FSS─翡翠の雷光─ 作:アマテラス、アンタちょっとガメツイよ!
ワタクシ達が乱入し、名乗りを上げたことで戦場が一時的に混乱します。
ハグーダのマグロウからは困惑、リガリエッテのローカストからは戸惑い、コーラスからは疑惑が。
しかし、追撃戦の真っ最中のためマグロウの1騎が斬りかかってきました。
「愚かですわね」
吐き捨てた瞬間、マグロウが勢いよく吹き飛ぶ。何度も地面をバウンドし、装甲や内部の構造材や部品等が撒き散らされ物言わぬ鉄くれへと変貌してみせた。
擱座したマグロウの胸部には向こうの景色が見える大穴が空いており、そこに居たはずの騎士の安否など確認するまでも無いだろう。
戦場が静寂に包まれる中で右手を掲げていた姿勢から再びソードスピアーの柄の石突を地面へ突き立てた。
「総員、戦闘開始。コーラスの撤退を支援する。好きに食い散らかせ!!」
『『『『『ヤーボール!!!』』』』』
瞬間、
漆黒の分厚い装甲を纏うサイレンが地面を揺らすほどの勢いで突撃し、腰部のアームを介して両腕に装備されたユニットを展開。
まるで巨大な甲殻類のハサミのような装備は反応の遅れたローカストを両腕を挟み込めば勢いよく殴りつける。
『オラァァアッ!!』
腹部へナックルダスターを装備した右ストレートが着弾と同時に内蔵された機構が作動。
『はっはぁ! よーやく実戦だぜぇ!!』
『マスター! 気持ちは分かりますが、ペースを考えてくださいね!』
『おうとも!!』
サイレン重装型を駆るバルカスはペリルの諫言を笑って返し、別のマグロウを殴り飛ばした。
そんなバルカスの横を抜けるようにマグロウの懐へ肉薄するの影がひとつ。
『よっと!!』
咄嗟に反応し、盾を構えるマグロウ。しかしその騎体はまるで蛇がのたうつような不規則な軌道を描き、盾の隙間を縫うようにして肩と胴体の間の関節を穿ち、捻る。
バキリ、音を立てて盾を装備した右腕が肩口からもげて地面へ地響きを立てて落着。
空いている左手に握られた
『マスター、4時方向から敵来ます!』
『あいよ!』
腰と膝の屈伸による高速の摺り足で蛇行を描き、4時方向から斬りかかってきたローカストの攻撃をかわすと背後は回り込み装甲で覆われていない膝裏を切り裂く。
膝の関節が破損したことにより、身体を支える術を失ったローカストは地面へと倒れ込めばモーターヘッドの構造的弱点とよべる特性によって大破、沈黙。
『流石の腕前ですマスター』
『リュカのサポートありきだ。パパっと終わらせるぞ』
『はい!』
戦場を素早く駆けるのはフェインのサイレン軽装型。彼の素早い身のこなしを活かす為に装甲は最低限に留められた改修の施された騎体は軽やかに敵を翻弄していた。
『らぁっ!』
サイレン軽装型が持っていた実剣を振るう。すると、刀身が分割され鞭のようにしなればマグロウの装甲を傷つけ───
『ふんっ!』
真横から重装型の重い拳が突き刺さる。吹っ飛んだマグロウの落下地点には臙脂色の騎体がいた。
『2人ともはしゃいでんなぁ。まっ、俺らは適度にやらせてもらおうかね』
そんな声とともに飛んできたマグロウを盾で受け止め、地面へ叩きつける。
『あらよっと!』
派手に暴れ回る2騎を横目に別のマグロウの一撃を盾でいなし、姿勢が崩れたところに実剣で関節を砕き、ベイルアタックで行動不能にさせるのはルベルのサイレン中装型だ。
『マスター、左舷から敵が抜けそうです』
『あいよ!』
バルカスとフェインが戦場を掻き乱し、ルベルが的確に2人のサポートを行うフォーメーション。
それぞれの特性に宛てがわれたサイレンという高性能の騎体は数の差をものともしない活躍をする。
そして彼らとは別に戦場を駆ける集団がいた。
『お前たち、無様な戦いしたら私が尻を蹴りあげるよ!!』
『隊長もこう仰ってるぞ!! お前ら、盛大に暴れるぞぉ!!』
『『『おおおおお!!!』』』
ナイアス率いるブリュンヒルデ騎士団だ。頭目たるナイアスを先頭に目に付いた敵騎体へ攻撃をしかけ、後続がその騎体へと攻撃をしかけ撃破する。
苛烈な連続攻撃に敵側の陣営は崩れ、足並みもズレ始めた。
「大丈夫クロエ? それと、騎体は動けそうクレア?」
『っ、はい。……申し訳ありません姫様、貴方様から与えられたクルマルス・バイロンを破損させてしまい……』
『ッ、両腕部の関節破損により、戦闘行動は不可能です。早急に戦線離脱する必要があります!』
「わかったわ。言いたいことは色々あるけど今はとにかくここはワタクシ達が引き受けます。
ルル!」
『はいはーい。デリバリーサービスでーす! お荷物はこちらっすかー?』
空気を引き裂き、ジェット音と共に現れたのは1機の戦闘機。突如として爆音を轟かせて戦場へ突入してきた存在にマグロウやローカスト達は撃ち落とさんとレーザーを放つ。
『あっはっはっは!! ド派手な歓迎どーもー!』
その殆どの攻撃はかすりもせず、お返しとばかりに背面の装甲カバーが開かれ内部から幾つものミサイルが放たれた。
弧を描いて飛翔するミサイル群はランダム軌道で奴らの頭上を取れば一斉に起爆。
内部のクラスター爆弾が投下され、爆炎を生み出す。
しかし、相手はモーターヘッド、この程度の攻撃にはビクともせず爆炎の中で未だ現在の姿を見せた。
けれども元々倒すためにやった訳ではない。攻撃の手を一瞬、緩めるためだけの行為だ。
だが、そのごく短い時間を利用し姿を変化させる。
騎体後部のノズル部分が展伸、分離し脚部へ変形したかと思えば戦闘機に脚の生えた珍妙な姿のままクルマルス・バイロンへ突撃。
そのまま爪先と踵部分が変形し、猛禽類のような鉤爪のようなクローでバイロンと肩部分を掴んで飛翔したではないか。
「そのまま後方へ運んであげてちょうだい!」
『あいさー!』
『姫様、ご武運を!!』
ガ〇ォーク形態になったスカイ3はそのままバイロンを掴んだままあっという間にはるかと遠くへ飛んでいく。2騎を見送り、ワタクシはフルゴールを向き直らせソードスピアーを構え直して切っ先を賊徒達へ向けます。
「ハグーダはどうでもいいですが、ワタクシの臣下である貴方たちを傷つけるのは心が痛みます。けれど、ここは戦場。騎士がモーターヘッドを駆り、剣を取ったならば容赦はいたしませんわ」
『進路設定完了、余剰エネルギーをアレゴリカ・ユニットへ移行。
電磁レール形成開始、形成完了』
『プラズマエネルギーヲA.D.R.ソードスピアーヘ供給。イツデモオーケーダゼ、オ袋』
「いざ、参る!!」
踏み込み、雷鳴と稲光が戦場へ轟く。先のスカイ3が発した音以上の爆音を響かせ、フルゴールは地上を駆ける雷光へその身を変えた。
瞬間、ハグーダ・リガリエッテ同盟軍の騎体達は上半身を円形にくり抜かれたように蒸発させ、唯一形を残していた頭部や腕などが重力を思い出したようにして地面へと音を立てて落下する。
ガツッ、ソードスピアーの石突で地面を叩きフルゴールが視線を巡らせれば周囲にいた敵たちは明らかに怖気付いたように後退りする。
突然現れた騎体達、それは明らかに自分たちよりも数が少ないというのに何故自分たちがやられているのだ?
なぜ、押し込んでいた自分たちが中隊規模の数しかいない奴らに怖気付いている?
そんな疑問と目の前で友軍が瞬きするよりも短い時間で大勢消し飛ばされた事実に恐怖を隠せない。
『次』
短い声が響き、再び地上に雷光が瞬く。そしてまた味方が消し飛んだ。
『て、撤退だ!! こんな化け物相手してられるか!!』
『そうだ! どのみちコーラスの連中にゃ痛手を与えたんだ!! これ以上戦う理由もないんだ!』
『逃げろ!! 次は俺らがやられるぞ!!』
心を折られた者たちは我先にと逃げ出す。それを翡翠の巨人と魔人たちは追うことはない。
夕日に照らされた戦場の中心で魔人の主はその剣槍の切っ先を天に向ける。
あっという間に戦場の空気を塗り替えた存在を前にコーラス軍のひとりは呟いた。
「か、勝った……」
「あの状況から……?」
「俺らの味方、なんだよな?」
「広域回線でコーラスとともに戦うって言ってたぞ?」
「で、でもリガリエッテ第1王女って……」
「わ、わかんねーよ。でも、でも……」
「俺たちの勝ちだ! あの人らのおかげで守れたんだ!!」
「そうだ!! とにかく勝ったんだ!!」
「おお……」
「あぁ!」
「っ!!」
「「「「「「「おぉおおおおおおおおお!!!!」」」」」」」
雄叫びをあげるコーラスの兵たち。疑問もある、疑惑もある。でも、今は今だけはこの勝利を心の底から喜ぶ。
祖国を侵す賊徒共を叩き出せたという事実に、生き残れたという安堵、喜び。
そんな彼らを見つめ、フルゴールの中でワタクシは微笑むのでした。
「此度は我らの戦列に加わってくださり、誠に感謝申し上げる。イーリスフィア王女殿下、そなたの事情を私はよく知っている」
「はい、トラーオ王。国を追われた身ではありますが盟友たるコーラスが攻め込まれていると聞いてはいても立っておられずこうして参戦したしだいでありますわ。
……その中に我が祖国の兵たちがいる事実に思わないことがないわけではありません。ですが、彼らは偽りの主の言葉に騙され戦わされているだけです。
ワタクシがあぁして名乗ったことをお許しを」
「構わぬさ。まだ幼い身だというのにそなたの心労察するばかりよ」
膝を着き、頭を垂れるワタクシの肩を叩いて立ち上がるように言うのはコーラス王朝バランカ王国の『トラーオ・バランカ』王子です。
あの戦闘の後にワタクシたちはコーラス軍が駐留しているバランカ領のアトキ地域の野戦拠点へと案内されました。そこでは戦闘を終えたコーラスの兵の方々から歓声と共に受け入れられました。
そして、バランカ王国のトップであるトラーオ王子はその対応のために首都ヤースから飛んできた次第ですわ。
「そなたの臣下であるクロイツェフ嬢たちには助かっている。緒戦でコーラスは大打撃を受け、何人もの精鋭たちを失った。
その時に彼女含むリガリエッテの騎士達が戦ってくれたおかげで此度はプルースが帰ってきてくれた。あやつは腕はいいが、直情的すぎるきらいがある。
彼女たちがいなければ帰ってきたのはベルリンだけだったやもな」
拠点の中を歩きながらトラーオ王子は言います。この方の言うとおり、あの戦いはどうみてもコーラスの敗北でした。しかし、クロエたちが粘ったおかげでワタクシ達が間に合ったのです。
「サード様たちには感謝するばかりですわ。あのクーデターの後にワタクシは祖国のことを何も知りませんでした。
しかし、亡命した彼女たちを受け入れてくれたということと家族の安否が無事ということだけが頼りに今日まで過ごしてきたのです」
「うむ、君の弟妹はヤースの城でセイレイと共に居られる」
「あの子たちがご迷惑をおかけしなければいいのですが……」
「ハハハ、歳の近い友人ができたとセイレイは寧ろ喜んでいるとも。
あの子らのおかげでコーラス城の空気は和んでいるともいってもいい」
朗らかに笑う王子にワタクシも釣られて微笑みます。すれ違う兵の方々はワタクシ達に気がつくと足を止めトラーオ王子に敬礼をし、ワタクシには。
「先の戦い、ご助力感謝いたしますイーリスフィア殿下! 貴方々は我々命の恩人です!」
「なぜリガリエッテの姫君であらせられる貴方様がここにいられるかは理解が及びませんが、貴方のおかげで今日も生き残ることができました!」
「感謝します、イーリスフィア殿下!」
たくさんの感謝の言葉を送られました。これにはワタクシも驚きを隠せませんわね。
兵の方々から揉みくちゃになりながらも辿り着いたのはモーターヘッドの臨時格納庫です。オイルと鉄錆の匂いの空気充満する場所は正しく死屍累々と呼べる有様です。
「……この通り、現在最も激しい戦場であるアトキでさえこの有様だ。なんとか定数を揃えてはいるが、その殆どが動けなくなった騎体からパーツを剥ぎ取り、どうにか動けるようにした共食い整備で場を持たせている。
本来なら工場へ送り返し、万全の状態にしたいが先のような戦いのがあるせいで1騎の欠員を出せば即座に瓦解しかねんのだ」
「……酷いですわね。大国たるコーラスがこんな有様だなんて」
「返す言葉もない。全力を尽くさなければならない騎士に予備の部品がないからと労わって戦えなど言えるわけが無い」
そこには装甲を剥がれ、部品が取られてフレームのみとなったコーラスの運用するモーターヘッド『キラウラ』がおり、別のキラウラれた移植している光景が見えました。
整備士の方々はオイル塗れの作業服で顔には疲労を隠せない様子で作業をしており、騎士の方もその中に混じって作業を手伝っています。
「恥ずかしい話だが、そなたの援軍は渡りに船といえる。……すまないが、本国から援軍が来るまででいいどうか、助けてくれないだろうか?」
「もちろんですわトラーオ様、先も告げたようにワタクシはコーラスとともに戦うために赴いたのですから」
「……感謝する」
トラーオ王子は深くワタクシに頭を下げるのでした。
用語解説
・サイレン重装型
イー様がサイレンL型をバルカスの戦闘スタイルに合わせた改装を施した騎体。
全身を漆黒の分厚い重装甲に包み、腰部から伸びるアームを介して両腕に装備された巨大な複合
運用方法はとにかく前に出て重装甲にものをいわせ、ステゴロで敵を殴り倒すというもの。
プライヤーベイルユニットは名前の通り盾として扱える以外にも先端部はハサミ状になり、武器として扱えることが可能。
下手にこの騎体と近接戦をしようものならばユニットで拘束されたところをナックルダスター型光剣でぶち抜かれるだろう。
・サイレン軽装型
イー様がサイレンL型をフェインの戦闘スタイルに合わせて改装を施した騎体。
バルカスの重装型とはうってかわり、機動力に重点を置いた為に紫紺の装甲はできる限り薄く軽量化を施されてるのが特徴。
武装に蛇腹剣があり、初見では対応が難しい。
ジェネリックネプチューンとか言っちゃいけない。
・サイレン中装型
イー様がサイレンL型をルベルの戦闘スタイルに合わせて改装を施した臙脂色の装甲が目立つ騎体。
上記2騎と違い、特に目立ったような部分はないがこれといった弱点がないのが特徴。
しかし、素体にサイレンを使っているため大抵のモーターヘッドには負けることは無いポテンシャルがある。
・スカイ3
イー様が設計建造を行った試作騎体群スリービーストの1騎。
本騎は高速空戦能力を重視した騎体で、モーターヘッドでは珍しい可変機構が採用された。
モーターヘッドと戦闘機の2つの形態を使い分け、場合によっては中間形態も使用可能。(ガウ〇ークといってはいけない)
リガリエッテ公国の王族近衛騎士団ルルカ・リールルとパートナー・ファティマのクララがテストパイロットを務めている。