込んできたハグーダ・リガリエッテ同盟軍が数多く集まる戦域。

 

 コーラス、ハグーダ、リガリエッテのモーターヘッドが入り乱れ混戦を行う戦場の中心ではとたる騎体をハグーダ帝国の主力モーターヘッド『マグロウ』が取り囲む。

 

 その包囲網の中心で対峙するのはマゼンタカラーのモーターヘッド。

 それはジョーカー星団の歴史上、初めてファティマの搭乗を前提に設計されたクルマルスシリーズの1番騎クルマルス・バイロン。

 

「クッ、数が多い……!」

 

『マスター、第5から第7部隊の反応途絶!! 第2から第4の残存数が定数を切りました!!』

 

「ッ、この戦域は放棄します!! 全軍後退を! 我々が殿を務めます!」

 

『ヤーボール!!』

 

「シンクレア、我々の部隊はどれだけ残ってますか!?」

 

『はい、ランド1、アクア2、ベルリン3騎まだ健在です!!』

 

「わかった! 合流を急ぎます!!」

 

 剣閃が走り、進路上にいたマグロウの胴体が切り裂かれ沈黙。それを蹴り飛ばし巨体が宙を舞い反応しきれなかった別のマグロウを巻き込み土埃を巻き上げ擱座した。

 

「邪魔!!」

 

『マスター! 消耗は抑えてください!! 既に関節部にかなりの負荷がかかっており、無理に斬れば使い物になりませんよ!』

 

「わかっています! 頑張りなさいバイロン! 我々がここで持ちこたえなければならないのですから!!」

 

 バイロンのコクピットで吠えるのはリガリエッテ公国近衛騎士団団長のクロイツェフ・ダイ・グ・フィルモア。

 現在彼女は部下達とともにバランカ領に侵攻してきたハグーダ・リガリエッテ同盟軍を相手にコーラス軍と押しとどめんと戦闘を繰り広げていた。

 

 しかし、敵軍の物量は厚く幾ら天位をもつクロエや実力のある部下たちならまだしも遊軍のコーラス軍は精鋭といえども疲労を隠しきれずジワジワと攻め落とされてしまう。

 

 そして今回の戦闘によって戦線は瓦解、戦闘中に最高指揮官が負傷した為に止むを得ずクロエが指揮権を譲り受け撤退戦へ移行した。

 

 けれど、敵の追撃は執拗なのに加え。

 

「その騎体は姫様のものだろうがァッ!!」

 

 マグロウに混じり、コーラス軍のモータヘッドを撃破する細身なシルエットのモーターヘッド……リガリエッテ公国でイーリスが時期主力騎として設計しクロエたち近衛騎士団がテストを行った騎体『ローカスト』がいたことが何よりも彼女の意識を乱していた。

 

 本来ならば公国を守る盾であり矛となり自分たちとともに戦列を並べるはずだった大切な騎体。しかし、それが何の因果か己たちの命を狙う凶刃となって前へ現れたのだ。

 

 イーリス本人が手ずから設計と建造を行ったローカストはクロエからしても、かつてフィルモア帝国に籍を置いていた時に駆っていたサイレンと遜色のない性能を発揮するのは驚嘆に値し、コーラスの旗騎ベルリンを難なく撃破してみせる。

 

『マスター! 落ち着いてください!! 今は敵を倒すよりも味方の撤退を支援するのが目的です!!』

 

「クソッ……! クソ、クソ、くそっ!! 仕えるべき主へ刃を向けた叛徒共が!! 必ず我らが主君、イーリスフィア様が帰還なさった時にはこの剣で貴様らの薄汚い首切り落としてやる!」

 

 ローカストの斬撃をいなし、返しの刃で片腕を切り落とし姿勢が崩れたところを蹴り飛ばして擱座させクロエは吐き捨てバイロンを後退させる。

 しかし、敵の数は多く友軍の撤退も上手くいっていないのか遅々として進まない。

 

『団長! そろそろ本格的に俺たちも撤退しないと飲み込まれますよ!?』

 

『あー、やばーい!! そもそも水中戦がメインのコイツで陸戦とかちょー辛いんですがー!!?』

 

『くっそ、小国って物量じゃないだろ!? あー、もう姫様設計の騎体だけあってめちゃくちゃ堅実でやりにくいなぁ!!』

 

『あっぶな! だぁ! 私たちが何のために殿やってると思ってるの!? ほら、ランダース卿、気持ちは分かりますが今はとにかく早く逃げなさい!!』

 

「くっ、不味いですね……そろそろ騎体の負荷も危険域ですし……」

 

 目まぐるしく悪い方向へ変わっていく戦場にクロエは舌を打ち、バイロンの関節を労わるようにして最小限の動きで剣の切っ先をマグロウの首筋へ突き刺し、捻じ切る。

 

 ウィークポイントを破壊されたマグロウは沈黙するが、それを乗り越えるように別のマグロウが後ろから前へ進み攻撃をしかけた。

 

 戦闘が始まったから何度もマグロウを撃破してるが、一向に減る気配を見せない物量に相手をしてるのが本当に小国なのかと愚痴りたくなるクロエだが、敵は攻撃の手を緩めることはなくマグロウでは相手にならないと判断したのか2騎のローカストが前へ出てくる。

 

「チッ! クレア、余剰エネルギーを肩の腕に回して!」

 

『承知しました! 余剰エネルギーを肩部ベイルへ!! 『アシュラハンド』起動します!!』

 

 クルマルス・バイロンの設計者ゼビア・コーターは後の設計した三大モーターヘッドの一角A・トールと同様に肩部には可動式のベイルが搭載されている。

 けれど、イーリスはそれをとっぱらい、クロエに合わして駆逐型へ改良させた。

 

 肩の装甲が展開し、内部から現れた2本のアームは先端から光剣を放ち、斬りかかってきたローカストの斬撃を受け止める。

 四腕となった異形のバイロンに一瞬だけ動きを止めるローカスト達。しかし、それはクロエの前では余りにも致命的といえた。

 

 バイロンは両腕に保持していた剣を腰部に接続されているブレードホルダーへ戻したと思えば───

 

『電磁レール起動、超電磁抜刀始動』

 

 シンクレアの言葉が紡がれた瞬間バイロンの両腕がブレ、ローカスト達の胴体が切り裂かれる。

 操縦者を失ったことで沈黙したローカストは膝から崩れ落ち、騎士の目で捉えることの出来ない速さで味方を倒されたマグロウは二の足を踏んでいた。

 

「……不味い、今ので関節がイカれた」

 

『マスター、これ以上の戦闘は不可能です。早急に撤退を』

 

「わかってますクレア……けど、逃がしてくれますかね連中が?」

 

『ッ……いざとなれば貴方だけでも逃がしてみせます』

 

 バイロンの両腕の肘関節からは蒸気が立ちのぼり、操縦桿を動かせば反応が遅れてやってくる。

 クロエは先の攻撃で愛騎の両腕がイカれたことを察しシンクレアの冷静な進言が飛ぶが彼女たちの周囲を囲むようにマグロウ達がジリジリと距離を詰め始めた。

 

 絶体絶命の状況だが、クロエの頭にあるのは絶望ではなくこの場面でどう戦うかのみ。

 たしかに両腕は使えない。けれど、まだ両肩のアームと足があるのだならばまだ戦える。

 

「それにしても……ここまで戦ったのっていつぶりでしたっけ?」

 

『確か……マスターがハイランダーだった頃のボォスでの紛争の時以来でしょうか? 

 あの時よりも今回は酷い戦いですが』

 

「それもそうね……あの時はここまで酷い戦況でも無かったわ。けど……」

 

 ゆっくりと息を吐き、クロイツェフは前を見据えた。

 クルマルス・バイロンの四つの腕で構えを取り、1歩を引かぬ姿勢を取り、撤退をしていた部下の1人が立ち止まりれば叫ぶ。

 

『団長、何してるんですか!?』

 

「止まるな! お前たちはひとりでも多く生き残れ!! そしてイーリスフィア殿下と合流し公国を奪還しろ!! これは最後の団長命令である!」

 

『ッ、でも……!』

 

「2度も言わせるな! 姫様なら分かってくれる!!」

 

『ッッッッ……!!!』

 

 血反吐を吐くような思いと共に部下は言葉を飲み込み、騎体の向きを戻せば無言で駆け出した。

 それを見送るとクロイツェフは淡く微笑むと直ぐに表情を引き締め、広域回線で敵軍に向けて叫ぶ。

 

「我こそはリガリエッテ公国近衛騎士団団長クロイツェフ・ダイ・グ・フィルモアである!! 

 我が主君、我らが女王を裏切りし叛徒共、盟友たるコーラスを侵せし逆賊共よ聞け!! 

 これより先を進むことは私が許さん! 命続く限り貴様らの命を刈り取ってみせよう!!!」

 

『シンクレアは最期までお供いたします。そして、この子も朽ち果てるまで!!』

 

「ごめんなさいクレア、こんな不甲斐ないマスターで」

 

『死する時まで共に戦うことこそファティマの本懐。不甲斐ないことなどありませんクロイツェフ様、貴方がマスターで私は幸せでした』

 

 パートナーからの言葉にクロイツェフは笑う。

 

「さぁ、行きましょうか」

 

『イェス、ユア、マイスター!!』

 

 踏み込み、単騎で突撃を行うクルマルス・バイロン。迎撃をせんと剣を構えるマグロウ、ローカスト達。

 大軍を前にして無謀といえる行動だろう。事実、彼女は死にに行っている。

 

 後悔も無論ある。イーリスの即位する姿を見れないこと、リガリエッテ公国が星団のどの大国にも負けないほど強大な国へなる様を見れないこと、いつかイーリスが誰かと添い遂げ子を産み、自分がその子の成長を見れないことが沢山ある。

 

 けれど、けれども……

 

「あの子ならきっと、私の死を乗り越えてくださるでしょうね」

 

 自分にとって妹とも呼べる大切な存在。自分が死ねば悲しむだろう、でもきっとそれすらも踏み台として王としての道を進んでくれるはずだ。

 

 だから、これは無駄死にではない。偉大なる王の覇道の礎となるのだから!!! 

 

 

 

 

『─────だから、勝手に死のうとしてんじゃないわよこのバカタレ!! 

 貴方にはワタクシの覇道を見てもらわないといけないのだから!』

 

「……え?」

 

 瞬間、稲光が戦場を照らす。

 

 巨大な土煙が舞い上がり、衝撃と暴風がその煙を吹き散らし凄まじい閃光と雷鳴が轟いた。

 

『聞け、この戦場に集いし(ツワモノ)共よ!!』

 

 現れたるは雷光。

 

『我はリガリエッテ公国第1王女イーリスフィア・ゼノ・リガリエッテ!』

 

 佇むは翡翠の巨人。

 

『今この瞬間から我は盟友たるコーラスとともに戦場に立たん!!』

 

 空気を引き裂き、剣槍の石突を地面へ打ち立て高らかに吠えた。

 

『我と我が王騎、ザ・ジェイド・オブ・フルゴールが汝ら賊徒共を阻まん!! 

 進みたくば、我らを打ち倒して見せよ!!!』

 

 雷光の化身が北の魔人達を連れ、戦場へ降り立つ。

 

 

 

 用語解説

 

 ・ローカスト

 イー様が設計と建造を行ったリガリエッテ公国の国家騎士団向け次期主力量産機。

 スリービーストがイー様の直属の騎士団用の専門性を突き詰めた特化した役割の高級量産騎ならば、この騎体は極限まで汎用性を突き詰めた歩兵ともよべる役割を持つ。

 とにかく整備性、生産性を突き詰め町工場レベルの機材でも製造、組み立てが可能という驚異的な騎体でフレームも生産性を考慮したライオン・フレームを使用されている。

 

 加えて操縦性も素直でありながら、エンジン出力や騎体性能などが高いバランスで纏まっており、当時本騎の試作機のテストを行った本国の近衛騎士団の騎士達からは絶賛され、クロイツェフからもサイレンに勝るとも劣らない名騎と評された。

 

 名前の由来は『飛蝗・蝗(locust)』のロウカストからとられ、事実コーラス・ハグーダ戦争に於いて初の実戦投入された本騎は多数確認され、コーラスの旗騎ベルリンを多数撃破する活躍を見せる。

 

 後に本騎はライセンス生産によって星団各国の戦場に姿を見せ、前述した通りにとにかく汎用性、整備性、生産性を突き詰めてるため、知識さえあれば専門職でなくとも整備が可能。

 

 反政府ゲリラやパルチザン、傭兵達から愛用され為政者たちからは『リガリエッテの蝗害』と吐き捨てられたとか。

 尚、本騎のライセンス料でコーラス・ハグーダ戦争及び、奪還戦で発生した賠償金並びに祖国の復興費用を賄ったと噂されるが真偽は定かではない。




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