FSS─翡翠の雷光─ 作:アマテラス、アンタちょっとガメツイよ!
「す、すげぇ……俺のキラウラがこんなにも調子がいいなんて初めてだ……!」
「おかしいぞ、俺の騎体ってこの前までエンジンの出力が全然上がらなかったのに今のこいつの出力は2割り増しになってる!」
「レスポンスの速度も段違いだ! 思った通りに騎体が動く!!」
整備エリアにて響くイレーザーエンジンの駆動音。そこではハンガーアウトをしたキラウラ達が調子を確かめるようにして慣らし運転がされており、自身の乗騎が帰ってきた騎士たちはこれまで調子のいい上体に驚愕の声を上げる。
「ふぃー、48時間で10騎……まずまずかしら?」
オイルや汗でベタつく髪をかきあげ、ワタクシは呟きました。バランカ領のアトキに来てから今日で5日、その間に敵は攻めてこずワタクシはこれ幸いとコーラスの騎体とメンテに取り掛かりました。
部品などが無く、共食い整備をしていた話でしたので予めジュノーに来る前に大量の余剰部品を輸送艦いっぱいに積み込んきたのを放出。
手の空いてる騎士を交え、現場の作業員の方々を総動員して騎体の修理と整備を行いました。
「お疲れ様です姫様。こちら飲み物です」
パタパタと手に持ったボードをうちわ代わりにしてると横から冷えたジュースの入ったボトルを差し出されます。
それを受け取り、熱った身体を冷ますようにして半分ほど飲んだとこでワタクシは一息着きました。
「ん、手伝いありがとうねクレア。でも良かったの? 貴方、疲れてるでしょうに」
そちらを見るとメイド服のような意匠のデカダン・スーツを纏う白い髪をお下げに眼鏡をかけたファティマが佇んでいます。
彼女こそクロイツェフのパートナー・ファティマであり、リガリエッテの(裏の)支配者のクレアことシンクレアですわ。
「体調管理の程は問題ありませんよ姫様。メイドとして当然です」
「ワタクシとしては無理しないで欲しいのですがねぇ」
数日前までクロエと共にバイロンで戦場を駆けずり回っていた彼女には休息を取って欲しいのですが、本人が断固として固辞して騎体整備の手伝いしたのです。
いえ、まぁ助かりはしますわよ? 細かいところに手が届くと言いますか、道具類や食事、機材、部品の配置や準備を事細かに彼女がやってくれたおかげでスムーズに出来たのですから。
「取り敢えずは全騎稼働率を平均水準にまでは引き上げました。それに加えて……」
『おぉ、最初は敵が乗ってた騎体に乗るなんてどうかと思ったが、こいつはいいな!
キラウレも悪い騎体じゃないが、コイツに比べたらどうしても劣る部分が見えちまうよ』
目線をある方向に向ければ、そこにはコーラスの紀章を刻み肩の装甲の一部を緑に染めたローカスト数騎歩いていました。
あの騎体達は戦場で擱座し放置されていたものです。本来なら敵国の騎体をなんの通達もなしに勝手に鹵獲しあまつさえ自軍で使うなどルール違反としかいいようがありませんが、元々はワタクシが設計し祖国の国家騎士団の騎士たちへ配備するための騎体です。
次期女王のワタクシがコーラスへ貸与したという許可を出し、鹵獲したローカストで動けそうなものを他のローカストから部品をひっぺがして移植し修理。
乗騎が完全に大破し乗る騎体のない騎士へ回すことで、不足していた騎体を確保しました。
「ローカストで余っていた騎士へ与えることで前線へ出せるようにいたしました。
キラウレ10騎、ローカスト12騎と合計22騎を復活させたんですからローテーションを組めるでしょうね」
「はい、カツカツだった人員もこれで余裕が出るでしょう。マスター含む近衛騎士団の方々も少しは休めるでしょう」
「そうね。ここ数ヶ月、ノーメンテで戦い続けてたみたいだし、バイロンとスリービーストを大規模にメンテしないとだめね。
幸いにもスリービーストの方はローカストとパーツの規格が同じだから戦場に転がってるのをひっぺがして使えばいいけど……」
「問題はクルマルス・バイロンですね?」
「ええ。あの子はコーラスの騎体やリガリエッテの騎体と違うから使えるパーツがないのよねぇ……
ならパーツを作ろうってやろうにも、ここには本格的な機材がないし……」
目下最大の問題、それはクロエの乗騎であるクルマルス・バイロンのことです。
先の戦闘で両腕を破損したことでバイロンは戦闘ができません。なら、修理すればいいということになるのですが、残念なことにあの子には予備のパーツが無いのですわ。
元々亡命してから近衛騎士団達はサード様のご好意で王宮の食客として迎えられ、サード様やお妃のエルメラ様やご息女のセイレイ様のお付として過ごしており、此度の戦争も本当なら戦うことはなかったのです。
けれど、戦況の悪化に連れて世話になった恩を返すためにクロエ達は亡命した時に搭乗していた騎体で参戦。
しかし、元々は他国の騎体。予備の部品などあるわけもなくメンテも最低限で騎体を労りながら戦ってたわけですの。
基本偵察任務がメインだったルルとクララのスカイ3はまだしも、他の陸戦騎のランド1と水陸両用騎のアクア2もかなり関節がクタクタになってしまっています。
それだけの激戦を繰り広げても大した損傷もなく戦えたことから流石の耐久性だとわかりますわ。うーん、やはりワタクシは天才ですわ。(隙あらば自画自賛)
ともあれ、前述したようにスリービーストはローカストとパーツを共用している設計のため、鹵獲したものから移植し調整をすればすぐにでも戦線に復帰可能です。
しかし、クルマルス・バイロン自体も堅牢な騎体ではありますが限度はあります。
「トラーオ王子に掛け合って本国の工場の設備を使わせてもらうように掛け合ってみましょうかね」
「やはりそうなりますか?」
「そうなるわねぇ。一応騎体の定数のほどは揃ってるんだしワタクシたちが離れても問題はないと思うから多分大丈夫でしょ!」
てなわけでゴーゴー!
「うむ、構わんとも。クロエ嬢たちには無理をさせていたからな。先程の定例会議では本国から増援が来ることが決定した故、兵員に余裕ができた。
プルースの大破したベルリンを本国に修理のため送るついでにそなたらも同行するといい」
あっさりと許可を貰えましたわ!
んじゃ、行きますかコーラス王朝首都ヤースに!!
バランカからヤースへ続く道を進むイーリス所有の輸送艦、その内部にある船員のレクリエーションルームにてクロエとナイアスの2人はいた。
2人のパートナーのシンクレアとジゼルは久方ぶりの再会で談笑しており、時折2人の小さな笑い声が聞こえてくる。
「……それにしても驚いたわ。姫様が連れてきた傭兵がまさか貴方だったなんて」
「まぁね。色々と訳あってあの姫様に雇われたのさ」
「そうなのね。ところで、今更聞くのもなんだけどノイエ・シルチスをクビになったって本当?」
「マジさ。バキン・ラカンでの天位の授与式の時に私の服装を笑った馬鹿共数人を斬り殺しただけでね」
「ちなみにそのときってやっぱりゴスロリで行った感じなの?」
「ふん、アンタもきちんとした場所にはきちんとした服装を〜
って言うつもりかい? 『委員長のクロエちゃん』」
憮然としたように言うナイアスにクロエはグラスを傾けアイスコーヒーで喉を潤しつつ、苦笑しながら彼女に答えた。
「別に人の格好にとやかく言うつもりはないわよ。貴方らしいと思うしね。
昔の私だったら小言を言ってたかもしれないけど、公国に来てからはどうでも良くなったわね」
「ほーん。昔の堅物だったアンタがそこまで言うほどか」
ナイアスの脳裏に過ぎるのは学生時代、制服を校則通りキッチリと着こなすクロエの姿だ。
その時の彼女はとにかく王族としての責務だとかに固執しており、バカ真面目という言葉が似合う性格で素行のあまり良くないナイアスのは良く衝突していた。
それはノイエ・シルチス時代も変わってはいなかったがある時を境にクロエはハイランダーという地位を捨て帝国を去り、ジュノーのリガリエッテ公国という小国へと身を寄せた話を最後に顔を合わせていない。
それから何年も経ち、ナイアスがバキン・ラカン帝国での一件でノイエ・シルチスをクビとなり、色々あってカステポーで傭兵騎士団を率いてカイエンと出会い、そんなときにクロエが身を寄せてる国の姫であるイーリスと出会った。
彼女に雇われ、ジュノーへ赴きなんの縁かコーラスとハグーダとの戦争に身を投じ、そしてクロエと再開したナイアスは彼女の変わりように驚く。
学生時代、ノイエ・シルチス、ハイランダー出会った時のつねに張り詰めたような何かに追い立てられていたような刃物めいた空気が霧散していたのだ。
お堅いところはあるが。しかし、過去帝国にいた頃は基本的に一般的なフィルモアの騎士らしい騎士といえるファティマを道具としてしか扱わない言動をしていた素振りが一切なく、あの氷の鋭く冷たい目線も消えている。
それどころかイーリスのトンチンカンな言動に振り回され、パートナーのシンクレアに正論でガン詰めされ半泣きとなる姿を見て思わず目の前のコイツはあの『陽炎の死神』と恐れられたクロイツェフ・ダイ・グ・フィルモアなのかと疑いもした。
「色々あったのよ私も。帝国にいた頃は小さな頃から皇帝の血筋だったり、剣聖の直系とかで周りの重圧が凄かったし。
代理騎士になってからは敗北も許されないから周りの存在全てが敵なんだーって考えてたもの」
「まぁ、あの頃のアンタは傍から見てても楽しそうに見えなかったもんねぇ」
「実際楽しくなかったわ。父と母は常にプレッシャーを掛けてくるし、周りの騎士や侍従も似たようなものだった。
唯一気を抜けたのが慧茄様の鍛錬の時だったわね。…………まぁ、挨拶がわりにダブル・ヘクサグラムをぶっぱなしてくるのはほんとにやめて欲しいけど」
ナイアスの言葉に心底同意した様子で過去を思い出したのか整った顔を僅かに歪める。
「人ってのは変わるもんだねぇ」
その様子を見てナイアスは感心とも驚嘆ともとれる息とともに呟きを漏らした。環境が人を作るというように環境が人を変えるのだろうと。
「公国はいいところよ。元老院みたいな伏魔殿は無いし、フィルモアみたいに息が詰まる空気感もない。
ちょっと振り回されることが多いけど、楽しいところよ」
「ちょっとで済むのかい?」
ナイアスは今の雇い主のちんまいお姫様を思い出す。少し前には作業場が暑いからとツナギの上半身を脱いで下着1枚で出歩いてた姿をシンクレアにとっ掴まって正座で説教され半泣きになっていた姿を。
「イーちゃんは変というか愉快というかエキセントリックなところがだいぶ多いけど、小さい頃から目標に頑張っている子よ。そのひたむきさを見てると自分も頑張ろうって思えるの」
「アンタがそこまで言うほどかい?」
「ええ」
ナイアスの問いかけにクロエは自信を持って答え、その様子を見てイーリスとクロエは確かな信頼を築いているのだとナイアスは察する。
人間らしくなったかつての級友にナイアスは笑って言った。
「人ってのは変わるもんだね」
「そうね。人は変わるものよ望んでも望まなくてもね」
クロエがそう言い終えると同時に。
「へい、クロエ! バイロンのパーツ作るついでにフルゴールの予備パーツ使ってある改修したいから貴方の意見くださいな!!」
ドパーンとレクリエーションルームの扉を蹴破るように開き、入ってきたのは華やかなドレスでおめかしをしたイーリスだ。
ズカズカとレクリエーションルームに入ってきた彼女はナイアスに気がつくと顔を綻ばせる。
「あら、ナイアス様もいたのね。どんなお話をしてらっしゃったの?」
「アンタの珍獣っぷりを二人で話してたんだよ」
「誰が珍獣ですか??? 少なくともワタクシは女を取っかえ引っ変えするような頭チンポ野郎の追っかけをする人よりはマシだと思いますわよ!!」
「あぁん!? カイエン様のどこが頭チンポだってェ!? 男らしくていいっていいな!!」
「いやぁ、流石に私もイーちゃんに同意するわ。ナイアス、貴方男の趣味悪すぎるわよ。
ダグラス・カイエンみたいな頭チンポ男はやめておいた方がいいわ」
「よし、アンタらそこに並びな。ぶん殴ってやるから」
血管バキバキに浮き上がらせ袖を捲りあげるナイアス。わー、怒ったにげろーと駆ける二人。
そんな3人を前に。
「3人とも、先程から聞いておけば淑女に有るまじき言動ですね。殿方の生殖器を言うなど、言語道断ですよ。
それに、姫様。先程の入室の仕方は些かマナー違反では?」
「ア"ッ"!! こ、これはちげーんですのよクレア!」
「そ、そうよクレア。これは友人への忠告を兼ねて……ね?」
「明らかにこいつらが悪いだろ。私はなにか言われる筋合いはないよ」
笑顔だが、背後に鬼が見えるシンクレアが立ち塞がり思わず後退りをして言い訳を始める。しかし、リガリエッテ公国裏の支配者たるシンクレアは切り伏せる。
「問答無用です。サード陛下に謁見なさるまえに今一度礼儀作法をみっちりとお教えさせていただきます。
次期女王として、なによりも淑女として特に姫様には厳しくいきますからね」
「oh……」
「……ごめんなさい」
「……サーセンした」
哀れにも三人娘は屈し、項垂れるのだった。